関西テレビ放送 番組制作ガイドライン(全文)

Contents /目 次
はじめに
過ちは二度と繰り返しません ───────────────────── 1
自浄自律の精神と責務 ─────────────────────── 2
資料1 制作工程管理のチェックポイント
資料2 関西テレビ放送 制作責任・担当表(例)
資料3 関西テレビのコンプライアンス・考査体制
第1章 番組を企画するガイドライン
はじめに企画があった ─────────────────────── 11
1.「企画意図」∼誰に何を伝えたいのか∼ ────────────── 13
2.企画者(制作者)
にとっての視聴率 ──────────────── 15
3.視聴者が求めるもの、
企画者(制作者)が伝えたいもの ──────── 17
4.常に「いま」に敏感であるために ────────────────── 19
5.「企画」が「番組」として一歩を踏み出す前に・
・
・
・
・────────── 21
(1)実現の可能性を精査する
(2)主なチェックポイント
(3)番組企画書および制作報告書への「情報の正確性確保の方法」の記載
(4)番組監修者の充実と強化
(5)企画提出から着手申請へ……必要な社内手続きの確認
(6)制作責任担当表……制作フローの確認と責任担当表の作成・共有
第2章 制作・演出のガイドライン
迷いがあればスタートラインに戻る ─────────────────── 24
1.事前取材・リサーチ ─────────────────────── 25
(1)
インターネットの便利さと危険性
(2)雑誌などのネタには怪しい噂・伝聞も含まれる
(3)
リサーチャーまかせにしない
(4)科学番組ということに限定されるわけではない!
2.企画構成会議 ───────────────────────── 27
(1)
コーナー企画、
ディレクターの第一歩
(2)事件は会議室でも起こる
3.キャスティング ────────────────────────── 29
4.タレント打ち合わせ ──────────────────────── 30
5.オーディション ────────────────────────── 31
6.ロケ取材 ──────────────────────────── 32
(1)取材対象者とのトラブル
(2)
ロケ中の事故
(3)
ロケでの苦情
(4)
ロケ内容の問題
(5)電波法とロケ
(6)再現VTRでの問題
(7)神社仏閣でのロケ 7.スタジオ収録 ────────────────────────── 37
(1)
トーク内容が名誉毀損に
(2)資料映像
(3)お笑いネタ
(4)観客
───────────────── 39
8.生番組での一言から ──────
9.プレゼント・問い合わせ ────────────────────── 40
10.年少者の出演 ────────────────────────── 40
11.演出 ────────────────────────────── 41
(1)
まず自分の演出プランを
(2)
「演出家」と「ディレクター」は違う?
(3)
スタッフの名前を覚えよう・
・
・
・番組は団体作業
(4)
アシスタント・ディレクターの目指すもの
12.
「過剰」演出と「問題」演出 ──────────────────── 44
(1)事実と真実
(2)やらせと虚偽・捏造
資料 衆議院逓信委員会議事録 1993年2月22日
(3)中継番組における"時間"の演出? それとも・
・
・
・
第3章 報道・取材のガイドライン
報道の自由と知る権利/報道の意義 ───────────────── 49
───────────────────────── 51
1.報道取材 ───
(1)取材の基本
(2)人権・名誉毀損
(3)取材のマナー
(4)災害報道
(5)政治・選挙報道
──────────────────── 56
2.被害者取材 ───────
(1)被害者取材の意味
(2)基本姿勢
(3)留意点
3.加害者・容疑者取材 ─────────────────────── 58
(1)基本姿勢∼推定無罪
(2)整理された報道
(3)容疑者の供述・弁明
(4)誤報、
そのとき
4.実名か匿名か ───────────────────────── 59
(1)少年事件
(2)精神障害者
(3)性犯罪被害者
(4)詐欺等の被害者
(5)
自殺
(6)公人
(7)任意捜査・書類送検
(8)無罪判決
(9)感染症
(10)
「匿名希望」の取り扱い
5.問題となる取材 ───────────────────────── 62
(1)集団的過熱取材(メディアスクラム)
(2)身分を隠しての取材
Contents /目 次
(3)電話・インターホン取材
(4)隠し撮り・隠しマイク
(5)謝礼の授受
(6)建物内・公道上での取材
(7)子供への取材
6.個人情報 ─────────────────────────── 66
(1)情報の入手
(2)情報の保護
(3)流用の禁止
(4)情報の処分
7.報道に関わる著作権問題 ──────────────────── 68
(1)
自ら取材したものは「原則」自由に使える
(2)制作会社に依頼した物
(3)他人の取材した物や著作物は勝手に使えない
(4)視聴者提供映像
(5)
ニュース素材の二次利用
(6)
スポーツ素材について
第4章 表現のガイドライン
虚実皮膜の真実∼「表現のプロフェッショナル」として ────────── 71
1.科学的知識の表現 ─────────────────────── 72
(1)科学的に完全に立証されていない薬事効果・医療効果
(2)迷信、
予言、
霊感、
占い(血液型を含む)
など
(放送と青少年に関する委員会)からの要望 2004年12月8日 資料 BPO
──────────── 77
2.特殊効果と処理 ─────────────
(1)モザイク・ぼかし
(2)サブリミナル
(3)パカパカ
(4)字幕スーパー
(5)
ボイスオーバー
(6)音声の加工など
────────────── 82
3.人権をまもり差別を助長しない表現 ───
(1)身体・病気への差別
(2)出自・境遇などへの差別
(3)性差別
(4)人種差別・民族差別
4.さまざまな権利概念 ─────────────────────── 86
(1)名誉権とプライバシー
(2)
肖像権
(3)期待権
5.著作権をめぐって ──────────────────────── 89
(1)基本となる考え方
(2)権利クリアについて
(3)許諾の必要がない場合
(4)使用の際の注意点∼自社素材の場合
(5)使用の際の注意点∼他社著作物の場合
(6)番組著作権の帰属について
6.表現上留意すべきその他の事例 ───────────────── 95
7.番組と広告の境界線 ────────────────────── 96
(1)広告と番組の識別
(2)番組内の企業情報や商品情報
第5章 パートナーシップのガイドライン
制作に携わるすべての者がパートナー ───────────────── 98
1.すべてのパートナーとともに ──────────────────── 99
2.制作会社の皆さんとともに ──────────────────── 100
3.「発掘!あるある大事典」におけるパートナーシップの問題事例 ──── 101
(1)番組立ち上げ時の問題点
(2)完全パッケージ方式の番組制作におけるリスク管理
(3)再委託契約による制作の問題点
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(4)制作スケジュールの問題点
(5)番組制作費の問題点
資料 「発掘!あるある大事典」調査委員会報告書「提言」より
資料 ATP緊急声明 2007年2月5日
4.「発掘!あるある大事典」以外の問題事例 ───────────── 108
第6章 説明責任のガイドライン
表現の自由・放送の自由と説明責任/視聴者と世論 ────────── 111
1.「クレーム」は価値ある「資源」────────────────── 112
(1)初期対応の大切さ
(2)生ワイド・放送中に抗議が来た!
(3)対応策のアップデート
(4)丁寧なレスポンス対応資料を
2.VTRの閲覧請求 ─────────────────────── 115
────────────── 117
3.危機管理広報 ───────────
(1)私たちは無謬ではない
(2)初期報道:
「予断と憶測」と嘆くなかれ!
(3)逃げない、
隠さない、
そしてスピーディーに
(4)
「自主自律自浄」の実践
4.お詫びと訂正放送 ─────────────────────── 119
(1)訂正放送
(2)誤報の後・名誉回復
5.関西テレビ放送番組審議会 ─────────────────── 121
資料 関西テレビ放送番組審議会の見解 2007年2月8日
─────── 124
6.放送活性化委員会 ────────────────
─────────── 126
7.BPO
(放送倫理・番組向上機構)──────
(1)新たに設立されたBPO放送倫理検証委員会
資料 BPO理事長声明 2007年1月29日
資料 BPO放送番組委員会(有識者委員)声明 2007年2月7日
資料 BPO放送倫理検証委員会概要 2007年5月
(2)
BPO放送と青少年に関する委員会
(3)
BPO/BRC
(放送と人権等権利に関する委員会)
資料 BRC決定第28号 2006年3月28日
第7章 広告のガイドライン
なぜ広告に規制があるのか?──────────────────── 136
────────────── 137
1.広告をめぐるコンプライアンス ─────
(1)法令による規制
(2)業界の自主規制
2.CM考査とは ───────────────────────── 139
(1)業態考査
(2)
CM表現考査 第8章 大規模災害時等のガイドライン
減災のライフライン∼テレビ ───────────────────── 151
1.大規模災害時の行動指針 ─────────────────── 152
(1)第一報の放送
(2)緊急時の社内体制
(3)誰に向かって何を放送するのか
(4)原発事故、
感染症の発生、
化学テロの可能性等被害の実態が不明である場合
(5)
フジテレビが被災した場合
(6)国民保護法、
災害対策基本法に基づく報道について 2.1995年1月17日 阪神淡路大震災の教訓から ─────────── 156
第9章 コンプライアンスと法令遵守
コンプライアンスと「法令遵守」は違う
社会の要請に応えることが「コンプライアンス」──────────── 161
Contents /目 次
コンプライアンスと「法令遵守」は違う
「法令」は社会要請を映す鏡 ─────────────────── 162
1.「関テレ六法」───────────────────────── 163
──────────────── 165
2.関西テレビ 倫理・行動憲章 ───
3.関西テレビ放送 放送基準 ─────────────────── 169
おわりに
「負の記憶」の継承 ──────────────────────── 181
索 引 ─────────────────────────────────182
資料編
──────────── 187
放送人のための「電波法」
「放送法」─────
はじめに
過ちは二度と繰り返しません
2007年1月7日放送の「発掘!あるある大事典Ⅱ」の捏造問題に端を発した一連の
問題で、
関西テレビ
(以下、
「私たち」
という)
は、
総務省から「警告」
という最も厳しい行
政指導を受け、
また、
日本民間放送連盟からも
「除名」
という重い処分を受けました。
今回の問題は、私たちが番組を捏造したことに対する責任にとどまりません。私た
ちは、
テレビ業界全体に対する信頼を大きく傷つけ、
ひいては表現の自由への制限
を招くことになりかねない状況を生んだ事実を厳粛に受け止めなければなりません。
私たちは自らの信頼回復に努めるだけでなく、業界全体の信頼回復に対して大きな
責任を負わなければなりません。
私たちは、調査委員会報告書が、
「番組制作力を回復していく過程で、制作会社
や視聴者・市民とのあらたな信頼関係を築いていくこと、関西テレビが再生していく
道筋はここにしかない」と結ばれている意味を重く受け止め、
その実現に真摯に取り
組んでまいります。
「放送で失った信頼は、放送で取り戻すしかない」ということを肝に銘じ、私たちに
は、番組制作を通じて、視聴者の皆さんに見える形で再生していく姿を示す責任が
あります。
私たちは、
「過ちは二度と繰り返さない」との強い決意と誓いの下に、私たちが果
たすべき責任と行動原理を明示した「関西テレビ倫理・行動憲章」を定めました。そ
して、
その精神に則り、
この「番組制作ガイドライン」を作成するとともに、
ホームペー
ジに公開することにしました。私たちが、
どのような姿勢で番組を制作しているかを開
示することで、視聴者の皆さんをはじめとする1億人の厳しい目で、私たちの番組を
見ていただこうとの決意です。
私たちが放送で失った信頼を取り戻すことは、容易なことではありません。これか
ら永い年月を要するという覚悟を、厳しく自らに課さなければなりません。
私たちは、犯した過ちを決して忘れないことと、二度と過ちを繰り返さないことを固
く誓い、私たちが負った責任の重さをしっかりと認識して、
自らが定めたこの「番組制
作ガイドライン」を遵守します。
1
は
じ
め
に
自浄自律の精神と責務
一番大切なことは、
どのように番組を制作するかということ以上に、放送人に求め
られる高い倫理観に基づいた、誰に対して何を伝えたいのかとの制作者の明確な
情熱です。何を求め、何を自己実現しようと関西テレビに入社したのか、
マスメディア
を目指したときの情熱や正義感こそが、番組制作の根幹です 。このガイドラインの
第1章を「番組を企画するガイドライン」とした所以です。
また、私たちの番組が、常に、視聴者の皆さんの厳しい目で見られているとの緊張
感と認識が重要です。放送を通じて、視聴者の皆さんとどう繋がりを持つかという努
力が求められます。このガイドラインでは、視聴者の皆さんからの意見をはじめ、私た
ちの番組に対する様々な批判や意見に真摯に向き合い、積極的に、情報を開示す
る姿勢を示すために「説明責任のガイドライン」の章を設けました。
私たちは、視聴者・市民の皆さんに「嘘・偽りのない」
「分かりやすく面白い」番組
を提供するために努力してきました。
「報道の自由」や「表現の自由」が私たちに認
められているのは、
この公共的使命を担うべきマスメディアであるからという自覚をし
っかりと持たなければなりません。また、
「関西テレビは、
自主・自律性を保障され、一
種の特権的地位を与えられた放送事業者として、真実性の保持という重大な責務
を負っている」との調査報告書の指摘を重く受け止め、
自らの番組は自らが正し、
自
らが律していくという自浄自律の精神と責務を真に理解しなければなりません。
放送法をはじめ番組制作に関連する様々な法令や関西テレビの放送基準を遵守
することは、
当然、厳格に求められます。
しかし、
それ以上に重要なことは、番組制作
に携わる者の極めて高度な倫理観であることを再確認しなければなりません。
番組制作に対する情熱と愛情、
そして責任と誇りこそが、真に、番組制作における
過ちを正すものです。そして、
これを共有する同志としての制作会社とのパートナー
シップに基づく番組制作こそが、
この「番組制作ガイドライン」を通じて、私たちが目
指すものです。
2
資 料 1 制作工程管理のチェックポイント
(1)制作体制の確認
□ スタッフは放送基準、放送倫理に関する研修を受けていますか
□ プロデューサーは制作業務フローを確認し、
「制作責任・担当表」
(資料2)を記入
し、所属長に提出しましたか
□ 外部委託番組(部分委託を含む)では下請法を遵守するとともに、事前に契約書
締結の協議をしていますか
□ 専門的知識や根拠、見解を必要とする番組については、外部の専門家を専門分
野別に置き、かつ番組全体の監修者を置いていますか
(2)企画・リサーチ段階
□ 番組収録までの準備期間は十分にありますか
□ 収録後から編集MA納品までの期間は十分にありますか
□ 放送基準・放送倫理に違背する内容は含まれていませんか
□ 企画内容に差別を助長するような内容は含まれていませんか
□ 宗教、政治(選挙)、皇室関係など特に配慮が必要な内容はありませんか
□ リサーチされた内容の事実関係に誤りはありませんか
□ 独自につかんだ情報は、複数ルートで裏取りをしましたか
□ 薬事法等関係法令に違背する内容を含んでいませんか
□ 個人情報の管理を十分に行っていますか メールでの連絡の際、
BCCを使用す
るなどして、無関係の人に他人のアドレスが分からないようにしましたか
□ 完パケ発注番組においても、局のプロデューサーは企画会議で決めた企画の進
捗について、報告を受けていますか
□ 下請法に該当する委託の場合、発注書を交付しましたか
□ 番組で取り上げる科学的な情報の根拠は複数の識者に見解を求めていますか
□ 番組独自で行う実験やシミュレーションは、科学的根拠がありますか
3
は
じ
め
に
(3)収録・ロケ・取材段階
□ 収録台本を考査担当者および所属長に渡しましたか
□ 問題箇所がないか考査担当者、所属長に確認を求めましたか
□ 過剰演出、やらせ、捏造はありませんか
□ 出演者のコメントに不適切な表現・内容はありませんか
□ 主張、見解が分かれている事項は、双方の取材を行いましたか
□ 一般の方の出演・協力に対して承諾を得ていますか
□ 電話を録音する場合、先方の承諾を得ましたか
□ 番組協力者・出演者に対する番組内での扱い方に関する説明義務は果たされて
いますか
□ 取材協力者等に対して不用意に放送日や宣伝の約束をしていませんか
□ 取材協力者等に対して不用意に取材テープやOA同録の提供を約束していませ
んか
□ 取材先や関係者とトラブルはありませんでしたか
□ もしあった場合プロデューサーや所属長に報告しましたか
□ 番組独自で行うシミュレーション・実験は、適切に行われましたか 不適切に断定
的な表現になっていませんか
□ 定説、最新学説、見解が分かれている学説等、その位置づけに応じた取り上げ方、
表現方法に工夫、配慮していますか 不適切に断定的な表現になっていませんか
□ 独自の実験やシミュレーションを伴うロケ収録の際は、専門家の監修を受けていま
すか 局のプロデューサーまたはディレクターが立ち会っていますか
4
(4)素材編集・オフラインチェック・本編集・MA段階
□ 編集方針の確認をしていますか
□ 恣意的な編集により事実に反する内容になっていませんか
□ 発言本来の文脈や趣旨と異なった編集をしていませんか
□ 事実と再現の区別を明確に表現していますか
□ 主張、見解が分かれている事項は、双方を考慮して構成されていますか
□ テロップ・スーパーに問題はありませんか
□ 肖像権、著作権について許諾はとっていますか
□ 必要なクレジットは入っていますか
□ 放送基準、放送倫理に照らして問題はありませんか
□ 人権侵害はありませんか
□ 引用資料(データ・グラフ・写真・映像等)の出典・権利クリアについて把握していますか
□ 権利クリア状況など一覧表を作成・提出しましたか 責任者はこれを確認しましたか
□ いわゆるパカパカやサブリミナルはありませんか
□ 外国人コメントのボイスオーバー処理などが行われているときに、取材テープ内容
や日本語訳文の確認をしましたか
□ モザイク処理などが行われていたときは取材テープ内容の確認をしましたか 科
学的根拠等に関して、不適切に断定的な表現になっていませんか 否定的な部
分があれば、それを考慮した表現となっていますか
□ 引用したデータ・グラフや映像・写真等の資料、情報の根拠・出典を明示した資料
を提出しましたか 責任者はこれを確認しましたか
□ 番組で行った実験データや番組で展開した見解に対する科学的論拠および監修
者の意見等の資料を提示しましたか 責任者はこれをチェックしましたか
□ MA前のテープを必ずチェックし、問題がないか確認しましたか
□ MA前にナレーション原稿をチェックしましたか
□ ナレーションコメントに不適切な表現はありませんか
5
は
じ
め
に
(5)完パケ・納品時
□ 完パケ後の最終チェックを行いましたか
□ 考査担当者の確認を受けましたか
□ 引用したデータ・グラフや情報の根拠・出典、番組で行った実験データや科学的論
拠および監修者の意見等の資料を保管していますか
(6)放送後の対応
□ 丁寧なレスポンス資料を準備しましたか
□ レスポンス資料を視聴者情報部や広報部に届けましたか
□ 視聴者からの番組に対するメールに目を通しましたか
□ 回答が期待されているお便りなどには丁寧に対応しましたか
6
資 料 2 関西テレビ放送 制作責任・担当表(例)
関西テレビ放送 制作責任・担当表(例)
「 番 組 名 」〈B制作会社担当回〉
は
じ
め
に
◎:責任者 ○:関係者 △:条件付関係者
制作業務フロー におけるチェックポイント
役 割
7
氏 名
所 属
テ
ー
マ
会
議
企
画
会
議
リ
サ
ー
チ
構
成
会
議
コ
ー
ナ
ー
①
ロ
ケ
台
本
コ
ー
ナ
ー
①
ロ
ケ
取
材
コ
ー
ナ
ー
①
素
材
編
集
コ
ー
ナ
ー
②
ロ
ケ
取
材
コ
ー
ナ
ー
②
素
材
編
集
◎ △
オ
フ
ラ
イ
ン
チ
ェ
ッ
ク
番
組
台
本
ス
タ
ジ
オ
収
録
本
編
編
集
◎ ◎ ◎
M
A
前
チ
ェ
ッ
ク
M
A
◎
M
A
後
最
終
チ
ェ
ッ
ク
プロデューサー
AAAA
関西テレビ
◎ ◎
プロデューサー
BBBB
A制作会社
◎ ◎ ◎ ◎ ◎
番組監修者
CCCC
Z大学教授
構成作家
DDDD
フリー
総合演出
E E E E A制作会社
ディレクター
F F F F A制作会社
◎ ◎ ◎
○ ○ ○
○
A D
GGGG
A制作会社
○ ○ ○
○ ○ ○
○
プロデューサー
HHHH
B制作会社
◎ ◎
コーナー監修者
I I I I 主任研究員
Y製薬
○
ブレーン
J J J J B制作会社
○ ○
○ △
チーフディレクター
KKKK
○ ○
◎ ◎ ◎ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○
ディレクター
L L L L B制作会社
○
○ ○ ○
A D
MMMM
C調査会社
○
○ ○
リサーチャー
NNNN
C調査会社
○ ○
○
フリー
◎ ◎
コ
ー
ナ
ー
②
ロ
ケ
台
本
納
品
◎ ◎
◎ △ △ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎
○
○ ○
○ △
○ ○ △
○ ○
○ ○
○
○ ○ ○
○ ○
○ ○
○
○ ○ ◎ ◎ ○ ◎ ○
◎ △ △ ◎ ○ ○
○
備 考
△実験ロケ立会い
△実験ロケ・編集立会い
○
○
○
○
○
△実験ロケ・編集立会い
○
○ ○ ○
△実験ロケ立会い
8
資 料 3 関西テレビのコンプライアンス・考査体制
(1)考査体制の強化のため各局に
「コンプライアンス責任者」を配置する
考査体制の強化のため各局に「コンプライアンス責任者」を配置する。
ライン部長を対象とするが、原局の状況によって適切な立場の者(編集長、
プロデ
ューサー等)
を任命する。同様の理由で複数であることもあり得る。
各局の「コンプライアンス責任者」は、局内における様々な案件に関与し、
コンプラ
イアンスの確保に努める。また番組の制作、
イベントの催行、出版などコンテンツの制
作に関わる職場では、
より現場に近い場所で考査責任者としても機能する。
同責任者は、現場担当者からの相談に応じ、的確な助言を行うなどコミュニケーシ
ョンを密にするとともに、組織全体の意思疎通を円滑にする。
(2)コンプライアンス・放送倫理担当と
コンプライアンス責任者の連携
コンテンツの制作に関わる職場においては、既設のコンプライアンス・放送倫理担
当が、
コンプライアンス責任者を統括し、豊富な経験や情報量に立脚したより肌理の
細かい助言を行うとともに、発生した案件に対して適切な対応をする。
またコンプライアンス・放送倫理担当は、
これまでと同様、各種研修や社内外のスタ
ッフの教育に資する活動を企画し実施する。その際、
コンプライアンス責任者との間
での連絡を密にし、
より効果的な施策を検討する。
9
は
じ
め
に
(3)コンプライアンス考査責任者会議
コンプライアンス・放送倫理担当とコンプライアンス責任者が一堂に会する会議を
定期的に開催し、情報を一元化するともに、
コンプライアンスの確保に関わる諸施策
を検討し、効果的に実施する。
* 次ページ以降
本文中「外部調査委員会報告書」
「調査委員会報告」は「発掘!あるある大事典」調査委
員会(熊 勝彦委員長)
より2007年3月23日付でいただいた「調査報告書」を指します。
*本文中 「放送基準」とは、
「関西テレビ放送 放送基準」を指しますが、
「関西テレビ放
送 放送基準」は、
日本民間放送連盟放送基準に完全準拠しています。
*本文中「放送基準解説」
「解説書」は日本民間放送連盟放送基準解説書を指します。
*2007年6月現在、関西テレビ放送は日本民間放送連盟の加盟社ではありませんが(除名
処分中)、
「放送基準解説書」他の資料引用・転載については日本民間放送連盟番組
部に許諾をいただきました。
10
第1章
番組を企画する
ガイドライン
はじめに企画があった
一つの番組が制作・放送へと至る出発点は「企画」にあります。
企画書がプロデューサーや上司、編成担当者などによって吟味され、
ゴーサインが
出された時点で初めて、番組として具体化して行くということはすべての番組が常に
辿る過程です。
それでは「企画」の原点とは何でしょうか?
それは一言で言えば、私たち一人ひとりの「個人」です。
企画書を作成するときに、誰かと共同で考えたり、
アイデアを構成スタッフに整理し
てもらうといったことはあるかもしれませんが、
「企画」そのものの原点は、
あくまで私
たち一人ひとりの「個人」から発せられるものです。
しかし、
「企画」が具現化し、番組となって完成し、電波に乗って視聴者の皆さん
に送り届けられた瞬間に、
「個人」を原点としてスタートした「企画」は、公共的使命
を担った関西テレビというメディアの、
もしくは放送事業者という
「社会的公器」による
表現となります。
「個人」から発したものが最終的には「公器の表現」となる。このことは、例えば、
芸術家が絵画や音楽作品を純粋な自己表現の発露として世の中に発表することと
は、大きく異なる認識とそれに則った過程が求められていることを示しています。
と言っても、
「公器の表現」となる、
ということは、
テレビ番組がただただ堅苦しくな
ることや、萎縮したものになることを求めているのではありません。エンターテインメント
をお届けすることも立派な公共的使命だと考えます。
しかし、
どのような内容であれ、
「企画」が決して会社や組織からではなく、
あくまで「個人」から発するものであると
いう前提の上で、企画者(もしくは制作者)はその責務として、
その「企画」が番組と
なって広範に視聴者の皆さんに届くということはどういうことなのか、
「放送人」として
十分に理解しておく必要があります。
憲法に保障された「表現の自由」や放送法のもとで、真に、制作者の「内部的自
由」を確保していくためにも、
この「番組制作ガイドライン」では、第1章を「番組を企
画するガイドライン」として、番組制作・放送過程の原点から、今一度、見つめなおし
てみたいと思います。
11
第
1
章
「発掘!あるある大事典」調査委員会報告書より
地上波テレビ放送局は、複雑に絡み合った分業と相互の協力なしには成立でき
ない。
(中略)
そこには役割の定義と規律とガイドラインを明確に示すことができるものもあれば、
それらをむしろ意図的に曖昧にし、
自由闊達な活動を促すことによって、
これら複雑
に絡み合う分業・協力構造総体の成果として生まれる「番組」を豊かに実らせる性
質の仕事もある。この後者の仕事分野の広い点が、放送にかぎらず、広く言論表現
番
組
を
企
画
す
る
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ド
ラ
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ン
や文化に関わる事業の特徴と言ってよい。
しかし、
このことは、
その分野に携わる人々が無責任、放埓でよいということを意味
しない。外部から規制・制約されることが少ない代わりに、
みずからの良心と価値意
識に基づいて自己を律し、課題には真摯に取り組み、協力を仰いだ人たちの言説と、
そこで得た知識や事実を尊重し、他者からの助言や忠告や批判には謙虚に耳を傾
けること―言論表現や文化に関わって活動する人間には、
こうした内発的倫理に
基づく姿勢こそが求められている。
12
1 「企画意図」∼誰に何を伝えたいのか∼
「発掘!あるある大事典」調査委員会報告書より
私たちはそれぞれの段階の会議資料や取材テープを検証したが、
そこで強く印
象づけられたのは、多くの関係者から、
その番組、
そのテーマ、
その事実に対して強
い関心を持ち、敢然と取り組むのだ、
という明確な意欲や意気込みを感じ取れなか
った、
ということである。どこか他人事なのだ。だれもがどことなく他人任せであり、
自
分はそのテーマや事実や知識を本気で信じてもいなければ、真正面から取り組ん
でいるわけでもない、
という気配が漂ってくる。いったい何のために集まっているの
か、
ヒアリングを繰り返しても、
じつはよく分からないのだ。
「納豆ダイエット」の制作過程で仔細に検証したように、当初、番組の軸として取
り上げることにしていた成分βコングリシニンについて、
その研究者と連絡も取らず、
話も聞かないうちに、現場を統括する立場の制作幹部らも顔を揃え、番組の基本方
針を決定する企画会議( 分科会 )が2度開かれ、
2度とも成分そのものや研究内
容の検討ではなく、納豆の食べ方やダイエット効果の演出法に議論が流れていっ
ている。
もう一例を挙げれば、
やはり制作幹部をまじえ、
スタジオ収録直後のVTRチェック
が行われたとき、幹部らはDHEAについて語る人物がF3教授からF1教授に変更
されていたことに、
ほとんど気がついていなかった。
制作関係者のあいだに漂うこのいい加減さを、私たちは「当事者意識の欠如」と
呼んでおきたい。
番組制作において最も重要で、
かつ決して欠くことができないものが「企画意図」
です。企画者(もしくは制作者)は、
その番組を通して、
どのような人々に何を伝えた
いのか。これはドキュメンタリーやドラマに限られたことではなく、
たとえ全編ナンセン
スギャグ的なコントを見せていくお笑い番組においても必要なことです。
また、
「企画意図」とは、企画書に文字として記された「企画意図」という狭い意味
にとどまらず、企画者(もしくは制作者)のより深いところにあるもの、
ある種の魂とでも
言うべきものなのかもしれません。
そして、
この魂(=企画意図)
を具現化する作業こそが、番組を制作し放送すると
いう途方もなく苦しい、
しかしやりがいに溢れた仕事となるのです。
企画意図を具現化する過程には様々な関門が待ち構えています。
13
番組を制作し放送するにあたり、私たちが遵守しなければならない法令や放送基
準。社内的には、上司や、編成・営業といった各セクションの同意。また、予算規模や
スタッフメイクの問題、技術的課題。そして、世間の風潮や時代の趨勢、
目標視聴率。
そして何よりも視聴者。
これらの関門は、
自分自身の企画意図を具現化するときに、
あるときは応援者とな
り、
あるときは大きな壁となることがあります。
しかし、
テレビ番組は、個人の発意が公
共的使命を担うメディアの表現として世の中に出て行くものだからこそ、
当然のことと
して、
これをクリアしていかなければならないのです。
苦難続きの、
この道のりを乗り越えて行くための原動力は、
「自分の企画意図を伝
えたい、表現したい、世に問いたい」という情熱です。この情熱があるからこそ、
この
情熱の実現のために番組制作に対して、
より積極的に、
より慎重に取り組むことがで
き、番組の制作過程に問題がないかチェックすることができるのです。チェックマニュ
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アルやチェック体制を整備することは大切なことですが、企画意図に支えられた番組
を具現化していく情熱がないと、本当の意味で番組に魂を込めることはできません。
また、社内の関門、
ある種のハードルとなる上司や編成部門、営業部門、経営陣等
の意思や方針が、当然のことながら、本来の企画意図の具現化を損ねるようなただ
の障害となってしまっては意味がありません。テレビ番組が「個人の発意」を原点に、
情熱を原動力としてかたちとなり、
それが公共的使命を担うメディアの表現として世
の中に出て行くということを十分に理解した上で、
その過程のすべてに責任と愛情と
敬意をもって、
それぞれの部署がそれぞれの役割を果たす必要があることを忘れて
はなりません。
14
2 企画者(制作者)にとっての視聴率
「発掘!あるある大事典」調査委員会報告書より
視聴率を回復するために、前述したとおり面白く、分かりやすく、
スピード感があっ
てかつお役立ち感がある番組として、
「あるあるⅡ」が企画され成立した。そして、
この企画が視聴者の関心を呼び、視聴率が上がったため、次第にこの視聴率を維
持するために内容が断定的効果を謳うものへと過激化していった。このような経緯
は、明らかに視聴率本位の制作態度の現れといわれても仕方あるまい。
「発掘!あるある大事典」調査委員会報告書より
インターネット等でたびたび番組内容の正確性につき批判され、
さらに平成17年
4月、
あるあるを取り上げた「真に受けてはいけない─氾濫する健康・ダイエット商品
の恐いウソ」が出版されるなど、
「あるあるⅡ」の情報の正確性に対する批判本が
出版されていた。このような現象は、
そのような批判の内容の真偽や正確性は措く
として、健康番組に対する社会的関心が高まり、
そして社会の監視が強まっている
ことの証であったと見られる。
したがって、健康番組とりわけ視聴率も高く視聴者の注目を浴びている健康番組
を制作している担当プロデューサーや担当部局においては、批判されている箇所を
検討するだけでなく番組制作全体のあり方を再チェックし、上述したような番組制
作のチェック体制を設けることを新たに検討してもよかったと考えられるが、何ら特
段の検討はなされなかった。
テレビはマスメディアのなかで大きな存在です。
「マス」に向かって発信するわけ
ですから、
自分が作ったものをより多くの方に見ていただきたいと願うことは当然の摂
理であり、
どれだけ多くの人が見てくれたかを示す指標として存在する視聴率をより
高く求めることは、決して非難されるべきものではありません。公共的使命をより有効
に果たすという観点から見ても、視聴率は低くてもかまわないということにはならない
でしょう。また民間放送である以上、視聴率は重要な営業指標であることも否定でき
ません。
しかし、
だからといって数字の「量」だけを見つめていて果たしてよいのでし
ょうか。
少し立ち止まってみましょう。そして、少し振り返ってみましょう。テレビ番組の制作
現場を志した多くの人間は、子供のころテレビ番組を見てワクワクしたり、腹を抱えて
笑ったり、
あるいは涙したことがあるはずです。そして、今度は自分の手でそんな番
15
組を作れたら……。私たちは、
そのときの心を今も忘れず持っているでしょうか?
