行政から NPO への 委託事業の積算に関する提言

【概要版】
∼あいち協働ルールブックの推進に向けて∼
行政から NPO への
委託事業の積算に関する提言
2007 年 10 月
NPO と行政の協働に関する実務者会議
はじめに・・・なぜ NPO への委託に係る積算が問題になるのか?
(1)検討の背景
・ NPO と行政の協働事業が増加する一方で、NPO からは、委託事業の対価が十分に確保
されておらず、活動の継続に困難を生じているという声が出ている。
・ 委託事業の対価が適正に積算されない場合、運営に必要な経費が不足し、NPO は安定
的に活動を維持することができなくなる。今後、協働事業がさらに増加し、施設管理委
託など長期的な事業も増加することが予想される中で、このような状況が続くことは、
公共サービスの担い手としての NPO の健全な発展を阻害し、ひいては公共サービスの
質の低下につながる危惧がもたれている。
・ こうしたことから、「NPO と行政の協働に関する実務者会議」では、平成 17 年 8 月に
取りまとめた「中間報告」において、「協働事業の積算基準づくり」を今後の課題の一
つとしてとりあげ、平成 18 年度に「積算基準部会」を設置し、5 回にわたり検討を行っ
た。
※「NPO と行政の協働に関する実務者会議」は、「あいち協働ルールブック 2004」に基づく NPO と
行政の継続的な協議・検討を行うために開催される会議であり、ルールブックの趣旨に賛同する
NPO の公募構成員 10 名と、6 市町の NPO 担当職員及び県社会活動推進課職員 3 名の計 19 名で構
成しています。
(2)この報告書の性格
・ 実務者会議において、できる限り様々な資料を収集し、関係者にヒアリングを行い、
NPO・行政双方の視点を取り入れながら議論を重ねて、NPO への委託に係る積算のあ
り方について検討を行ったものであり、今後、行政においては、この内容を踏まえて
NPO への委託事業費の積算を行うことを期待するものである。
・ NPO においても、この報告書を参考に各団体が安定的に活動するために必要な間接費
や受託事業費について、理解を深めていくことを期待するものである。
・ なお、この報告書は、平成 19 年 2 月に試行として発行した後、NPO 側・行政側からの
幅広い意見を踏まえた上で、今般、正式に発行するものである。
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1 何が問題か?・・・現状の問題点抽出
・ 現状の問題点を抽出するために、積算方法が制度的に整っている公共事業の積算基準、
NPO との協働を積極的に進めているイギリス財務省が提起する「フルコスト回収」の
考え方などを参考に検討したうえで、愛知県内の協働事例の分析を行った。その結果、
NPO に対する委託事業の積算方法に、以下のような問題点が認められた。
①事業内容に見合った適正な人件費単価が積算されていない
・ 現在、NPO への委託事業に係る人件費の積算では、行政の嘱託職員の給与水準などを
参考に、700 円から 1,500 円程度の時給が適用されることが多い。しかし、一般的には、
このような給与水準は、補助的な業務を担当する者に適用される金額であり、主体的に
事業を企画し、遂行するような場合に用いることは適当ではない。
・ 行政の委託事業を実施する場合は、NPO であっても、企業等と同様に一定の品質を確
保することが求められており、NPO だけが無償又は低報酬での奉仕を求められるべき
ではなく、それぞれの事業において、行政が求める成果を得るために必要と認められる
一般的な人件費の単価を適用すべきである。
②事業を実施するために必要な経費科目が積算されていない
③団体を維持するために不可欠な間接費が積算されていない
<フルコスト回収の観点から>
・ NPO への委託事業では、事業に直接携わる人件費(の一部)と物件費が積算されるケ
ースが多いが、実際には、その他に事業スタッフの法定福利費や保険料、事務用機器の
使用料などが必要であり、「直接費」であっても全てはカバーされていない。
・ 「直接費」以外にも、事業を実施するために補助的な業務(事業の進捗及び品質を管理・
監督する業務など)が発生するが、このような「直接サポート費用」については、ほと
んど考慮されていない。
・ さらに、「間接費」として、直接費又は人件費の 10%から 20%を見積もって、事務経費
や雑費に充てられるケースが多い。しかし、本来ならば「間接費」とは、このような諸
経費を意味するのではなく、人事・総務などの本部機能、IT やマーケティング、会計・
監査などのコストをカバーするために必要なものであり、現状の水準では、NPO が組
織として活動を継続するための費用を回収することができない。
-2-
<企業等に対する積算との比較>
・ 企業の場合、事業を実施するために補助的に必要となる経費(業務管理費)に加え、マ
