820 階段昇降時の脚の負担に及ぼす手すり形状の影響 Effect of Handrail Shape on the Load of Leg in Stepping Stairs 正 栗田 裕 (滋賀県立大) 正 松村 雄一 (滋賀県立大) ○学 棚部 旭紘 (滋賀県立大院) Yutaka KURITA, The University of Shiga Prefecture, 2500 Hassaka-cho, Hikone, Shiga, 522-8533 Yuichi MATSUMURA, The University of Shiga Prefecture Akihiro TANABE, The University of Shiga Prefecture The effect of a handrail was clarified by evaluating the load of leg in stepping stairs by the sum of the moments of knee and ankle. When body is supported by a handrail, the center of gravity goes backward, and the angle of shank decreases. From the result of experiment, it was proven that there was an optimum value respectively for the height and the position of a handrail. And, we made the mechanism model which can expresses the movement of each part of the body in stepping stairs, based on geometric relation. Bio-Motion, 言 階段を昇り降りするときには,体重のかかった状態で膝 を曲げたり伸ばしたりするため,脚の負担は大きいものに なる.本研究では,階段昇降時に水平部分を設けた手すり を使用することで,従来の手すりに比べ脚の負担がどのよ うに変わるのかを検討する. .実 験 階段昇降時に脚に加わる負担を,膝と足首にかかるモー メントの和で近似的に算出した.Fig.A1 に,階段昇り時の 脚の負担の評価方法を示す.膝にかかるモーメントは M1=F(Lsinθ-l),足首にかかるモーメントは M2=Fl と表せる ので,脚の負担 M は M=FLsinθで表される. Fig.A2 に,階段を昇るときの脛の角度,床の反力,脚の 負担の時間変化を示す.従来の手すりとして,35°の角度 がついた手すりを使用した.Fig.A2(a)と Fig.A2 (b)を比較す ると,水平な手すりでは従来の手すりに比べ,脚の負担の 最大値は 3 分の 1 近くまで減少することがわかる.このと き,脛の角度は 6 割近く減少しているが,床の反力は,1 割程度しか減少していない.よって,脚の負担が減少する 要因は,脛の角度が減少することである.また,Fig.A2(b) と Fig.A2(c)を比較すると,従来の手すりの脚の負担の最大 値は,手すりが無いときとほぼ同じである. Fig.A3 に,脛の角度が最大となる時刻における画像を示 す.Fig.A3 (a)から,手すりを使わないときは,重心の位置 (図中〇印)が踵の位置より前にくる.ある瞬間に片足立 ちとなるが,手すりを使わずに安定して片足立ちするため には,重心が足の裏の上にくる必要がある.手すりを使う と,重心は手をついた位置と足の裏の上との間にあればよ M=FLsinθ Handrail for Stairs, Physical Exercise いので,Fig.A3 (b)に示すように,重心が足の裏より後方で も階段を昇ることができる.このように,水平な手すりを 使うことで,脛の角度は緩やかになり,結果として脚の負 担は小さくなる. .結 論 階段を昇るときに水平な手すりを使用することで, 脚の負担が軽減される. (2) 脚の負担が減少する要因は,水平手すりを使うこと で,体の重心位置を後に残すことが可能となり,脛の 角度の最大値が減少することである. (1) 30 20 10 0 −10 −20 0 1 2 3 4 5 1000 800 600 400 200 0 0 1 2 3 4 5 200 150 100 50 0 −50 0 1 2 3 4 5 Time [s] Angle [deg] .