番組を誰に向けて作っているのか? あるいは、何のために作っているのか?
番組を見ているのは視聴者です。制作者はより多くの視聴者により深く伝えたいと
思っていますが、
テレビ放送は例えば舞台公演とは違い、
お客様の反応が直接的に
は伝わってきません。端的に分かるように思えるのは、視聴率という目安です。とはい
えそこには、文字通り数字だけがあり、視聴者の顔は見えません。笑っているのか、
泣いているのか、怒っているのか。
しかしそれでも、視聴者に向かって番組を制作する限り、常に視聴者の顔を思い
浮かべましょう。まずは、親兄弟など愛する人たちから、
そして、見知らぬ人々の顔を
想像しましょう。その人たちに番組を通して自分の思いが伝わっているのか。番組は
数字だけで表せるものではないのです。
視聴率とは、
テレビがいかに見られているかということを示す指標の一つに過ぎな
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いのですが、量的結果を明快に数値で示すために、
とかく一人歩きしがちです。し
かし、
どのように見られたかという質的結果は直接的には示していません。世の中に
どのように影響を与えたかということも数字だけでは読み取れません。
本来、拠り所とすべき指標は、決して視聴率だけではありません。視聴者の方々か
らの意見・感想は言うに及ばず、上司、同僚、仕事上のパートナー、家族、友人とのコ
ミュニケーションや、世の中の動静を常に感じること、想像力を豊かにして考えること、
そして最も大切な自分自身の良心。
数字にならない指標はたくさん存在するはずです。
16
3 視聴者が求めるもの、企画者(制作者)が伝えたいもの
「発掘!あるある大事典」調査委員会報告書より
生活情報バラエティ番組の「分かりやすく」
「面白く」という制作手法を目指す事
自体は悪いことではない。事実などの背後にある難解な説明や入り組んだ経緯を分
かりやすく、面白く見せるには大変な技量が必要であり、
それをしようと挑むことには
意味がある。
しかし、
「あるある」では、
こまごまと、複雑な事実を集めても、番組では使えない、
そんなことに手間やコストをかけるより、
ものごとすべてを単純化し、簡単に、手軽に
分かることの方がいい、
という発想が、制作現場に浸透し、
その全体を覆い尽くして
いた。
テーマが設定され、
それにふさわしい具体的な事実・真実・知識に焦点を当て、
そ
こから手軽で有用なノウハウを引き出し、
リサーチも実験も取材も、
この流れに沿って
進んでいった。
テーマに沿った、都合のよいコメントや事実だけが集められ、編集が進み、番組と
して仕上げられていった。
「発掘!あるある大事典」調査委員会報告書より
成分の効能について、
あるいは学術論文の意義について、出席者からの強烈な
好奇心を示す発言もなければ、疑義や疑問を呈するような申し立てもない。議論の
多くは「いかに見せるか」
「演出法はどうか」
「視聴者には分かりにくくないか」
「日
程は大丈夫か」等々に費やされており、番組の核心となるはずのファクトそのものに
ついては、企画発案者の通り一遍の説明で終わっている。
関西エリアにおいて世帯視聴率の1%は約8万9千世帯。
20%を獲得すれば178
万世帯もの人々が視聴していることになります。途方もなく多くの人々に同時に情報
を伝達する地上波テレビ。この巨大なメディアに従事し、
日々番組を送り届けようとす
る私たちは、何を伝えていくべきなのでしょうか。例えば、視聴者の皆さんが見たいも
の、視聴者の皆さんが求める情報をひたすら突き詰めてお届けするべきなのか。そ
れとも個人の発意からスタートする企画意図の実現にすべてを費やすべきなのか。
もちろん、視聴率の数字の多寡に関わらず、視聴者の皆さんがまったく見たくない
もの、視聴者の皆さんがまったく必要としない情報は、原則として届けるべきではない
でしょう。しかし、視聴者の皆さんの見たいもの・欲しい情報のみを、
「いかに見せる
17
か」
「いかに分かりやすくするか」という演出テクニックを駆使して、
ただお届けすれ
ばそれでよいのでしょうか。それは短期的には視聴率アップをもたらすかもしれませ
んが、
それだけではテレビ本来の役割を果たしているとは、
とても言い切れません。
のみならず、見たいもの・欲しい情報を効果的に送り届ける手法ばかりに気をとら
れすぎると、過剰な演出や、情報の都合のよい切り売り、
さらには最悪の場合、
やらせ
や捏造さえも生んでしまうおそれがあるとも言えます。
また、個人の発意を原点とする企画者(もしくは制作者)の企画意図、情熱、誰に
何を伝えたいかという意志、
メッセージといったものがないと、
いくら見たいもの・欲し
い情報を効果的に送り届けようと技巧を凝らしても視聴者には十分に伝わらないで
しょう。またそれと同時に、番組の制作過程に問題がないかどうかチェックすることも
できないのではないでしょうか。
番組は多くのスタッフの共同作業によって制作されます。そこに関わる全員がその
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番組の「企画者」であることは当然ながらあり得ません。
しかし、
そのスタッフの一員
として制作に携わる限り、
この番組は何を伝えようとしているのか、
どんなメッセージを
込めようとしているのかを常に意識し、感じていなければなりません。
企画者(もしくは制作者)の企画意図やメッセージが、視聴者の皆さんの見たいも
の・欲しい情報といかにリンクしあうか。あるいは視聴者の皆さんに、
それまで自らが
気付いていないような種類の見たいもの・欲しい情報を、新たに発見させる番組の可
能性や先見性。客観的事実を決して捻じ曲げることなく、豊かな創造性を発揮して
いくモノづくり。こうしたテレビならではの真のクリエイティビティを発揮するために、
プ
ロフェッショナルとして日夜悪戦苦闘し、創意工夫を凝らして番組を具体化していく
のが、
テレビ番組制作者の本務であると考えます。
そしてそれこそが、
「放送人」の醍醐味とさえ言えるのではないでしょうか。
18
4 常に「いま」に敏感であるために
「発掘!あるある大事典」調査委員会報告書より
しかし、
このころの社会情勢として、健康志向の高まりに伴い、例えば平成14年
に中国から輸入されたダイエット商品による健康被害が社会問題化するなどし、
(中略)健康の保持増進の効果等に関する虚偽又は誇大な広告を禁止する健康
増進法の一部改正が平成15年8月29日になされていた。
これを受け、民放連においても、健康関連番組の増加を踏まえ、番組における取扱い
の適正化を図るため、留意すべき事項を定めるとともにテレビショップ等に関する規定を
新設し、視聴者保護に関する自立的取組が強化され、以下のとおり、放送基準57条に
新たな健康情報が加えられることになり、平成16年1月30日、民放連放送基準審議会よ
り各放送局宛に放送基準の改正の通知がなされていたことは、前述したとおりである。
関西テレビは、同時期に上記のような番組を制作するのであれば、
このような情報
番組に対する環境の変化を敏感に受け止め、
その趣旨に十分に配慮した番組作り
を進めるべきであったといえよう。
「発掘!あるある大事典」調査委員会報告書より
意図したテーマから外れたり、
テーマに反するコメントや事実はいらないということ
である。それらは当然のように、切り捨てられる。事実や真実や知識がそれほど単
純なものでないことは、
いくら強調してもしすぎることはないが、
いまはそのことはおい
ておく。要は、
テーマに沿った、都合のよいコメントや事実だけが集められるというこ
とである。そうやって編集が進み、番組として仕上げられていく。
ここにないのは、
コミュニケーションである。都合のいい説明やコメントをしてくれる
相手とすら、本質的なコミュニケーションが成り立っていない。あたかも必要な材料
だけを調達してくるように、番組で使えそうな言葉だけを拾ってくる。テレビは最大の
マスコミと言われながら、
ここには取材する側とされる側とのあいだの真剣なやりとり
がない。葛藤がない。コミュニケーションがない。
これは専門的な知識の、安直な利用である。
問題は、
その核心に位置して、番組制作そのものに携わっている人々の精神と活
動領域に、未熟さや劣化とも呼ぶべき事態が広がっていることである。事実・真実・
知識に迫ろうという当事者意識を欠き、
それらの複雑な背景や入り組んだ由来につ
いては最初から知ろうともせず、手っ取り早く都合のよい資料やコメントを調達する
ことしか考えない……。これは知性の劣化である。
19
「個人」を原点としてスタートした「企画」は、
「番組」となって各家庭のお茶の間
に、
自室の個人用テレビに、
そして今やワンセグ携帯端末にまで送り届けられます。
「番組」が視聴者の「現在」に、市民の日常生活の「いま」に次々と送り込まれている
のです。
だからこそ、
テレビ番組を企画、制作していくときには、常に「今なぜこの番組を作
るのか」という問いが投げかけられます。
「世の中」の「いま」をいかに捉え、
いかな
る方法で、
「個人の発意」を起点としてスタートした「企画」に込められたメッセージ
を発していくのか。企画者(もしくは制作者)の「いま」との真摯な向き合いが求めら
れます。
私たちをとりまく環境の「いま」、すなわち社会問題、世間の風潮、時代の趨勢、
メ
ディアの「現在」に常に目配りをしておかなければならないのは、
言うまでもありません。
しかしこれは、決してとりまく環境の「いま」にただ迎合すればいいということではあり
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ません。
「いま」を敏感に感じ取り、冷静に分析し、
「今なぜこの企画を出すのか、
こ
の番組を作るのか」という問いへの答えを常に持っていなければなりません。まさに
企画者(もしくは制作者)
自身の「いま」の立ち位置を問われていると言っても過言で
はありません。
ではそのために、私たちはどのように心がけるべきなのでしょうか。
当たり前のことかもしれませんが、
それは、私たち自身の日常の心がけやアンテナ
の張り方、
そして自己啓発への取り組みにすべて集約されています。
まずは、
日常のあらゆる「情報」に触れ、
自ら「現場」に身を置き、
自分自身で実感、
体感すること。新聞、書籍は言うまでもなく映画、芝居、
コンサート会場、演芸場。ある
いは市場や祭り、雑踏などに、
とにかく足を運び、
自ら感じ取る。とかく多忙で生活時
間も不規則になりがちな制作現場ですが、
「番組を作る」ことが本務であるからこそ、
やり繰りをしてでも時間を割くべきでしょう。
そして家族、友人、近隣の人々との会話。さらには地域の視聴者の皆さんとの会
話の機会を作り出す努力。あるいは職場の先輩・後輩、制作パートナーとのコミュニ
ケーション・議論など、
より多くの人々と日頃からモノづくりに関して語りあうことも非常
に大切です。また、社内外を問わず、
スタッフを教育・指導していくことも私たちの大き
な責任です。
こうした不断の努力の積み重ねが、
「当事者意識」を生み、
たゆまぬ「想像力」を
育み、
企画者(もしくは制作者)
自身の「いま」を自ずと豊かにしていくのです。そして、
そこから湧き上がる「個人」の「当事者意識」を原点とした「企画」と、
「想像力」を駆
使した「モノづくり」こそが、
「番組」としての本当の輝きをはなっていくと確信します。
20
5 「企画」が「番組」として一歩を踏み出す前に……
(1)実現の可能性を精査する
この章ではここまで、私たち「個人」から湧き上がるプロフェッショナルな「放送人」
としての「企画意図」の重要性と、
その土壌となる私たち自身の日常の心構え、
そし
てその「個人」を原点とした「企画意図」を「番組」として世の中に投じていくための
情熱と切磋琢磨の必要性を論じてきましたが、
さらにこの項では、
「企画」が番組制
作過程へ一歩を踏み出す前に必ず行っておくべき「実現の可能性の精査」につい
て述べます。
(2)主なチェックポイント
企画者(もしくは制作者)
は、
ある種の「思い」あるいは「魂」ともいえる「企画意図」
を、番組制作を取り巻く諸条件の中で「どのように具現化するのか」というプランを持
っておく必要があります。
むろん番組制作は膨大な過程を伴う共同作業ですから、特に企画者と制作者が
同一でない場合などは、すべての条件を精査することは困難かもしれません。また、
演出の領域に直結する事柄が多数含まれるので、
どこまでが企画者の領域で、
どこ
からがプロデューサーやディレクターの領域かといった分かちがたい問題もあります
が、実現性に乏しい企画を強行することは様々な意味で危険ですので、
できる限り
情報を収集し、想像力を駆使してしっかりとしたプランニングを行いましょう。
ここにその主なチェックポイントを列挙します。
1)番組内容そのものの実現性
インタビュー証言や特定のデータ、情報を根拠とするような企画の場合、
それら
を番組内の表現として確保できる可能性を十分に持っているのか、
あるいはそれ
らの正確性を担保できるのか。
あるキャスティング、取材相手、
あるいは取材先等の承諾を「核」とする企画の
場合、
それらが確実に取得できるのか、
あるいは代替案が可能なのか。
番組制作工程に危険は伴わないのか。安全性は担保されるのか、
など。
特定の原作や映像素材、図面、文献等の使用を必須とする企画の場合、
その
使用許諾、
あるいは権利処理等が確実にできるのか、
など。
21
2)編成枠・予算
想定される編成枠はどこか、想定編成枠の時間帯特性や視聴者構成特性と企
画が乖離していないか、想定枠予算に見合う企画か、
あるいは逆に企画に見合う
予算が確保できるのか、
など。
3)制作体制(人員)
社内の制作対応人員は確保できるのか、企画に適合した能力を持つスタッフ等
は確保できるのか、適正な委託先は確保できるのか、必要に応じて番組監修者を
確保できるのか、
など。
4)制作期間(納期)
放送想定日までの制作期間に無理はないか、取り扱う内容・テーマが取材時期
と合致するか、番組宣伝・広報に必要な期間が確保できるか、
など。
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5)制作環境(設備・技術)
必要なスタジオなどの収録場所・中継車、編集・MA設備等が確保できるのか、
技術的に表現可能な内容なのか、
など。
(3)番組企画書および制作報告書への
「情報の正確性確保の方法」の記載
番組で取り扱う情報が正確であるべきことは論を待ちません。
しかし、番組制作が、
その制作体制や演出手法、制作期間、予算等の多様かつ複雑な条件下で行われ
る以上、
そこに落とし穴がないとは言い切れません。
番組のジャンルや企画内容によって濃淡はありこそすれ、例えば科学的根拠を前
提とする企画等の場合は、必要に応じて、番組監修者の配置、実験の方法、実験デ
ータの提出・保管、根拠となる論文等の提出・保管、
インタビュー記録の保管など、科
学的根拠の正確性を確保するための方法を講じる必要があります。
こういった企画の場合は、
これらの「正確性確保の方法」を番組立ち上げどきの
「番組企画書」や制作・放送終了後(もしくは半期ごと)の「番組制作報告書」に記
載するなどして、
チェックが行える体制を確保しましょう。
22
(4)番組監修者の充実と強化
番組の内容自体が科学的知識を取り上げている場合や、
レギュラー番組内に科
学的知識を取り上げるコーナーがある場合などには、内容に応じて、番組監修者とし
て専門家に番組スタッフとして入ってもらう必要があります。
その上で、
番組企画段階・構成段階・編集段階等の各段階において、
必要に応じて
監修者にチェックしてもらわなければなりません。番組独自で実験やシミュレーションを
行う際には、
当該事項の専門家や学者とともに、
番組監修者にも協力を求めましょう。
(5)企画提出から着手申請へ……必要な社内手続きの確認
企画書を提出後、
プロデューサーや上司、編成担当者などが吟味し、
ゴーサイン
が出たらいよいよ番組制作プロセスに突入します。関西テレビのプロデューサーは社
内規程に基づいて、
まずは着手申請書に番組企画書を添付して提出し、制作着手
承認を受けなければなりません。
関西テレビではこのほかに、
実行予算決定のための稟議手続きや制作委託契約締
結、
タイアップ報告、広報・ホームページ等への対応、視聴者情報対応、
JASRAC報
告等の権利処理、
そして制作・放送終了後(もしくは半期ごと)の番組制作報告書の
提出など様々な手続きや対応業務があります。関西テレビの社内規程等に従って遅
滞なく手続き・対応を行う必要があります。
(6)制作・責任担当表……
制作フローの確認と責任担当表の作成・共有
番組制作にはプロデューサーやディレクターのみならず、構成作家やブレーン、
リ
サーチャー、
ロケ・ディレクター、
アシスタント・ディレクター、再委託先など多種多様なス
タッフが関わります。それだけに、
それぞれの担当者の役割と責任は何なのかを明
確にし、
かつ番組制作コンプライアンスの観点から、
これを社内のしかるべき関係者
が把握しておく必要があります。
そこで、番組制作体制が構成されたら、番組制作フローの確認と、番組制作フロー
の各段階において関わるスタッフと、
それぞれの責任について十分に検討した上で決
(P7∼8参照)
定し、
これらをもとに「制作責任・担当表」
を作成しなければなりません。
さらにこれを上司、社内のコンプライアンス・放送倫理担当、
コンプライアンス責任者
等で共有し、必要に応じてその妥当性について検討が行える体制をとりましょう。
23
第2章 制作・演出のガイドライン 迷いがあればスタートラインに戻る
企画書や台本は、建築でいう設計図にあたります。設計図を基に条件内でいかに
上質な建築物を建てることができるか。制作者、特に監督(ディレクター)の腕の見
せどころです。
ただ、番組が建築と違うのは、相手が人間であり、人の心だというところです。それ
だけに、制作が進めば進むほど、思い通りにいかないことが多く、
そのたびに当初に
あった設計図を書き換えていくことになります。
しかし、
また多数ある表現方法の中で
最上のものを選ぶことの醍醐味がここにあります。迷いがあれば、今一度スタートライ
第
2
章
制
作
・
演
出
の
ガ
イ
ド
ラ
イ
ン
ンに立ち戻ってみましょう。
ここでは、番組を制作するなかで、
「制作、演出」という、企画に魂を入れ、生き生き
とした番組にするための重要なプロセスの話をします。
ただ、同じ番組でもドラマ、バラエティ、情報、
ワイドショー、
ドキュメンタリー、報道番
組などその顔は様々でその境界線も曖昧です。視聴者もジャンルによって見方が変
わるときと、
そうでないときがあります。情報バラエティ番組で時事問題を扱えば報道
ニュースと捉えられたり、
また、バラエティ番組でシリアスな社会問題を扱っても、面白
おかしく紹介していると反感を受けるときがあります。そこで、
この章では制作番組の
取材に関する事例を中心に記載しますが、次章の報道取材のガイドラインも参照の
上、活用されることを望みます。
24
1 事前取材・リサーチ
(1)インターネットの便利さと危険性
最近、
リサーチの多くの部分を、
スタッフはインターネットに頼っていることが多いよ
うです。
しかし、
インターネットの情報がすべて正しいとは限りません。
また『マリファナの育て方』や『爆弾の作り方』等非合法なことまで、
インターネット
による情報収集が可能な時代です。インターネットには規制がないといっても過言で
はない、
インターネットで入手できる情報は世間で認知されている事実や常識とは異
なるということを大前提にしてください。
事
例
「発掘!あるある大事典Ⅱ」納豆ダイエット編
当初、調べていた大豆に含まれる成分(βコングリシニン)でダイエット効果を説明し
ようとしていたが、取材先から断られ変更することになった。次に新たな成分(DHEA)
の情報を他番組より入手し、すぐにインターネットで<DHEA・やせる>で検索したと
ころ、アメリカの大学の研究に行き当たった。本番収録までの時間は迫り、研究内容
の詳細を調べたり分析をすることも不十分ななか、制作する側にとって有利な一部の
情報を頼りに外国人の大学研究者にインタビュー取材を申し込んだが、思うような取
材ができなかった。
(2)雑誌などのネタには怪しい噂・伝聞も含まれる
また、活字メディアには規制がありません。表現の自由はテレビ媒体とは異なるレベ
ルのものです。
名誉毀損であるとか、
プライバシーの侵害であるとか、差別の表現であるとか、記
事内容の真偽や正当性が法廷で争われることもままあります。出版社は常に係争中
の案件をたくさん抱えている状態になっています。電波法や放送法の規制を受ける
テレビはそうではないという実情を改めて認識しておいてください。
つまり、週刊誌のネタ
(噂)
を鵜呑みにして一般に認識されている事実だと捉えな
いで、
しっかり吟味してください。
また事実だとしても、周辺情報も深く調べることが大事です。
25
(3)リサーチャーまかせにしない
リサーチャーは基本的に前述したような情報源を頼りにネタ探しをしています。し
たがって、上がってきたネタは、採用に当たって、
ディレクターがもう一度自分で裏づけ
を取る必要があることを忘れないでください。
くれぐれもトラブルがあったときに、
リサ
ーチャーが調べたことだと責任を押し付けるような形になってはいけません。
事 箕面サル事件
例
箕面の滝近くにとても多く生息する「箕面のサル」。新緑や紅葉の季節など、滝を
訪れる観光客に襲いかかったり悪戯したりとやりたい放題でその凶暴さが特に話題
になっていた時期のこと。対策に苦慮していた人々に朗報!と、ある夕刊紙の記事に
なったのが「野生のサルに音楽を聞かせるとおとなしくなる……!
?」という報告。とり
わけ、阪神タイガース絶好調だったその年は、なぜか「六甲おろし」を聞かせるととたん
にコロリと静かになり沈静化に一番効果がある?!という超面白データ。
「これは面白い!」と記事に飛び付き、十分な周辺リサーチを怠ったままロケに出発。
取材を終え無事放送も終了したのだが、
ここで大問題発生。
第
2
章
制
作
・
演
出
の
ガ
イ
ド
ラ
イ
ン
【問題①】 箕面の山に生息する野生サルは天然記念物である。
テレビ取材については文化庁および箕面市教育委員会の許可が必要
である。
【問題②】 本来リサーチ段階で「許可」について認識するはずであるが、会議室・分
科会の誰もそこに気が付かずにスルーしてしまっている。
結局、放送後、箕面市教育委員会の指摘があるまで気が付かなかった。
【問題③】 「カンテレさんこれで2回目だよ!」
極めて短い期間で違う番組で同じミスを繰り返していた。セクションにと
らわれず事例の情報共有が不可欠である。
(4)科学番組ということに限定されるわけではない!
私たちが専門外のことを扱うことは、
テレビのテーマではしばしばあります。そうい
ったテーマを与えられたとき、専門家の知識を借りることになります。テレビは専門家
の難解な説明を視聴者の皆さんに分かりやすく伝えねばなりません。この部分は実
に番組のデリケートな部分です。
「分かりやすく」を錦の御旗に「勝手な解釈」を与
えることは完全なルール違反です。
分かりやすく表現するためにまず、
自分がそのテーマの専門家の説明を完全に理
解できるというハードルを越えてください。
26
2 企画構成会議
(1)コーナー企画、ディレクターの第一歩
1コーナーを任される、
あるいはロケ取材を1本任されるということはディレクターとし
て独り立ちする第一歩であります。自分の発想、企画、表現力、感性をスタッフにも、
視聴者にも示すこの一大事を決して他人に委ねることなく自力で精一杯取り組んで
ください。
まず、
自分で感じたこと、思ったことは何か、人に伝えたいことは何か、
これが最も
大切なことです。これを自分に問い直してみる。その後に構成作家にぶつけたり、先
輩ディレクターに演出手法を相談したりしてみてください。
また、
取材に入る前には、
対象者との条件があれば、
明確な形で表しておきましょう。
事
例
取材の条件
外部ディレクターに発注のロケ取材で、放送後、取材先から「協力スーパー等が入
っていなかった」とのクレームが来た。情報番組やバラエティ番組において、取材され
る側がなんらかのメリットを期待するのも当然である。取材される側が期待するメリット
は何なのか、
きっちりと把握しておかなければならない。
社員ディレクターが取材の場合、取材条件等はプロデューサーまで伝わりやすいが、
外部ディレクターに発注の際はきっちり伝わりにくいということがあるので、場合によっ
ては簡単でもよいから、文面を残し誤解のないようにしておくことが望ましい。
取材する側から、
される側へ、取材の結果につき、番組上どのような取り扱いをする
のか伝えておくべきである。
(2)事件は会議室でも起こる
おかしいと感じたことは必ずこの会議でぶつけ合うのが基本
ぶつけられた方も腐らず、怒らず
不明確な出典や、事実か噂かの判断もここで確認しあうのが基本
スタジオにせよロケにせよ、企画の内容はどんなに面白いと感じてもまず、
その裏づ
けを取ってください。そして、全体会議でいろんなスタッフの前で披露してください。
全員の同意を求めるためではなく、
できるだけ多くの人間に説明することで、
いろ
んな人の感覚や反応を見ることができます。意外なところで内容に疑問を感じたり、
不快感を覚えたり、
あるいは、
もっと違うところに意外な感動があることを発見できる
27
場合もあります。この場は相手の企画を潰す場ではありません。同じ番組を作るスタ
ッフの共通意識と理解、
あるいは理論武装できる体勢を整える場でもあります。ここ
で十分な意見を戦わせることで、私たちの企画がより完成度の高いものになります。
事
例
バラエティ番組でゲストが語った自身の離婚騒動 その①
「バラエティ番組」においてゲストが自身の離婚騒動に答えるという企画でBRC
(放送と人権等権利に関する委員会)より「勧告」を受けるに至ったが、
これにはいろ
んな問題が内包されている。
【企画段階における問題】
当該ゲストのキャスティングが先に決定していたこともあり、出演が近くなって出始
めた「離婚か!