ネジメントや一般管理業務、ガバナンスなどの本来的な意味での間接費(一般管理費)
を含む、幅広い諸経費をカバーするために、人件費の 120%という割合によって間接費
の積算が行われる。
・ 財団法人等の場合でも、人件費の 100%という諸経費率が認められている。非営利組織
であっても、配当等の利益分配に充当する部分を除けば、企業と同等の間接費が必要と
なるのであり、NPO だけに低い間接費率が適用されることに合理性はない。
<NPO の間接費負担比率>
・ 愛知県で実施した調査によれば、NPO 法人の 2004 年度事業報告(580 団体)における
事業費と管理費の割合は、1 対 0.54 であり、NPO の間接費負担比率を、事業費の 50%
程度とすることも考えられる。
・ しかし、NPO の会計処理は正確性に欠ける部分があり、また企業や財団法人等と比較
して組織的に整備されていない NPO も多いため、いきなり 50%を適用しても社会から
の信頼が十分に得られないと考えられる。
・ そのため、「事業費<管理費」となっている NPO 法人を除外して検討すると、事業費と
管理費の割合は、1 対 0.30 となる。したがって、現時点では最低限、事業費の 30%程
度の間接費を積算する必要があると考える。一方、事業費に占める人件費の割合は明確
ではないが、企業等に認められる諸経費率が人件費の 120%で積算されていることと比
較しても、事業費の 30%の間接費は、NPO にとってはまだまだ不十分である可能性も
ある。今後、NPO 側からも、正確な間接費の割合を計算して示すことによって、より
適正な間接費の水準を確保すべく議論が進むことを期待する。
イギリスで行われている議論−フルコスト回収の考え方
・NPO は公共サービスの一端を担う存在として、安定的に活動する必要があり、イギリス
では、2002 年に発行された財務省(HM Treasury)のレポートによって、NPO の「フル
コスト回収」の問題が公に提起された。
・「フルコスト回収」とは「直接費のみならず、間接費(※1)も含めて、事業を実施する
ために必要なコストを全て回収する」という考え方であり、イギリスのコンパクト(※2)
の関連資料などで、行政は契約にあたって「フルコスト回収」に配慮すべき旨が表明され
ている。
※1 フルコストに含まれる間接費には、事務所維持に関する費用、本部機能に関する費用(総
務、人事、IT など)、ガバナンスに必要な費用(会計、監査、事業報告など)等がある。
※2 コンパクトとは、イギリス政府と NPO との間で締結された協定のことである。
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2 提言
提言その1
事業の内容に見合った適正な人件費単価で積算することが必要
委託事業においては、企業等との公平性を考慮しながら、事業の内容に見合った適正な
人件費単価で積算することが必要である。
ただし、NPO への委託の中には、地域活動に対する支援や補助を目的としているもの、
その団体特有の積算の考え方があるものなども想定され、こうした個々の事業に関しては、
積算の考え方が定まっていないことなどから、当面はケースバイケースで事例を積み重ね
ていく必要がある。
(積算参考単価)・・・次のような単価を参考に、事業の内容に見合った人件費単価を積算する
ことが必要です。
<事業を主に担当するスタッフ>
事
業
NPOの専門性・ノウハウを活用した事業
企画立案・
業務遂行を
通常の責任
をもって実
施する事業
高度な専門
性を必要と
する事業
施設管理
運営事業
業務の内容
啓発/研修・講座/
住民参加講座/イ
ベントの企画・運営
など
適用する単価の例
責任者(2,800 円/時間~3,500 円/
時間)(40 歳代平均給与より)
主任・マネージャー(2,400 円/時間)
(30 歳代平均給与より)
スタッフ(1,600 円/時間)
(20 歳代平均給与より)
+法定福利費(一般的には賃金
の 138/1000)
備
考
年代別平均給
与(国税庁民間
給与実態統計
調査)÷年間平
均労働時間(厚
生労働省毎月
勤労統計調査)
行政計画・指針の策
定/「高度な専門性
を必要とする」相談
事業、研修・講座及
びイベントの企
画・運営、調査
など
主任技師:責任者(45,800 円/日)
技師A:
(38,300 円/日) 国 土 交 通 省 設
主任・
技師B: マネージャー (30,300 円/日) 計 業 務 委 託 等
技師 C:
(26,000 円/日) 技術者単価
技術員:スタッフ
(22,100 円/日)
施設管理運営/指
定管理者
責任者(502 万円/年~643 万円/
円)(40 歳代)
主要スタッフ(435 万円/年)
(30 歳代)
スタッフ(297 万円/年)(20 歳代)
+法定福利費
国税庁民間給
与実態統計調
査
※一般的に NPO は、民間企業と比べて合議で事業を企画・運営する場合が多いが、人件費単価は