緒 Biomechanics, Leg force [N] Human Engineering, Moment [N*m] Key Words: 0 1 2 3 4 5 0 1 2 3 4 5 0 1 2 3 4 5 0 1 2 3 4 5 0 1 2 3 4 5 Time [s] 0 1 2 3 4 5 Time [s] (a)With handrail-0deg (b)With handrail-35deg (c)Without handrail Fig.A2 25° Effect of handrail in going up stairs 10° M1:Moment about knee M2:Moment about heel F:Force from floor θ:Angle of shank L:Shank length l:Distance between force from floor and ankle Fig.A1 Measurement of the load which is charged on the leg (a)Without handrail (b)With handrail Fig.A3 The center of gravity position in going up stairs 日本機械学会〔№02-9〕Dynamics and Design Conference 2002 CD-ROM論文集〔2002.9.17-20,金沢〕 1. 緒言 階段を昇り降りするときには,体重のかかった状態で膝 を曲げたり伸ばしたりするために,脚の負担は大きいもの になる.体力の充分でない高齢者や身障者,病人にとって, 階段を昇降することは容易ではない.そのため,階段を昇 降するときには,手すりで体重の一部を支えるようにして, 脚の負担を軽減している.しかし,従来の傾斜のついた直 棒の手すりでは,体重を支えるために手すりを握らなくて はならず,握力がないと手が滑り危険である.そのため, 手すりに水平部分を設けて,体重を支えやすくする方法 (1)(2) が提案されている. 本研究では,階段昇降時に水平部分を設けた手すりを使 用することで,従来の手すりに比べ脚の負担がどのように 変わるのかを調べる.まず,水平な手すり,従来の手すり と手すりが無いときの脚の負担を比較し,水平な手すりの 効果について検討する.また,階段を昇る動作をビデオで 撮影し,撮影した映像から,脚の角度や体の重心の移動を 観察する.さらに,体の各部をリンクとして近似した機構 モデルを作成し,階段昇降時の体各部の運動を合理的に表 すことを検討する. 2.実験方法 2・1 脚の負担の評価方法 膝をまっすぐに伸ばし直立しているときは,体重の大部 分を脚部の骨格が支え,脚の筋肉にはあまり負担がかから ない.しかし,階段を昇降するときには,膝が曲がるため に,上体部の重量が膝関節まわりのモーメントとして作用 する.また,床の反力の作用線から足首関節までの距離に より足首関節まわりにもモーメントが作用する.これらの モーメントを受け止め,姿勢を保持するために,膝関節付 近と足首関節付近の筋肉に負担がかかる.よって,階段昇 降時に脚に加わる負担は,厳密には筋肉に働く力から算出 されるモーメントとして定義されるが,筋肉に働く力の計 M=FLsinθ 測は困難である.そこで,床の反力の大きさと脛の角度か ら,膝と足首にかかるモーメントの大きさの和を近似的に 算出した(3)(4). Fig.1(a)に,階段昇り時の脚の負担の評価方法を示す.ま ず,床反力の合力 F は足の裏部分に作用する.足首関節か ら膝関節までの距離は,脛の長さ L と脛の倒れ込む角度θ から算出した.床の反力の作用線から足首までの距離を l とすると,膝にかかるモーメントは M1=F(Lsinθ-l),足首 にかかるモーメントは M2=Fl と表せるので,脚の負担 M を これらの和であると仮定すると,M=FLsinθで表すことが できる. Fig.1(b)に,階段降り時の脚の負担の評価方法を示す.昇 り時と同様に,床の反力 F と脛の角度θから,脚の負担を 算出した.ただし,階段降り時には踵が浮き上がるため, 床の反力の作用線から足首関節までの距離は,つま先から 足首関節までの距離 L2 と踵が浮き上がる角度θ2 から算出 した.よって,足首にかかるモーメントは M2=FL2cosθ2, 膝にかかるモーメントは M1=F(Lsinθ1- L2cosθ2)となり, θ1=θ+θ2 とすると,脚の負担は M=FLsinθ1 で表される. 2・2 実験装置 Fig.2(a)に,手すりにかかる力を測定する装置を示す.天 板と底板の間に,ロードセルを三角形状に配置し,3つの ロードセルの出力和を求めた.装置の四隅には,天板と底 板を平行に保つためのガイドを設けた.天板の上に直径 32mm の木製の手すりを取り付けた. Fig.2(b)に,床の反力を測定する装置と,脚部の角度を測 定する装置を示す.床の反力の測定は,手すりに加わる力 を測定する装置と同様の構造とした.