?」騒動は私たちにとっては興味の湧くテーマであった。ウワサであった
「離婚問題」を週刊誌のネタの真偽を問うという形で当該ゲストのトーク展開を考え
たが……。
これが結果として、本番では当時の夫(一般人)に取材せず、結果反論の場を与え
ることなく一方的にゲストサイド(妻)の意見を出すことにしかならなかった。
第
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章
制
作
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演
出
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ド
ラ
イ
ン
(P37第2章−7「スタジオ収録」につづく)
28
3 キャスティング
自分の財産を増やそう
キャスティングという作業は、
なかなか報われません。何度、事務所に連絡を入れ
ても、体よく断られるのがほとんどです。スケジュールも含め、相手側のメリットに合致
しないとなかなか成立しないからです。特に関西の場合は、移動時間も含め条件は
厳しくなります。
だからといって、
キャスティングブレーンばかりに頼っていると、今後の繋がりもなか
なかできません。せっかく自分の財産を作れるチャンスをみすみす逃していることが
多いといえます。
よほどの大物や特別な世界の人であれば、人の力を借りる必要がありますが、
そう
でなければ、
まず、
自分で連絡をいれましょう。あるいは、事務所までいって挨拶をしま
しょう。まず、名前を覚えてもらうことが大事です。
そのときは成立しなくても、後で役立つ日が必ずきます。
「熱意とタイミング」、恋愛ではありませんが、重要なファクターだといえます。
証
言
2年越しの成就∼あるプロデューサーの証言∼
朝の生番組に大物女優Aをキャスティングしようと事務所に連絡を入れました。す
ると「大阪まではちょっとね、
それと、
そういう番組には……」というつれない返事。でもめ
げずに折にふれ連絡を入れ続けていたのです。
2年ぐらい経ったあるとき、相手から連絡がありました。
「こんど大阪行こうと思うん
だけど、他局は断ってあなたの番組に出たいんだ。2年前からずっと声掛けてくれてた
からね」 バンザイ!
29
4 タレント打ち合わせ
できるだけ独自の取材を
期待通りの打ち合わせはない
思い込みだけで行動しない
タレントにどんな話をしてもらうか?どんな意見を求めたいか?
事前の打ち合わせにおいて私たちは、最大限の努力を払ってタレントに切り込ん
でいるはずです。
ただ、事前のリサーチや資料によるものと、実際会ってみて聞いたタレントの考え方
やエピソードが違うこともしばしばです。
一つの狙いだけでいくと行き詰ってしまうことが多々あります。打ち合わせの時間
も制限されていますので、事前に多くのテーマをもって臨みましょう。そして、
どの媒体
にも出ていない話題を引き出す努力をしましょう。
タレントの個人情報にも十分注意を払ってください。借りた写真や思い出の品等、
第
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演
出
の
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ド
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イ
ン
大切にされているのは当然私たちと同様です。これらを紛失したり、未返却のままに
しておくのはもっての外です。また、
その素材の中に他人の個人情報が含まれること
(一緒に写真に写っている人等)
も多々あります。その扱いにも十分に注意を払って
ください。
30
5 オーディション
視聴者参加番組∼個人情報は慎重に
最近は少なくなりましたが、関西のテレビ界といえばかつては視聴者参加番組が
隆盛を極めていました。面白い素人が関西のテレビ界を支えてきたといっても過言で
はありません。
しかし近年、すすんでテレビに映りたい一般人はむしろ減少傾向にある一方、
イン
ターネットの普及で自分が誰なのか名乗らずとも世間に向かってなんらかの意見、見
解等を発することができるツールが増え、
このツールで積極的に発言している人が増
えています。
これが原因とは言い切れませんが、私たちは自分の姿を隠すことがあまり特異なこ
ととは感じなくなったのではないでしょうか。仮名にしてほしいというのはともかく、職
業や、
身分を偽る参加視聴者もなかにはいます。番組出演してもらった後、
その人を
知る第三者から身分を偽って出演していたことが指摘されることもあります。
個人の情報を丁寧に扱い保護することはもちろん大切ですが、
それと同時に、
そ
の個人の情報が正しいものかどうかを確認することも極めて重要です。
20歳未満であるのに、
お酒を飲む場に出演させたり、
18歳に満たない少年を夜の
ロケで使ってはなりません。
オーディションのときに本人と確認できる
(免許証や学生証)程度のものは確認す
る必要があるのではないでしょうか。
事
例
本当の夫婦ではなかった
3組の夫婦が出場する視聴者参加のトーク番組で、収録後、出場夫婦の1組が、夫
婦としての実態がないことが分かり、放送中止に。
31
6 ロケ取材
台本もできていよいよロケ取材が始まります。本番のスタートです。
ただロケはスタジオと違い、天候など様々な不確定要素があります。
取材先が一般の方の場合、意識の食い違いなどもよくでてきます。
いかに臨機応変に対処できるかが肝要です。ロケに入るときによりよい準備をする
ため、
ここではトラブルの実例をあげていきます。
(1)取材対象者とのトラブル
肖像権の意識をスタッフがしっかり持つこと。社名、番組名、企画内容、放送の可
能性のある日時を明らかにし、本人承諾を取った上で取材すること。後日に使用して
ほしくないという連絡が入る場合もあるので、連絡先等を伝えておきましょう。
事
例
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演
出
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ド
ラ
イ
ン
「使わないで」と言われていたのに
バラエティ番組の一般人のインタビューで、本人が使わないでと言っていたにもか
かわらず、編集で怒りマークまでつけて放送。後日、本人から抗議の電話が。
『月刊8チャンネル』で事情説明。当該番組のエンドでテロップ、
コメントでの謝罪。
事 突然出演できない状況に
例
旅番組の一般人のロケ終了後、放送日が半年遅れに変更となった。その後、その
出演者が顔出しがまずい状況になったとのこと。しかし、
このシーンをカットするとスト
ーリーが分からなくなる。
本人と協議し結局、出演者をまったく映さず、実景とテロップ、ナレーション処理で放送。
(2)ロケ中の事故
ロケで未然に事故を防止するためにやれることは、すべてしておくのは、
当然です
が、事故が起こった際は、すみやかに対処し、すぐに上司に連絡してください。
事 ファイヤーダンスで火傷
例
バラエティ番組のロケでファイヤーダンスの収録中、強風でエキストラの女の子が
大やけど。
やけどの痕が残るかもしれない状態だったので、毎週一度、病院に通院。一年間、
通院にプロデューサーが付き添った。
32
事 炎天下の浜辺で熱中症
例
夏の炎天下の浜辺で番組収録をした際、念のため医者、看護師の方をスタンバイ。
技術スタッフが熱中症にかかったが、直ぐに手当てをしてもらい、症状を最小限に食
い止める。
(3)ロケでの苦情
ロケ取材先はもちろん、関係各所に事前の連絡をしておけば、
ロケが円滑に行われ、
またトラブル防止にも繋がります。公道で中継やロケをする場合、道路使用許可証を
事前にとる必要があります。大音量が出る場合や、夜間におよぶロケの場合、周辺
の住民たちに前もって、挨拶、説明が必要です。
事
例
人形を自殺者と間違えられて
ドラマのロケでビルの屋上で人形を使ってサスペンスシーンを収録中、通行人が自
殺と思い、警察に通報。パトカーが出動する騒ぎに。
警察署に謝罪。今後は、事前に連絡するよう指導を受けた。
事 花火をガス爆発と間違えられて
例
ドラマのロケで季節はずれに花火の打ち上げシーンを公園で撮影。打ち上げの音
が広範囲に届いたため、住民が「ガスタンクの爆発ではないか」と消防署に通報。消
防車が10台以上出動。新聞も取り上げることに。
事前に消防署などに届けも出しており、近隣にも挨拶していたが、消防署間の連
絡がうまくいっていなかったのと、予想以上の範囲からの住民の反応があったため起
こったトラブル。
事 家庭に動物を運びこんで
例
バラエティ番組のクイズ問題ロケで、出張動物園を紹介。ある団地の家庭に動物
を運んだ。ロケ終了後、自治会から危険かつ不衛生と大クレームが。
自治会に対し謝罪してようやく放送に納得してもらう。
(4)ロケ内容の問題
ロケにおいて、
その内容や対象について様々な角度から確認する必要があります。
またその放送の影響についても考えておかなければいけません。相手にこちらが望
む内容を言わせるなどの、過剰な演出は避けなければなりません。
33
事 コインランドリー
例
お笑い番組のロケで若手芸人が過激なことに挑戦。コインランドリーの乾燥機に
入ってドラムを回し、
そこに着火した花火を投げ込むというもの。
人をいれて回す行為は、機械本来の使用目的でなく、いたずらにイジメに利用され
る可能性があると、協議の上、再編集してそのシーンをカットして放送。
事 二人乗り
例
ドラマのロケで、青春のワンシーンとして、自転車二人乗りを収録。道路交通法
規上、違反になるのでそのシーンをカットして編集した。
ドラマであっても、車のシートベルト着用やバイクのヘルメット着用など、法律は遵
守しなければならない。
(5)電波法とロケ
手軽に同報通信(一対一ではなく多数が受信できる)が可能という理由で、番組
第
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の演出として、
ロケ現場での連絡用として無線機の違法な使い方をしてしまう恐れ
があります。無線局を開設するには、無線局免許が必要です。
これに反すると、使用した当人だけではなく、法人の業務として関西テレビも罰則
(電波法違反)
を受けることとなります。
事 トラック無線で歌∼電波法違反 その①
例
女性演歌歌手をトラックの助手席に乗せ、
トラックに搭載していた無線機を使って
歌手が唄うシーンを撮影し放送した。ロケには当社のプロデューサーが立ち会い、制
作会社のディレクターの演出だったが、電波法違反の認識のないままの演出であっ
た。放送翌日、
「こういうことで無線を使ってもいいのか」という視聴者から指摘があ
った。
調査の結果、
トラックの運転手はアマチュア無線局を開局していたが、目的外通信
で電波法違反と判明。監督官庁より行政指導を受け、再発防止計画書を提出する。
事 アマチュア無線機の使用∼電波法違反 その②
例
制作会社と当社担当ディレクターがENG取材の中で、隠しカメラと隠しマイクを設
置し室内の子供の様子を監視する内容で、隠しマイクに使われていた無線機がアマ
チュア無線機だった。アマチュア無線機は、趣味のためのアマチュア無線通信以外
に使用するのは、目的外通信で、電波法違反となる。
34
ロケ企画として、地上と上空のパラグライダー等とのやり取りや、少し離れた場所で
のやり取りの様子を、
トランシーバーを使って演出しているシーンを見かけますが、違
法無線局の可能性があります。
プロダクション等で使っているトランシーバーが、
どのような無線局であるのか必ず
確認してください。技術適合証明マーク「技適」が貼付された未改造の特定小電力
無線局であれば、
こういった演出に使用しても、問題はありません。ただし、歌を唄う
などの行為は、
いかなる無線局であっても禁止!また、技適マークがあっても、
アマチ
ュア無線機は、使ってはいけません!
(6)再現VTRでの問題
再現VTRの手法は、最近多く使われるが、
たとえ再現であれ内容や影響に注意
する必要があります。
事
例
悪質タクシーのように映されて
ワイドショーの事例で、悪質タクシーの再現で個人タクシーの表示を使用。放送後、
営業妨害と抗議が。
再現ではあったが、反響の大きさを考慮して後日、番組のエンドで司会者が謝罪。
(7)神社仏閣でのロケ
1)歴史的建造物等での撮影
神社仏閣など歴史的建造物での撮影は、事前許可をとり慎重に下見し、不慮
の事故が起きないよう細心の注意を払います。スタッフの服装などもTPOをわきま
えたものを心がけることが必要です。
事
例
①養生シートは必需品
コンクリート土間ですら機材を置くことを拒否されることがある。内土間で瓦敷きの
ところなど耐荷重の予測がつきにくいので、ロケハンの際に確認すること。養生用の
厚手の敷物は必需品である。
②白い替え靴下
所有者も普段入らない場所もあり、素足や汗にまみれた靴下では上らないよう、白
い替え靴下を準備する。服装のTPOに加え、例えば照明用クリップをつけたウエスト
ポーチで、壁に擦り傷を付けないよう注意も必要。
35
③釘は使わない
万一カメラ三脚が倒れても襖・壁・器物を破損しない設営を心がけ、設営後に器物
を置いてもらう。天井設営の照明は、
クリップやワイヤーにも布をかませ、十分に養生
しなければならない。たとえ先方が「釘を打ってもいい」といっても、所有者全員の総
意ではなかったりするので、釘などは一切使わない(他社トラブル事例あり)。
2)庭や神事などの撮影
撮影許可を受けていても、観光客などとトラブルになることがあり、配慮と説明の
必要な場合があります。
事
例
①名庭のお作法
名庭の収録などで、飛び石以外やとめ石・結界の先に立ち入りを許されない場合
もあり、ロケハンで必ず先方に確認し、指示があれば履物も改める。
(苔や植物の
保護)
②アマチュアと競合したとき
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作
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神事は一般には撮影禁止の場合も多く、無許可のアマチュアと、許可を得たカメラ
マンがトラブルになることもある。放送目的のため正式に許可を得ている旨を、丁寧に
説明しなければない。
36 7 スタジオ収録
(1)
トーク内容が名誉毀損に
一般の方はもちろん、芸能人においてもプライバシーがあります。公共性、公益性
があるかどうか、
いたずらに興味本位に走っていないかどうか、表現行為が対象者
の社会的評価を下げるものかどうか、過剰な表現になっていないかどうか、必ずチェ
ックしましょう。
事
例
バラエティ番組でゲストが語った自身の離婚騒動 その②
「バラエティ番組」においてゲストが自身の離婚騒動に答えるという企画でBRC
(放送と人権等権利に関する委員会)より「勧告」を受けるに至ったが、
これにはいろ
んな問題が内包されている。
【スタジオ収録段階における問題】
スタジオ収録は、赤裸々なトークによって「活気」づいた。当時の夫(一般人)に反
論の場を与えることに想い及ばず、一方的にゲストサイド(妻)の意見を出すことにしか
ならなかった。
「痴話喧嘩」という言葉があるが、当該夫婦の愛情表現のひとつ、
とい
う思い込みに支配されていた。ほどなく離婚し元夫となる私人の怒りを招いている、
と
は想像出来なかった。
【編集段階における問題】
取って出し(収録翌々日放送)であったために、編集方針を決めて仕上げに入った
が、編集後のチェックは完璧ではなかった。放送に「出せる?出せない?」の基準は「芸
能人夫婦の自分たちの話」というくくりの中の判断であり、後日、反論なり、
クレームが
来ることを前提にしていなかった。デリケートな内容の企画であっただけに、できるだけ
多くの人間の目で最後までチェックすることが望ましかった。
(P113第6章−1
「『クレーム』は価値ある『資源』」につづく)
(2)資料映像
著作物を番組で使用する際は、著作権者の事前の許諾が必要で、
かつ勝手に改
ざんすることは、許されません。
事
例
寺院の資料映像を無断使用
バラエティ番組でお寺の資料映像を使用。その後の演出方法が同寺の名誉を著し
く損なったとの抗議が。 (P91第4章−5「著作権をめぐって」参照)
37
事 「ウチは取材を断っている」
例
情報番組でメイド喫茶の特集をするにあたり、以前、同番組で放送した映像を無許
可で使用。放送後、今は取材を断っているとして抗議が。
プロデューサーが店に行って謝罪。お詫び文を後日、提出した。映像も消去。
(3)お笑いネタ
漫才や落語のネタで内容的に放送に不適切なものもあり、事前に演者との打ち合
わせと確認が必要。古典落語でも今の時代に合わない内容もあります。
事
例
実際の事件を茶化すのはご法度
演芸番組の漫才ネタで理髪店で発砲するという題材を扱い、笑いをとるシーンが
あった。
実際にあった事件を題材にしているが、たとえ漫才であっても不謹慎と判断。そ
第
2
章
制
作
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演
出
の
ガ
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ド
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の部分をカットした。
(4)観客
スタジオ観客には、収録スケジュールや放送で観客が映る可能性があること、著
作物としての収録内容を他言しない、
といったことを説明しておきましょう。
万が一の事故に備えて、救急の対策を考えておかなければなりません。
事
例
音声ブームが観客に倒れた
スタジオ公開番組で収録後、音声ブーム撤収時、ブームがバランスを崩し、観客
1名の頭部に接触、観客が転倒することがあった。
プロデューサーが病院に付き添い診察してもらう。幸い異常なしということで、その
観客は無事帰宅された。
38
8 生番組での一言から
生番組で、思わず出た不適切な発言も、すばやいフォローがあれば、後で大きな問
題にならない場合もあり、常に緊張感をもって、
ゲストの発言に機敏に反応することが
必要です。そのためにも放送前の打ち合わせは重要です。
生放送中に差別と受け取られたり、事実と異なる発言があった場合、番組の中で
すみやかに訂正、謝罪しましょう。
事
例
興奮して具体的な名前まで…
情報番組でゲストが、銀行でのトラブル話を披露中、興奮して具体的な銀行名を発
言。放送後、
その銀行から抗議が。
ゲストと銀行側に認識の違いがあったが、やり取りのあと、制作部長名で詫び状を
提出した。
事 「縮小」と「閉店」を事実誤認
例
ワイドショーでゲストがある店が閉店して残念とコメント。その店から「店の縮小はし
たが閉店はしてない」と抗議が。
翌週の放送で、
「閉店でなくて縮小でした」と、情報という形で司会者がコメント。
39
9 プレゼント・問い合わせ
番組での視聴者参加型のプレゼントは、特に電話、
FAXが殺到する可能性があ
り、事前の対策が必要である。最近は、
メールアドレスなどでもその可能性がある。
事 電話回線がパンク
例
ワイドショーでの現金プレゼントコーナーで、いくつかの電話番号を使いまわしして
いたが、そのパターンをマニアに察知されるようになり、毎日、そのコーナーの時間に
回線がパンク状態になり、市内一帯のあらゆる電話が通じにくくなった。
一般の人からも電話が繋がらないとの苦情も寄せられ、
NTT側からも改善を求
められ、
コーナーを休止した。
事 取材先以外の農家に迷惑が
例
情報番組で農家の中継をした際、個人宅なので問い合わせ先を放送しなかっ
た。しかし、同じ作物を作っている別農家をインターネットで検索し、間違い電話が
第
2
章
制
作
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演
出
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ド
ラ
イ
ン
別の農家に殺到した。その農家から苦情が。
ネット時代の予期せぬトラブルの事例。
10 年少者の出演
労働基準法では原則として「満十八歳に満たない者を午後十時から午前五時ま
での間において使用してはならない。」
(第61条の1)
とあります。
事
例
深夜の生放送スペシャル
普段、
VTR放送のバラエティ番組が、特別企画として深夜に生放送。18歳未満
の出演者の部分のみVTRによる出演となった。
40
11 演出
(1)まず自分の演出プランを
ロケ取材をする場合、予算と日程が許すかぎり下見をするべきです。規模にもより
ますが、
できるだけディレクター自身で行うことをお勧めします。構成作家に頼らず、
自
分の頭の中で組み立てることが、血となり肉となっていきます。
それをもとに構成者と
(あるいは自分で)
ロケ台本を作成するわけですが、撮り方
や撮り順など演出プランをはっきりさせておきましょう。また、芸能人などが出演する場
合は、
こちらの意図をまず説明してください。話し合いの上で、演出プランが変わるこ
とは、多々ありますが、最終的な目的を外さないようにすることが大事です。
スタジオ本番の出演者との打ち合わせは、
スタジオ台本をもとにしますが、
トークな
どのスタジオ展開を中心にする場合、番組の狙いをうまく伝えることが大事です。細
かく伝えたからといってその通りになるとはかぎりません。要点をどう伝えるか、
それま
での人間関係や、
コミュニケーションのとり方も重要になってきます。
特に台本や演出メモを渡したからそれでいい、
という甘い考えは持たないでくださ
い。必ず自分の肉声で伝えてください。
事
例
出演者が思わぬ発言
京都のお年寄りの間で10年程前に流行していた「ダンスセラピー」の取材。ちょっ
とした病気や慢性疾患などもこの健康ダンスをすることによって身体が活性化し、免疫
活性化作用により快方に向かうと言うもの。VTR取材したものを生放送のスタジオで
出演者に見せ簡単な感想とダンスのおさらいなどをしてみよう!という朝の軽い健康コ
ーナーのつもりが、出演者の1人の「こんなもんで健康になるわけないじゃん! 馬鹿じ
ゃない?」で台無しに!
!
スタジオはなんとか丸く収めて段取りを終えたが、収まらないのは取材対象となった
お年寄りの皆さんである。放送終了直後より猛烈な抗議! これに関しては誠心誠意、
プロデューサーとディレクターが足を運びお詫びしたことと、客観的には放送上のマイ
ナスイメージがそれほど残らなかったのが幸いしたと言える。
予想外だったとはいえ、事前打ち合わせで取材対象者の思いを伝えていれば免れた
かもしれない。
41
(2)
「演出家」と「ディレクター」は違う?
最近、バラエティ番組でもスタッフクレジットに「演出」と「ディレクター」が別々に表
記されていることがあります。その違いはどこにあるのでしょうか。スタジオを覗くと、
サブ( 副調整室 )にいるのがディレクターで、
スタジオフロアにいるのが演出のようで
す。出演者などに対する本番前の指示は演出とされる人物がしています。そして、
サブでカメラなどのスタッフに指示を出しているのがディレクターです。これも制作現
場内での分業化のなせるわざかもしれません。
しかし、番組は、
カメラで切り取った映像が最後の出口になるのですから、作品と
しての番組の責任者はどちらなのでしょう。
「ディレクター」の日本語訳は、
「演出家」
「監督」なのですから、同じなのでは……。
(3)スタッフの名前を覚えよう……番組は団体作業
ドラマでは、
よくロケバスに乗り込むと「役者部、撮影部、照明部、音声部、美術部、
第
2
章
制
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ド
ラ
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ン
演出部揃ってますか?」と点呼をとります。
番組は、
ディレクターだけでも、
あるいは役者やタレントだけでも成立しません。規模
の大きい番組では、
50人以上のスタッフが関わっています。それぞれが大事なパート
を担っています。演出プランは頭のなかだけのもので、
スタッフが一丸とならなければ
良い番組は実現できません。
どうやって、
スタッフにも良いアイデアを出してもらえるか。
コミュニケーションを深めるためには、
まずは、
スタッフの名前を覚えることから始め
ましょう。
(4)アシスタント・ディレクターの目指すもの
いわゆるADは、文字通りディレクターを補佐するわけですが、仕事内容は様々、
ス
タジオでキューを振ることから、
ロケで車止めをしたり、撮影前の犬の相手を何時間も
やったり、弁当を配ったり……。
しかし、
いずれにしてもディレクターへの登竜門です。
忙しい中、何を心がけていけばよいか。
まず、
スタッフ、
キャストを自分の号令一つで動かせるようにならなければなりませ
ん。そのためには、
どれだけ彼らから信頼を得ているかが、重要になってきます。特に
生放送のフロア・ディレクターは、
「自分が番組を仕切っているんだ」、
という気概を持
ちましょう。
42
また、
自分がディレクターだったらどう演出するかを常々考えていくことが大切です。
これは、
いざというときだけでなく、先回りして本番準備ができますので、
AD作業の
効率化にも役立つはずです。
やがて、精神的、物理的余裕が生まれれば、先輩ADやディレクターの仕事を任せ
えてもらえるよう積極的に行動していきましょう。
証
言
雨降って地固まる∼あるADの失敗談∼
生のトーク番組のチーフADをやっていたときです。時間どおりに番組を収めるのが
私の務め。しかし、何週かにわたり、エンディングのタイアップ商品紹介を飛ばしてしま
いました。
その都度、実費が発生したためプロデューサーの逆鱗に触れることになりました。
今週こそ、時間どおりに進行させようと本番に臨みました。しかし、途中でいつもの
ように予定時間が押し始め、司会者に「まいてください」とサインを出しましたが、
うまく
いきません。冷や汗が背中をタラタラ流れるのを感じました。
仕方なく、ゲストに「時間がありません」とサインを出すと、
その方が、
「もう時間ない
の?」と発言。今度はそれを聞いた司会者が激怒し、
「ゲストに向かってなんて失礼な
ことをするんだ!」。生放送中、生きた心地がしませんでした。
時間内に収めるのがADの仕事とはいえ、司会者を軽んじた結果になったことは、
確かでした。放送後、司会者の方と十分話をしました。
おかげで、
その後はその司会者の方と、
より良好な関係を築けました。
43
「過剰」演出と「問題」演出
12 (1)事実と真実
ドラマは虚構の世界です。虚構を積み重ねることによってテーマを伝えます。事実
を記録することよりも真実を表現することもできます。たまに、素晴らしいドラマにはド
キュメンタリーを感じることがあります。
ニュースは事実を伝えることに主眼が置かれますがバラエティ番組などの番組は
どうなのでしょうか? 笑いをモチーフにした娯楽番組は、
何を伝えているのでしょうか。
制作者は自分が面白いと思えるものを視聴者にも面白いと思ってもらえるかどう
か、
を考えます。
しかし、制作者が意図していなくても、笑いをテーマに持ってくること
で人間の本質の一面を伝えているのかもしれません。可笑しさと、
そこに隠れる悲し
さ。強さと弱さ。そういう意味で、娯楽番組といえども、世の真実を伝えるための手段
といえます。
第
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章
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ド
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事実とは何か?
より見極めが大事なのが、情報番組や、
ドキュメンタリーでしょう。視聴者のほとん
どは、
それらの番組を見たとき、すべてが事実であるように信じるでしょう。ここでいう
事実とは「カメラの前で起こっていることが、実際に今そこで自然に起こったことだ」
ということです。
ドキュメンタリー番組は作家性が強く、
テーマを伝えるための方法として、
ときに再
現の手法を使います。
ドキュメンタリー映像のすべてがカメラの前で自然発生的に
起きたものとは限りません。風習など日常行われることを再現することは、許される手
法だとされています。
それでは、
日常的ではない事実を視聴者に再現と知らせず行った場合はどうで
しょう? 視聴者を裏切ったことになるのでしょうか?
(2)やらせと虚偽・捏造
テレビでは過去にも、やらせなど多くの不祥事が起きていたことも事実です。多く
の番組は事実だけをそのまま伝えるものではなく、制作者の意思が入ってきます。取
材対象者へのインタビューの仕方、
カメラアングル、
編集ポイント、
挿入されるコメント、
す
べてにある種の作為があり、
それは逆にいうと伝えるための工夫をしているわけです。
ほとんどは、
演出として問題とはされないものです。
どこからが許されないのでしょうか?
44
はっきりとしたラインはあるのでしょうか?
辞書によると
やらせ ……「事前にしめしあわせてことを行わせること。」
(『大辞林』)
「事前に打ち合わせ自然な振る舞いらしく行わせること。また、
その行
為。」
(『広辞苑』)
虚 偽……「真実ではないのに真実のように見せかけること。」
(『大辞泉』)
捏 造……「事実でないことを事実のようにこしらえること。でっち上げ。」
(『大辞泉』)
事 偽看護婦 ※(1992/11)
例
在阪局のトークバラエティ番組のコーナー企画「出張アンケート・看護婦さん大会」
で、
20人の看護婦さんに聞いた。ところが12月19日に、夕刊紙が「出演の看護婦の
ほとんどがニセモノだ」と、すっぱ抜いた。
このコーナーは外注で、出演者集めは、
さらに下請けの個人事務所がやったもので、
放送日が近づいてもホンモノの看護婦が集まらず、看護学校の学生やOLを代役に
立てていたことが判明した。 ※看護婦=現在は看護師
事
「発掘!あるある大事典Ⅱ」
例 食べてヤセル!
!
