鍵を握るのは誰か? デジタル・コンバージェンスの世界ではエンド

IBM Global Business Services
IBM Institute for Business Value
Electronics
鍵を握るのは
誰か?
デジタル・
コンバージェンスの
世界ではエンド・
ユーザーが主役
IBM Institute for Business Value
IBM グローバル・ビジネス・サービスの
IBM Institute for Business Value は企業経営者の方々に、
各業界の重要課題および業界を超えた課題に関して、
事実に基づく戦略的な洞察をご提供しています。
鍵を握るのは誰か?
デジタル・コンバージェンスの世界では
エンド・ユーザーが主役
この数十年間、多くのテクノロジーはまず企業市場で十分に検証さ
れたのち、消費者の手元に届けられてきた。しかし、その流れは変
わった。現在急速に発展しつつあるデジタル・コンバージェンスの
世界では、最終的には職場に導入されるイノベーションがまず消費
者市場で検証されることが少なくない。つまり、イノベーションの
成否を最終的に決める主役が、企業から個人にシフトしたのだ。
はじめに
情報技術の出現以来、イノベーション
の流れは企業から消費者へというのが
一般的であった。企業のメインフレー
ム、データベース、およびワード・プ
ロセッシング・アプリケーションは、
PC や個人用生産性向上ソフトウェア
が生まれる下地を作った。オフィスで
働く人同士をつなぐために使われ始め
たルーターやハブは、今では家庭内
ネットワークでも使われるようになり、
家の中や街の中でもワイヤレス接続が
可能になった。企業環境で最初に開発
されたコンピューター・セキュリ
ティー・ソリューションやバックアッ
プ・ソリューションも、すでに消費者
が利用できるものとなった。
ところが、デジタル・コンテンツやイ
ンターネット・プロトコル(IP)ネッ
トワークがより安価に、より気軽に利
用できるようになるにつれて、テクノ
ロジー起点のイノベーションは逆方向
に流れ始めた。つまり、イノベーショ
ンの価値はまず消費者が実証する形と
なってきた(図 1 参照)。そして、消
費者の世界がイノベーションの価値を
高く評価すると、その評価はそのまま
企業の購入決定にまで引き継がれる。
1
鍵を握るのは誰か?
図1
イノベーションの流れは、今や消費者市
場から企業市場へと変わりつつある。
企業
従来の
イノベー
ションの
流れ
消費者
現在の
イノベー
ションの
流れ
出典:IBM Institute for Business Value analysis.
典型的な例としてインスタント・メッ
セージング(IM)がある。ほんの数年
前 ま で 、 IM は 若 者 の 娯 楽 に 過 ぎ な
かったが、現在では重要なビジネス・
コミュニケーション・ツールとなって
おり、電子メールや電話並の頻度で利
用されている。例えば、IBM の場合、
全社員が 1 日に送信するインスタン
ト・メッセージの数の合計は約 400 万
件に上っている。
2
SNS ( ソ ー シ ャ ル ・ ネ ッ ト ワ ー キ ン
グ・サービス)やWikiにまつわる話に
は、さらに目を見張るものがある。韓
国では、全人口の 3 割が何らかのパー
ソナル・ホーム・ページ・サービスを
利用している。米国でも、2006 年 5 月
の 1 カ月間にMySpaceページにアクセ
スしたインターネット・ユーザーは、
全体の約 3 割を占めている1。さらに興
味深いのは、MySpaceページにアクセ
スしている人の過半数が 35 歳以上と
いうことである2。一般の人々によって
編纂され人気の高い百科事典Wikipedia
は、約 35 万人の協力者によって日々
加筆修正され続け、今や 200 万件を超
える項目数を誇っている3。
こうした例は方向の転換の前触れであ
り、決して侮ってはならない。PCの登
場で消費者がコンピューティング能力
を手に入れたのと同じように、デジタ
ル・インフラの登場により、人々はか
つてなかったレベルでコラボレーショ
ンや創造ができるようになってきた。
メディア王、ルパート・マードック氏
の言葉を借りれば、「権力は、従来の
エリート層の手を離れ、新世代のメ
ディア・コンシューマーの手に移りつ
つある」4。デジタル・コンバージェン