脛の角度は,靴の踵部 分に取り付けたポテンショメータで測定した (5) .ポテンシ ョメータに,脛と同じように動く冶具を取り付け,脛の角 度を測定した.また,踵が浮き上がる角度は,靴のつま先 部分に取り付けたポテンショメータで測定した.ポテンシ ョメータに取り付けた冶具の先端を,靴の踵部分に固定し, 踵が浮き上がる角度を測定した. 実験は 1 名の被験者で行い,被験者の体重は 760N,脛の 長さは L =0.48m,手のひらから床までは約 800 ㎜である. M1:Moment about knee M2:Moment about heel F:Force from floor θ:Angle of shank L:Shank length l:Distance between force from floor and ankle (a) Up stairs M=FLsinθ1 (θ1=θ+θ2) (a) Measurement of force which leans against handrail M1:Moment about knee M2:Moment about heel F:Force from floor θ:Angle of shank θ2:Angle of foot L1:Shank length L2:Foot length Fig.1 (b) Down stairs Measurement of the load which is charged on the leg (b) Measurement of reaction force from floor and the angle of leg Fig.2 Measurement device 3.階段昇り実験 3・1 水平手すりの効果 階段を昇るときに,水平な手すりを使用するときと従来 の手すりを使用するときで,脚の負担がどう変わるのかを 調べた.Fig.3 に,脛の角度、床の反力、脚の負担の時間変 化を示す.手すりの高さは 900mm,段差は 200mm とした. 手をつく位置は体の真横である.従来の手すりとして,35° の角度がついた手すりを使用した. Fig.3(a)と Fig.3(b)から,水平手すりを使用することで従 来の手すりに比べ,脚の負担の最大値は 3 分の 1 近くまで 減少することがわかる.脛の角度の最大値は,脚の負担が ピークとなる時刻とほぼ一致し,25°から 10°に減少した. また,床に加わる力は,軽く脚を載せただけの状態から, 全体重がかかっている状態へ速やかに収束している.水平 な手すりでは従来の手すりと比べ,脚の負担が最大時の床 の反力は1割近く減少した.よって,脚の負担が減少する 要因は,脛の角度の最大値が減少することである. Fig.3(b)と Fig.3(c)を比較すると,従来の手すりの脚の負 担は,手すりが無いときとほぼ同じであることがわかる. 従来の手すりを使用したときと手すりが無いときでは,脛 の角度の最大値はほぼ同じであった.また,脚の負担が最 大時の床の反力は,従来の手すりでは手すりが無いとき比 べ,僅かに減少した.よって,従来の手すりでは脚の負担 を軽減することは難しい. 次に,階段を昇るときの様子をビデオカメラで撮影し, 重心の状態や脛の角度を観察した.Fig.4 に,脛の角度が最 大となる時刻における画像を示す.重心の位置は腰骨の少 し上(6)とし,〇印で示す.Fig.4 (a)からわかるように,手す りを使わないときは,重心の位置が踵の位置より前にくる. 階段を昇るとき,ある瞬間に片足立ちとなるが,手すりを 使わずに安定して片足立ちするためには,重心が足の裏の 上にくる必要がある.手すりを使うと,重心は手をついた 位置と足の裏の上との間にあればよいので,Fig.4 (b)に示 したように,重心が足の裏より後方でも階段を昇ることが できる.このように,水平な手すりを使うことで,脛の角 度は緩やかになり,結果として脚の負担は小さくなる. さらに,水平な手すりを使用したときに,床の反力が減 少する要因について検討する.Fig.5 に床の反力と手すりに 加わる力を示す.Fig.5 から,手すりがないとき床の反力は, 一度ピーク値となったあと少し減少し,その後全体重分 760N に収束していることがわかる.