!食材Xの新事実(2007/1)
①やせる論拠として使用した外国人の専門家の証言に対する日本語訳ボイスオーバー
が発言内容と違う。
②実験の被験者がやせたことを示す比較写真に別人の写真が使用されていた。
③実証実験である「あるあるミニ実験」の数値が測定されていなかったにもかかわらず、
架空のデータを捏造して使用した。
(関西テレビ謝罪会見 2007年1月20日 より)
「やらせ」
・
「虚偽・捏造」。番組制作者としてはやってはならないものです。
放送法に反するからだけでなく、
そこには最早、番組制作者の良心の居場所がな
いからです。
ただし、
はっきり断定できないケースもあります。
事
「禁断の王国・ムスタン」
(1992)∼NHKによる調査報告(要旨)
例 〔やらせ〕
①取材スタッフが高山病にかかった場面は、
スタッフの演技を撮影した。
②ムスタンへ向かう途中、岩が崩れる場面は、故意に落とした岩を撮影。
45
③その際の流砂現象も、
スタッフが人為的に引き起こした。
④少年僧が雨ごいをする場面は、
スタッフが依頼した。
⑤小学校のヤギの解剖は、理科の授業ではなく、スタッフが依頼して食用のヤギを解
剖させた。
〔虚偽〕
①「雨が三箇月以上一滴も降っていない」としたが、
ごく少量一、二回は降った。
②「国境を守る警備兵」と紹介したが、警察官だった。
③「少年僧の馬が死んだ」と表現したが、少年僧の馬ではなった。
④老人が「王」に水争いをめぐる直訴をした、
とコメントしたが、水不足とは無関係だった。
⑤「ムスタン王国」という表現は、ムスタンがネパール王国の一地域であることから、
不適切。
「禁断の王国・ムスタン」の〔やらせ〕にある①は、実際の事態を当事者が再現し
たものでした。これが「やらせ」にあたるのか、議論が百出しました。④の少年僧の
雨ごいも、
「習俗慣習の再現であって、
やらせとは一線を画すべきもの」
(『テレビの
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嘘を見破る』今野勉著)
との意見があります。
資 料 衆議院逓信委員会議事録
1993年2月22日
参考人招致 NHK会長 川口幹夫氏
○川口参考人 NHKを代表しまして、
まず、今回の事件について国民の信頼を裏切
ってしまったこと並びに当委員会の先生方にも多大の御心配、御迷惑をおかけしたこと
をおわび申し上げます。
今回の件につきましてこれまでの経過を申し上げます。
私どもは、今回の事件の重大性を深刻に受けとめまして、二月二日、
ムスタン取材緊
急調査委員会を設置いたしました。ムスタン取材に関するさまざまな問題につきまして、
ネパールあるいはインドで現地調査を実施するとともに、関係者から事情を聞きまして、
真相の究明と責任の所在あるいは再発防止策をどうするか、
そういうことを重点にいた
しまして集中的な調査検討を行いました。そして今先生がおっしゃったように二月十七
日、現時点での取りまとめを行いました。
その結果、二月四日に放送で訂正とおわびをいたしました、雨が三カ月以上一滴も降
っていないというコメントとか、
あるいは落石、流砂のシーンなど六カ所のほか、小学校で
46
のヤギの解剖の授業、老人の王への直訴などの場面に誤解を招く表現があった、
ある
いは取材、制作手法や放送内容に適切でない点や事実と異なる部分があったことが改
めて判明いたしました。また、
オオカミ輸入の事実関係、
あるいはメディアミックスの事実
関係、総集編の制作過程等々につきましても、問題とすべき点があったことが明らかに
なりました。
こうした事態を招いた原因としては、
まず一つは、制作者個人のドキュメンタリーへの
思い込みと、
それから過信があったこと、
そして番組制作過程の管理、責任体制におい
てチェック機能が十分でなかったこと、
そして社会人としてのモラルに欠けるところがあ
ったこと、
さらにメディアミックスに関する職員の理解が不徹底であったということを認識
しております。
○川口参考人 いわゆる「やらせ」という言葉が大変大きな流行語のようになりました
けれども、私どもは、例えば事実と異なるとか表現が行き過ぎというふうな分類をいたしま
して、
この問題を定義いたしております。
ただ、今回の反省点の一つとして、過剰な演出、
それから許される再現という問題が
ございます。先ほど先生おっしゃいましたように、事実と真実とは何だということになりま
すと、事実をそのまま描いたらそれが真実を追求したことになるのか、
あるいは、何らか
の表現をやったことによって真実に迫ることができればそれは真実追求の手段として許
されるんじゃないか、
そういうドキュメンタリー論もございます。
したがって、
これが十分な
議論が行われないままに個々の制作者の判断に任せきりになってしまったというところ
があるんじゃないかというぐあいに思っていまして、
このような問題につきましては、今後
放送現場の倫理に関する委員会というものを設けまして、十分に現場的に討議をして
いきたいと思っております。
47
(3)中継番組における"時間"の演出? それとも……
事
例
実際なかった順位表(2006/11)
在阪局のゴルフ番組で、
「録画映像の時間と生中継映像の時間が近接している
ように番組を編集し、実際にはなかった順位表を放送した」
期待の日本選手が2日目の16番ホールで、バーディをとって通算8アンダーとなった。
このとき、生中継のテレビ画面でアナウンサーが「1位タイ」と話し、他の2選手と並
んで「1位」と表示された。8組先の1位の選手がプレーを続けている様子も流れた。
だが、
この映像は録画で、
この選手は実際には通算9アンダーでホールアウトしていた。
実際には1位になっていないのに、途中で「1位」と放送したのは、
「報道は事実をま
げないですること」と定めた放送法に抵触したとして、総務省近畿総合通信局は、当
該局に対し、文書で厳重注意し、再発防止に向けた体制の確立を要請した。
特殊な例ではありますが、大問題となったもので、
ともすれば陥る危険性をはらむ
放送でした。
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いまや、
インターネットの発達もあり、私たちの番組は様々な監視の下に置かれてい
ます。バレなければいいという考えは捨て去ってください。
確かに表現の世界では、受け手側の反応も千差万別です。演出上のことで、批判
にさらされることが起きないとは限りません。
しかしそこで大切なことは、伝えるテーマについて志と情熱を強くもって、相手を納
得させられる理論武装ができるかどうかではないでしょうか。
視聴者を裏切らない、出演者を裏切らない、
スタッフを裏切らない。
自らの行為で自らの表現が奪われる不幸が繰り返されないために。
48
第3章 報道・取材のガイドライン 報道の自由と知る権利
知る権利は、民主主義の基本です。人々は、様々な事実を知ることによって必要な
判断をします。そのためには表現の自由が欠かせないものです。日本国憲法第21
条第1項では、
「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、
これを保障
する」と規定されています。報道の自由も、
この21条によって保障されていて、市民
の知る権利にこたえる重要な役割とされています。
報道機関は、
このように極めて重要な使命を背負っており、私たち一人ひとりは、
こ
の重い使命を認識しなければなりません。
特にテレビというメディアは、不特定多数に同時に同じ内容を伝えるという特性が
あり、
その影響力の大きさはほかのメディアにはない強大なものです。私たちは特に
このことを念頭において報道しなければなりません。
49
報道の意義
何がニュースでしょうか。最新の情報や出来事を伝えるのがニュース報道ですが、
何をニュースとして取材し放送するかは私たちが判断しなくてはなりません。
今日、誰でもインターネットを通じて情報を発信でき、入手できるようになりました。そ
こには事実もあれば真偽が分からない情報も飛び交っています。
私たちに求められているのは、社会が必要としている正確で公正な情報です。人
々が行動したり判断したりするのに必要な情報なのです。
テレビが伝えるべき情報を報道していないという指摘を耳にすることがあります。
私たちが報道機関としての役割を十分に果たすためには、真に社会に必要とされる
情報を見極めることが大切です。記者個人の興味だけではなく、社会が必要とする
事実や情報を責任をもって伝えることこそが報道機関としての役割であり、報道人と
第
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しての使命なのです。とりわけ公共性のある、司法・立法・行政の動きは正確に伝え
なければなりません。
テレビのニュースは、正確さのほかに速報性も要求されています。
しかし、
テレビの
ニュースに求められているのは、起きた出来事を伝えることだけではありません。出
来事を生んだ背景や出来事にまつわる様々な事柄をも伝えることで、
ニュースの価
値は大きく高まります。その場その場だけではなく継続的な取材と放送が求められ
ているのです。
50
1 報道取材
(1)取材の基本
1)正確さと公平
ニュース報道は何よりも正確でなくてはなりません。より深い取材が正確なニュ
ース報道を生みます。事実に迫るためには徹底的な取材が必要で、先入観や思
い込みにとらわれてはなりません。
何が真実かを掴むことはとても困難な作業です。取材から放送に到るあらゆる
局面で真実に迫ろうとする姿勢が必要になります。
加えて、様々な角度から事実を見つめ、多角的に報道することもまた大切なこと
です。意見が分かれる問題に関しては、関係する様々な当事者の主張を伝えなく
てはなりませんし、特定の者への配慮から自己規制するようなことがあってはなりま
せん。
当然ながらテレビには速報性が求められますが、急ぐあまり誤った報道をしては
なりません。また、分かりやすく伝えようとするあまり事実を曲げるようなことがあっ
てはなりません。
事 「スーパーニュース関西」
(1999/4)
例
和歌山市内でO−157が発生した問題で、
「牛乳からO−157広がる」の内容で放
送した。このニュースでO−157汚染の牛乳を納入していた和歌山の牛乳業者と、関
連取材で直接事件に関係のない大阪の食品会社の映像を連続して編集したため、
大阪の食品会社から、
「あの放送内容では当社が悪いように誤解される」とのクレー
ムが入る。
その後番組で「食品会社の牛乳の安全性に誤解を招くような表現がありました」と
お詫びの放迭をした。この放送の影響で「取引をやめたい」などの実害が出ていると
して問題が拡大した。結果話し合いで解決したが、実害を引き起こしており重大な事
案として受けとめた。
2)取材の心構え
取材は誠実で謙虚に行わなければなりません。
取材は、取材される側の気持ちに立って行わなければなりません。記者は関西
テレビという報道機関の一員として取材するものですが、関西テレビに何か特別な
権利があるわけではないのです。
51
一般の市民などに対して、無理強いや押しかけの取材は決してしてはなりませ
ん。また、行政などの公権力を保持する機関に対する取材でも、威圧的な態度を
取ることがないよう努めなければなりません。
取材は積極的・果敢に行わなくてはなりませんが、取材者には節度を持つこと
が求められます。
事件や事故の被害者などに対しては、
その立場や意思を尊重することが特に
大切です。取材方法の是非は、
その場面場面で判断されますが、一人ひとりが考
え、迷った場合には必ずデスクや所属長と相談して下さい。
もちろん、盗用や捏造は許されません。ほかの著作物を引用する場合には、正
確に引用しなくてはなりません。また、別名を名乗るような取材も許されません。
3)ニュースソース
ニュース報道においては、情報の出処を明らかにする必要があります。情報の
出処が分からないニュースは、視聴者が内容の信頼性を判断できないからです。
個人名が出せない場合は、情報出処の官公庁や企業名、所属部署などを可能な
限り明らかにします。取材相手がオフレコを取材条件にした場合でも、安易にこれ
を受けてはいけません。
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一方で、情報の出処を明らかにしない条件の取材もあります。特に不正を告発
するような場合は、
その内部告発者を保護しなければなりません。
信頼できる取材源で出処先を明らかにすると危害や不利益が及ぶと判断され
る場合や、出処を隠すことが条件になっているときは、出処を明示しません。取材
源の秘匿は絶対的な責務です。ニュースソースについては記者だけでなく社とし
ても、
それを秘匿しなければなりません。ただし記者は、
デスクや社から編集上の
判断で取材源の開示を求められた場合は明らかにする必要があります。
裁判などで取材源を明らかにするよう求められても拒否しなくてはなりません。
裁判所などから証拠物件として、取材のメモや録画テープの提出を求められても、
原則として提出してはいけません。報道目的以外に利用されると、報道への信頼
が失われるからです。
事
例
リクルート事件贈賄ビデオ押収事件(1989/1)
1988年在京テレビ局のカメラがリクルート疑惑で当時社会党の国会議員事務所
で議員とリクルート幹部との現金のやり取りを議員の了解を得て隠し撮りし、
その後議
員がリクルート幹部を贈賄容疑で告発したもの。その後捜査当局が同テレビ局にビ
52
デオの任意提出を求めたが拒否、強制的な押収となった。そのため同テレビ局は押
収を認めた裁判所に対し「報道の自由を侵害する」として抗告していた。
判決は、テープは重要な証拠で事件の解明に不可欠なもので、告発した議員自身
が重要証拠にあげていることから、適正迅速な捜査のために取材の自由が制約をう
けるのはやむを得ない、
などと判断した。
(東京地裁の準抗告最高裁第二小法廷1989年1月30日)
(2)人権・名誉毀損
私たちは報道の義務を負っています。市民の知る権利に応えて民主的な社会を
構築する一助になる責務があるのです。
事件や事故の被害者や家族から、
「報道被害を受けた」
「被害者の人権」
「報道
される側の権利」という声が投げかけられることがあります。被害者や家族に対して
は無理な取材をしないことはもちろん、
プライバシーや感情への配慮が一層求められ
ます。
それでも公共の利益のために報道しなければならない場合が多々あるのも事実で
す。私たちは報道の公共性・公益性と個人の権利との調和を図る努力を続けなけ
ればなりません。
名誉毀損
名誉とは個人や団体の社会的な評価であり、
これを不当に傷つけると名誉毀損に
なります。
名誉毀損による事前差し止めを求めた「北方ジャーナル事件」で、最高裁は「表
現内容が真実でないか又は専ら公益を図る目的のものでないことが明白であって、
かつ、被害者が重大にして著しく回復困難な損害を被る虞があるときに限り」としま
した。
しかし報道との関係では、以下の場合は名誉毀損に当たらないとされます。
①指摘された事実が公共の利害に関する事実であること(公共性)
②指摘したものが、もっぱら公益を図る目的であること(公益性)
③指摘した事実が、事実であるか、事実と信じたのに無理がない状況があったこ
と(真実性)
放送で当事者の了解を取らずに名誉に関する報道をする場合は、
これらの点を
十分に検討し配慮する必要があります。
53
事 精神病院患者死亡事件報道をめぐって
例
1993年大阪の精神病院で起こった患者の死亡事件をきっかけに病院の取材を
行い、ニュース番組とドキュメンタリーを制作した。
この二つの番組に関して病院は、関西テレビを相手に、
「二つの番組は、病院が面
会制限、薬の濫用などを行い、患者を非人間的扱いする閉鎖的精神病院との印象を
視聴者に与えた」などとして名誉毀損とプライバシー侵害などを理由に、
2002年3月
4日、損害賠償請求を大阪地裁に起こした。
関西テレビはこれに対して「精神病院の実態、精神医療の問題点を提起するもの
で、正当な取材のもと制作されており違法性はない。その目的がもっぱら公益を図る
ことにあり、名誉毀損は成立しない」などと主張。
一審、二審、関西テレビ勝訴。2005年3月、最高裁は「審理不十分」として大阪高
裁に差し戻し、
その後、大阪高裁は精神病患者や元患者の証言だけでは「薬の濫用、
違法な投薬」を真実とするだけの正当な理由があるとはいえないとして原告の訴えの
うち、病院長個人への損害賠償を一部限定的に認めた。
(3)取材のマナー
すべての行動において、法令や社会のルール、会社内の規定を遵守することは当
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然です。社会人としての当たり前のマナーを心がけなくてはなりません。
どんな服装で取材に行くのか、
どんな言葉遣いをするのか、一般的な常識の範囲
内で行動する必要があります。
現場や現場周辺の路上などで飲食・喫煙は慎む。ゴミは持ち帰るようにする。
トイ
レは、近くの公共的な場所を利用する。また、車のアイドリングに関しては、必要があ
る場合以外は禁止にする、
などを心がけてください。
ヘリコプターによる撮影は、航空法及び社内の規定を遵守しなくてはなりません。
人命救助を優先して、ヘリコプターの自粛要請があった場合は、
その要請を最大
限に尊重しなくてはなりません。
-10
(4)災害報道
私たちは報道機関であるとともに防災機関でもあります。地震の発生や津波に関
する情報は、早く正確に伝えなければなりません。
台風や大雨でも被害を防ぐために正確な放送をしなければなりません。人命にか
かわる避難指示などの情報も、様々な手段で放送します。また被災者に必要な情報
を伝え、支援を広げるよう努めることも必要です。
(P151「第8章 大規模災害時等のガイドライン」参照)
54
(5)政治・選挙報道
政治は、公平・公正に扱います。その上で自主的に判断し、視聴者の皆さんに有
益な情報を伝える必要があります。
放送の時間を配分する配慮は必要ですが、機械的にする必要はありません。
各政党・各派の異なった政策論を偏らず公平に放送し、事実に基づいて表現す
るようにします。
選挙は民主主義の根幹です。不偏不党や政治的公平の原則は当然ですが、
自
主的な判断で報道することが大切です。
選挙報道は政治報道と同様、事実に基づいた公平な報道を行います。公職選挙
法は、政見放送および経歴放送以外の選挙運動のための放送や特定の候補者の
選挙運動に繋がる放送を禁じていますので、放送に当たっては細心の注意が必要
となります。
55
2 被害者取材
(1)被害者取材の意味
事件の重大性を考える上で、
その事件によって及ぼされた被害について知ること
は重要です。被害者がどのような人であるのかを知ることは、
その事件の悲惨さに思
いをはせ、
その事件の影響や社会的な広がりについて深く考えることにも繋がります。
例えば、大きな事件・事故に際して死亡した人はただの「人数」などではなく、
それぞ
れに名前を持つかけがえのない人格であることを想起しなければなりません。その
ために、被害者や遺族、関係者に対する取材を行うのです。
事
例
京都メル友殺人事件(2001/6)
携帯電話の出会い系サイトで知り合った男に、
19歳の女子大生、
28歳の女性会
社員の二人が連続して殺害された京都の強盗殺人事件。
報道の過程で、一人の被害者家族から、
BRC
(放送と人権等権利に関する委員
会)
を通じて報道機関に対して今後、被害者の顔写真を使用しないで欲しいという要
望があった。
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(2)基本姿勢
事件・事故で生命を奪われたり心身を傷つけられたりした被害者は、最も重大な
人権侵害を受けた存在です。そうした被害者が報道によって二重三重の人権侵害
を被ることは避けなければなりません。一方で、私たちは事件・事故について正確に
報道しなければなりません。被害者の人権の保護と正確な報道、
この二つを両立さ
せる努力が求められています。
また被害者や遺族の心情は一様ではないことも理解する必要があります。事故や
事件に関する当事者としての考えを訴えたい被害者もいれば、報道には一切協力し
たくない被害者もいるのです。取材は被害者の心情をできる限り尊重して行わなくて
はなりません。
56
(3)留意点
被害者が取材の自粛を要請してきた場合、真摯に対応を検討し、被害者への心
理的圧迫をなくすよう努めなくてはなりません。
被害者の遺体が自宅に戻る際の取材については、多くの場合、極度の疲労や悲
しみの中にある遺族が、
自分に向けられる取材活動を初めて目の当たりにする場面
であり、取材への拒否感が強い場合も多いのです。葬儀などと違って、近親者以外
の立ち会いも普通は考えられないプライベートな時間であることを十分に知り、判断
をしなくてはなりません。
事
例
大阪教育大学附属池田小学校児童殺傷事件(2001/6)
附属池田小事件では被害児童の遺族が「マスコミが玄関に殺到していたため、子
供を朝出て行った玄関から返すことができなかったことが最も悔やまれる」と話してお
られる。
これも踏まえ関西テレビとしては「無言の帰宅」の撮影の必要性について、より慎
重な判断をしようとしている。 (P58第3章−4「実名か匿名か」参照)
事 難治性の病名告知をめぐって(1994/5)
例
番組内の企画で、難治性の視力障害を持つ男性の若者3人と健常者の女性ボー
カリストが、手話を駆使しながらロックミュ一ジックに取り組んでいる姿を描いたもの。
抗議は、同じ障害を持つ子供(成人男子)が、
「この病気は年齢とともに視力が低下
し、ほとんどの場合やがて失明にいたる」という放送を見て大変なショックを受けた、
と
いう母親からのものであった。
後日、報道部員が当事者宅を訪問し、謝罪したが、病気そのものの理解が不十分
な点もあり、医師から追加取材をして、後日、お詫びとフリップによる訂正を行った。
57
3 加害者・容疑者取材
(1)基本姿勢∼推定無罪
容疑者(被疑者 )
・被告人は「真犯人」とは限りません。裁判では有罪とされる迄
は「無罪の推定」という刑事司法の原則を踏まえて、取材・報道にあたらなくてはなり
ません。容疑者は捜査当局という公的な組織に対し、個人で向き合っている弱い存
在です。ときとして自白の強要など違法な捜査によって無実の罪を着せられている
場合もあります。偏見を捨て、人権を侵さないよう留意して取材・報道に努めなけれ
ばなりません。
(2)整理された報道
客観的な事実、捜査当局が明らかにしたこと、捜査当局の見方、独自取材で明ら
かになったことなどをそれぞれ峻別し整理して伝え、偏見を助長しないよう努めなく
てはなりません。
第
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(3)容疑者の供述・弁明
捜査当局や弁護士が容疑者の供述や弁明を明らかにする場合がありますが、
こ
れについては「…によると」などと出処を明らかにし、伝聞であることを明示して報道
しなくてはなりません。また、
「被害者にも落ち度があった」といった被害者の名誉を
傷つける内容の弁明については、被害者が反論できないことを見越して述べられて
いることなども考えて慎重に扱うべきです。
(4)誤報、そのとき
視聴者に先入観や偏見をもたれないように正確な報道を心がけるのは言うまでも
ありませんが、
ときとして取材者が先入観を持ち、無実の人を犯人のように扱ってしま
うケースがあります。報じてきた内容が誤りと分かった時点ですみやかに訂正します。
また、本人の意思を確認しながら名誉を回復するための放送を行わなくてはなりま
せん。 (P119第6−4「お詫びと訂正放送」参照)
58
4 実名か 匿名か
個人情報保護法の施行以来、捜査当局から事件・事故の当事者名が匿名で発
表されるケースが増えています。
しかし、事実を正確に把握し報道していくうえで、実
名による取材は大前提です。ただし、実名で「取材」することと「報道」することは別
問題です。実名報道と匿名報道のどちらがそのケースに適しているかは関西テレビ
が責任を持って判断しなくてはなりません。
(1)少年事件
少年法61条は罪を犯した少年について、
「氏名・年齢・職業・住居・容貌などによ
り、
その者が当該事件の本人と推知できるような記事、
または写真を新聞その他出版
物に掲載してはならない。」と定めています。
少年法の精神を尊重し、
事件当時20歳未満の容疑者については原則として容疑者
本人はもちろん保護者の氏名、
住所、
学校名も匿名にします。映像も、
本人の顔や自宅、
学校、
勤務先などを映像処理するなどして、
特定できないよう配慮しなくてはなりません。
少年審判や刑事裁判の途中で20歳を超えても、事件当時少年であったならば、
原則として匿名とします。
ただし、凶悪な事件を起こした未成年者が逃走中で、
さらに凶悪な事件を引き起こ
す恐れがある場合には例外として少年の氏名や顔写真を公開することができます。
(2)精神障害者
刑法39条は「心神喪失者の行為は、罰しない。心神耗弱者の行為は、
その刑を
減軽する。」と定めています。
容疑者について、精神障害の疑いがあり刑事責任能力がないと判断される場合
は匿名にします。その場合は匿名とする理由を視聴者に説明するため、容疑者の
精神状態を示す犯行状況や捜査当局の見解などを報道します。
実名で報道した容疑者が、
その後の鑑定や裁判の判決で「心神喪失下の犯行」
と認定された場合は匿名に切り替えます。
ただし、精神障害の疑いがある容疑者が逃走中で、
さらに凶悪な事件を引き起こ
す恐れがある場合、実名にすることができます。また社会に大きな衝撃を与えた犯罪
についても実名にすることができます。
59
事 大阪教育大学附属池田小学校児童殺傷事件(2001/6)
事件発生後、早い段階で当社は容疑者を実名報道した。後の公判で「責任能力」
例
「詐病説」をめぐる論証が行われたが、初期取材でも「通院歴」
「治療歴」など不確
定な断片情報が飛び交った。
「実名報道」を早期判断した理由のひとつに、
これほど
の凶悪犯罪の容疑者「匿名化」は、予断と差別に苦悩している患者や障害者の苦
悩を倍加し、偏見を助長するのでは、
という深刻な懸念であった。匿名化が「偏見の
暴風」を引き起こすかもしれない。事件の不可解さに恐怖する一般感情を、
「匿名化
(の理由)」への憶測で誤誘導してはならない。もとより意図的にではないにせよ、結
果的に「精神疾患」
「精神障害」
(近時の「発達障害」なども)
と犯罪を短絡してしま
うような表現は、絶対にあってはならない。 (P57第3章−2「被害者取材」参照)
(3)性犯罪被害者
性犯罪の被害者については被害感情やその後の生活などを考慮して匿名とし、
被害者が特定できないよう配慮する必要があります。ただし、性犯罪の被害者が死
亡した場合は、実名にする場合もあります。
第
3
章
報
道
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材
の
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ド
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イ
ン
(4)詐欺等の被害者
詐欺・脅迫・恐喝の被害者は匿名にすることがあります。ただし金融機関や公的
機関、著名人は実名とします。
(5)自殺
自殺に関しては、一般私人の自殺は原則匿名とします。
心中の場合原則匿名ですが、
自殺する意思のない家族等を巻き込んだ無理心中
の場合は実名にすることもあります。
著名人、容疑者、受刑者などその人物が自殺したことにニュース性がある場合は
実名とします。
いじめによる児童の自殺など社会に衝撃を与えた事案については、遺族の意思を
確認の上、実名とする場合もあります。
(6)公人
行政機関や捜査当局など公権力の行使にかかわる「公人」が適正にその力を行使
しているかチェックする役割をメディアは担っています。その役割を果たすためには実
60
名による報道・取材は欠かせず、
一般人よりも実名報道の必要性は高いといえます。
逮捕や強制捜査に至っていなくても、公的な人物に対する疑惑や捜査機関の聴
取は、実名で報道する場合もあります。
公人の業務に関する告訴・告発を報道する際は、被告訴人を実名で表現した上
で、反論を取材して報道します。
(7)任意捜査・書類送検
参考人などの立場で任意の聴取を受けた人物については原則匿名とします。
書類送検された人物については、罪名や被害の程度、容疑者の社会的立場など
を考慮して実名か匿名か判断します。実名の場合、
「容疑者」もしくは「肩書き」を
つける必要があります。
(8)無罪判決
無罪判決を受けた被告人については、判決が確定するまでは原則実名として「被
告」をつけます。
(9)感染症
感染症やHIV患者は、本人の意思で実名を望んだ場合以外は匿名とします 。
O−157など法定伝染病の集団感染を引き起こした施設も同様です。
事
例
神戸エイズプライバシー訴訟
1987年1月、旧厚生省が「日本人で初めてのエイズ患者が神戸市で確認された」
と発表をした。3日後にこの女性患者が死亡するとマスコミは身元の割り出しに殺到
し、一部の週刊誌は、実家や葬式まで乱入し実名や写真を盗み撮りして掲載した。
患者の名誉やプライバシーが侵害されたとの遺族の訴えに対して1988年、大阪
地裁は「死亡によってプライバシーや名誉、肖像権・人格権も消滅する」としながらも
報道が遺族の「死者に対する敬愛思慕の情を著しく侵害した」と損害賠償を命じた。
(10)
「匿名希望」の取り扱い
被害者やその家族から匿名の希望が伝えられたときは真摯に検討し、関西テレビ
の責任において匿名とするか実名とするか判断します。
61
5 問題となる取材
(1)集団的過熱取材(メディアスクラム)
民放連および新聞協会では、集団的過熱取材を「大きな事件、事故の当事者や
その関係者の元へ多数のメディアが殺到することで、当事者や関係者のプライバシ
ーを侵害し、社会生活を妨げ、
あるいは多大の苦痛を与える状況を作り出してしまう
取材」と定義し、
「このような状況から保護されるべき対象は、被害者、容疑者、被告
人とその家族や周辺住民を含む関係者で、中でも被害者に対しては集団的取材に
より一層の苦痛をもたらすことがないように特段の配慮が必要」としています。
そして、取材者が留意すべき点として以下の項目を挙げています。
①嫌がる取材対象者を集団で執拗に追い回したり、強引に取り囲む取材は避け
る。未成年者、特に幼児・児童の場合は特段の配慮を行う。
②死傷者を出した現場、通夜・葬儀などでは遺族や関係者の心情を踏みにじら
ないように十分配慮する。
③直接の取材対象者だけではなく、近隣の住民の日常生活や感情に配慮する。取
材車両の駐車方法、取材者の服装、飲食や喫煙時のふるまいなどに注意する。
第
3
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報
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しかし、注意しなくてはならないのは、集団的過熱取材への対応は、取材・報道を
自粛することと同義ではないということです。事件・事故の当事者に取材することは
取材の基本です。真実を追求するという報道の使命を果たす上で、取材される側の
プライバシーに最大限配慮するということです。
集団的過熱取材で保護の対象となるのは主に私人です。公人の場合は、報道内
容に公共性がある場合、説明責任が生じ、記者会見なども想定されるため、保護の
対象にはならないこともあります。
(2)身分を隠しての取材
取材の基本は、
自分の所属・取材目的を相手方に告げ、
了解を得て取材することで
す。しかし、非合法・反社会的な対象を取材する場合は例外的に身分を「隠した」
取材もあり得ます。
その際に条件となるのは
①身分や取材目的を明かした場合に、取材が不可能な場合。
②取材内容に公共的利益があること。
③取材内容が真実と信じるに足るものであること。
62
などが考えられます。
週刊朝日の記者が主婦と偽って拘置所で被告と面会し、記事にしたことについて、
1991年7月の東京地裁は「身分、
目的を隠して取材し、公表した場合は、一般的に
プライバシーの侵害として不法行為となりうる。その取材が実際にプライバシー侵害
となるには、身分や目的を秘匿した理由、取材内容の私的性格の程度、公表される