ス時代に突入した今、新製品、新サー
ビス、および新市場の命運を決めるの
は、もはや企業ではなく個人であると
言える。
人々が世界的規模でのコラボレーショ
ンや創造に意欲的なのは疑いようがな
い。進歩的な企業はその熱狂の波に乗
り、同様のツールを取り入れることで、
最も困難な課題の 1 つであるナレッ
ジ・マネジメントに取り組もうとして
いる。従業員に洞察を提供させるには
どうすればよいか。その知識を人々が
信頼して利用するように維持および周
知を図るにはどうすればよいか。企業
が気づきつつある事実がある。それは、
使いやすいツールが手に入ると、従業
員は自然と共通の興味を持つコミュニ
ティーを形成し、自発的にコラボレー
ションや創造活動を始めるということ
だ。その結果得られるコンテンツは、
従来の集中型のナレッジ・マネジメン
トによって収集されるものをはるかに
凌ぐことが多い。
しかし、この傾向をそのまま受け入れ
るだけでは不十分である。ソリュー
ション・プロバイダーは、この洞察に
基づいて行動を起こさなければならな
い。その影響は、提供するソリュー
ションのタイプのみならず、その基本
設計にも及ぶことになろう。我々は、
デジタル・コンバージェンスに関する
広範な分析に基づき、エンド・ユー
ザー・エクスペリエンスに重要な要素
を突き止めた。真の主役である個人を
より一層満足させる上での一助になる
ことを願って、この調査結果について
お伝えする次第である。
IBM Global Business Services
鍵を握るのは誰か?
デジタル・コンバージェンスの世界ではエンド・ユーザーが主役
例えば、患者を診察し、手術の可能性
について患者と会話する際に、医師は
救急施設で事前に撮影されたレントゲ
人々の日常のコミュニケーション、商
ン写真や患者の既往歴にオンラインで
取引、およびエンターテインメントに
アクセスして閲覧することができるよ
関するコンテンツのデジタル化は着実
うになる。手術が望ましい場合、医師
に進んでいる。同時に、世界中のネッ
は、麻酔医や手術設備の手配、果ては
トワークへのインターネット・プロト
医療費償還請求まで、すべてを診察室
コル(IP)標準の採用が進むにつれて、
の中から行うことができるようになる。
ある種の世界的なネットワークガ構築
されつつある。この世界的ネットワー
すでに仮想世界は現実の世界に近づき
クでは、ワイヤレス・ネットワーク、
つつあり、遠く離れた人々がより高い
ブロードバンド・ネットワークはもち
レベルでコラボレーションできるよう
ろん、工場内ネットワークまでもが相
になっている。Second Life と呼ばれる
互接続される。普及したデジタル・コ
アプリケーションを使用すれば、IBM
ンテンツと相互接続された IP ネット
の世界各地の拠点に勤務する同僚たち
ワークとが相まって「デジタル・ファ
が全員揃って同じ会議室に「歩いて」
ブリック」を織り成し、世界のあり方
入り、一緒にプレゼンテーションを見
を変えようとしている。
たり、ボードに図を書き込んだり、さ
何がこの方向転換を促している
のか
コンテンツのデジタ
ル化とネットワーク
の相互接続化が進む
につれて、デジタ
ル・ファブリックが
私たちの住む世界を
覆いつつある。
今や、情報共有はリアルタイムに行う
ことが可能である。単純な例として、
休暇旅行の報告を共有することについ
て考えてみよう。旅行者は、絵はがき
(通常は旅行から戻ってから 1 週間後
に届く)を送る代わりに、携帯電話で
実際に写真を撮影し、説明を添えてブ
ログに送信すれば、自分が体験したこ
とを友達や家族に、体験直後に伝える
ことができる。
らにはフリップ・チャートを壁に「ピ
ン」で留めたりすることまで可能であ
る。もちろん、直接対面するのとまっ
たく同じというわけにはいかないが、
それに非常に近いものがある。
デジタル・コンバージェンスの
分野に見られる成長
このユビキタスなデジタル・ファブ
リックは、相補的な業界を結び付けて
新たな価値を生み出そうとしている。
このデジタル・ファブリックがあれば、 本文書でデジタル・コンバージェンス
という言葉を使用する場合は、業界間
さまざまなソースからコンテンツを組
に芽生えつつあるこうした部分的な重
み合わせたり、多くの利害関係者の間
なり合いを指している(図 2 参照)。
で情報を共有したりすることも容易に
なる。
3
鍵を握るのは誰か?
