旭化成ケミカルズのエンプラサイト http://www.akchem.com/emt/emt_top.html <旭化成のポリアセタール樹脂> テナックの不良現象対策 テナックの不良現象対策 A.試験片による破壊 1 引張による破壊 13-1. 成形品の折れ割れ 試験片を引張試験機によって破壊された破面 稀に市場で成形品の割れ・折れトラブル発生が見られますが、その割れ・折れの破壊面を細かく観 察する事により、原因の推定、対策が容易となる場合が多い。 写真13-1-1 引張速度100mm / min 写真13-1-2 引張速度500mm / min (×50) (×50) ここでは、(1)破壊現象の起点 (2)破壊の形態 について説明します。 種々のトラブル解決や、品質向上のためには、事実の把握が極めて大切であり成形品において も、事実の観察が原因の追求や品質改善に有効です。 なお、破壊部分の観察は肉眼やルーペでも、かなりの情報が得られますので、本章を参考にし て、観察技術の蓄積をされることをお勧めします。 写真13-1-3(写真13-1-1の拡大) 写真13-1-4(写真13-1-2の拡大) (×200) 写真13-1-5(写真13-1-3の拡大) (×200) 写真13-1-6(図13-1-2の③部分) (×1000) 187 (×200) 188 <旭化成のポリアセタール樹脂> R テナックの不良現象対策 2. 衝撃による破壊 写真13-1-7 引張速度1000mm / min (×50) (1)アイゾット衝撃(ノッチ有、無) 写真13-1-9 写真13-1-10 図13-1-1 起点 ノッチ有 (×50) 観察面 図13-1-2(拡大図参照) 図13-1-2 写真13-1-8(写真13-1-7の拡大) ノッチ無 (×50) ノッチ部 ① ② (×200) ③ 下部 図13-1-3 下部 ノッチ部 ハンマー ノッチ (1)写真13-1-1∼13-1-8は、図13-1-2のようなモデルで表されます。 ノッチ有 ○何らかの欠陥があり破壊が開始された部分(破壊起点 図13-1-2・①) 破壊方向はスジ状の模様により、判断できます。 ○起点に次いで破壊された部分であり、延性破壊領域(ディンプル 図13-1-2・ ②) 写真13-1-9矢印部( )が破壊起点であり、明確です。 ○ディンプルに次いで起こった部分で脆性破壊(破断領域 図13-1-2・ ③) 下部の矢印部分に横に伸びた模様は、破壊が一旦停止し再び亀裂が成長を始めたもので (2)引張速度を早くする(写真13-1-1、2、7)ことにより、ディンプルが小さくなります。 写真13-1-7は、引張速度が早くディンプル部が消失しかけています。 す。 ノッチ無 (3)ディンプルの拡大写真(写真13-1-5)では、繊維状にポリマーが延伸されているようにな ノッチ無の場合は、写真13-1-10で見られるように破壊起点が明確ではありません。 っており延性破壊の様相を示しています。 破壊力が表面で分散され、強度的にも強い。 189 190 テナックの不良現象対策 <旭化成のポリアセタール樹脂> (2)ダインスタット衝撃、面衝撃(ノッチ有・無) 図13-1-11 図13-1-12 ノッチ有 A ノッチ部 (×50) ノッチ無 3. 疲労による破壊 (×50) (1)振動疲労 写真13-1-15 (×50) 図13-1-4 ハンマー 観察 B A 振動疲労破壊は、試験片に振動を加えて、破断したものです。破壊起点は、明確ではありません。 繰り返し応力による縞模様(ストライエーション)が見られます。(縞模様、横方向に長く伸びて いる)。 B (2)繰返し衝撃 写真13-1-11 写真13-1-16 ノッチ有は、破壊起点が明確ではありません。破面が独特の破面を示します(矢印はノッチ部)。 起点 写真13-1-17 (×50) 起点部拡大 (×1000) 写真13-1-12 ノッチ無は、破壊起点部分に小さなディンプルが形成され、延性破壊の様相を示します(矢印)。 (3)引張衝撃(ノッチ有、無) 写真13-1-13 ノッチ有 (×50) 写真13-1-14 ノッチ無 (×50) ノッチ部 写真13-1-18 最終破面 (×50) アオゾット試験片を水平に固定し荷重を あたえる試験方法。(図113-1-6) ○ノッチ部が起点となり破壊が伝幡します。 破壊起点が明確です。起点部分及び破断 写真13-1-13 領域にも縞模様(ストライエーション) ノッチ有は、ノッチ先端部に起点(矢印)があります。