ことの不利益と公表の必要性、記事内容の正確性などを考慮し、総合的に判断す
べき」として、記者の行為をプライバシー侵害と認定しました。
事
例
被災地取材で「偽ボランティア」と指摘される(2004/11)
新潟中越地震被災地の取材で報道関係者の立ち入り禁止規制地域に、関西テ
レビ取材班がボランティア団体の同行取材で、ボランティアメンバーとともに現地に
入る。このことが「身分を偽っての取材活動」と解され、取材を中止、放送もしないこ
とを約束した。ただちに報道局長が現地へ向かい、市長など関係団体へ釈明と謝罪
を行った。原因は取材班が、現場の取材自粛などの取材ルールや現地情報を十分
把握していなかったこと。
(3)電話・インターホン取材
電話やインターホン取材は、相手方に取材・放送の了解が得られているかという
点で疑問が残るうえ、内容の信憑性において直接取材に比べると劣るといえます。
よって多用は避けるべきですが、次の条件を満たせば許される場合もあると考えら
れます。
①取材内容が必要不可欠であり、相手方が直接取材ではなく、電話やインター
ホンの取材を望んでいる場合。
②相手方に身分・取材目的を告げ、録音し放送に使用することについて、事前に
了解が得られている場合。
③時間的な制限などから、直接取材ができない場合。
事件等の聞き込み取材で、
インターホン取材を安易にしないように。
ただし、非合法・反社会的な対象を取材する場合は、例外もあり得ます。
(4)隠し撮り・隠しマイク
通常の取材では認められず、
「身分を隠しての取材」同様、慎重な運用が必要で
す。ただし、
次の条件を満たせば許される場合もあります。
63
①公然の取材方法では映像が得られず、
②その映像や音声なしでは報道目的が達せられず、
③報道目的が公益にかなう場合。
ただし、非合法・反社会的な対象を取材する場合は、例外もあり得ます。
事
例
「営業妨害で喫茶店廃業報道」 BPO/BRC資料(2005/5)
在阪局のニュース番組で、移動販売のたこ焼き屋台を営んでいた女性店主が、駅前
の喫茶店前に車を停め、喫茶店に対して脅迫めいた言葉や嫌がらせを続け喫茶店を廃
業に追いやったという放送をした。この内容に対して女性店主が「番組は盗撮映像や
誘導的会話などをつなぎ合せて構成し、人権を無視し犯罪者扱いにしている。公平な取
材と謝罪を望む」としてBRC
(放送と人権等権利に関する委員会)に審理を申し立てた。
放送局は、本事案は明らかに駐車違反や脅迫など犯罪が成立している。また報復
の恐れがあるといった諸状況を考慮し撮影し収録した。匿名性についても映像を加
工するなど配慮したと反論した。
これに対してBRCは「放送内容の主要な事実は真実であることが証明されている
から名誉毀損など人格権侵害は成立しない。しかし報道の目的意図を明らかにして
申立人から十分な事情聴取をすることなく放送した点において放送倫理違反がある。
また隠しカメラ・隠しマイクによる取材が不可欠であったと認められる事情は存在せず
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この点においても放送倫理違反がある」としている。
(5)謝礼の授受
1)接 待
取材相手から、飲食などの接待を受けたり交通費や宿泊代などのサービスを受
けてはなりません。
2)協力謝礼
取材や中継などで協力してもらったり、便宜を図ってもらったりした場合には謝
礼を支払うことができます。
3)出演謝礼
ニュース取材では原則として謝礼を支払いません。
ただし、以下のようなケースで、謝礼を支払う場合があります。
①インタビューの相手が大学教授や評論家の場合。
②インタビューの相手が芸能・スポーツなどの分野で業績を残している人で、
無報酬では出演してくれない場合など。
64
(6)建物内・公道上での取材
公共の場所( 公道や公園など)での取材・撮影にあたっては、歩行者の通行な
どの妨げにならないように注意しなければなりません。公共の場所でも施設の内部
に関しては管理者の許可が必要な場合が多くあります。雑居ビルなどは管理者の
許可を得るよう努力しなくてはなりません。
(7)子供への取材
事件や事故の取材で、小学生以下の子供にインタビューをする際は保護者など
の許可をとる必要があります。
65
6 個人情報
2005年に施行された「個人情報の保護に関する法律」は、
「報道」
「著述」など
5分野の活動については適用除外としています。
しかし、安全管理や苦情処理のた
めの措置をとり、
その内容を公表する努力義務が課せられています。
いうまでもなく報道機関は、市民の「知る権利」に応えるために取材活動に携わっ
ているわけで、
その過程を踏む中で私たちは取材源から様々な情報を得ることがで
きるのであって、決して特権的に情報を得ているのではないことを忘れてはなりませ
ん。個人情報を適切に管理することは自由で正確な報道のための第一歩であり、保
護法以前の問題なのです。
一方で、個人情報保護法の誤った解釈により、取材活動に支障をきたす場面が
見受けられるようになりました。保護法の趣旨を取材相手に正しく説明し、情報提供
への理解を求める努力が記者には求められています。
(1)情報の入手
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報道目的であることを明らかにして取得することが原則です。報道が公益に合致
するかどうか、代替の手段がないかどうかを検討しながら適正に取得するよう努めな
ければなりません。
(2)情報の保護
入手した個人情報は、紛失・盗難・破壊・漏洩などから保護しなくてはなりません。
①個人情報が記録された紙やUSBメモリーなどのメディアは、常に所在が確認
できるように整理・保管する。
②記者貸与のPCは、ユーザIDやパスワードの取り扱いを厳重にし、ウィルス感
染を防ぐため、セキュリティソフトは常に最新バージョンに保つ。
③視聴者からの情報メールは、管理担当者のみ閲覧できる仕組みとし、その情
報は適切に取材担当者に伝達する。
④取材テープは会社内の定められた場所に保管する。デジタルビデオカメラや
動画ファイルの映像は、ダビングしたテープを社内で保管し、マザーの映像は
消去する。
⑤FAXやメールの送信にあたっては、誤送信しないよう細心の注意を払う。
66
(3)流用の禁止
入手した情報は、
原則として報道目的以外に使用してはなりません。
①当該ニュース以外の報道目的に使用する場合は、情報提供者の了承を得なけ
ればならない。
②原則として情報を第三者に提供してはならない。情報提供の必要が生じた場合
は、報道目的以外に使用されることのないよう、明確に取り決める。
事
例
和歌山毒入りカレー事件裁判
和歌山市の毒物カレー事件の公判で、和歌山地裁は民放6社が放映したインタビ
ューのビデオテープを証拠として採用した。民放連は、取材のインタビューが逮捕以
前に行われたことを踏まえ、
「報道機関が捜査当局に協力者として利用されたことに
なる。こうしたことが続けば、市民の取材拒否に繋がることもあり得る」と指摘。
「市
民の協力によって成り立つ取材の自由が失われれば、国民の『知る権利』が重大な
侵害を受ける」と抗議した。
判決は、
「報道結果を証拠として扱うことは慎重であるべき」としながらもVTRを供
述と認定し証拠能力を認めた上で証拠採用は妥当とした。
(和歌山地裁判決2002年12月)
(4)情報の処分
情報には保管期限を定め、
期限を経過したものはすみやかに廃棄します。
①個人情報が記載された文書は、シュレッダーで裁断したのち廃棄する。
②DVD・CDメディアを破棄する際は、メディアシュレッダーを利用する。
③PCやハードディスク廃棄の際は、消去ソフトを利用するなど、情報を復元されな
いような措置を講じた上で廃棄する。
67
7 報道に関わる著作権問題(P89第4章−5「著作権をめぐって」参照)
(1)自ら取材した物は「原則」自由に使える
関西テレビが独自に取材したものは映像・文字情報共に著作権は関西テレビにあ
るので、編集や加工・放送について、報道の倫理に合致する限り原則自由に使うこと
ができます。FNN系列各局が取材したものについては当該取材局の許可が必要
です。ただし、他人の著作物等著作権がかかわる内容については注意が必要です。
(2)制作会社に依頼した物
関西テレビが「番組の一部」などを外部の制作会社に発注し、取材・編集した物
については、著作権がどちらにあるかを事前に明確にする必要があります。二次使
用などの場合には注意が必要です。
(3)他人の取材した物や著作物は勝手に使えない
他社が放送したものや新聞・雑誌・本などから転写・採録などして放送に使うこと
第
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は基本的にできません(共同通信やロイター・APなどからの配信映像・記事を使える
のは、契約して対価を支払っているからです)。
1)例外∼引用
著作権法32条は「公表された著作物は引用して利用することができる。その引
用は公正な慣行に合致するものであり、
かつ報道、批評、研究その他の引用の目
的上正当な範囲内で行われるものでなければならない」としています。
( 著作者の権利を過度に守りすぎると、他人がその著作物を活用してさらに発
展的に活動することを妨げ、文化の発展に逆行するため)
ただ、
あくまで報道したい「主のテーマ」があった場合に、
その説明や補強材料
として「従」で引用できることに注意しなければなりません。引用する場合は次のこ
とが必要となります。
①「引用」を行う必然性。
②「主」のテーマより長くならず、引用部分を短くする。
③「主」のテーマと差別化を図るため「引用」と分かるように画面に枠を付け
るなどの工夫。
④文字ないしアナウンスで「出処」を明らかにする。
68
2)例外∼事件の報道
著作権法41条は「時事の事件を報道する場合には、当該事件を構成し、又は
当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物は、報道の目的上正当
な範囲において、複製し、及び当該事件の報道に伴って利用することができる。」
としています。
例えば、毒キノコを誤って食用と報道し、食中毒となった人が出た場合や、放送
で参加を呼びかけ、予想外の人数が集まり将棋倒し事故となった場合に、
その元
となった放送は許諾がなくても使えることになります。
(4)視聴者提供映像
高機能の携帯電話の普及などに伴い、視聴者から事件や事故のビデオ・写真等
の提供を受けることがしばしばあります。
これらの権利は当然撮影した本人が持っていますが、提供を受けた時点で使用
の許諾を与えられたと考えられますので使用することができます。ただ、報道目的で
の使用許可と考えられますので二次使用、使用範囲や報道の趣旨については、本
人に確認するなどの注意が必要です。
(5)ニュース素材の二次利用
ニュース素材は報道目的で放送されることを前提に撮影されたものなので、
その
二次使用については慎重でなければなりません。
肖像権やプライバシーなどについても十分配慮しなければなりません。
①ニュース素材の著作権や権利関係を明確にする。
(特に外国の素材や視聴者提供映像など)
②取材相手が報道目的で取材を許可した素材(インタビューや各種イベントなど)
については、あらためて取材先に許可を取る必要がある。
③報道目的に取材した映像なので外部から使用願いがあった場合(放送した後
のダビングビデオテープの提供なども)は営利目的であろうとなかろうと原則
としてこれを認めない。
69
(6)スポーツ素材について
スポーツの素材については二次使用のルールが細かく決められています。
国内のスポーツ競技映像は、定時ニュースでは終了後24時間以内であれば申請
や費用負担なく使用できる場合が多いです。
しかし、
24時間以降に使用する場合は別途手続きが必要です。さらに、
メジャー
リーグや海外サッカー、
ワールドカップ、
オリンピックなど海外スポーツの権利関係は非
常に複雑です。権利関係をクリアにせず放送すると莫大なペナルティーを科せられ
る可能性があります。
スポーツ映像の使用の際はこの点を十分に留意し、
疑問点があればデスクやスポー
ツ部の担当者などに確認することが必要です。
(P92第4章−5「著作権をめぐって」参照)
第
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第4章 表現のガイドライン
虚実皮膜の真実
∼「表現」のプロフェッショナルとして
もとより
「演出」は番組作りの全領域全過程に及ぶ概念であり、
「表現」はさらに普
遍的な概念です。
しかしここでは、
「取材時の演出」は「取材」の項で立論すること
とし、
ロケ編集・スタジオ収録・ポスプロなどの「狭義の作業工程」にかかわる「表現」
について、集中的にガイドラインを編むことにします。オンエアすなわち放送にいたる
「出荷」直前、
までの広範な工程で、
「番組づくりの工場」としての放送局の製造
現場マニュアルの骨格といえるでしょう。
「虚実皮膜の真実」とは近松門左衛門の表現論・演出論と聞きますが、
「調査委
員会報告書」でも「行き過ぎた演出という判定」は実は困難きわまる判断であると記
述されました。
前章に続いて「表現」について深く考える章としたいと思います。
71
1 科学的知識の表現
私たちが犯した過ちは、科学的知識を取り上げた番組に関わることでした。このよ
うな際には、特に注意が必要です。
スタッフの間で取り上げる内容を十分に吟味することはもちろん、
ケースに応じて
専門家の意見を求めるべき局面もあるでしょう。
科学的根拠について諸説があるようなテーマを取り上げる場合には、表現に細心
の注意を払い、無限定に肯定したり、
あるいは断定したりする表現は避けなければ
なりません。
(1)科学的に完全に実証されていない薬事効果・医療効果
科学的に完全に実証されていない、病気に対する治療の医療効果や医薬品の
効能において、安易に一つの治療法や一つの薬剤を効くと断定して紹介をすること
は、極めて危険です。あくまでも「一つの治療・一つの薬剤」として取り上げ、複数の
専門家の意見(賛否両論あれば、両論を)
も紹介しつつ、客観性を担保する必要が
あります。当然、番組のジャンルなど関係なく必要なことです。
第
4
章
表
現
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ド
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イ
ン
エステやダイエット食品、健康食品については、直接に生命や健康に影響がありま
すので、法令によって、厳しく規制されています。医師法や医療法、薬事法などで表
現が規制されるケースが多く、十分な注意が必要です。
事
例
ゲルマニウムブレスレットの効き目
情報番組で、ゲスト出演するタレントから、ゲルマニウムブレスレットで肩こりが治っ
たことを番組中でコメントしたいとお願いされた。
「薬事法」抵触の問題があり、見えるところに装着して出演したが、
コメントはなしで、
納得してもらった。
事 ゲストがお気に入りアイテムを紹介
例
情報番組で、
トークの中で、ゲストタレントが商品紹介。
自分が気に入っている化粧品や健康食品を奨めていたが、中にはCM考査でNG
のものも見られたため、放送後、
プロデューサーに注意。
72
事
例
ホームページの過信
情報番組で、毛が生える天然水を扱っている会社のホームページを紹介したが、
そ
のホームページには、他にどんな痛みにも効くと謳った水も紹介されていた。
安易にホームページのアドレスを掲載するべきではない。
事 看護師が自宅で点滴
例
生放送の情報番組で、看護師を妻に持つタレントが、自宅でも点滴をしていると発
言。注射は医師の指導の下に行うものであり、医療施設外での行為は、緊急を要す
るケース以外は医療法に抵触する。
民間療法などの紹介には、
さらに慎重な対応をするべきです。
医師法・第17条 医師でない者の医業禁止
医師でなければ、医業をなしてはならない。
エステの脱毛行為などに医師法が適用されるケースもあるので注意を。
医師法・第18条 名称の使用制限
医療法・第 3 条 名称の使用制限
医師でなければ、医師又はこれに紛らわしい名称を用いてはならない。
美容整形なども要注意です。
(2)迷信、予言、霊感、占い(血液型を含む)など
1)迷 信
放送基準・第8章53
迷信は肯定的に取り扱わない。
2)占 い
放送基準・第8章54
占い、運勢判断およびこれに類するものは、断定したり、無理に信じさせたりす
るような取り扱いはしない。
3)予 言
放送基準・第8章46
人心に動揺や不安を与えるおそれのある内容のものは慎重に取り扱う。
73
事
例
○○の地震を予言
トーク番組での録画段階チェックで、出演した著名な占い師が出演者の来年の運
勢を占った後、司会者にうながされて「来年、○○の地震を上回る規模の地震が日本
で発生する」と発言。さらに、発生する場所を暗にほのめかす。
上記規定に鑑み削除した。
4)霊 感
放送基準・第3章20
催眠術、心霊術などを取り扱う場合は、児童および青少年に安易な模倣をさ
せないよう特に注意する。
事
例
心霊スポットが渋滞スポットに
情報番組で、心霊スポットとしてあるトンネルを紹介したところ、マニアが殺到して周
辺が交通渋滞となった。
その地区の会長から厳重な抗議があり、次の週の放送で地域に迷惑をかけないよ
うに呼びかけた。
5)血液型による性格分類
第
4
章
表
現
の
ガ
イ
ド
ラ
イ
ン
これは科学的根拠が確立されていません。
「因果関係が立証されていないの
で問題ではない」という主張も意味がありません。性格分類に留まらず、特定の能
力に関わる優劣判断の材料に用いている場合や特定の血液型を持つ人々に対
する差別に繋がっているケースも見られますので注意してください。
(P121第6章−5「関西テレビ放送番組審議会 議事録」参照)
74
資 料 BPOからの要望
2004年12月8日
血液型を扱う番組への要望
放送倫理・番組向上機構〔BPO〕
放送と青少年に関する委員会
「血液型を扱う番組」が相次ぎ放送されている。それらの番組はいずれも、血液型と
本人の性格や病気などとの関係があたかも実証済みであるかのごとく取り上げている。
放送と青少年に関する委員会( 以下、青少年委員会 )にも、
この種の番組に対する批
判的意見および番組がもたらす深刻な状況が多数寄せられている。
それらの意見に共通するのは、
「血液型と性格は本来、関係がないにもかかわらず、
番組の中であたかもこの関係に科学的根拠があるかのように装うのはおかしい」という
ものである。意見の中には、
「これまで娯楽番組として見過ごしてきたが、最近の血液型
番組はますますエスカレートしており、学校や就職で血液型による差別意識が生じてい
る」と指摘するものもあった。
放送局が血液型をテーマとした番組を作る背景には、血液型に対する一種の固定
観念とでもいうべき考え方や見方が広く流布していることがあげられる。
しかし、血液型をめぐるこれらの「考え方や見方」を支える根拠は証明されておらず、
本人の意思ではどうしようもない血液型で人を分類、価値づけするような考え方は社会
的差別に通じる危険がある。血液型判断に対し、大人は"遊び"と一笑に付すこともでき
るが、判断能力に長けていない子供たちの間では必ずしもそういうわけにはいかない。
こうした番組に接した子供たちが、血液型は性格を規定するという固定観念を持ってし
まうおそれがある。
また、番組内で血液型実験と称して、児童が被験者として駆り出されるケースが多く、
この種の"実験"には人道的に問題があると考えざるを得ない。
実験内で、子供たちは、
ある血液型の保有者の一人として出演、顔もはっきり映し出
され、見せ物にされるような作り方になっている。中には子供たちをだますような実験も
含まれており、社会的にみて好ましいとは考えられない。
青少年委員会では、本年6月以降、番組内での"非科学的事柄の扱い"全般について
検討してきたが、
ことに夏以降、血液型による性格分類などを扱った番組に対する視聴
者意見が多く寄せられるようになった。そこで委員会では集中的に「血液型を扱う番組」
を取り上げ、
いくつかの番組については放送局の見解を求め、公表してきた。その過程
で、放送局は「○○と言われています」
「個人差があります」
「血液型ですべてが決まる
わけではありません」
「血液型による偏見や相性の決めつけはやめましょう」など、注意
を喚起するテロップを流すようになった。
しかし、
これは弁解の域を出ず、血液型が個々
75
人の特徴を規定するメッセージとして理解されやすい実態は否定できない。
民放連は、放送基準の「第8章 表現上の配慮」
54条で、次のように定めている。
(54)
占い、運勢判断およびこれに類するものは、断定したり、無理に信じさせ
たりするような取り扱いはしない。
現代人の良識から見て非科学的な迷信や、
これに類する人相、手相、
〔解説〕
骨相、印相、家相、墓相、風水、運命・運勢鑑定、霊感、霊能等を取り上
げる場合は、
これを肯定的に取り扱わない。
これらを踏まえ、青少年委員会としては、
「血液型を扱う番組」の現状は、
この放送基
準に抵触するおそれがあると判断する。青少年委員会は、放送各局に対し、
自局の番
組基準を遵守し、血液型によって人間の性格が規定されるという見方を助長することの
ないよう要望する。
同時に、放送各局は、視聴者から寄せられた意見に真摯に対応し、
占い番組や霊感・
霊能番組などの非科学的内容の取り扱いについて、青少年への配慮を一段と強めら
れるよう要請したい。
第
4
章
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76
2 特殊効果と処理
(1)モザイク・ぼかし
取材・ロケ・放送の基本は実名報道・放送ですので、
「モザイク」
「ぼかし」は取材
源の明示の原則から外れた例外措置となります。
「モザイク」
「ぼかし」は5W1Hの「WHO
( 誰 )」を欠落させることになり、映像の
真実性を損なうとも言え、視聴者の不信を招く恐れもあります。安易に使うことは避け
るべきです。やむをえないインタビューの場合、
カメラアングルなど工夫も必要です。
以下に「モザイク」を検討する必要がある場合をあげることにします。
1)一 般 人
インタビューは顔を出して肉声が基本です。取材交渉では、
この原則を理解し
てもらえるよう相手方を説得すべきです。断った方に対して、顔を出さなければ問
題ないとの解釈で、後ろ姿で出したり、
モザイクやぼかしで出したりなどは、絶対に
してはいけません。断られたら、絶対に放送できないということです。
事
例
インタビューを断った女性
バラエティ番組で、インタビューロケにて中年女性(一般人)がインタビューを断っ
て去って行く所を、顔に「怒りマーク」付けて放送に使用。
名誉回復の措置をとるように要求があった。
撮影場所が公共の場所で、撮影していることが相手にも認識されていると理解
される状況であり、
なおかつ撮影拒否の意思表示がなかった場合には、
プライバシ
ーや肖像権の侵害は発生しないと考えられます。このため、人物にモザイクをかけ
る必要はありません。ただし事件の犯人の直接の目撃者で、犯人が逃走している
場合、
目撃者の安全を確保するために、本人が顔の撮影を許可したとしても、放
送局側で配慮をし、
モザイクをかけることがあります。
2)建物や看板、パンフレットなどの資料
ある建物の映像を撮影・放送することで、事件や疑惑に関係があると誤解され
かねない場合や明らかに営業妨害となる場合にはモザイクをかけることができま
す。逆に、
モザイクをかけずに放送したために、
トラブルになったケースもあり、十分
な注意が必要です。
77
事 パンフレットの社名
例
情報番組で、悪徳商法の紹介でサークル商法の被害者の証言を下に、再現VTR
を流す。しかし、パンフレットの社名にモザイクをかけ忘れたため、当該会社から釈明
文書を求められる。
3)少 年
「少年の氏名・年齢・職業・住居・容貌などにより、
そのものが当該事件の本人と
推知される記事を掲載してはならない」という少年法61条の趣旨を尊重します。
容疑者となった少年の顔写真は使わないが、凶悪事件の容疑者の少年の顔
写真をモザイクをかけて使用するケースがあります。
しかし、多用は避けるべきで
あり、本来、意味を持たないと考えます。使用した場合も、徹底したモザイク処理が
必要です。
少年の自宅の外観、通う学校や職場をそのまま使用することも不可です。ただ
し、画面全体にモザイクをかけることは、
その映像を使用する意味がないので多用
は避けます。建物の部分のアップなどカメラワークを工夫することにより、
モザイクを
かけなくて済むようにします。
学校の制服は、学校の特定に繋がる恐れが強いためモザイク処理します。
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4)被 害 者
被害者の人権は守られなければなりません。
性犯罪やストーカーの被害者の場合はプライバシー保護の点から顔や肉声は
本人が許可する以外は放送すべきではありません。加害者が暴力団など、報復
が予測される場合にも同様の配慮が必要です。
5)情報提供者
取材相手が内部告発者などで、顔や肉声を出すことにより人物が特定され、後
刻、不利益が予想される場合はモザイク処理を検討します。
事
例
通り魔殺人事件のインタビュー
ニュースで、通り魔殺人事件の取材で(事件が未解決の段階)、正面からインタビ
ューした中学生の映像にモザイグ処理などをせず、
そのまま放送した。
この中学生の父親から、犯人からの仕返しなど不測の事態を招きかねないとクレー
ム。以後のニュースでは、映像にモザイクをかけるとともに音声の変換処理をして放
送。また、担当の記者とデスクが中学生の自宅に赴き謝罪した。
78
6)捜 査 員
捜索や現場検証、任意同行などの捜査員の顔にモザイクは必要ありません。
ただし、
スリや痴漢、内偵捜査など犯罪捜査の密着取材などで、事前に顔を出
さないことを約束した場合にはモザイク処理します。
7)手錠・腰縄
「ロス疑惑事件」の裁判で「さらし者にするような連行行為は違法」との判決が
出て以降、手錠や腰縄は人権侵害の恐れがあるとされ、
モザイクをかけます。
ただし、容疑者本人が手錠をかけられたことを殊更にアピールするため、頭上
で掲げる場合には、
その限りではありません。
8)車のナンバー
風景撮影で映ったナンバー、事故を起こした車のナンバーについてはモザイク
の必要はありません。ただし、事故車両が盗難車であることが明らかな場合は、本
来の持ち主に被害が及ぶことも考えられるのでモザイク処理します。違法駐車の
一斉取締りなどではモザイク処理もやむをえません。
有名人・芸能人の車については、
プライバシー保護と犯罪防止の観点からモザ
イクをかけます。
9)個人データ
リストや名簿に掲載された個人の氏名や住所、電話番号などは個人情報であ
るので、撮影前に隠すかモザイク処理します。視聴者が読み取れないよう配慮し
ます。
10)資料映像
資料映像を使用する際、
その映像が視聴者に誤解を与える恐れがある場合に
は、
モザイクまたはぼかしなどの映像処理が必要となります。
11)そ の 他
事故や事件現場の多量の血痕や押収されたわいせつビデオテープなど視聴者
に不快感を与える映像や、遺体や遺体の一部など死者の尊厳を損なう映像につ
いては、使用しないかモザイクをかけるなどの配慮をします。
79
(2)サブリミナル
サブリミナルは、通常の視聴では認知できない速度の画像や音量で本編のテーマ
とは異なるメッセージを挿入し、人の潜在意識に影響を与えるものです。意図のある
なしに関わらず、サブリミナル手法は用いてはいけません。
(3)パカパカ
いわゆるパカパカは、閃光や急速に点滅したり変化する光の画像、
また、極端に短
い画像を瞬時に何回も繰り返して演出効果を強調するものです。特に発育途上の
児童・青少年は、刺激の強い画面を見ることで、
ひきつけ、
けいれん、吐き気、頭痛な
どの「光感受性発作」を起こす可能性が高いとの研究結果が示されています。
民放連では「アニメーション等の映像手法に関するガイドライン」
(放送基準61条)
を設け、映像や光の点滅が原則として1秒間に3回を超える使用を避けるとともに、
「鮮やかな赤色」の点滅は特に慎重に扱うことなどを決めており、
CMでもこのような
表現方法と同じことはできません。また、暗い中で多くのカメラがフラッシュをたいて
撮影を行ない、
それをビデオテープに録画・放送した場合、演出のパカパカと同じ効
果をもたらす恐れがありますので注意が必要です。
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事 通販番組内のパカパカ(2006/4)
例
当社のCS衛星放送で放送した通販番組の中で、
「アニメーション等の映像手法に
関するガイドライン」に抵触するシーン(1秒間に3回以上の映像変化)が含まれていた。
報道発表するとともに総務省衛星放送課並びに近畿総合通信局に報告。従来、購入
番組や通販番組においては納品時に担当者が視認チェックしていたが、総務省の要
請もあり、
チェック体制を強化するため、パカパカ現象を検知する最新機材を導入した。
(4)字幕スーパー
編集・放送において、場所や説明のスーパー、
また、聞き取りにくいインタビューや
強調したい内容のフォロースーパーを出す必要があります。
「見やすさ」という点で、
近年多用されていますが、文字に間違いがあったり、画面が字幕だらけになったり、
タイミングを間違えて内容よりも画面のあわただしさに目が行ってしまったりと危険と
裏腹です。多用は避け、本当に必要なスーパーを吟味する必要があります。
また、
インタビューの内容をフォローするスーパーについては、発言者の意図を意
訳しすぎたり、捻じ曲げたりしないように注意すべきです。
80
(5)ボイスオー バー
ボイスオーバーとは、外国語の発言を、視聴者に分かりやすくするために日本語に
吹きかえるものです。編集段階では、外国語の音をそのままの音量でおいたまま、
日
本語の訳をのせると聞き取れなくなるため、必然的に外国語の音を聞き取れるか聞
き取れないかギリギリまで音量を絞ることとなります。
このときも、意訳しすぎたり、内容を捻じ曲げたり、捏造することが絶対にないように
しなければなりません。
(6)音声の加工など
音声加工は映像でいうモザイクと同様、報道の信頼性を担保するために多用は
避けたいものです。ただし、保護すべき情報提供者や事件の目撃者、
プライバシー
や身の安全を守られるべき被害者については、音声加工を検討します。
聞きづらさを補うため、発言の内容を字幕スーパーでフォローすることが望ましく、
単なる演出上のテクニックで音声加工をしてはいけません。音声の加工ではありま
せんが、映像と音声がまったく関係のない放送例として、以下の事例のような、注意
を要するケースもあります。
事
例
関係のない映像にNBAの歓声
バラエティ番組で内容とはまったく関係のない公園の映像にNBAの試合を観戦し
たときの音声を重ね、
「NBAから許可が出なかったので音声しか流せない」旨の放送
を行った。
(名誉毀損で抗議)
※番組スタッフが現地で直接NBAに許可を得て撮影したテープでもNBAの試合に
関するものはすべてNBAの日本法人に権利があり、一切使用できない。
(P89第4章−5「著作権をめぐって」参照
81
3 人権をまもり差別を助長しない表現
気づかないうちに、
その表現で、多くの人を傷つけていませんか。
その表現が視聴者の皆さんに不快感を与えていませんか。社会的弱者に対して
の気配りはしていますか。単に言葉に気をつければ良いという問題ではありません。
放送人として、
その表現を、多くの視聴者の皆さん、
あるいは特定の人々がどう感じる
か、
その表現で心を痛める人はいないのか、
と思いやる気持ちを持つことが重要です。
すべての国民は基本的人権の享有主体である、すべての国民は個人として尊重
される、すべての国民は法の下において平等である、
このように憲法で基本的人権
は保障されています。一方で「表現の自由」という概念はもちろんありますが、放送
人としては「基本的人権の尊重」が優先すべきだと認識すべきです。
(1)身体・病気への差別
身体的精神的疾患・障害を表現する際、
その病気や障害を持つ方や家族など周
囲の方々が不快や苦痛に感じない表現をすべきです。
「用語マニュアル」などに依
存するのではなく、
その表現が「誰かを傷付けはしまいか」、懸命に思索することが