図2
デジタル・コンバージェンスは、共通のデジタル・ファブリックによって相補的な業界が
結び付いたときに生まれる。
同じ世界的
ネットワーク上での
「あらゆるもの」の
相互接続化
「すべて」の
コンテンツの
デジタル化
共通のファブリック
通信
ケーブル
テレビ
医療
クワドラブル・プレイ
家電
遠隔医療
教育
ゲーム
仮想教室
出典:IBM Institute for Business Value analysis.
オンライン・ゲームはどこまでシリアス
になれるのか
オンライン・ゲームはそれ自体成長著し
い業界であり、世界全体の会費収入は
2005 年の時点で 20 億ドルを超えてお
り、2011 年には 70 億ドルに達する見込
みである 5 。その一方で、エンターテイ
ンメントの枠を超えて他の機能や業界と
の融合が進むにつれて、その影響はさら
に広がりを見せている。
オンライン・ゲームと教育との融合から
仮想教室が生まれ、さらにビジネスとの
融合から仮想会議室が生まれ出ようとし
ている。オンライン・ゲームと小売およ
び不動産との接点からは、店舗や街を備
えた仮想世界が誕生し、仮想商品や仮想
不動産の売買が現実の貨幣で行われるよ
うになってきた。
これらのデジタル・コンバージェンスの
分野は、従来とは違った種類のユーザー
も引き付けている。従来のオンライン・
ゲーム愛好者は 10 代の男性が中心で
あったが、Second Life(仮想世界アプリ
ケーションの 1 つ)のユーザーの半数は
女性で、ユーザーの平均年齢は 36 歳で
ある6。
4
IBM Global Business Services
通信業界は、デジタル・コンバージェ
ンスにおいてユニークな 2 つの役割を
果たしている。第一の役割として、
ケーブル業界との融合から、固定電話、
携帯電話、ケーブルテレビ、およびブ
ロードバンドをひとつにまとめたクワ
ドラプル・プレイ・サービスの新市場
を生み出している。その一方で、ネッ
トワークのプロバイダーとして、ほぼ
すべての業界のデジタル・コンバー
ジェンスを可能にするという第二の役
割を担っている。かつて閉鎖的であっ
た通信業界の専有音声通信インフラは、
今や「あらゆるところが IP」のネット
ワークへと変わった。ネットワーク上
でサービスを提供するのに、もはや通
信に関する専門的なノウハウは不要で
あり、たいていの場合、ほぼすべての
企業が保有する IT スキルで構築する
ことが可能になった。
デジタル・コンバージェンスは本質的
に多角化であり、新たな市場に新たな
製品をもたらすことによって成長を生
み出す。実際に、デジタル・コンバー
ジェンスは、筆者らがメタバリューと
呼ぶものを生み出しえたときに最大の
成長機会を生み出すと考えられる。複
数のソリューションの要素を単純に足
しあげるのではなく、各要素の足し算
高齢者が自立して生活できる期間が延
びるであろう。ソリューションはすで
に試験運用段階に入っており、今後 5
年間で広範な導入が進むものと思われ
る。
からは想像もつかないものができたと
きに初めて、メタバリューが生み出さ
れる。
デジタル・コンバー
ジェンスにより、
まったく新しい形の
顧客価値が生み出さ
れつつある。
遠隔医療はメタバリューの典型的な例
である。遠隔医療は、医療業界と家電
業界が 1 つになって遠隔から医療サー
ビスが受けられるようになるという新
しい価値をエンド・ユーザーにもたら
すものだ。このシナリオでは、心拍数
や血糖値などの命にかかわる情報を電
子装置でモニターし、他の場所にある
医療施設に報告する。
遠隔医療というコンバージェンスによ
り、ヘルスケア機器メーカーと最終消
費者との関係が変化しうる。例えば、
ヘルスケア機器メーカーのバリュー・
ネットは変化しつつある(図 3 参照)。
現在は(患者用の)機器、サービス、
および用品を医療機関に販売するのが
一般的であるが、いずれ消費者に直接
遠隔医療が社会に与える潜在的影響は
販売できるようになる日が来るであろ
非常に大きい。こうしたソリューショ
う。すると、消費者の世界における
ンは、現在世界中に大勢いる慢性疾患
メーカーのブランド・イメージをどう
患者に恩恵をもたらすことはもちろん、 高めるかという戦略的な検討が必要に