また,水平手すりを使 用したときは,床の反力(一点鎖線)のピーク値が 1 割程 (a) Without handrail (b) With handrail Fig.4 The center of gravity position in going up stairs 1000 Leg 0 1 2 3 4 5 Hand+Leg 800 0 1 2 3 4 5 Leg Force [N] 0 1 2 3 4 5 Force [N] Leg force [N] Moment [N*m] 1000 800 600 400 600 400 0 1 2 3 4 5 200 200 Hand 0 1 2 3 4 5 Time [s] 0 1 2 3 4 5 Time [s] 0 0 (a)With handrail - 0deg (b)With handrail - 35deg (c)Without handrail Fig.3 15° 25° Angle [deg] 30 20 10 0 −10 −20 0 1 2 3 4 5 1000 800 600 400 200 0 0 1 2 3 4 5 200 150 100 50 0 −50 0 1 2 3 4 5 Time [s] 度減少している.このとき,手すりには,体重の 1 割程度 の力が加わっている(破線).手すりに加わる力のピークは, 床反力のピークより少し前である.この手すりに加わる力 と床の反力を加算すると,手すりがないときの床の反力と ほぼ一致している(実線).したがって,水平な手すりを使 用すると,手すりに全体重の 1 割程度の力が加わり,床の 反力のピーク値が抑えられると言える. 従来の手すりのように,角度がついた手すりでは,手すり を握らないと手が滑り,体重を支えにくい.また,手首の 角度も不自然となり,力が入りにくくなる.そこで,脚の 負担を軽減することができる手すりの角度について検討す る.Fig.6 に,手すりの角度と脚の負担の関係を示す.手す りの角度を-15°から 45°の間で 5°刻みで変化させた.筋 力が低下している人が使用することを考慮し,手すりは握 らない.手すりの高さは 900mm,手をつく位置は体の真横, 階段の段差は 200mm とした.図中の破線は,手すりを使 わないときの脚の負担である. Fig.6 から,手すりの角度が水平に近いほど,脚の負担は 小さくなることがわかる.手すりの角度が±5°以内であれ ば,手すりの効果があるといえる.しかし,手すりの角度 が増加し 35°以上になると,脚の負担は手すりが無いとき の値と変わらなくなる.よって,一般に用いられているよ うな 30°以上の角度がついた手すりでは,脚の負担を軽減 することは難しいと考えられる. 次に,手すりの角度が水平に近いほど,脚の負担が減少 する要因を検討する.Fig.7 に,手すりの角度と脛の角度, 手すりに加わる力の関係を示す.Fig.7 から,手すりの角度 が水平に近いときは,脛の角度は小さいことがわかる.し Effect of handrail in going up stairs Fig.5 1 2 3 4 Time [s] 5 0 0 1 2 3 4 Time [s] 5 (a)Without handrail (b)With handrail Reason why the ground reaction force decreases かし,手すりの角度が増加すると脛の角度は増加する.ま た,手すりに加わる力は,手すりの角度が±5°の間では, 手すりに充分体重がかかっている.しかし,手すりの角度 が増加すると手すりにかかる体重は小さくなり,手すりで 体を支えることができない.よって,手すりの角度が水平 に近いほど,手すりで体を支え,体の重心を後方に残すこ とが容易になり,脛の角度が減少することで脚の負担が軽 減できた. 3・2 手すりの位置と脚の負担の関係 水平手すりの高さや手をつく位置が,階段を昇るときの 脚の負担に及ぼす影響について調べる.Fig.8 に,手をつく 位置を体の真横にしたとき(図中●印)と,そこから前方 に 150mm の点にしたとき(図中○印)の手すりの高さと 脚の負担の関係を示す.手すりの傾きは無く水平で,階段 の段差は 200mm とした. Fig.8 から,体の真横に手をついたときは,手すりの高さ によって脚の負担が大きく変化していることがわかる.手 すりの高さが 900mm のときに脚の負担が最も小さく,手 すりが無い場合の約 3 分の 1 であった.手すりの高さが 900mm より高くても低くても脚の負担が大きくなる.この 被験者の場合,手のひらから床までの距離が約 800mm で あり,手すりの高さ 900mm は肘が少し曲がる程度の高さ であった.被験者の身長によっては,手すりの最適な高さ は異なると考えられる. また,Fig.8 から,前方 150mm の位置に手をついた場合, 脚の負担は,手すりの高さにあまり依存しなくなることが わかる.脚の負担が急激に減少する最適な手すりの高さが 無い代わりに,多少手すりの高さが変化しても,急激に手 すりの効果が落ちることは無い.脚の負担は,手すりの高 さに関わらず,手すりが無い場合の約 3 分の 2 になってい る.言わば,万人向けの手すりの位置といえる. 手をつく位置が体の真横のときは,階段を昇ると体が前 方に進み,手すりの高さが最適でないと手すりから手が離 れる.