第
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プロの「表現者」の資格要件です。障害者を侮蔑する表現は絶対避けなければな
りません。特に精神障害については誤解があって、最新の医学的な傾向などを調べ
て、"病気の知識"を得ることが必要です。
安易に病名をたとえに使うことは避けるべきです。
事
例
「自閉症」
生放送で、男性タレントの「近頃、自閉症気味やな」という発言に対して、福祉関係
者および視聴者から「自閉症は語感からひきこもりに至る精神状態やうつ病と同じよ
うに思われがちだが、実は先天的な脳の発達障害であって、誤った考え方で捉えられ
ている。表現に注意して欲しい」と抗議があった。
この事例のご指摘でさえも、専門家によると『自閉症は種々の原因による脳の発達
障害である』とするのが、
より正確な表現であるとのことです。
難治性の疾患の病名告知は、様々な側面を考えなければなりません。
当社制作ドラマ『僕の歩く道』は、
「自閉症」理解の困難さをテーマの中心においた
作品でした。
ドラマの制作においては、
実際に自閉症の方と家族への取材を行うととも
82
に、企画・シナリオハンティング段階からエンディングに至るまで、医事科学監修を専門
家にお願いしました。
その結果このドラマは「障害者問題」を単純にカテゴライズした作品ではなく、
「人
間の普遍性」に到達したドラマとして評価され、
多くの賞を受賞しました。
表現のプロフェッショナル、
プロの表現者を目指す私たちが、
価値ある創造物を社会
に送り出す端緒となるかもしれない出会いが、
様々な領域にあります。
事
例
「妄想」
妄想を語ってネタにするお笑いタレントに対して、
「救急車呼んでるの」という司会
者のつっこみの部分をカット。
「妄想」は精神障害者(統合失調症など)の特徴的症状で救急車のくだりは、患
者さんとご家族には苛酷な表現であると判断。
事 「口唇口蓋裂」
例
バラエティ番組で、出演者が口唇口蓋裂の子供の発音を真似ていると思われるし
ぐさがあって、字幕で正しい発音に直していた。
「障害者を笑いものにしている。障害
者に対する冒涜だ」との抗議があった。侮辱的表現は一切避けるべき。
事 目の不自由な人と落語
例
情報番組で、落語「犬の目玉」を放送後、片目を失明している家族から抗議。患者
の目玉をくりぬいて犬にうっかり食べさせた眼科医が犬の目玉を患者の目に入れると
いう内容の落語で、目の不自由な人に対する配慮に欠けた放送で差し控えるべき
内容だ。
古典落語の芸術性をどう考えるかという理念も一方であるが、十分に注意する必
要がある。
事 ブラインドタッチ
例
バラエティ番組内のクイズで、
「パソコンのキーボードを見ないで打つことを何と言う
か」との問題に対して、正解を「ブラインドタッチ」と言っていた。
現在では、一般に広く使われている言葉だが放送では視覚障害者への配盧からブ
ラインドは使わず、
「タッチタイピング」と言うべきである。
83
(2)出自・境遇などへの差別
職業と同様に出自や境遇に対して差別した表現は避けるべきです。差別的な言
葉に気をつけることはもちろんですが、人は法のもとですべて平等であるという精神
を常に持っていれば、人を見下したり、蔑視する表現はできないはずです。
事 犬の里親
例 ドラマの中で「犬の里親募集」という張り紙が出てくるシーンにたいしてある地域の
里親会の会員から抗議。
「里親を犬、猫の引き取り手を捜す場合に使うと、里子の子供たちが自分たちは犬
猫なみかと悲しむ」という内容で以降、人間以外の場合は里親という表現はしないと
回答した。
事 戸籍を調べるシーン
例
主人公が社員の戸籍謄本を調べるドラマのシーンに対して、厳重な抗議があった。
後日放送の当該ドラマ内で「こうした書類を人事当局が社員に要求するのは行政
指導に反する・‥」というせりふを挿入した。戸籍を調べる行為は、プライバシーの重
大な侵害であり違法である。
事 結婚差別を助長するセリフ
例 「お前もいろいろ条件出しとるんだろう、学歴とか家柄とか」というドラマのせりふは
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結婚差別を助長する。これを明確に否定するせりふなどの表現が必要。
(3)性差別
男女が平等であることを尊重することはもちろんです。
「男女雇用機会均等法」の
制定などで、女性の社会進出など社会状況は著しく変化して「性同一性障害」に対
する理解も進み、以前と同じ感覚で女性、男性のイメージを画一的に認識できない時
代です。また、
ゲイやレスビアンなどのセクシャル・マイノリティーの人々についても正しい
認識が必要です。
事
例
同性愛者を差別視
生の情報番組で、
「昔、俺はホモだったが治った」とタレントが発言。
これは「ホモ」という言葉の使い方はホモセクシャルと言い換えるべきだが、それ以
上に同性愛者を差別視したことが問題で、生放送の中でお詫びした。
84
事 女性蔑視
例
深夜番組で出演者が「生理中の女性は舌の感覚がおかしくなるので、
シェフは男
がほとんどだ」と発言。
科学的根拠もなく、女性蔑視にあたるとして削除した。
(4)人種差別・民族差別
世界人権宣言にも定められているように、すべての人は人種、皮膚の色、言語、宗
教、
などによって差別を受けることは許されることではありません。
事 日本は単一民族
例
外国人タレントの「アメリカは多民族国家だ」という発言に対して、司会者が「日
本は島国で、単一民族」という内容の発言に対して、アイヌ民族団体の会員から抗
議がきた。
団体とも話し合い、事実と異なるので訂正してお詫びしますという放送を行った。
85
4 さまざまな権利概念
(1)名誉権とプライバシー
名誉権とは「個人や団体が社会的名誉を侵害されない権利」で、社会的評価を
低下させる行為は名誉毀損にあたります。プライバシーとは「私生活をみだりに公開
されない権利」です。人それぞれに守られるべきプライバシーがあります。また尊重さ
れるべき人格があります。それらに土足で踏み込むことは決して許されることではあ
りません。
事
例
元夫との家庭内の暮らしぶりを暴露
離婚前後の家庭内での元夫とのプライバシーを赤裸々にかつ一方的にタレントが
語ったバラエティ番組を放送。タレントの元夫がBRC
(放送と人権等権利に関する委
員会)に人権侵害の申し立てを行った。
数度の委員会審議が行われ、委員会決定として著しくプライバシーの侵害があった
として「勧告」が出された。当該番組でお詫び放送を行い、企画、編集体制の見直し
をした。 (P132「BRC決定 第28号」参照)
事
例
テレクラの無断録音を使用
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テレフォンクラブの取材で、電話をかけてきた不倫妻と称する女性の声を勝手に録
音し、音声加工、私的な情報部分を排除して放送。
「あの話をしたのは私だ。無断で使った」との抗議。確認の結果、本人でないこと
が判明したが、電話盗聴の行為はプライバシーの侵害となるばかりか、有線電気通信
法など通信関連の法に抵触する。
事 イニシャルトークでも名誉棄損
例
ゲスト出演の女性タレントが、自分の夫がある女性タレント(イニシャルで発音)から
夜道で「遊びに行きませんか」と誘われたと発言。これに対して大物女性タレントはこ
の女性に対して、名誉毀損で損害賠償訴訟を起こした。
東京地裁は女性タレントに対して33万円の支払いを命ずる判決を出した。イニシャ
ルトークであろうがなかろうが一般視聴者が、対象となっている人物を特定できるよう
な情報は本人を名指ししているのと変わらない。
86
(2)肖像権
肖像権とは「何人もその承諾なしに、みだりにその容貌、姿態を撮影、公表されな
い自由」です。当事者の承諾なしに撮影し放送する際には、
肖像権の侵害には充分
な注意が必要です。
事
例
お見合い パーティの出席者
お見合いパーティに参加する女性の取材で出席者から「顔だしで放送されたことで
不利益を被った」とクレーム。パーティ主催者の同意があり、会場入りロに張り紙など
で出席者には撮影がある旨を伝えていた。また、顔にはモザイクをかけて放送したなど
注意を払ったが、結果的に本人と認識できる放送をした点は肖像権の侵害であると
言わざるを得ない。
集団の撮影で顔が認識できる映像は必ずぼかす。雑踏や電車内での撮影では顔
に寄らない。撮影の確認は必ずスタッフが取る。などの注意が必要である。
(3)期待権
企画が固まり、
取材対象者に取材申し込みをする時点で、
取材を受け入れた側は、
その結果として制作・放送される番組やニュースに対して様々に「期待」をします。
「期待権」が最近の裁判で争点となりました。
事
例
取材対象者に「期待権」―NHK番組改変訴訟で東京高裁―
NHK「問われる戦時性暴力」をめぐる取材対象者とNHK側との裁判で、
2007年
1月、東京高裁は取材対象となった人の「期待権」を認め、当初の説明と大幅に異な
る編集を行ったNHK側に賠償を命じる判決を下した。
「取材結果がどのように編集・使用されるかは、取材に応ずるか否かの決定の要因
となり得る。特にドキュメンタリー番組または教養番組では、取材対象となった事実が
どの範囲でどのように取り上げられるか、取材対象者の意見や活動がどのように反映
されるかは取材される者の重大関心事だ。取材者の言動などにより取材対象者が期
待を抱くのもやむを得ない特段の事情が認められるときは、編集の自由も一定の制約
を受け、取材対象者の番組内容に対する期待と信頼が法的に保護されるべきだ」
その後NHK側は、上告。
この裁判では「期待権」とともに、
いま一つ議論になった大きなテーマがありました。
放送局における「内部的自由」の問題です。
「期待権」は、取材対象者からメディア
側に問いかけられた権利概念ですが、
「内部的自由」はメディア内部の大きな課題
87
です。この事例で、裁判にまで発展した「番組改変」とは、制作会社への局からの改
変要請に端を発しています。さらに局側の実情として、局上層から担当プロデュー
サーへ出された改変指示の妥当性が争点の一つとなりました。
「あるある大事典」調査委員会報告書では、第8章 再発防止策の冒頭 「1.
内部
統制体制の強化・確立」のはじめに「言論・表現の自由と放送の自由の尊重」を置き
、
「放送局における番組制作は、基本的に公権力からも放送局の経営者からも侵害
されない制作の自由が保障されて然るべきである」とされています。さらに「公権力
による放送への介入はできるだけ謙抑的になされる必要があり、言論の自由と公共
の福祉による制限の調和は、
できるだけ自由を尊重しつつ謙抑的な抑制に求められ
るべきで、報道等番組制作担当者を尊重し、
その自主・自律的抑制に委ねるべきで
ある」と明示されています。
事例のケースでは、局上層が放映前に実力政治家らに面談し「相手の発言を必
ママ
要以上に重く受け止め、
その意図をそんたくして改編した」と認定しました。局側は
ママ
「編集の自由」を主張しましたが、判決は「改編は自由の乱用で、編集権の放棄に
等しい」と退けました。局側は即日上告しています。
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88
5 著作権をめぐって
(1)基本となる考え方
番組は様々な人の著作物を利用しているため、権利クリアを確実に行うことが必
要です。最近は、著作権以外の知的財産権( 商標権、意匠権など)
も含め、意識が
高まっているため、権利クリアを怠ると他人の権利を侵害したうえに、
トラブルの発生
に繋がるおそれがあります。
「他人のものは無断で使えない」ことを忘れてはいけません。
事 CDジャケット、写真集、
etc.
例
バラエティ番組で、
CDジャケットや写真集、書籍の表紙を映していた。
書籍を手に持って広げる撮影手法も以前は余り問われなかったが、本来、権利者
の許諾が必要。
(2)権利クリアについて
1)著作物とは何か?
著作権法・第2条
思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音
楽の範囲に属するもの。
例えば、絵画なら、有名な画家が描いたものでも、幼児のものでも著作物となり、
権利が発生します。また、学術論文でいうと、学者のものでも学生のものでも、同じ
く権利が発生することに変わりはありません。
2)どんな人に権利があるか?
原作者( 作家 )、脚本家、出演者( 俳優、歌手、
タレント)、音楽家( 作詞、作曲、
演奏)、美術家など多くの人に権利があります。
俳句、川柳、詩等も著作物です。一部を使う場合も権利クリアが必要です。
3)権利クリアの方法
事前に、文書により許諾を得ておくことが、後々のトラブルの発生防止に繋がり
ます。
しかし、一般の方の写真を借りる場合のように、相手が慣れていないときや、
ニ
ュースでの使用のため緊急を要し、時間がない場合など、文書化が困難な場合
があります。
89
文書化が無理であっても、
「どこで」
「どのように」使用するかをきちんと説明し、
承諾を得る必要があります。
(3)許諾の必要がない場合(例外はどんな場合か)
番組制作に関連する代表的なものをあげておきます。
「報道引用」を直接認める著作権法の規定はありません。以下の二つの境界の
線引きは困難ですが、報道であるため許されるのは、
「時事の事件の報道のための
利用」であることに留意してください。
1)引 用
著作権法・第32条
公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、
そ
の引用は、公正な慣行に合致するものであり、
かつ、報道、批評、研究その他
の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない。
引用のための注意点 (P68第3章−7「報道に関わる著作権問題」参照)
事
例
「引用」の許容範囲とは
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県知事のスキャンダルニュース(女性記者宿泊事件)で、ニュース番組が週刊誌
の記事と写真を無断使用し、ニュースとして伝えた。中身のほとんどが週刊誌の記事
だった。当該局としては「引用」という位置づけだったが、週刊誌から「営業妨害」だ
と強く抗議。
スクープ写真なのに、テレビでやられては週刊誌の売れ行きに大きな影響を与える
というもの。当該局もローカルニュース枠で謝罪した。
雑誌を引用することも可能だが、ニュースのほとんどが雑誌というのは「主従関係」
という引用の枠を超えている。さらにスクープ写真はダメだろう。
2)時事の事件の報道のための利用
著作権法・第41条
写真、映画、放送その他の方法によって時事の事件を報道する場合には、当
該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著
作物は、報道の目的上正当な範囲内において、複製し、及び当該事件の報道
に伴って利用することができる。
90
時事の事件の報道のための利用の注意点
①「当該事件を構成」とは、
その著作物を使用しないと報道にならない場合(例
えば、絵画が盗まれたニュースでその絵画を映像で見せるなど)を指します。
②「当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる」とは、報道するのに利
用を避けられない場合(例えば、有名人が展覧会を訪れたことのニュースで、
展示している美術品がどうしても写りこみ、
カットできないなど)を指します。
事
例
押収された海賊版映像の使用
映画館で隠し撮りした映像を使った海賊版DVDを販売した人間が逮捕されたこと
を伝えるニュースで、海賊版の映像は「当該事件を構成」するものとして、許諾は不要。
しかし、正規版の映像を比較として使用するには許諾が必要となります。
(4)使用の際の注意点∼自社素材の場合
1)ニュース素材を制作番組で使用する場合
報道部に連絡を取り、使用方法を説明し、素材使用の許諾を必ず取って使用し
ます。また、報道のためだけに取材に応じた場合があるため、使用方法によっては、
改めて取材先の許諾が必要なケースがあります。
事
例
寺院の資料映像を無断使用
バラエティ番組で名刹の報道資料映像を無許可で使用。放送後、当該寺院から、
そ
の演出方法が同寺の名誉を著しく損なう内容であったと、厳重な抗議がきた。原因は、
①担当者が報道部に照会しなかったこと
②まったく無関係なテーマで、ネガティブな意味がコメントされるベースの映像に流
用したこと
③全体としてのチェックシステムとルールが不備であったこと
などが複合して起きた。資料保存の際、用途限定・照会先データ等の注意書きを
心がけたい。
支社制作部長が同寺を訪問し、お詫びをする。
資料室よりテープを借用した場合には、使用後すみやかな返却が必要です。
特に、
事件・事故関連の映像は慎重に取り扱わなければなりません。他の番組に
流用されたり、
社外へ持ち出されたりすることはあってはならないことです。テープの
管理面からも使用後すみやかに返却し、再度使用する際には、資科室へ使用申請
をしなおしてください。
91
事
例
すでに使用不可の素材を使用
関西テレビからニュース素材を報道目的で他局に貸したところ、担当ディレクターが
個人で長期間保存したうえ、借りたときとは別目的で使用した。すでにその素材が使
用不可となっていたことも知らなかった。
関西テレビはこれを大きな問題とした。
2)ニュース素材を報道番組で使用する場合
ニュース素材であっても、使用可能な期間に制限があったり、最初の報道の後
に使用制限ができる場合があります。条件を確認する必要があります。
3)番組素材
関西テレビに著作権がある番組といえども、無断では使用できません。二次利
用については、
当該番組のプロデューサーの確認が必要です。
また、映像に写っている出演者の許諾を取る必要もあります。
なお、出演者の所属事務所ではなく、権利者の団体に申請し、許諾をもらわなけ
ればならない場合があります。
4)スポーツ素材 (P70第3章−7「報道に関わる著作権問題」参照)
第
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年々、
スポーツ素材のニュース使用と、二次利用に関して、権利元の制限が厳し
くなっています。使用の際は、必ずスポーツ部に権利クリアの手続き方法を確認し
てください。
スポーツ素材は関西テレビが取材したものであっても、競技主催団体(日本陸
連、
JRA、
プロ野球球団等)への使用許諾が必要となるものがほとんどです。
国内のスポーツ競技映像は、
ニュースとしての使用は競技終了後24時間以内
であれば、
申請や費用負担なく使用できる場合が多くあります。
24時間以降に使
用する場合は別途手続きが必要です。
メジャーリーグや海外サッカーなど海外スポーツの権利関係は非常に複雑です。
権利関係をクリアにせず放送すると莫大なペナルティーを科せられる可能性があ
ります。
スポーツ映像の使用の際はこの点を十分に留意し、疑問点があればスポーツ
部の担当者や報道デスクなどに確認することが必要です。
92
(5)使用の際の注意点∼他社著作物の場合
著作物の使用については勝手に判断せず、分からないことは著作権担当者に相
談するようにしましょう。
1)事前の許諾
原則として、著作物を番組内で使用するには著作権者の事前の許諾が必要
です。
著作権者の許諾は、
1回限りであることが多く、再使用にあたっては確認が必
要です。
①他社の番組を使用する場合、テレビ局や制作プロダクションに申請する必
要があります。相手方が求める手続きを必ず行ってください。また、映像に
写っている出演者の許諾も必要です。
②映画作品を部分利用する場合は、映画の著作権を有する映画会社、映画監
督(本人および日本映画監督協会…監督は著作者人格権を持つため)、脚
本家※(日本脚本家連盟など)のすべてに許諾の申請をする必要があります。
※脚本家の許諾は、テレビドラマの場合でも必要です。
③CMを番組内で利用する場合は、
ACC・CM情報センターに申請し、その指
示により権利クリアを行います。
社内にあるCM素材を使うことはできません。
2)映像提供のスーパー
他社取材の映像を借用して放送する場合、映像提供等のスーパーが必要にな
ることがあります。決まりのロゴ等、条件を先方に必ず確認してください。他社の記
事やVTRを放送して、
その内容に誤りがあった場合、関西テレビも責任を問われ
ることがあるので慎重に対応します。
3)変更等の禁止
著作物を勝手に変更、加工、改ざんすることは許されません。
事
例
新聞記事の無断加工
情報番組で、生活ネタの素材として、新聞のイラストを、新聞社の許諾を得て、放送
に使用。テレビ的に見やすいようにと色付けして放送。新聞社から勝手に著作物に
手を加えたと抗議が。
次の日、番組内で謝罪。
93
4)借用情報の記録
他社からの借用映像を番組内で使用した場合は、借用情報を記録する必要が
あります。他人の著作物を無許諾で再度使用し、権利侵害を起こさないために、
社内の映像ライブラリーシステム
(八索)
に情報が登録できるよう、
データの提出を
行うなどの注意をしてください。
(6)番組著作権の帰属について
番組の制作を制作会社に委託する場合、実態に則して著作権の帰属について
十分に協議し、帰属を決定します。制作会社に著作権が帰属する場合は、関西テレ
ビは放送権の譲渡を受けることになるため、放送できる範囲( 地域 )、期間、放送回
数、
について決定する必要があります。
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6 表現上留意すべきその他の事例
事 適切に演出された事例∼「チャイルドシートをめぐって」
例
ゲスト女優が「うちの子供、チャイルドシート使ったことない」と発言。レギュラーMC
の女性タレントが即座に「ダメだよ、それは。危ないよ!」と諌めた。ゲスト女優の発言
は「道路交通法に違反する」と視聴者からも指摘があったが、
トーク全体で出演者が
その発言を注意し、諌めている。そのやり取り全体を収めている。むしろ、チャイルド
シートの効用について啓発的な会話となっている、
と判断すればこそ編集時、組み込
んだものであった。視聴者にはその旨回答し納得された。MCのナチュラルなトークの
中で、必要不可欠な規範が盛り込まれていて、局アナウンサーも参考になる事例で
ある。
(道路交通法)
事
問題とならなかった事例
例 ①バラエティ番組で、収集家の夫婦を取材。妻の方は人気キャラクターを収集。自宅
でのインタビューでは、背景に、ぬいぐるみ等が映っていた。
(知的財産権)
今回は背景で、アップでないこと、扱いも悪いものではないためそのまま放送。
②番組内で定年になるアナウンサーを"狂気のアナウンサー"と表現していた作家の
著書を紹介。文脈から差別的な意味合いがなくそのまま放送。
(「○○狂」など)
③参議院議員のタレントが、
VTR取材で出演。
放送当日が衆議院選挙の公示日であったが所属する議院が違うため問題なし。
(公選法)
④単発のスペシャルドラマの台本で「女中」という台詞が使われていた。→現代なら
ば「お手伝いさん」
「従業員」と言い換える所、時代設定が昭和初期のため「女中」
のままで訂正せず。
(時代考証と差別表現)
⑤人気番組でゲスト出演者が生い立ちを語る所で「私の母はアイヌの出身で……・」
と告白。→ゲスト自身の言葉であり、
アイヌを差別的に扱っておらず、
そのまま放送。
(民族差別)
95
7 番組と広告の境界線
関西テレビの放送は、番組とCMで構成されています。私たちにとって、番組は、視
聴者が知りたいこと、送り手が伝えたいことを盛り込む表現の場ですが、
CMは、広
告主のメッセージを送ることで経済的に番組を支える場です。この二つは放送法に
よって、截然と区別される必要があります。
また、
番組の中で企業情報や商品情報を取り扱う際にも、
細心の注意が必要です。
(1)広告と番組の識別
広告は、広告であることを明らかに識別することが必要です。行き過ぎたタイアップ
番組やインフォマーシャル、番組連動型CM(シームレスCM)の手法は、
「放送法」
や「放送基準」に抵触する恐れがあり、十分に認識した上で制作しましょう。
【シームレスCM】
シームレスCMの手法は、放送法や放送基準を遵守しながら、
CMであることを明
確にすること。CMのトップとエンドにスポンサーロゴを入れるなど、工夫を施します。
放送法・第51条の2
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一般放送事業者は、対価を得て広告放送を行う場合には、
その放送を受信
する者がその放送が広告放送であることを明らかに識別することができるよう
にしなければならない。
放送基準・第14章92
広告放送はコマーシャルによって、広告放送であることを明らかにしなければ
ならない。
「放送法逐条解説」には、
「例えば、
ある番組の中で広告の意図を持って特定の
商品の有効性を取り上げた場合など、番組の中に広告放送が混在し受信者がこれ
を識別できないときには、受信者の視聴状況に混乱が生じ真実性についての判断を
誤り不測の損害が生じる恐れがあるからである」と解説されています。
96
(2)番組内の企業情報や商品情報
情報番組内で紹介する企業や商品は、関係法令に抵触していないかを確認する
必要があります。CM考査の業態審査で謝絶としている企業や商品を紹介したり、
視聴者プレゼントにすると、違法な業者を肯定的に紹介したということにもなりかねま
せん。また、
CM考査との整合性も取れません。一方、業態審査が受理されている企
業や商品であっても、情報の範囲を超えないように気をつけることは、
CMと番組を識
別するためにも重要なことです。
【プレゼントの注意点】
視聴者プレゼントやスタジオ参加のプレゼントは、
当該商品が関係法令を遵守して
いるか確認することが必要です。医薬品や特別な健康補助食品は不特定多数の
人に配布することが禁じられています。
薬事法
健康増進法
あん摩マツサージ指圧師、
はり師、
きゆう師に関する法律
事 不適切なプレゼント
例 ①スタジオ参加者のプレゼント商品は、業態審査が立ち消えになったスポンサーの商
品であった。ホームページやパンフレットに関係法令に抵触する文言も多くみられ、
業態審査をうけていないスポンサーの商品をプレゼントすることは好ましくない旨を
考査部から伝えた。
②スタジオ参加者のプレゼント商品は、厚生労働省許可の特別用途食品であった。
特別用途食品は、医師や管理栄養士等の相談、指導を得て使用することが適当
である食品で、不特定多数に配る商品ではない。
③スタジオ参加者のプレゼント商品がタイ式マッサージの無料チケットだった。マッサ
ージの施術する人は、
マッサージやツボ治療行為として、
「あん摩マツサージ指圧師、
はり師、
きゆう師等に関する法律(あはき法)」で国家資格を有する必要がある。新
しいマッサージ形態の資格要件には注意が必要。
事 ユニーク商品!でもPSE法不適
例
情報ワイド番組で紹介した「ユニーク新商品(輸入)」。話題の商品ではあったが、放
送時点では電気用品安全法に基づくPSEマークが認定されていなかったことが放送後
判明。
2006年4月1日以降、
PSEマーク未取得の商品は日本での販売が禁止されてい
る。次週放送で訂正をかねてこの旨放送し、輸入販売業者も商品回収に乗り出した。
97
1 すべてのパートナーとともに
1.私たちはパートナーとともに、制作に携わる全員が関西テレビの放送基準および
日本民間放送連盟放送基準を遵守し、放送の社会的責任と公共的使命を重ん
じた良質な番組づくりを目指し、
その意識を徹底させます。
2.私たちはパートナーの意向を常に尊重し、双方の希望を最大限実現する姿勢で
番組制作にあたります。
3.私たちはパートナーに対し企画意図、企画内容を互いに検討・合意してから番組
制作にとりかかるよう努めます。
4.私たちはパートナーと常に自由闊達な意見交換ができる環境づくりの構築を目指
します。
5.私たちはパートナーとともに不断の研鑽を積み、常に倫理の向上につとめるととも
に、パートナーに対しその機会を提供します。
99
2 制作会社の皆さんとともに
1.私たちは制作会社を、
より良い番組を共に創造し、放送文化を支えていく重要な
パートナーであると考え、相互の信頼に基づいた、対等な立場を維持します。
2.私たちは制作会社とともに、
いついかなるときも番組の詳細な情報を共有できるよ
うなシステム作りに努めます。
3.私たちは制作会社とともに、捏造、
やらせ、視聴者に誤解を与える表現や人権侵
害・名誉毀損が行われないよう、放送法・健康増進法などの関係諸法令、
ならび
に関西テレビおよび日本民間放送連盟の放送規準を遵守した番組制作を行い
ます。
4.私たちは独占禁止法、下請法およびこれらの運用規準を遵守し、制作会社に対
して優越的地位の濫用となるような行為は行いません。また、派遣法などの関係
法令を制作会社とともに守ることによって、適正な環境づくりに努めます。
5.私たちは社会の秩序や安全に脅威を与える反社会的勢力・団体に対しては断
固として対決します。名目にかかわらず、
いかなる利益供与も行いません。
6.私たちは制作会社と、企画内容・制作予算・制作スケジュール・権利の帰属およ
び配分等に関して検討の後、合意の上で契約書を締結し、番組制作にあたり
ます。
7.私たちは、番組の内容に違法行為や不正や危険性等があると判断した場合に
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は、制作会社および番組関係者等に、
より詳細な報告を求めるなど必要な措置を
行います。また、問題点を協議し、すみやかに解決を図ります。
8.私たちは制作会社と、不測の事態に備えたそれぞれの役割や義務を、協議によ
って明確にしておきます。その上で、制作過程および放送後に受けるクレームに
対してはすみやかに協議し、両者協力して問題の解決にあたるようにします。
100
3 「発掘!あるある大事典」におけるパートナーシップ
の問題事例 ∼調査委員会報告書の引用による∼
「発掘!あるある大事典」調査委員会の調査報告書によりますと、今回の番組制
作における不正は「番組制作の構造上の問題・背景が凝縮されて起こったもの」と
あり、指摘を受けた「番組立ち上げ時の問題点」
「完全パッケージ方式による制作
委託契約の問題点」
「再委託契約による制作の問題点」
「制作費の削減措置によ
る影響」については発注元・関西テレビと委託先および再委託先の制作会社とのパ
ートナーシップのあり方に深く関わっていたと推察されます。
以下に、教訓として「発掘!あるある大事典」
「発掘!あるある大事典Ⅱ」の制作過
程において、今回の不祥事の背景・誘因にあたる事象を挙げます。教訓にすること
によって、今後の公正かつ良好なパートナーシップを構築する一助にしてください。
(1)番組立ち上げ時の問題点
事
1996年10月よりスタートした「発掘!あるある大事典」は、一社提供による日曜
例 21時の全国ネット番組という放送枠の特性ゆえ、この枠に多大な影響力を持つ広告
代理店により、関西テレビの編成、営業に企画提案された番組であった。また、企画
が採用された時点で、制作会社も広告代理店により想定されていた。
本来なら関西テレビのプロデューサーが権限を持つべき制作会社の選定が広告
代理店の主導により事実上決められてしまったため、番組の立ち上げは制作会社主
導で行われ、関西テレビのプロデューサーの及ぶ権限の範囲は限定的にならざるを
得ず、スタッフの隅々まで指導性を発揮できないような制作体制になってしまった。
一般的に、番組企画のなりたちは、必ずしも関西テレビのプロデューサーやディレ
クターの発案によるものとは限りませんが、企画が決定した後の制作体制の構築に
ついては、関西テレビのプロデューサーは、
その詳細を把握し、指導・監督する立場
であり、
そのような環境を局の編成・制作・営業の幹部も整えなければなりませんで
した。
101
(2)完全パッケージ方式の番組制作におけるリスク管理
事
すでに健康ブームが到来し、多くの健康食品などが売り出され、
まがい物も多く社
例 会問題となっていた中、
2003年5月1日に健康増進法が施行され、
そのガイドラインで
健康食品の過大な効果を宣伝することのないよう要請されていた。関西テレビが制
作委託しているテレワークにおいても、
2005年1月25日放送のテレビ東京「教えて!