健康管理の観点からすれば何十億とい
なるだろう。
う人々の健康維持にも役立つ。世界的
に高齢化が進む中、遠隔医療によって
図3
医療機器メーカーの進化するバリュー・ネットは患者/消費者に近づきつつある。
将来のバリュー・ネット
OEM から消費者へ
規制
サービス
コンポーネント・
サプライヤー
OEM
医療用品
保険者
次世代のバリュー・ネット
OEM から医療機関経由で患者へ
規制
サービス
コンポーネント・
サプライヤー
OEM
医療用品
現在のバリュー・ネット
OEM から医療機関、
医療機関から患者へ
保険者
規制
サービス
コンポーネント・
サプライヤー
OEM
医療機関
患者
医療用品
保険者
出典:IBM Institute for Business Value analysis.
5
鍵を握るのは誰か?
医療機関
患者
消費者
エンド・ユーザー・エクスペリ
エンスのベンチマーク
では、個人が最終判定者であるとすれ
ば、彼らはデジタル・コンバージェン
ス・ソリューションに何を求めている
のであろうか。
これは、多くのデジタル・コンバー
ジェンス製品/サービスの成否、およ
びそれらの投資に対する利益を左右す
ると考えられる決定的な問題である。
我々自身、ソリューション・プロバイ
ダーとしてこの問題の研究にかなりの
時間と労力を費やしてきた。ここで
我々の研究およびその成果を示すこと
により、人々がデジタル・コンバー
ジェンスのユーザー・エクスペリエン
スに求めているものについて、参考と
なる洞察を提供したい。
の人が知っているのに対して、関心を
示しているのは全体の 38%にとどまっ
ている7。
我々の分析では、魅力のあるデジタ
ル・コンバージェンス・エクスペリエ
ンスは、さまざまな要因が相まって生
み出されることが示唆されている。い
ずれの要因もそれぞれ重要である。し
かし、すべての要因が組み合わさって
初めて、ユーザー・エクスペリエンス
の真の飛躍的向上がもたらされるので
ある(図 5 参照)。
注意しなければならないのは、それら
の要因はいずれもオープン・スタン
ダードの利用が前提となるということ
である。標準は、とりわけエンド・
ユーザーのためになる。なぜなら、関
連するサービス・プロバイダー間の迅
速なイノベーションを促進し、ユー
「ユーザー・エクスペリエンス」が動
ザーが特定プロバイダーの独自ソ
く標的であることについては、ほとん
リューションに縛られないようにする
どのプロバイダーに異論はないであろ
のに役立つからである。デジタル・コ
う。では、それがこの数年間にどのよ
ンバージェンスの世界では、異なる構
うに変化したのかを考えていただきた
成要素を容易に結合することができて
い(図 4 参照)。1 つ明らかなのは、特
こそ、ユーザーにさらなる価値が提供
定の技術的ソリューションが実現可能
できる。この標準を基礎とするユー
で、大きな話題になったからと言って、
ザー・エクスペリエンスの 7 つの要因
必ずしもユーザーの目に魅力的に映る
は、以下のとおりである。
とは限らないということである。ドイ
ツにおけるテレビ付き携帯電話に対す
自然なヒューマン・インターフェース
る反応を例にとってみると、20 歳以上
ユーザーが仮想世界により一層満足で
の年齢層では、78%以上の人がテレビ
きるようにするには、その外観、音響、
付き携帯電話について知っているもの
感触、および反応を現実の世界と同様
の、関心がある人の割合は 11%足らず
にしなければならない。つまり、高品
である。20 歳未満の年齢層でも、86%
位の 3 次元グラフィックス、精巧な
図4
機器やユーザー・インターフェースははるかに豊かで、より現実感のある体験に向かっ
て着実に移行している。
ダウンロード・
コンテンツ
(オーディオ、
ビデオ)
ユーザー作成
コンテンツ
(ブログ、Wiki、
RSS)
統合コンテンツ コラボレーション
環境統合
(IPTV、
による創造
(状況適応性、現実空間と
合併広告)
(多数による創造、
仮想空間の結合)
合成、総合創造)
時間/テクノロジー
出典:IBM Institute for Business Value analysis.