起点から放射状に 図13-1-5 スジ模様が見られ破壊方向がわかります。破面は平滑です。 が見られます。 図13-1-6 写真13-1-14 ○最終破面には、横方向に大きな縞模様が見られる。縞の巾の狭い部分は、 ノッチ無は、破面に小さなディンプルが見られます。(矢印)それを起点 繰り返し応力が集中している部分であり、破壊の進展が遅くなっていま として、放射状にスジ模様が見られ破壊方向がわかります。 前述の引張破壊の破面と類似します。 す。巾の広い部分は、破壊が急速に進展したものです。 衝撃速度≒3.3m/sec 191 繰り返し 衝撃試験機 192 <旭化成のポリアセタール樹脂> テナックの不良現象対策 4. 引張クリープによる破壊 写真13-1-19 (×50) グリース無 5.環境破壊 (1)熱劣化 ヒートエージングしたものを引張破断したもの 写真13-1-21 写真13-1-22 100℃×2000hr 120℃×3400hr (×50) 写真13-1-20 (×50) 腐食性グリース有 熱劣化の程度により、破壊開始点(ディンプル)が多くなっています。 さらに、破面全体に凹凸が多くなります ○グリース無しの場合は、破断面は大きく塑性変形しています。 高温なでゆっくり引張られた為に破面全体に毛羽立ちがみられます。 ○腐食性グリースによる場合は、高温列化により周囲に、微細なクラックが発生し毛羽立の 少ない破面です。 したがって、グリースの選択が大切です。 193 194 (×50) テナックの不良現象対策 <旭化成のポリアセタール樹脂> (2)熱水劣化(100℃) 熱水浸漬したものの破断面 写真13-1-23 500Hrs B:製品の破壊 (×50) 熱水浸漬では、1000時間で層の中央部に結晶状のものが 折れ割れが発生した場合は、次の事を調査する必要があります。 あらわれます。1500時間では中央部から更に表層部近く まで広がっています。これは、加水分解が中央部より進 行し、球晶部が明確に出でくるためです。長時間浸漬す ることにより、層の中央部から劣化します。 1. 発生時の状況 ①成形中 ②組み立て中 ③輸送中 ④使用中 2. 発生時の環境 ①温度 ②薬品の有無 3. 発生の割合 4. 成形条件 ①シリンダー温度 ②金型温度など これらの情報が、原因究明には大変有効です。(ディンブル) 写真13-1-24 写真13-1-25 1000Hrs 1500Hrs B. デザインに起因する破壊 1. コーナー部破壊 写真13-1-28 写真13-1-26 写真13-1-29 (×50) 折れ破面 円柱 起点 写真上拡大 (×500) 写真13-1-30 付根 写真上矢印部分拡大 写真13-1-31 (×500) 折れ起点拡大 (×100) (3)酸による劣化 写真13-1-27 塩酸に浸漬 (×500) 腐食割れであり、割れ及び溶解とが、交互に生 表面 じ流れ模様、段の高低など不連続な亀裂成長を 反映しています。内部から侵されてきます 図13-1-7 写真上の円柱が折れやすい。 この部分の付根(矢印部)は、シャープコーナーであり、ここから割れが発生します。(写真左 下)金型が直角のコーナー部では、成形品になると、ヒケて鋭角になる場合が多い。 観察 195 196 <旭化成のポリアセタール樹脂> テナックの不良現象対策 (事例-2) 写真13-1-32 外観 写真13-1-33 (×50) (×50) 破面 (事例-3) 写真13-1-36 写真13-1-35 破壊したもの (×30) (×30) 破壊前 コーナー部 起点 割れ起点が明確であり、コーナー部から破壊がしています。 割れ部 破面が平坦であり、衝撃破壊です。組合わせ部品である。 図13-1-11 図13-1-8 コーナー部 コーナー部、断面写真(偏光顕微鏡)参考資料 写真13-1-34 (×160) 写真13-1-37 図13-1-9 コーナー部拡大(写真13-1-35) 写真13-1-38 (×150) 破壊起点部拡大(写真13-1-36)(×150) 点線のように切る 図13-1-10 起点 偏光顕微鏡写真で判るように、コーナー部の表層は、他の部分と 結 晶 層 表層 コーナー部で破壊したものです(写真右)。 破壊起点は明確ではないが、スジ状の模様から写真の 比べ薄くなっています。(図-2矢印) 右下方向から割れています(矢印)。 この為に、材料の伸びが低下し割れやすくなります。