ウルトラ実験隊」で実験データについて事実に反して番組を制作する捏造事件 ※が
起きた後も、実験の公正さを確保する方針は示されたものの、関西テレビ、テレワーク
とも制作実態に問題がないか十分な掘り下げ・洗い出しを行うなどの対策や番組の
企画内容の見直し検討などを行わなかった。
※花粉症の治療法を取り上げ、治療の体験実験を行った際、本来は2週間経過後に
花粉症の改善状況を放送すべきところ、
4日後の検査シーンを実験の2週間後の
結果として花粉症が改善されたかのように放送したというもの。
完全パッケージ方式の番組制作では、
ともすれば信頼関係に基づく委託制作会
社の自主性を重んじるあまり、
あるいは丸投げしたために監督意識が薄れ、制作体
制への責任者としての役割遂行に消極的になる場合があります。
しかし、番組の安全性・正確性が急務な場合、関西テレビプロデューサーは、委託
制作会社と協力して、具体的ガイドラインの設定や番組作成手法に対する見直しな
ど、すみやかに適切な対策を講じなければなりません。最終的な放送責任を有する
関西テレビのプロデューサーは、適正な制作体制が構築されているかを指導・監督
する立場にあり、
また疑義が生じた場合は、仔細に報告を求める必要があります。
視聴率の高い安定した番組であっても、
リスク管理体制の点検を怠るべきではありま
せん。
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(3)再委託契約による制作の問題点
事
テレワークと再委託の制作会社との間では納品された放送制作物の委託料支払
例 いが、納品日からではなく、放送日の月末締めで放送月の翌々月の10日払いとされて
いた。この支払い条件によると、再委託先制作会社アジトの『納豆ダイエット編』の
場合、納品日が2006年12月26日であるものの、放送日が2007年1月7日であること
から、委託料の支払いは3月10日となり、納入日から75日後に支払えばいい、
というこ
とになる。
このような支払い方法は、元請け制作会社にVTRの納品日から60日以内に、
しか
102
事 もできるだけすみやかな支払い義務を課している改正下請代金支払遅延等防止法
例 (2004年4月1日施行)2条の2第1項に違反する違法な取り決めであった。関西テレ
ビとテレワークとの契約書においては、テレワークが再委託先制作会社と、下請法等
の法令を遵守し、優越的地位の濫用にあたるような契約を結んでいないかなど、適正
な契約が結ばれているか否か、チェックできる条項が入っていなかった。
当時の関西テレビとテレワークの契約書には、再委託に関する条項がありました
が内容が十分なものではありませんでした。今後は新契約書に則り、元請け制作会
社は番組契約書の「再委託等」の条項に従って、関西テレビに対しても、再委託
先の制作会社に対しても誠実に対応することを明示した約定を交わし、関西テレビ
はそれぞれ適正な関係が築けるよう指導・監督していくことが求められています。
(2007年4月以降、関西テレビの番組契約書には「再委託」の条項内容を詳細なも
のにしている)
事
『納豆ダイエット編』において、再委託先制作会社アジトのAディレクターは、
「納豆
例 でヤセる」理論を初期のβコングリシニンを活用するものからDHEAの摂取に理論構
築を変更する際に、テレワークプロデューサーと制作会社所属の総合演出ディレクタ
ーにβコングリシニンでの企画が実現できなくなった経緯を説明し、
「細かい論拠は不
明だが、
DHEAへのロジック差し替えでいけそうです」と報告した。テレワークプロデュ
ーサーと総合演出ディレクターは、
それ以上深く聞こうとせず、了承した。
またこの変更をテレワークから関西テレビの担当プロデューサーに伝えられたのは、
その4日後であった。
企画成立が危ぶまれるような不安要因を、担当ディレクターがテレワークプロデュ
ーサー、総合演出、関西テレビプロデューサーに率直に伝え気軽に相談できる環境
が整っていれば、
テーマの変更も含め、適切な対策が講じられたのかもしれません。
未成熟なパートナーシップという以外なく、
「調査委員会報告書」が繰り返し指摘さ
れた、表現のプロフェッショナルとしての「チーム全体」の当事者意識の問題をここで
も痛感します。チーム総監督として関西テレビプロデューサーの責任は重く問われ
ます。
103
事
『納豆ダイエット編』で、スタジオ収録終了後の反省会の後、アジトのAディレクター
例 はアジトのプロデューサーに初めて、
「C教授はイソフラボンの話をしていません」
「(ア
メリカ人被験者の)写真は同じものを使っていません」という話を打ち明けた。対して
アジトプロデューサーは「そりゃまずいなあ。何とかしないとね」と語ったものの、
それ以
上具体的な修正作業の指示を行わなかった。また他のディレクターによるデータ改ざ
んや捏造についての報告もされなかった。以後、多忙さにまぎれたせいもあって、
これ
らの問題はそのまま放置された。
2006年12月17日のスタジオ収録から2007年1月7日の放送当日まで、約3週間あ
りました。
もしもこの間、
アジトのディレクターからアジトのプロデューサーに伝えられた
「ボイスオーバーの不正」や「被験者の写真素材の不正な使用」について、
アジトか
らテレワークのプロデューサーや関西テレビプロデューサーに伝えられていたら、捏
造やデータ改ざんなど不正のすべてを防ぎ、
なんらかの対応策を講じることができた
と推測できます。アジトプロデューサーとテレワークおよび関西テレビのプロデューサ
ーも、肝心な時に、
どんなことでも相談できる関係を築いていなかったことが露呈して
しまったと言えます。
(4)制作スケジュールの問題点
事
『納豆ダイエット編』において、ロジックの根幹となる成分をβコングリシニンから
例 DHEAに変更したため、取材および制作にかけられる時間的余裕が少なくなった。番
組の軸となる米国人教授のインタビューは、取材者の現地滞在が30数時間という短
時間で行われ、
また「あるあるミニ実験」
「ミニ実験」では、被験者から採血したものの
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検査に日数がかかることが判明し、途中で放棄されるなど、
とくに後半は泥縄状態とも
いうべき慌ただしさだった。コメントやデータの捏造等は、時間に追われるこうした混乱
中に起きている。
取材対象の変更、ロケ取材、オフラインチェック、スタジオ収録とスケジュールが進
んでいく中、
Aディレクターによって不適切な実験、データの捏造、改ざんが行われて
いたのだが、
その間の正確な経過報告は誰に対しても一切なされなかったし、関西テ
レビプロデューサー、テレワークプロデューサー、総合演出、アジトプロデューサーも作
業の実態を把握することができなかった。
104
あらかじめ定められた収録日までに、
なんとかして取材VTRを完成しようとしたた
め、無理が生じ、
Aディレクターは更なる捏造やデータ改ざんに手を染めてしまったと
考えられます。取材対象を変更した時点で、
Aディレクターが現状を正直に報告して
いれば、
テーマの変更もあり得たし、
『納豆ダイエット』というテーマのままでも、放送日
を遅らせれば、更に十分な取材を重ねて、適切な番組を完成させることができたかも
しれません。不測の事態に対応する柔軟なスケジュール変更も、関西テレビ、元請け
制作会社、再委託制作会社に健全なパートナーシップが結ばれていることが前提と
なります。
(5)番組制作費の問題
事
関西テレビプロデューサー経費は慢性的に不足状態にあったことが分かる。その
例 使途を仔細に見分すると、テーマリサーチ代、携帯サイトブレーン代、交通費、打ち合
わせ費用(さほどの金額ではない)等が主な支出内容であり、用途上必要な出費であ
ると認められる。
「あるあるⅡ」になって以降、東京支社の制作担当者らより総監修者をつけるべき
ではないかといった意見が出されたが、
このような予算状況の下で、経費上の裏づけ
が得られなく実施に移されなかった経緯がうかがわれ、番組の正確性確保のための
措置が番組制作の管理・運営面において十分でなかったことがみられる。
番組予算のほとんどをテレワークへの番組制作委託費に充てていたため、関西テ
レビのプロデューサーは、総監修者をつけるなど新たに番組の危機管理のために充
当できる予算がなく、
また総制作予算の増額も認められる状況にありませんでした。
番組の視聴率が好調を維持していたことに慢心し、予算上の問題点を訴える現場
の声が、真剣な経営上の討議対象とならなかったことが悔やまれます。
また、制作委託された業務が、制作会社からさらに再委託される場合、制作会社
が再委託先にどう制作費を配分するか などについては、従来は「過剰介入すべき
ではない」と抑制的に考えてきました。発注元KTVと委託先テレワークとの「イコー
ル・パートナー」の観点から、制作会社の自律性・予算配分の自己決定権を尊重する
故に(といえば綺麗ごとに過ぎるかもしれませんが)関与せずにいて、委託先から再
委託先への契約・支払い等について万一優越的地位の濫用がなされていればその
ような不健全な関係を是正できるシステムづくりを怠っていたのです。
しかし、今回の経験から、再委託先いわゆる「孫請け」制作会社にこそ実質的な
105
「イコール・パートナーシップ」が具現化されるべきであり、
そのためには互いが「支配
−従属」ではない対等性を確保するための諸条件を、必要に応じて確認しあうこと
が大切であることを学びました。
制作会社テレワークと制作会社アジトの関係性について、私たちは日常的に関心
を持ち注意深く見守ることに、
もっともっと自覚的であらねばならなかったことを、今、
深く反省しています。
資 料 「発掘!あるある大事典」調査委員会報告書「提言」より
制作会社との公正な契約の締結
関西テレビと制作会社との番組制作委託業務においては、
あくまで「イコール・パート
ナー」としての関係性を前提とする。両者の契約にあたっては、関西テレビが自ら優越
的地位の濫用にあたるような契約は決してしない。また、関西テレビが制作を委託した
制作会社が再委託した制作会社に、優越的地位が濫用されることのないよう指導・監
督する。
制作会社との契約に関しては、公正な契約が履行されているかについて、
コンプライ
アンス担当部局が契約書のチェックを行う。
制作会社の自主・独立を促進し、真に対等な制作パートナーとなるために、番組コ
ンテンツに関わる諸権利を分かち合うなど、番組制作委託にあたってのルールを確立
する。
BBCなど、欧米の主要テレビ局では、番組制作会社への制作委託をした場合、制作
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作業に取りかかる前に、予定された制作費用の一部を、手付け金として前渡しすること
が慣例化している。制作会社への制作費の支払いにあたっては、制作開始時に一定
比率の制作費を支払うなど、
それぞれの番組の制作体制に合わせた支払い体制を確
立する。
関西テレビが制作会社と「イコール・パートナー」の関係性を掲げるのは、関西テレビ
が視聴者に提供する放送番組の質の維持・向上を目指すことに繋がるからである。番
組の質の管理については、
「イコール・パートナー」である関西テレビが委託契約をした
制作会社はもちろん、再委託契約をした制作会社においても、関西テレビの放送基準・
ガイドラインを遵守させ、番組制作を行う。
106
資 料 ATP緊急声明
声 明
関西テレビ制作の情報番組「発掘!あるある大事典Ⅱ」で、捏造とされる不祥事が発
覚し、視聴者の信頼を大きく損なう事態を招いたことに関して、社団法人全日本テレビ
番組製作社連盟(ATP)
として深く遺憾の意を表する次第です。
当該放送番組を受託制作した日本テレワーク株式会社からは、
1月24日に当連盟に
退会届けが提出され、
1月31日付で正式に受理されております。
社団法人全日本テレビ番組製作社連盟(ATP)は、
これまで放送番組の質的な向
上と制作者の地位向上、
あわせて労働環境の整備を目指して、各放送局とのイコール・
パートナーシップを相互に確認してきました。それは番組制作の委託・受託の相互関係
の中で、放送事業者と製作事業者があくまで対等の立場で視聴者の信頼を勝ち得て
いくことを志すものです。
今回の不祥事に関し、一部の報道では、放送局と製作会社との重層的な委託・受託
の構造に問題が起因するとの指摘が見られます。また歩調を合わせるかのように、一部
の放送局が外部制作比率を下げざるを得ないとの意志を表明するに到っています。
しかしながら、現段階で伝えられる情報に接する限りでは、今回の不祥事の直接原
因は、当該制作者のジャーナリストとしてのモラルの欠落にあり、
それをもって番組製作
会社一般に同様な欠陥があるかの言説には、断じて同意するわけにはいきません。放
送局と製作会社とを問わず、
テレビ番組にたずさわる人間すべてが、
「事実を誤りなく
伝える」というジャーナリズムの使命を、
あらためて心底に刻み込むことからしか視聴者
の信頼を回復する手立てはないと考えます。
今回の不祥事については、今後、外部識者を交えた関係者による報告書が提出され
た段階で、連盟として詳細な検討を加える所存ですが、以上の点を当面の状況に向け
た声明としてお伝えする次第です。
平成19年2月5日
社団法人全日本テレビ番組製作社連盟
理事長 工藤 英博
(注;この声明は外部調査委員会の報告書が発表される以前にリリースされたものです。)
107
4 「発掘!あるある大事典」以外の問題事例
番組は、関西テレビの局員、制作会社のディレクター、技術会社のカメラマン、
フリ
ーランスの作家など、様々な所属、立場の人々が集まって制作します。一つの番組を
制作し、視聴者に発信する事は、所属、立場が違っていても、
おのおのに責任が発
生し、
また責任の一番の担い手が、関西テレビにあるからこそ、
それぞれの危機管理
の局面にパートナーシップが重要であるという意識を培わなければなりません。
例えば制作会社のディレクターは、
ロケ中のトラブルは関西テレビの責任になると
いう意識を持ってもらうこと。現場判断で、
トラブル解決を図れたとしても、必ず、局の
担当者に報告する事を徹底してもらわないといけません。また、番組制作途中の取
材や構成の整合性に不安が出てきたとき、各担当者だけの問題とせず、番組を統括
している局の担当者に相談したり、放送に向けて対処できる、風通しのいい現場で
なければなりません。
真のパートナーシップとは、
より良い番組を作っていくために必要不可欠なものな
のです。
事
昼の情報番組の商品紹介のコーナーで制作会社のADが、
A社の広報に商品の
例 貸し出しを依頼。番組で扱う事となったが、制作会社の担当ディレクターから出演者
への事前説明が不十分であったため、放送中、
「使用上の注意」に禁じられている取
り扱いをしてしまった。
放送後、
A社の広報担当者より、制作会社の担当ディレクターに電話があり、
「商
品の取り扱いについて遺憾に思う」旨の抗議を受けた。制作会社はお詫びをし、
その
時点で解決したと判断、関西テレビの担当者に報告しなかった。しかし、
その後、
A社
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開発事業部より、関西テレビ営業部宛に抗議がきたため、関西テレビは、詳細な経過
報告とともに、謝罪文をA社に送付した。
局は、営業セクションのように、制作会社とは違う形で、取材先と関係を持つ場合
があります。この事象の場合、制作会社独自の判断だけではなく、
それを局と共有す
ることによって、迅速で丁寧な対応が可能でした。
108
事
例
単発バラエティ番組のエンディングロールで"企画・制作協力"としての制作会社名
表示が、事前の打ち合わせも不足し、欠落してしまった。
対応としては、関西テレビ取締役より、制作会社取締役宛に謝罪文を送付。また、
6局ある番組販売局のうち、事前に編集が間に合った2局については、エンディングテ
ロップを修正し放送した。
この場合の制作会社は、大手タレントプロダクションの一部門であったため、局側
に、"制作協力"という意識が希薄であったと思われます。先の事象とは逆に、局の制
作会社に対する認識不足が、
トラブルを招くこととなりました。
事
ネットバラエティ枠で単発企画に関して、当時の支社制作部長から、大手制作会社
例 を指定された。しかし、その制作会社の所属ディレクターは、ほとんど他局に出向で出
払っていて、当社には実働2名しかスタッフを供出してくれなかった。その後フリーのデ
ィレクターやADをスタッフに加えてもらったが、体制の構築に非常に苦労した。
関西テレビの内部でもコミュニケーションを図り、共通認識の元に制作会社と協議
した上で、最適な体制を構築することに努めるべきでしょう。
事
連続ドラマで制作会社のプロデューサーが、関西テレビに断りなく、出演者の映像
例 も含めた番組ホームページを一部複製し、レコード会社・プロバイダーとの共同ホーム
ページを展開していた。当時、
そのレコード会社の楽曲は、挿入歌としてドラマに使用
されていた。
制作会社のプロデューサーからは、番組宣伝目的のホームページであり、金銭の授
受等はまったくないとの説明は受けたが、著作権侵害であることを理解して貰い、ペー
ジを削除した。また、
プロバイダーから、関西テレビ宛の謝罪文を受け取った。
この事象でも、関西テレビと制作会社が連絡を密にしていれば、番組宣伝のツー
ルとして、
ホームページが有効に使えた可能性もあったでしょう。ただし、
ネット上で
は、放送とまったく違う権利処理が必要であることも、重ねて認識する必要がありま
す。また、基本的に、番組宣伝に関しては、局の広報と相談するという意識を、制作
会社のプロデューサーに持ってもらってください。
(P89第4章−5「著作権をめぐって」参照)
109
事
高額所得者を特集したローカル単発番組で、制作会社が取材先のレストランに対
例 して、当該エリアの局では放送しないことを条件に取材したが、その連絡が関西テレ
ビになされていなかった。また、関西テレビもそのエリアの局に番組販売する旨を制作
会社に事前通知していなかったため放送され、
レストランから強い抗議を受けた。それ
に対して関西テレビは制作会社と対応を協議し、編成局長名の謝罪文を送付してお
詫びをした。
ローカル番組であっても、制作会社と取り交わす契約書によっては、広い範囲の権
利を関西テレビが取得するものがあります。全国の系列局等への番組販売や海外
番組販売、
DVD・書籍などのライツビジネスなど、多様な露出の機会が増えているの
で、局と制作会社により密なコミュニケーションが、求められます。
また、番組販売したコンテンツの編成権は、購入局に委ねられるため、緊急特番編
成などで休止した場合など、放送されないことによって、今回の例とは逆のトラブルを
生じることもあります。
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第6章 説明責任のガイドライン
表現の自由・放送の自由と説明責任
自由で公正な民主主義社会、
その不可欠のインフラとしてテレビは期待されていま
す。
「市民の知る権利」に奉仕する公共的使命に拠って、
放送事業の「表現の自由」
は高度に保障されています。であればこそ、私たちが番組で行った「放送」
「表現」
の一つひとつに、大きな「説明責任」があります。ここまでの番組制作ガイドラインは、
番組の「生産工程」におけるいわば「品質管理」のガイドマニュアルですが、進んで
ここからは「製品」が完成し工場の生産ラインから出荷( 放送 )
されて始まる「説明
責任」のガイドラインです。キーワードはやはり
「自主自律自浄」です。
視聴者と世論
マスコミを媒介に世論は形成されます。世論は一人ひとりの個人の集積ではある
のですが、番組は見ずに紙面のみを見て視聴者情報部に抗議を寄せる方たちの対
応に私たちは狼狽しました。
『その他にも捏造!』の記事の真偽をただちに精査する
すべを視聴者読者は持ち合わせてはおられないのですが、
「マスコミ報道に誤謬な
どゆるされない」のです。そうした無誤謬の高みに私たちも報道機関として場所を得
ていたのであれば、無誤謬神話の傲慢を今しみじみ反省すべきなのでしょう。私た
ちは間違いを犯していました。
視聴者情報を「資源」として活用できるスキル、すなわち「顧客レスポンス」の重要
さを私たちは学びました。視聴者・市民に向けて、真摯で分かりやすい説明責任を
果たさなければなりません。
「詰問する」マスコミは、私たちの説明責任の取り組みを、
視聴者・市民に媒介してくれる協力者であるという認識も重要です。視聴者対応と
危機管理広報はその最前線業務であり、番組制作担当者は「常在戦場」で両セク
ションに全面協力すべきであることは論を待ちません。
111
1 「クレーム」は価値ある「資源」
(1)初期対応の大切さ
自信をもって私たちの製品「番組」を工場から送り出したとしても、
その製品に「欠
陥」が見つかったり、
「瑕疵」を指摘されたりすることはあるでしょう。
「欠陥隠し」は
論外として、私たちの製品「番組」が「製造物責任」を問われるような事態に立ち至
ったとき、
という想定でシミュレーションしてみましょう。
放送後の番組への質問や抗議の発信者には、一般視聴者、新聞・雑誌等のマス
コミ、番組関係者、科学者・医学者ら専門家など、様々な人々がおられます。そしてそ
の抗議や質問が最初に寄せられる部署も、視聴者情報部であったり、本社・支社制
作部、編成部、
それに広報部であったりと様々です。
質問や抗議が例えどこの部署を経由しようとも、
またどんな些細なことであっても、
それを受けたら上司に一報を入れて相談しましょう。
「大げさにしたくない」
「軽微な
ものと考えたい」のは人の常ですが、
自分一人で解決しようとせず、情報と判断を共
有すること、
「報告」
「連絡」
「相談」が大切です。
「ありがちなクレーム」と思える抗議でも、私たちの製品が抗議をされたことの背景
を解明することはなんらかの「意味がある」、つまり「有意義」な営みであると、
クレー
ム対応に積極的な思考(ポジティブシンキング)
を習慣づけることが有益です。
【視聴者対応の基本の基本】
①視聴者情報部からフィードバックされた視聴者の声を謙虚に受け止めて番組
に反映させることが大切です。
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②視聴者からの問い合わせが予想される事柄は、事前に必ず視聴者情報部に
連絡しましょう。
③視聴者情報部から連絡を受けたトラブルに発展しそうなクレームについて、電
話応対するとき、その場で判断せず、相手の言い分を十分聞いてください。
まずクレームの内容をメモします。
「よく調べた上で」
「担当者(上司)と相談
して」あるいは、
「後ほどお答えします」などと伝え、先方の連絡先を聞いて一
度切りましょう。そして事実関係を把握した上で、上司の判断を仰ぎましょう。
112
事
例
バラエティ番組でゲストが語った自身の離婚騒動 その③
「バラエティ番組」においてゲストが自身の離婚騒動に答えるという企画でBRC
(放送と人権等権利に関する委員会)より「勧告」を受けるに至ったが、
これにはいろ
んな問題が内包されている。
【放送後における問題】
当該ゲストの離婚問題に関する発言が初めてであったこともあり、センセーショナル
な話題となった。当然他局からも素材借用の依頼がきて、素材を貸した。
これが、事態を悪化させる一因になった。
さらに、番組販売局に対し普段どおりの販売を行ってしまった。騒動の大きさやタイ
ムリー性を考慮すれば、
1ヵ月近く遅れる放送の番組販売は避けるべきであった。
【クレームに対する問題】
元夫よりクレームを正式に受け取ったのは放送から3ヵ月を過ぎる少し前であった。
ここでは冷静な判断が必要であった。
『番組内での内容の訂正』や『ネットニュースにおける謝罪』等の条件に、
あまりに
も頑なに反発してしまったために、交渉による妥協点を見出す方法を見失ったまま事
態を悪化させてしまったと言える。 (P132「BRC決定 第28号」参照)
(2)生ワイド・放送中に抗議が来た!