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没入型
(相互運用性、
対話、成熟、
堅固)
図5
ユーザー・エクスペリエンスの 7 つの要
因はいずれもオープン・スタンダードを
基礎とする。
リアル
タイム性
自然な
ヒューマン・
インター
フェース
対話性
動的作成
コンテンツ
ユーザー・
エクスペリ
エンス
コンテンツ
主導の
サービス
標準
相互運用性
コンテンツ
保護
出典:IBM Institute for Business Value analysis.
オーディオ、および動きを検知し、表
情や身振りを認識するセンサーを広範
に使用する必要がある。体験は、自然
界の力学を再現したものでなければな
らない。仮想の身体なら人間の身体と
同様に動かなければならないし、仮想
の風なら現実の風と同じ効果がなけれ
ばならない。
消費者重視のイノ
ベーションが顕著な
世界では、エンド・
ユーザー・エクスペ
リエンスの理解が不
可欠である。
リアルタイム性
ユーザーは、デジタル世界と対話する
際、リアルタイムの反応を期待する。
しかし、その反応は多数の舞台裏のイ
ベントを伴うことが多い。例えば、ス
ペイン人が旅行先の中国で携帯電話を
かけた場合、その課金情報が通話に関
係する者全員に対して、リアルタイム
に、しかも電話をかけた本人には透明
性高く伝わる必要がある。また、ロー
ミング機のアカウント確認は、ユー
ザーの手を煩わせることなく瞬時に行
われなければならない。
7
鍵を握るのは誰か?
動的作成コンテンツ
デジタル・コンバージェンス・ソ
リューションは、あらかじめ決められ
た情報を流すのではなく、さまざまな
タイプのコンテンツをリアルタイムに
組み合わせた結果をユーザーに届ける
必要があろう。例えば、ケーブル会社
の場合、特定の視聴者にテレビ番組を
配信する前にパーソナライズされた広
告を挿入することが考えられる。サッ
カーのワールド・カップ大会では、競
技場で仮想広告を楽しめたが、まもな
くこの仮想広告は特定の個人に合わせ
たものに進化するだろう。ヘルスケア
では、医療機器からのリアルタイム画
像と各種データベースからの静的情報
や保存画像を組み合わせた動的作成コ
ンテンツが使われるようになるだろう。
相互運用性
機器依存のコンテンツ変換は、エン
ド・ユーザーにとって透明性の高いも
のでなければならない。つまり、同じ
コンテンツであれば、機器が異なって
も基本的に同じように経験できなけれ
ば い け な い ( サ イ ズ 調 整 は 除 く )。
ユーザーがゲーム機を利用できない場
合でも、リモコンを使ってテレビで
ゲームを楽しめるようにするべきであ
る。
目に見えないコンテンツ保護
これまで、この分野の焦点はコンテン
ツ・サプライヤーの権利保護に当てら
れてきたが、幅広い支持を得るために
は、権利保護の焦点をエンド・ユー
ザーに移す必要がある。ソリューショ
ンは、スタジオで作成されたコンテン
ツだけでなく、エンド・ユーザーが作
成したコンテンツも保護できなければ
ならないが、その一方で保護よりも使
いやすさを優先させなければならない。
基本的に、保護はすべてを対象としな
がら、目に見えないものにする必要が
ある。
コンテンツ主導のサービス
デジタル・コンバージェンス・ソ
リューションでは、コンテンツ自体の
内容がサービスの提供方法に影響を与
えるべきである。例えば、デジタル・
コンテンツを探している場合、検索対
象を写真や音声ファイルについて記述
したテキストに限定するはずはなく、
コンテンツ自体の内容を「のぞき込
む」ことにより、実際の画像や録音さ
れた音声に含まれる言葉を発見できな
ければならない。この体験要素を満足
させることは、IT にとって重大な意味
合いがある。それは、トランザクショ
ン単位のネットワーク通信ではなく、
セッション単位のネットワーク通信が
必要ということである。インターネッ
ト電話はトランザクションに依存する。
現在のインターネットの性質上、通話
者間に固定接続が存在しないため、ひ