そのため,体を充分に支えられず,重心位置を後方 に残すことができない.また,手をつく位置が前方のとき は,その分,重心位置も前方にくるため,手すりが真横の ときに比べると脚の角度は大きくなる.しかし,体が前方 に進んでも手すりから手が離れにくいため,手すりの高さ が多少変化しても手すりで体を支えることができ,重心位 置を後方に残すことができた. 3・3 階段の段差と脚の負担の関係 階段の段差が,階段を昇るときの脚の負担に及ぼす影響 について調べた.Fig.9 に,階段の段差と脚の負担の関係を 示す.手すりを使用しないときを〇印,手すりを使用した ときを●印で示す.手すりの傾きは無く水平で,手すりの 高さは 900mm,手をつく位置は体の真横より前方 150mm の点とした.Fig.9 より,段差が 150mm 以上のときに,手 すりの効果があらわれた.段差が 200mm のときに最も手 すりの効果があらわれ,脚の負担が半分近くに減少した. Fig.10 に,脚の角度が最大となったのときの画像を示す. 重心位置を●印で示す.手すりは使用しなかった.Fig.10 より,階段の段差が大きくなると,脚の角度も大きくなっ た.これは,脚を上にあげるために,膝を大きく曲げなけ ればならないからである.また,体の重心の位置は,段差 の大きさに関係なく足の裏の真上であった. 階段の段差が小さいときは,脚をあまり曲げなくても階 150 150 Without handrail Moment [N*m] Moment [N*m] Without handrail 100 50 100 50 Handrail position at 150mm Handrail position at 0mm Handrail position at 0mm 0 −10 0 30 0 750 40 Effect of handrail angle 850 900 950 Handrail height [mm] Fig.8 Effect of handrail height 150 10 −10 0 10 20 30 40 200 150 100 50 100 50 0 1000 Without handrail With handrail 20 0 800 200 30 Moment [N*m] Hand force [N] Knee angle [deg] Fig.6 10 20 Angle [deg] Handrail height at 900mm −10 0 10 20 30 Handrail angle [deg] 40 Fig.7 The factor in which the load of the leg decreases 0 100 150 Fig.9 200 Height [mm] 250 Effect of step height 300 段を昇ることができるため,手すりがなくても脚の負担が 小さく,手すりの効果があらわれにくい.また,階段の段 差が大きくなると,脚を大きく曲げなければならず,手す りがあっても脚の負担が大きくなる. 4. 階段降り実験 4・1 水平手すりの効果 階段を降りるときに,水平手すりの有り無しによって, 脚の負担がどう変わるのかを調べた.まず,階段を降りる ときの,前方へ踏み出す脚と後方の脚の役割について検討 する.前方へ踏み出す脚は,膝をほとんど曲げない.後方 の脚は膝を曲げ,階段を降りる速度を調節し,前方の脚へ 加わる衝撃を弱める.そこで,脚の負担が大きい後方の脚 について,水平手すりの有り無しの影響を調べた. Fig.11 に,階段を降りるときの脚の角度,床の反力,脚 の負担の時間変化を示す.階段を降りる動作速度は,前方 へ踏み出す脚に衝撃が加わらない程度とした.手すりの高 さは 900mm,手 をつ く位 置 は体の 真横 ,階 段の 段差は 200mm とした.Fig.11 から,脚の負担の最大値は,水平手 すりを使用することで手すり無しに比べ,1 割程度減少す ることがわかる.このとき,脚の角度は水平手すりの有り 無しでほぼ同じであった.また,床に加わる力は,手すり を使用しないと,全体重がかかった状態から,階段を降り ることで速やかに 0N へと収束している.しかし,水平手 すりを使用すると,全体重がかかった状態から,一時,手 すりで支えた分だけ減少し,0N へと収束している.水平手 すりを使用することで,床の反力が,約 1 割減少した. 階段を降りるときには,段差の大きさだけ脚を曲げなく 30° 23° 10° てはならず,脚の角度に水平手すりの有り無しによる違い はなかった.このため,手すりで体重を支えた分だけ脚の 負担が小さくなった. 4・2 手すりの位置と脚の負担の関係 階段を降りるときに,手すりの高さや手をつく位置が脚 の負担に及ぼす影響について調べた.Fig.12 に,手をつく 位置と脚の負担の関係を示す.