現在のところ、民間企業に適用される既存の単価を準用せざるを得ないため、積算における歩掛
(人員配置)についても、民間企業と同等の工数を見積もることが適切である。ただし、今後、
NPO により適合した人件費単価が考案された場合には、工数の見直しを行うことも考えられる。
※年代別平均給与は、男女を合わせた平均給与を「適用する単価の例」として記載したが、「責任者」
については、その職責及び民間の勤務実態を考慮し、40 歳代の男性平均給与を併記した。
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<サポート業務を行う補助作業者>
区
補
助
作
業
者
分
業務の内容
適用する単価の例
補助スタッフ
特別なスキルを必
要としない、責任が
限定された業務
アルバイト
責任のあまりない
作業的業務
普通作業員(13,800 円/日)
軽作業員(12,100 円/日)
714 円/時間
備
考
国土交通省公
共工事設計労
務単価
愛知県最低賃
金
<ボランティア>・・・事業効果を高めるために市民参加を期待する場合などを想定しており、委
託事業を実施するために必要不可欠なスタッフについては別途積算を行うべきである(※2)。
ボランティア
※1
NPO の呼びかけに
より自主参加をす
るボランティア
※2
事業内容・趣旨・専門性などにより、0 円(交通
費・実費のみ)~補助スタッフ単価まで
※1 一般的に NPO は、活動に共感する市民に支えられているため、そのような市民に「ボランテ
ィア」として、事業に参加してもらう能力に長けている。このような「ボランティア」によっ
てもたらされる社会的付加価値(人件費相当額)を全て積算するか(NPO 側にメリットが帰
属)、0 円とするか(行政側にメリットが帰属)は、NPO への委託方法とあわせて今後、さら
に検討を重ねる必要がある。
※2 本来、事業を実施するために不可避的に発生する業務については、
「スタッフ人件費」として積
算すべきであり、NPO への委託事業だからといって、ボランティアを活用するという名目で
安易に人件費を減額させることは適切ではない。
提言その2
事業を実施するために必要な経費を忘れずに積算することが必要
事業を実施するために必要となる作業及び経費を適正に見積もり、過不足なく積算する
必要がある。
忘れがちな経費・・・次のような経費が積算されていない例がみられます。
①企画・打合せに係る人件費
②ボランティアを募集して行う事業の場合の、ボランティアの募集やコーディネ
ートを行うスタッフの人件費
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提言その3
団体継続に不可欠な間接費を適正に(直接費の 30%以上)計上す
ることが必要
委託事業に係る間接費は、NPO の実態に即して、活動を安定的に維持できる金額(最
低限直接費の 30%以上)を計上する必要がある。
3 今後の課題
・今後、NPO と行政の協働に関する議論の成熟に伴い、さらに検討を深める必要のある課題
として次の 4 点をまとめた。
①NPO の間接費負担割合
②ボランティアの生み出す社会的付加価値の帰属
③協働事業における委託先の選定方法
④NPO との協働形態
よくある誤解
Q 「非営利/ボランティア」の NPO に、なぜ人件費を支払う必要があるのか?
「非営利」とは、「利益を分配しない」という意味であり、活動の対価をもらわないとか、
労働の対価を支払わないということではありません。また、日本では、「NPO=ボランティア
=無償に近いお金での活動」という誤解が根強くあり、NPO のスタッフが給与を得て活動を
行うことに対して、社会的な理解が十分に得られない状況があります。
組織である NPO は、個人のボランティアと比べ、活動の継続性・安定性に対する責任が増
大しますが、NPO スタッフも生活者であり、労働への適正な対価が得られなければ、組織と
して質の高い活動を継続することができません。
特に、行政からの委託事業においては、NPO も企業等と同様に一定の品質が求められてお
り、NPO だからといって、無償又は低報酬での奉仕を求めることは適切ではありません。
Q 非営利の NPO に、なぜ間接費が必要なのか?
NPO が組織として活動する以上、事務所の維持費や、経理・総務スタッフに支払う経費な
ど、事業を間接的にサポートするための間接費は不可欠です。また、財政的な健全性を維持し、
将来のリスクに備えるため、ある程度の内部留保も必要になります。同じく非営利団体である
行政や公益法人においても、事業に携わる職員以外の管理部門の職員に対する給与や、庁舎・
事務所の維持費など、事業に直接関わらない費用が多く支払われており、非営利団体だから間
接費が必要ないということはありません。
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