とつの通信セッションの各断片を別々
にネットワークに取り込まなければな
らず、個々のデータ・パケットは常に
変化する経路を行き来する。この問題
を解決するには、セッション開始プロ
トコル(SIP)と呼ばれる特別のプロ
トコルが必要であるが、これは仮想環
境においては一層大きな制約となる。
個々を独立して伝送しながら描く静的
な像だけでは、体験を完全に伝えるに
はまったく不十分である。例えば、
Second Life で部屋に入る際、同じ部屋
の中にいる他の参加者の動きを表示で
きるように、それぞれの状態がわから
なければならない。この種の体験には、
トランザクション・ベースではなく
セッション・ベースのネットワーク通
信が必要である。
いる。個々の対話も有益であるが、お
そらく最も貴重なのは集団自体である。
ジェームズ・スロウィッキー氏は、自
著「The Wisdom of Crowds」(邦題:
「みんなの意見」は案外正しい)の中
で、それぞれが独自に行われる意思決
定結果を多数寄せ集めると驚くべき精
度の結果が得られることを指摘してい
る8。この集団知性は、医師、おもちゃ、
書籍などの推薦やオンライン市場の自
己管理を行う評判システムや信頼シス
テムの提供といった、デジタル世界に
おけるさまざまな動きにつながってい
る。集団の英知は、情報の発見、選別、
および整理にも役立つ。例えば最近、
foxonomyという、インターネット・コ
ンテンツの新たなラベル付け手法が出
てきた。これは、作成者だけでなく情
報の実際の利用者が協力し合ってコン
テンツを分類し、「タグ」を付けるこ
とにより、膨大な量の情報の検索およ
びナビゲートをはるかに容易にするこ
とができる方法である。
時流に乗るか、逆らうか
デジタル・コンテンツおよび IP ネット
ワークがあまねく普及したことから、
企業の世界と個人の世界を統合する世
界的規模のデジタル・ファブリックが
出現した。この統合力を考えれば、数
十年にわたって続いてきた業界間の線
引きがなくなりつつあるのも当然のこ
とである。デジタル・コンバージェン
スのこうした特徴は、新たな製品や
サービス、あるいはまったく新しい市
場の途方もない可能性をもたらす。
これらの機会を捉えるためには、それ
ぞれの企業がこれまでとは異なるビジ
対話性
ネス・デザインを採用したり、まった
く新しいバリュー・ネットを作り出す
エンド・ユーザー間の交流は、デジタ
など、戦略的に大きな変換がおそらく
ル・コンバージェンス・ソリューショ
必要であろう。簡単に言えば、デジタ
ンの重要な要素である。すでに、オン
ル・コンバージェンスは単なる技術設
ライン・ソーシャル・ネットワークは
コラボレーション、セールス案件生成、 計上の課題ではなく、ビジネス戦略上
の課題ということである。
および日常の社会的交流に利用されて
8
IBM Global Business Services
以下に、貴社が、このデジタル・コン
バージェンスの機会を捉える準備をど
れだけできているかを評価するのに役
立ついくつかの問いを示す。
• 一企業として、自社および自社の現
在のバリュー・ネットが利用できる
コンテンツおよび相互接続性をすべ
て把握しているか。
デジタル・コンバー
ジェンスは、機会と
捉えるか、脅威と
捉えるかにかかわ
らず、ほぼすべて
の業界の企業経営
者にとって注目に
値する戦略上の課
題である。
• 自社の現在の戦略的計画アプローチ
によってデジタル・コンバージェン
スの機会が明らかになり、他の(新
たな)バリュー・ネットにおける自
社の役割が明確になる可能性はどの
程度か。
• 自らの業界について、デジタル・コ
ンバージェンスの影響を受けうる部
分を予見できるほど十分に理解して
いるか。
• 自社の組織構造が現在の業界の考え
方に凝り固まっていて、コンバー
ジェンスの機会を見逃してしまう可
能性はないか。あるいは、縦割り型
(サイロ型)構造によってコンバー
ジェンス・ソリューションの開発能
力が阻害されていないか。
• 現在および計画中のソリューション
は実際にメタバリューを生み出すか。
9
鍵を握るのは誰か?