手すりの高さは,800mm(図 中●印),850mm(図中■印),900mm(図中▲印)とし, 手すりの傾きは無く水平で,階段の段差は 200mm とした. Fig.12 から,脚の負担は手すりの高さや手をつく位置に依 存しないことがわかる.脚の負担は,手すりの高さや手を つく位置に関わらず,手すり無しに比べ約1割減少した. 階段を降りるときには,脚の負担が最大時の脚の角度は, 段差の大きさで決まるため,手すりの高さや手をつく位置 に依存しない.そのため,脚の負担も,手すりの高さや手 をつく位置によって変化しなかった.しかし,階段を降り るときは,片足立ちとなる時間が長く,体を支えるものが ないと重心が大きくふらつき,体勢が不安定になる.今回 は,脚の負担のみで水平手すりの効果について検討したが, 重心の安定性についても調べる必要がある. 5. 機構モデルによる実験結果の考察 5・1 機構モデル 3 章で得られた実験結果について,機構モデルにより考 察する.ビデオで撮影した映像をもとに,モデルを作成し た (7) .階段を昇るときの手すり有り無し,手をつく位置, 階段の段差の変化が脚の負担へ及ぼす影響を,1つのモデ ルで表すことを目指す. Fig.13 に,階段を昇るときのモデルを示す.体の重心位 置を G,腰から膝までの脚の長さを l1,膝から踵までの脚 の長さを l2,腰から重心までの距離を l3 とし,後方の脚の 踵が床から浮き上がる距離を l4 とする.また,階段の段差 を h,前方の脚と後方の脚の間隔を l5 とするとする.前方 の脚の,脛の鉛直軸に対する角度をθ,腿の水平に対する 角度をβ,後方の脚の角度をαとする. 鉛直軸方向について,以下の等式が成り立つ. (l1 + l 2 + l 4 ) cos α = l1 sin β + l 2 cos θ + h (1) 水平方向について,以下の等式が成り立つ. (l1 + l 2 + l 4 )sin α + l1 cos β = l 2 sin θ + l 5 (2) (1)式と(2)式から l1+l2+l4=L としてθについて解くと, 40 20 0 2 3 4 5 1 1 2 3 2 3 Time [s] 4 4 5 5 = L2 − l12 + l 22 + l 52 + h 2 60 (3) 250 40 Without handrail 20 0 −20 0 1000 800 600 400 200 0 0 250 200 150 100 50 0 −50 0 Moment [N*m] Leg force [N] 1 2[L (h cos α + l 5 sin α ) − l 2 (h cos θ + l 5 sin θ ) + l 2 L cos (α − θ )] 200 1 1 2 2 3 3 4 4 5 5 Moment [N*m] Angle [deg] 60 −20 0 1000 800 600 400 200 0 0 250 200 150 100 50 0 −50 0 Moment [N*m] Leg force [N] Angle [deg] (a) 100mm (b) 200mm (c) 300mm Fig.10 Relation between the angle of shank and the level of stair 150 100 Handrail height at 900mm Handrail height at 850mm Handrail height at 800mm 50 1 2 3 Time [s] 4 (a)Without handrail (b)With handrail Fig.11 Effect of handrail in going down stairs 5 0 −100 Fig.12 0 100 200 Hand position [mm] Effect of handrail height 300 60 Fig.13 Mechanism model (a)Effect of handrail (b)Handrail position (c)Step height Fig.14 The posture in going up stairs (3)式より,前方の脛の角度θは,階段の段差 h と,後方 の脚の角度αつまり重心 G の前後位置により決定されるこ とがわかる.脚の負担は,脛の角度と床の反力により決ま るが,脛の角度の影響が大きい.よって,脛の角度が求ま ると,脚の負担を推定することができる. Fig.14(a)に,水平手すり有り無しの状態を示す.水平手 すりがないと,体の重心を前方の足の裏の上まで移動させ るため,踵より前にくる.