0.5Rを付け 写真左は、破壊前、同一製品のコーナー部を観察しま ることにより、強度が2倍になった例があります した。 拡大すると、ノッチが深く入っています。(矢印) 応力が集中するところであり、割れやすい。 197 すでにノッチが 入っていた部分 198 テナックの不良現象対策 <旭化成のポリアセタール樹脂> 2. 成形に起因する破壊 (2)湯ジワからの破壊 (1)未溶融樹脂による破壊 写真13-1-39 表面 写真13-1-44 (×40) 写真13-1-40 (×50) 破面 (×50) 図13-1-12 写真13-1-45 破壊部拡大(矢印) 写真13-1-41 湯ジワが発生 (×150) (×25) 断面 応力 破面の模様は通常の連続的な形態とは異なり異物が 混入したような、不連続なものとなっています。 この部分を偏光顕微鏡で観察すると、(写真13-1-41) のような樹脂の溶融が不完全な部分であった。(矢 (偏光顕微鏡写真) 印)このような場合は、強度が非常に低下します。 湯ジワが内部に入り込み、ノッチ状となっています(矢印)。 応力が集中しやすい部分においては、極力、湯ジワのないように成形する必要があります。 (3)バリからの破壊 偏光顕微鏡による参考資料 写真13-1-42 湯ジワに応力が集中し、そこが起点となり割れが発生しています。 写真13-1-46 写真13-1-43 ギア歯元近くにゲートがある場合(偏光顕微鏡写真) (×30) (×25) 図13-1-13 割れ部 バリ発生部 パーティングライン バリ部は非常に薄いうえ、急冷されているので一般に脆い(矢印)。 ギアの歯元は、応力が繰り返し加わる所です。 この近くにゲートがあるとゲートからの残留歪を受けやすくなります。 これが歯元折れの原因となります。(矢印はゲート部) 199 このために、微小な応力で簡単にクラックが発生します。 その状態から更に応力が高くなると、クラックを起点として破壊が本体に伝播します。 破壊起点部は、明確です。 200 テナックの不良現象対策 <旭化成のポリアセタール樹脂> (4)ウエルド部の破壊 写真13-1-47 3. クリープによる破壊 図13-1-14 (×50) 写真13-1-49 引裂けた製品 写真13-1-50 (×50) 破面 (×50) 破面 写真はウエルド部の破壊であるが、MD除去剤を巻き 込んだものであり通常の破面とは異なり、除去剤の流 動跡が見られます。型面を清浄に保つことが重要です。 その他、離型剤、インサート金具防錆剤、スライドコ アグリス、等でも同様のトラブルが発生することが考 えられます。 図13-1-16 割れ部 写真13-1-48 (×50) 図13-1-15 圧入 破面 気泡 写真13-1-49、50は、高温エージング時の破壊例です。 割れ部は引裂けであり、毛羽立ちが見えます。 これがクリープ破壊の特徴です。 ゲートから一番遠い所にある、キャビテイのサンプ クリープまで考慮した設計の見直しが必要です。 ルです。 通常の破面とは異なります。ウエルドの溶着が悪く (圧力不足)更に中央部に大きな気泡が見られます。 この例は、ゲート位置を変更することが重要です。 201 202 テナックの不良現象対策 <旭化成のポリアセタール樹脂> 6. 腐食による破壊 写真13-1-54 4. 傷による破壊 写真13-1-51 角のキズにより破壊 (×50) 試験片の角にノッチを入れ引張り破壊 (×40) 外観の劣化 写真13-1-52 (腐食:プラスチックの場合は、 (×50) 酸・アルカリ等による劣化のこと) 写真13-1-55 (写真13-1-54矢印部拡大) (×500) 写真左 製品の角にノッチ状のキズがあり、これを起点として 破壊しています(矢印)。 写真右 再現テスト品ですが、角のノッチ部が破壊起点となり、 亀裂方向が容易に推定できます。 写真下 ノッチ部分からスジ状の模様が見られますが、引張り 速度が遅いと、このようなスジ模様となります。 5. 異常外力による破壊 写真13-1-53 (×50) 写真13-1-57 写真13-1-56 (×30) 腐食割れ (写真13-1-56矢印部拡大) (×1500) 破壊起点に打痕があり。異常な外力が作用したことがわかります(矢印)。 起点 腐食による破面を拡大して観察すると、粒界が見られます。(写真13-1-57) 203 204
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