• たとえターゲット顧客が企業である
としても、消費者の世界を観察し、
そこから学んでいるか。Second Life
のような「仮想世界」で会議を行っ
たことがあるか。
• イノベーションを促進するために、
どのようにして個々のエンド・ユー
ザーとのつながりを確保しているか。
個人は長年、企業主導のイノベーショ
ンの消極的な受け手であったが、今や
主導権を握っている。エンド・ユー
ザーがイノベーションの消費者市場に
おける成否のみならず、企業市場にお
ける成否をも左右することを可能にし
たのは、今日のデジタル・ファブリッ
クである。ソリューション・プロバイ
ダーは、エンド・ユーザー・エクスペ
リエンスの重要な要因に対処すること
で、実際に鍵を握るのは誰なのかを認
識し、デジタル・コンバージェンスに
よってもたらされる途方もない成長機
会を捉えるための態勢を整えつつある。
著者について
Hagen Wenzek 博士は、11 年以上にわ
たり、ビジネス戦略に対するテクノロ
ジーの影響を中心にビジネス・コンサ
ルティング分野に携わっている。IBM
グローバル・ビジネス・サービスのア
ソシエイト・パートナーとして、さま
ざまな業界に関するコンサルティング、
ビジネス開発、およびビジネス戦略研
究に取り組んでいるが、最大の関心事
は自身の博士号取得のための研究分野
でもあったエレクトロニクス業界であ
る。エレクトロニクス業界の戦略およ
び戦術に関する数多くの論文を発表す
る傍ら、スイス連邦大学チューリッヒ
校、マサチューセッツ工科大学スロー
ン校、その他の大学での講義活動を
行 っ て お り 、 最 近 で は 書 籍
「Irresistible! Markets, Models, and MetaValue in Consumer Electronics」(Prentice
Hall)を共同執筆した。現在は、IBM
本社の Corporate Strategy 組織に所属し
ている。
10
IBM Global Business Services
協力者
Andreas Neus leads the European practice
for the Media and Entertainment Industry
within the IBM Institute for Business Value.
Christian Seider leads the European
practice for the Electronics Industry within
the IBM Institute for Business Value.
George Bailey is the General Manager of
the IBM Global Electronics Industry
organization.
Sean Lafferty is the Growth and Innovation
leader of the IBM Global Electronics
Industry organization.
Neil Katz is a Distinguished Engineer
respon-sible for emerging markets within
IBM Sales and Distribution.
Paul Ledak is a Vice President leading the
Consumer Electronics Practice for IBM
Engineering and Technology Solutions.
Scott Winters is a Distinguished Engineer
and Director of the Worldwide Solution
Labs within the IBM Software Group.
参考文献
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Crowds. New York: DoubleDay. June
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本書、「鍵を握るのは誰か? - デジタル・コンバー
ジェンスの世界ではエンド・ユーザーが主役」は、英
語版「Who’s in charge here? – In the world of digital
convergence, it’s the end user」の日本語訳として提供
されるものです。
IBM グ ロ ー バ ル ・ ビ ジ ネ ス ・
サービスについて
IBM グローバル・ビジネス・サービス
は、世界 160 カ国以上において、業界
知識と洞察、そして高度な研究成果と
テクノロジーの専門知識を組み合わせ
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で成功するために貢献することを目標
としています。
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