水平手すりがあると,手すりで 体重の一部を支えるため,重心が前方の脚の踵と手すりを 持つ位置の中間にくる.よって,(3)式中の後方の脚の角度 αが小さくなるので,脛の角度θが小さくなる. Fig.14(b)に,手をつく位置を変化させた状態示す.手を つく位置が前方になると,体が前方に傾く.体が前方に傾 くことで体の重心が前に移動し,(3)式中の後方の脚の角度 αが大きくなるので,脛の角度θが大きくなる.体の重心 は半径 l1+l2+l3+ l4 の円弧上を移動する. Fig.14(c)に,階段の段差を変化させたモデルを示す.(3) 式より段差 h が大きくなると,脛の角度θが大きくなる. 以上より,水平手すりの有り無し,手すりをつく位置, 階段の段差が脚の負担へ及ぼす影響を,定性的にあらわす ことができた. 5・2 モデルによる計算 前節で定義したモデルを用いて,脚の負担と重心位置の 関係を定量的に表す.Fig.15 に,重心位置と脛の角度θの 関係を示す.重心位置は,昇りはじめる前の踵の真上を 0mm とし,それより前方を正とした.手すりは使用せず, 腿の長さ l1=0.5m,脛の長さ l2=0.48m,踵が床から浮き上が る高さ l4=0.05m とした.また,階段の段差が 100mm のと きの実験値を○印,段差が 200mm のときを●印,段差が 50 40 Angle θ [deg] G:Center of gravity l1:Thigh length l2:Shank length l3:Distance between waist and center of gravity l4:Distance between heel and floor l5:Distance between foreleg and hind leg h:Height of step θ:Angle of shank α:Angle of hind leg β:Angle of thigh 100mm step(experiment) 200mm step(experiment) 300mm step(experiment) 300mm 200mm 30 20 100mm 10 0 0 Fig.15 100 200 300 Center of gravity position [mm] 400 Relation of center of gravity and shank angle 300mm のときを■印で示す.算出する際,1 つの重心位置 に対しθが 2 つ求まるが,重心位置が増加するにつれβが 増加するようなθを解として採用した.重心が前方の脚の 真上にくる位置は,脚の間隔より 300mm であるため,θ を算出する範囲は,それより少し大きい値までとした. Fig.15 より,重心位置が前になるにつれ,脛の角度も大 きくなることがわかる.このため,脚の負担が増加する. また,実験値ともほぼ一致したことから,このモデルは重 心位置と脛の角度の関係をよく表している. 今回の機構モデルによる計算では,手のモデルが無いた めに,手すりの角度,手すりの高さや手をつく位置が脚の 負担に及ぼす影響について検討することができなかった. 今後,手のモデルを作成し,これらの影響を考察する必要 がある. 6.結論 本研究では,階段昇降時の水平手すりの効果を,床の反 力と脛の角度から算出した脚の負担の値で評価し,次の結 論を得た. (1) 階段を昇るときに水平な手すりを使うと,従来の手 すりに比べ,脚の負担が軽減される.脚の負担が減少 する要因は,水平手すりを使うことで,体の重心位置 を後方に残して階段を昇ることが可能となり,脛の角 度の最大値が減少することである. (2) 階段昇り時の手すりの効果は,手をつく位置は体の 真横,階段の段差が 200mm のときに,最も大きい. (3) 階段を降りるときにも,水平手すりを使うことによ り,脚の負担が 1 割程度減少する.この場合,脚の負 担が減少する要因は,床の反力の減少である. 参考文献 (1) 上田俊二,実用新案登録第 3068771 号,(1999),1-11. (2) 有限会社創人工房,特願 336777 号,(2000) (3) 小川鑛一,看護動作を助ける基礎人間工学,(1999), 東京電機大学出版局,94-98 (4) 広川俊二,松村公志,膝関節のバイオメカニクスと動 筋・拮抗筋力,バイオメカニズム, (1992),東京大学 出版会,145-155 (5) 河村 洋・他 4 名,関節角度計を用いた歩行の研究, バイオメカニズム,(1978),東京大学出版会,158-159 (6) 佐藤方彦・他 4 名,人間工学基準数値数式便覧,(1994), 技報堂出版,42-43 (7) 日本機会学会,バイオメカニクス数値シミュレーショ ン,(1999),コロナ社,190-228
© Copyright 2026 Paperzz