生番組放送中、出演者が不適切な発言、例えば、差別発言、政治的に偏った発
言、宗教に関する発言などをした場合、明らかに抗議が予想されたり、実際に抗議
があった場合、
プロデューサーは上司・編成部あるいは考査部と相談し、同生番組
内ですみやかにまた具体的に訂正し謝罪する必要があります。
また、判断に時間がかかる場合でも、訂正・謝罪が必要と思われるものは同時間
枠で訂正し謝罪をすることを心がけましょう。
(3)対応策のアップデート
具体的事例の起こった時点では適正であると思われた「対応・施策」でもそれ以
降に、修正される必要が出てきているものもあります。
対応・施策が時代によって変容することも想定されることです。だから、現況ではど
のように対応するのが最も適切と考えられるのか、繰り返し検討し、対応策をアップデ
イトしておく視点も必要です。
例えば、番組内で不適切発言のあった場合に、
「問題のある文言を再度放送内
113
で繰り返すことは適正でない」との判断から「ただいま不適切な発言があったことを
お詫びいたします」等のコメントで対応した時期がありました。
またある時期には「問題発言を不明瞭にしたまま謝罪するのはかえって不適切」
との判断となり、不穏当発言を再度明確に繰り返した上で、何故それが不適切であ
るかも説明して謝罪するというスタイルに留意しました。
しかし、
これもまたケースバイケースの運用になりました。
日々「想像力」を駆使した、
自律的な判断のトレーニングが必要なのです。
(4)丁寧なレスポンス対応資料を
現在の視聴者対応は、直接制作担当者に至る前に、視聴者情報部内で初動対
応することが多いのですが、
そのための「レスポンス対応資料」を丁寧に作成してお
くことは、制作者の大事な務めです。
「視聴者対応」をできる限り制作者自身に引き寄せ、近づける努力が、番組内容を
高めることになります。丁寧なレスポンス対応資料を準備しましょう。懇切丁寧なレス
ポンス対応能力を番組担当者自身も身につけましょう。
「痛快!エブリデイ」では、視聴者情報部と連携して、視聴者対応にあたるスタッフ
を、番組内にチーム編成するという試みをしています。
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2 VTRの閲覧請求
編集テープの閲覧要求への対応
「取材テープや放送テープを見たい」という希望は、様々な理由で様々な人々から
寄せられます。
しかし取材テープには守られるべき人権やプライバシーのほか、取材
者を信頼して明かされた内容が収録されており、
これを外部に出すことは、取材源の
秘匿の原則をおかす上に報道の自由を損なうものです。また、取材の許諾を得るた
めに、取材対象者に編集テープを見せる約束をしてはいけません。
民事上のトラブルや放送倫理違反として大きな問題に繋がるおそれもあります。究
極の事例として「オウム真理教による坂本弁護士一家殺害事件」のような重大な事態
に繋がることにもなりかねません。必ず上司への「報」
「連」
「相」を徹底しましょう。
事
例
坂本弁護士一家殺害事件 取材テーブ閲覧
オウム真理教による坂本弁護士一家殺人事件では、教団側は在京テレビ局の坂
本弁護士のインタビューを放送前に見て「教団を厳しく批判、追及する内容であるこ
と」を詳細に知り、
そのことが坂本弁護士殺害事件のきっかけになったとしている。
教団は坂本弁護士にも直接訂正を求めたが断られ、
このビデオテープの放送中止
を当該テレビ局に迫った。その後犯行が行われ坂本一家は拉致され殺害された。
一方で、医療や軍事など専門分野について映像を見てもらい、専門家の意見を聞
くこと自体が取材となる場合、
また監修を受ける場合などでは、内容確認のためこち
らから積極的に編集テープを見てもらうこともあります。
1)対立する一方から請求された場合
対立する双方の当事者に取材する際、一方が、相手側のインタビューを収録し
たテープを見せるよう要求した場合は、相手側の許諾を取った後、
インタビューのう
ち、放送で使う部分の要旨だけを口頭で伝えるようにします。
放送で使わない部分まで、知らせる必要はありません。
2)営業目的で請求された場合
取材を受けた人が、営業目的で使うため、放送テープの借用を求めた場合、応
じてはいけません。放送テープは放送を唯一の目的とするものであり、営業目的な
どでの使用は許されません。
3)無関係者から請求された場合
また取材とは直接関係ない視聴者が、放送テープの閲覧や借用を要求する場
115
合もあります。
「放送テープは、放送を唯一の目的として取材、放送したものであり、
放送以外で一般の人に見せることはできません。
「著作権の問題もあり、
テープを
見せることや貸し出すことはできません」と理由を伝えた上で、丁重にそしてはっき
りと断りましょう。
4)捜査機関などから請求された場合
捜査機関などが取材テープを提出するよう要求した場合は、任意に提出する
べきではありません。安易にテープを捜査機関に提出すると、取材された人はもち
ろん、一般の人からの報道機関全体への不信感を招くことにもなります。報道の自
由の根幹にかかわる重大な問題です。捜査機関が法に則り強制捜査で押収す
る場合も、異議申し立てや抗議する意思を明確に示すべきでしょう。
保存ルールの根拠
放送法第5条は、番組審議機関や放送法第4条の規定による関係者が放送内容
を視聴またはその他の方法により確認できるよう、放送後3ヵ月間は保存しておかねば
ならないと定めています。すなわち「訂正もしくは取り消しの請求のあった関係者が視
聴その他の方法により確認することができるように、放送番組の保存をしなければな
らない」と規定しています。この規定により通常は3ヵ月間、
さらに訂正請求などの対
象となった場合は6ヵ月を超えない範囲で同録テープは保存されているわけです。
さらに、
2001年2月、
BRC
(放送と人権等権利に関する委員会)が視聴要請のうち
「権利の侵害を受けたことが客観的に明らかなものだけでなく、その可能性を有する
ものでその主張に一応の合理性があるものに対しては、できる限り視聴させることが
望ましい」という見解を明らかにし、放送事業者の協力を求めました。
「BRCの審理を
公正・迅速に行う上で」という前提があるものの、
「訂正もしくは取り消しの請求のあ
った関係者が視聴その他の方法により確認することができるように」備えなければな
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りません。
5)
「正当な理由」により請求された場合
放送により、権利を侵害されたおそれのある直接の当事者や、代理人などの関
係者およびBPO/BRCなどの機関が放送テープを見たいと要求した場合、
「正
当な理由」であれば、例外的に、放送テープを見せるか、
テープの内容を文書に
起こしたものを提示しなくてはならないことがあります。ただし、放送テープを渡し
てはいけません。
「正当な理由」であるか否か、すなわち「権利の侵害、
その可能
性を有するものでその主張に一応の合理性がある」要請か否かを、原局およびコ
ンプライアンス推進室において的確に判断しなければなりません。
116
3 危機管理広報
「あるある」のように社会を大きく巻き込む不祥事が起きたときには、
マスコミからの
問い合わせが殺到します。そのマスコミに対して、私たちはいかに対応すべきでしょ
うか。有事の際のマスコミ対応は、
経営者はもちろん、
社員全員が当事者意識を持ち、
全力で危機管理を行うことが重要です。
ここからは「危機管理広報」部署との連携をテーマに記述します。
(1)私たちは無謬ではない
放送内容に対する自信と確信は大切なことです。
しかし、
自信と確信があるにもせ
よ、第三者的には「主観的な思い込み」に過ぎず、
「客観的」に疑問が呈されること
があります。
「質問や抗議」をただ門前払いするだけの、
「無誤謬神話」の傲慢は自
戒しなければなりません。
「あるある」の経験のように「深刻な抗議、正確な異議申し
立て」が寄せられた場合の正しい対応について、
「危機管理広報」を全員が当事者
として考えましょう。
私たちには、私たちの側が「間違っている可能性」について指摘を受け、
もう一度
点検してみる「謙虚さ」が必要です。
「謙虚さ」、
それは「自信のなさ」
「主体性のな
さ」とは同義ではなく、
まったく別の資質です。そして「謙虚さ」をベースに、
「視聴者
対応」に加えて最悪の事態を想定した「危機管理広報」のフィールドに「想像力」を
展開させていかなくてはなりません。
(2)初期報道:「予断と憶測」と嘆くなかれ!
「事案」は突然勃発するかに見えます。
しかし、実はかなり時間を置いて後に、
そ
れが「突然偶発した」のではなく、
「起きるべくして起きた」という事が明らかになりま
す。必然的な原因・背景も判明してきます。
しかし、
マスコミの初期報道は、限られた
材料から推測を元に「書き急いだ」記事によって構成されます。それは報道機関とし
ての私たちの報道セクションとて同様で、記者達は限られた時間のなかで精一杯の
取材を試みる努力をするわけです。であればこそ「正確」な初期報道を促す努力は、
「報道される側」
(「あるある」の場合の私たち)
にも不可欠なのではないでしょうか。
「情報開示」
「説明責任」の要諦もここにあるでしょう。情報公開は放送事業の公
益性の観点から当然取り組まなければなりません。
「危機管理広報」が要請される
117
局面においては、初期報道にとりわけ起こり得る「予断と憶測」に対して、可能な限り
の正確性・真実性を保障するためにも情報開示に努力すべきです。
(3)逃げない 、隠さない 、そしてスピーディーに
「予断と憶測」を排除し正確な情報を開示するために、
マスコミからの質問には、
「逃げない、隠さない、
そしてスピーディーに」対応することが重要です。そのため「危
機管理広報」を担当するセクションから問い合わせがあったら、早急に事実関係を
包み隠さず回答してください。全体を通じて5W1Hを正確に記録にとどめておくこと
も大切です。これは後日、調査報告やマスコミ発表時の会社としての統一見解の基
礎データともなるからです。
「あるある」の事例のように、制作担当会社にも同主旨を
すみやかに徹底することが肝要です。
(4)
「自主自律自浄」の実践
その際に、
「有利」
「不利」を尺度に開示すべき情報をスクリーニングすべきでしょ
うか?また開示すべき情報の開示するタイミングをどう判断すべきでしょうか? 一例を
挙げれば、
このガイドライン自体は「開示すべき情報」として公表を前提に編纂され
ているわけです。
しかし空理空論ではなく、
「開示できない情報」は厳然としてありま
す。第三者に関わる個人情報などは、本書掲載「事例」では慎重且つ適切に匿名
化されています。それは「情報隠し」にあたりません。なぜなら、過去に属する事象と
はいえ、私たちにとって、不名誉ないわば「失敗歴」を掲示しています。
しかしその具
体的記述においては「取材源の秘匿」
「個人情報の保護」などの重い規範があり、
一つひとつの判断が、
「自主自律自浄」の具体的実践となるでしょう。
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この「匿名化」が「情報隠し」と指弾されることがあるでしょうか。
「説明責任」を
めぐるガイドラインのヒントは例えばここにあると思います。
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4 お詫びと訂正放送
「あるある」をめぐって、私たちは、
2007年1月21日「納豆ダイエット」、
2007年3月
27日「その他の問題事案」の2回「訂正放送」を全国ネットで放送しました。
2007年4月3日、検証番組として「私たちは何を間違えたのか 検証・発掘!ある
ある大事典」を全国ネットで放送しました。 (1)訂正放送
放送法・第4条には
①「放送事業者が真実でない事項の放送をしたという理由によって、
その放送に
より権利の侵害を受けた本人又はその直接関係者から、放送のあった日から3
箇月以内に請求があったときは、放送事業者は、遅滞なくその放送をした事項
が真実でないかどうかを調査して、
その真実でないことが判明したときは、判明
した日から2日以内に訂正又は取り消しの放送をしなければならない」
②「放送事業者がその放送について真実でない事項を発見したときも、前項と同
様とする」と定められています。
私たちの製品、
「番組」に重大な誤りが確認されたとき、一般工業製品の「リコー
ル」に相当する、
きわめて重大な社会的責務です。誤報を放送した場合の責任は、
いかなる理由があろうと放送局が負います。 (P203 資料編「放送法第4条」参照)
訂正は恥ずべきことですが、訂正に消極的であることは、
かえって視聴者の信頼
を損なうことになりかねません。誠実、迅速、率直、明瞭に対応しなければなりません。
(2)誤報の後・名誉回復
視聴者に先入観や偏見をもたれないように正確な報道を心がけるのは言うまでも
ありませんが、
ときとして取材者が先入観を持ち、無実の人を容疑者のように扱って
しまうケースがあります。
このような場合、報じてきた内容が誤りと分かった時点ですみやかに訂正します。
また、本人の意思を確認しながら、名誉を回復するための放送を行わなくてはなりま
せん。
119
事
例
松本サリン事件「河野さん」誤報(1994/6)
長野県松本市で発生した、いわゆる「松本サリン事件」で第一通報者の会社員
河野義行さんに関する報道で、河野さんを匿名扱いとしたものの、
①有毒ガスは河野さんの自宅で発生した
②河野さんは、除草剤を作ろうとして、有毒ガスを発生させた
との放送をした。放送後の一連の取材や、
これに基づき社内で行った取材面での
検証の結果、河野さんに関する初期報道で、事実に反する報道を行ったことが判明
した。
オウム真理教教団卜ップが起訴され、
「地下鉄サリン事件」に加えて、
「松本サリン
事件」にも関与したとの見解が強まった状況で、同日「FNNスーパータイム」で訂正
放迭を実施した。 第
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5 関西テレビ放送 番組審議会
関西テレビ放送番組審議会は、
放送法に定められた「放送番組審議機関」として、
平素から関西テレビの番組に対して貴重で有益なご提言をなされてきました。
「発
掘!あるある大事典Ⅱ」を例にあげれば、
2004年4月の第445回番組審議会におい
て、以下のような「批評」をいただいていました。
(議事録より抜粋)
A委員 「発掘!あるある大事典Ⅱ」を見ますと、非常に面白かったんですが、
先にうちの奥さんが見まして、見ろ見ろと言うものですから私も見まして、自分は
AB型でうちの奥さんはA型なんですが、
「これは当たってる」と言うわけですね。
当たっているのかどうかは別として、僕はそこで、血液型でものを考えるふうにし
て決定論でやってしまうと人間なかなか進歩しにくいので、血液型ではこういう
特徴があるけれども血液型で左右されないような生き方をするにはどうしたらい
いか、
ということが入っているような番組の作り方も必要だと思うのです。血液型
だけでやると、
A型の人は全部靴を揃えるのかと。うちのゼミなんかで合宿したら、
靴揃えるのー人もいないんですね。そうするとこれは、血液型ではなくて教育の
問題であることがはっきりしました。人間の修行の問題に力を入れた、そういう観
点が必要じやないかと思いました。
B委員 一番面白いのは、
「発掘!あるある大事典Ⅱ」です。これは力もお金
の入れ方も全然違うと思います。血液型による性格診断とか病気、よくある話で
すけれども、それぞれ一人ひとりが個別に興味をかき立てられる問題で、それが
良かったのだと思いますが、私自身は血液型で云々するのはまったく嫌いな方で
して、血液型の話をするやつとは付き合いたくない、そんな印象です。でもこの
番組は、私にとってはあほらしいなと思いながらも笑って、
1時間半見られるトーク
番組になったと思います。特に志村けんさんが入られてぐっと卜一クが面白くなっ
た感じがしました。これは情報系番組なのかお笑いバラエティ番組なのか、情報
系番組というよりもお笑い系番組の印象が強くなったと思います。これまでの
「発掘!あるある大事典Ⅰ」は押し付けがましいところがあったので、私にはこっ
ちの方が、笑って見られる方がいいかなと思いました。
ただ、血液型による保育とはどんなものか、ちょっと薄気味悪い。どういう目的
を持っておられるのか、それを売り物にしておられるなら何か変じゃないかと。実
験動物のマウスみたいに印を付けられているようでいい感じがしない。やってい
121
れば性格が強まるし、すりこみも強まるから当然ああいう結果が出るかもしれない。
やらせではないかもしれませんが、結果的にはやらせかもしれない、そういう印象
を受けました。血液型が個人情報であるのは確かです。大人でやってほしい。子
供を使ってああいうのはどうかなと、少しそういう印象を持ちました。
私たちは、
こうした貴重なご提言にもかかわらず、糧とすることができなかったこと
を深く反省しなければなりません。審議いただいた内容を全社的に共有し、実効性
ある改善策を実施し、
その経過と結果をフィードバックし、
ご報告することに、一層の
努力を傾注します。
資 料 関西テレビ放送番組審議会の見解
2007年2月8日
「発掘!あるある大事典Ⅱ」
第140回「食べてヤセる!
!
! 食材Xの新事実」に関する見解
関西テレビ放送番組審議会委員一同
今回問題とされ、関西テレビ自体も「データ捏造」と「放送倫理違反」を認めている、
2007年1月7日
(日)午後9時∼9時54分放送の「発掘!あるある大事典Ⅱ」第140回
「食べてヤセる!
!
!食材Xの新事実」に関する件が、本日の番組審議会の議題として審
議されました。
今回の件は放映された番組に「データの捏造」があったということであり、番組審議
第
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会としてもそのような番組が制作、放映されたこと、
ならびに、
この件が大きな社会問題と
なり、放送に対する視聴者の信頼低下の大きな要因となっていることにまず遺憾の意を
表明いたしました。つづいて、本件ではすでに1月23日に以下の二点を申し入れており
ますので、
そのことを確認いたしました。
1、今回の事案発生の経緯をできるだけ早く番組審議会委員に報告していただくこと、
ならびに次回委員会において議題としていただきたいこと。
2、同種の出来事の再発防止のためには、番組のチェック制度の拡充を含む対策の具
体化が必要だと思われますが、可及的すみやかに実現していただくと同時に番組
審議会にご報告いただきたいこと。
122
これらの点については、
これまでに関西テレビより委員に対して経過の説明とともに、
番組「過誤」内容の説明がなされたこと、
さらに、事案の「外部による調査委員会」の発
足などによる対応がなされつつあることを評価しました。
しかし、今回の問題が、局内部のチェックではなく、外部からの指摘により発覚したこ
と自体、番組審議会委員一同痛恨の極みであります。このようなデータの捏造は、放送
関連法規からいっても、社会通念上も決して是認されないことであり、
このような状態が
続きますと、健全な放送文化が毀損されるような状況になりかねません。放送の社会的
使命を考えたとき、国民の言論・表現・情報の自由を代行し、健全な社会を維持、向上さ
せるためにも、今後の同種問題の再発防止こそ肝要であります。
そうした立場から、委員会としては放送法が規定する範囲内において、
これまでの放
送分に同種の事例がなかったかどうかの検証ならびに本事案発生に関する徹底的な
原因解明とともに、具体的な防止策の自主的公表とその実行をされるよう、再度、関西
テレビに対して「意見」具申いたしました。
なお番組審議会に関する放送関連法規定は以下(略)のようで、本来的には審議会
は放送事業者の諮問に応じて審議、意見開陳をするものであり、
その権限には限界が
あります。私たちとしては、関西テレビ当局が誠意をもって適切な対応をとられることを強
く希望する旨伝えました。
(注;この見解は外部調査委員会の報告書が発表される以前にリリースされたものです)
123
6 放送活性化委員会
放送活性化委員会は、
「あるあるⅡ」問題を受けた外部調査委員会の提言に沿
って、関西テレビ再生委員会からの答申によって設置された外部の有識者からなる
委員会です。第三者の視点に立って、番組だけにとどまらず、経営全般に至るまで、
関西テレビに対して、広く論評・注意喚起・提言を行う組織です。
その第一義的な目的は、視聴者の皆さんとの回路作りです。関西テレビを、社外
から恒常的に見ている関西在住の視聴者の皆さん、言い換えれば、関西テレビを監
視してくれている視聴者の皆さんの声に、
より一層耳を傾けようとするものです。その
ような視聴者の皆さんに対する姿勢が、
とかく一方的になりがちな視聴者の皆さんと
の向き合い方を是正し、
ひいては「視聴者の皆さんに支持される関西テレビ」を実現
していきます。
また「発掘!あるある大事典Ⅱ」における一連の不祥事において、
その発覚前から
番組に対する疑問の声が外部から挙がっていたのにもかかわらず、
それに気づけな
かった要因の一つは、放送局側の視聴者の皆さんに対する「奢り」であったとの指
摘が多かったことを踏まえ、視聴者の皆さんとの回路をより強化し、
かつ、視聴者の
皆さんからの苦情、人権侵害に関する抗議に対し、真摯に向き合う苦情処理制度と
して、
オンブズマン機能をこの委員会が担います。
また、既存の番組審議会での意見や、視聴者情報部に集まる一般視聴者の意見・
苦情、人権侵害にかかる抗議など、主にネガティブ情報に目配りをし、
その改善を求
めます。
具体的な役割は次の各点です。
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1)オンブズマン機能
視聴者情報部が集約した視聴者などから届いた意見、批判、苦情などを、第三
者の視点から吟味・検討し、
その結果によっては、委員会事務局(コンプライアンス
推進部)に調査を指示し、
さらにその結果によっては、会社に改善策を求めます。
また、放送による人権侵害などの抗議・苦情に関して、会社から独立した立場で調
査・検証し、
その内容を社内に還元し、関西テレビに救済措置などの改善策を求
めます。
2)内部的自由の担保
関西テレビの報道、番組制作に携わる者が、関西テレビ放送番組基準に沿わな
124
い、良心に反する業務を命じられたときなどには、放送活性化委員会に「救済」を
申し出ることができます。委員会は事実関係を調査の上、必要あると認めたときは、
見解をまとめ、場合によっては関西テレビに対し、注意喚起・改善を求めます。
その他、
「放送活性化委員会特選賞」の選奨や、関西テレビの再発防止策、再建
策の実施状況の評価も行います。
放送活性化委員会で討議された事案において、委員会の出した結論を関西テレ
ビは尊重します。ただし、委員会の結論は、関西テレビの判断を絶対的に拘束するも
のではありません。
また委員会は、
自らの意志を社会に意見表明をする場として、関西テレビの「月刊
カンテレ批評」等、関西テレビの自己検証番組での発言権を持ち、関西テレビは、委
員会から要請があった際は、同番組での委員会の発言を保障します。また、関西テ
レビのホームページ内に放送活性化委員会のサイトを設け、
その編集権は委員会が
持ちます。
125
7 BPO(放送倫理・番組向上機構)
BPO
(放送倫理・番組向上機構)は、現在
①BRC
(放送と人権等権利に関する委員会)
②放送と青少年に関する委員会
③放送倫理検証委員会
の3委員会から構成されています。
(1)新たに設立されたBPO放送倫理検証委員会
「発掘!あるある大事典Ⅱ」における捏造があきらかになった直後から、
BPOにも
視聴者から多数の抗議が寄せられました。BPO理事長声明、放送番組委員会声
明が相次いで発表されました。放送倫理の確立と放送不祥事の再発防止を担う機
能を強化すべく放送番組委員会を解散し、新たにBPO「放送倫理検証委員会」が
設立されたのです。
(2007年5月)
放送の自主自律自浄のために放送業界をあげて取り組まれたこうした大きな動き
のその端緒に、
「発掘!あるある大事典Ⅱ」における捏造があったことを、私たちは瞬
時も忘れることなく、深く脳裏に刻まなければなりません。
資 料 BPO理事長声明
2007年1月29日
放送倫理・番組向上機構〔BPO〕
理事長 清水 英夫
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放送倫理・番組向上機構〔BPO〕は、
自主的かつ独立した立場から、正確な放送と
放送倫理の高揚に資することを目的に第三者機関として設立された。
このBPOの使命と役割に鑑みて、放送番組に関する一連の不祥事に対しては、深
刻な憂慮の念を禁じえない。特に最近、関西テレビが制作しネット放送された番組『発
掘!あるある大事典Ⅱ』の実験データなどが捏造とされる問題については、当該局のみ
ならずBPOに対しても、視聴者からの抗議が相次いでいる。従前にも同様の事例があ
ったが、
いずれも放送局の姿勢や倫理が問われる内容であり、緊張感や責任感を著し
く欠いたとの謗りを免れ難い。
126
近時、放送特にテレビの社会的影響力はますます増大している折から、関係者には
それにふさわしい認識と対応が求められている。このような事態が繰り返されれば、放
送に対する視聴者の信頼を失墜させ、
ひいては放送の自由を危うくすることとなる。
今後放送界全体として、強く反省自戒し、公権力の介入を招くことなく、放送への信
頼回復等に一層努めるよう切望する。
(注;この声明は外部調査委員会の報告書が発表される以前にリリースされたものです。)
資 料 BPO放送番組委員会(有識者委員)声明
2007年2月7日
放送倫理・番組向上機構〔BPO〕
放送番組委員会(有識者委員)
放送倫理・番組向上機構〔BPO〕の放送番組委員会( 有識者委員)は、放送活動
全般の質的向上を願って、放送の理念や倫理に関わる問題から取材・制作のあり方
まで、第 三 者の立 場から広く審 議し、
ときには具 体 的な事 例に即して議 論を重ねて
いる。
そのような私たちにとって、関西テレビ制作の『発掘!あるある大事典Ⅱ』が起こした
データ等の捏造問題は、
ジャーナリズム産業の基本の放棄であり、視聴者の期待を裏
切り、放送界全体の信頼性を損ない、
ひいては言論・表現・報道の自由を危うくする出
来事と言わざるを得ない。
これまでも放送界はしばしば深刻な不祥事を繰り返してきた。そのたびに放送局は陳
謝し、再生や再発防止を誓ってきたが、不祥事はいっこうに収まらない。一つひとつの態
様は異なるとはいえ、
こうしたことが繰り返される背景には、放送界が全体として抱える
構造的な問題がありはしないだろうか。
私たちは今回の問題についても、単に1テレビ局の、
あるいは1制作会社や制作担当
者の問題としてだけでなく、放送界全体が抱える構造的な問題としてとらえる視点が重
要だと考えている。その観点に立って、
さしあたって以下の3点を指摘し、放送事業者
の自主・自律による、今後の全容解明と効果的な再発防止に向けた取り組みに期待し
たい。
127
1.番組制作システムの問題
現在の番組制作においては、分業化が進んでいる。一つの番組が制作会社をはじ
めとする外部協力によって制作されることが当たり前になり、何重もの下請け化によって、
実際の番組制作へのコスト面のしわ寄せなども常態化している。
こうした分業構造は、広範囲にわたって、番組制作環境の悪化を招いている。外部
の制作者は時間に追われて余裕もなく、
ときには他の仕事とかけ持ちし、十分な取材や
調査ができないまま、番組作りが進んでいく。
また、
この分業構造は、発注側のテレビ局の番組制作力を削ぐだけでなく、製造業で
いう
「品質管理」能力の低下をもたらしている。制作経験の少ないテレビ局のプロデュ
ーサーやディレクターが、外部制作番組の管理を行い、納品される番組の完成度や正
確性を判断することには無理な面がある。
このような番組制作システムのもとでは、一貫した、
きめの細かい品質管理を行うこと
が難しくなっているのではないかと私たちは危惧している。今回の事件についても、
そ
の原因を一部の関係者の不心得に帰すのではなく、すでに放送界に定着した番組制
作システムの構造それ自体の問題としてとらえる視点が必要である。
2.放送従事者の教育システムの問題
言うまでもなく放送は、民主主義の根幹をなす言論・表現・報道の自由に立脚する事
業の一つであり、
これに従事する者は、
その自由を享受すると同時に、
それにふさわしい
見識と責任意識を持たなければならない。
しかし、事業が大規模になり、技術が複雑化し、番組が多様化し、視聴率競争が激
化する慌ただしさのなかでは、見識や責任意識はしばしば等閑視されがちである。また
見識や責任意識といっても、組織統治や法令遵守から、番組の企画・取材・編集、
さら
に取材対象との接し方や距離の取り方まで、
それぞれの仕事に応じた具体性と専門性
を有しなければ、
たんなるお題目に終わってしまう。
各局も社員研修等はしているが、番組制作が外部協力によって行われている現状で
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は、外部制作者の末端までにも、真に実効性のある教育システムが必要である。
また、将来的には、一定の経験を積んだ放送従事者が更に見識を深めるため、放送
界が、豊かで専門性の高い教育制度作りに取り組むことを、私たちは期待したい。
3.公権力が放送に介入することへの懸念
私たちは、
ここ1、
2年、政府・総務省による放送界への関与・介入が強まっているとい
う印象を持っている。NHKの国際放送に対する「命令放送」、民放の報道番組やスポ
ーツ中継の不手際に関する「厳重注意」等々、頻繁に関与・介入が行われている。
今回の関西テレビの不祥事に関しても、総務省は「報告」を求めている。
128
これらは、
いずれも放送法や電波法に基づくとされるが、本来、民主主義社会の根幹
をなす言論・表現・報道の自由の重要性に鑑みれば、慎重の上にも慎重を期すべき事
柄であり、行政の役割は、直接に指示したり、懲罰的な行政指導を行うことではないと考
える。
私たちは、健全で、魅力にあふれた放送が、民主主義社会をいきいきと成熟させるた
めに欠かせないと考えている。今回の問題にせよ、
これまでも相次いだ不祥事にせよ、
その底流には、構造的な問題が横たわっていることを示しているが、
その深部への切開
が行われ、
そこから再発防止のための具体的な手だてが講じられなければ、
この国の
民主主義の将来も危ういと、私たちは深く憂慮している。
(注;この声明は外部調査委員会の報告書が発表される以前にリリースされたものです。)
資 料 BPO放送倫理検証委員会概要
2007年5月
BPO放送倫理検証委員会概要
1.
目 的
委員会は、放送倫理を高め、放送番組の質を向上させるための審議を行う。万一、
虚偽の内容により視聴者に著しい誤解を与えた疑いのある番組が放送された場合、放
送倫理上問題があったか否かを調査・審理して「勧告」または「見解」を出す。また、必
要に応じて再発防止策の提出を求め、
その実効性を検証する。こうした一連の活動に
よって、放送界の自浄機能を確立し、視聴者の信頼を回復するとともに、表現の自由を
守ることを目的とする。
2.
特 徴
委員会の権限と、放送局の協力・遵守事項を明確にし、実効性を担保するために、
B
POと各放送局が個別に合意書を取り交わす。
(委員会の権限)
● 委員会は、
第三者委員で構成され、調査権限と、
それに基づく判断権限、再発防止
策の提出等を求める権限を持つ。
(放送局の協力・遵守事項)
● 委員会の調査に協力し、
委員会の「要望」や「見解」を尊重し、
「勧告」を遵守し実
行する。
● 再発防止策の提出、
履行。
129
● 審理結果を視聴者に周知させるために、
相当な時間帯・内容の放送を行う。
3.
活動内容
委員会の具体的活動内容は次の通り。
(会議の開催)
● 委員会は、
毎月1回開催するほか、事案に応じて臨時に開催する。
(審議と審理)
● 委員会は、
通常の「審議」と、虚偽放送事案の「審理」を区別する。
「審議」
:放送倫理を高め、放送番組の質を向上させるため、放送番組の取材・制作
のあり方や、番組内容などに関する問題について審議する。必要に応じて意見を公
表することができる。
「審理」
:虚偽の疑いがある番組が放送されたことにより、視聴者に著しい誤解を与
えた疑いがあると判断した場合に、
その番組が放送倫理上問題があったか否か、
ま
た、再発防止策の提出を求めるかどうかを判断する。委員会の決定は当該放送局の
番組審議会にも伝える。
(審理対象番組の決定)
● 対象番組は委員会が決定する。
ケースとしては ①放送事業者から自主的に委員会に報告があった番組。
②番組関係者や外部関係者、視聴者などから指摘された番組。
③その他、委員会が必要と判断した番組。
(調査)
● 委員会は、
対象番組の審理のために必要な調査を行う。放送事業者および制作会
社等関係者に対して関連資料や、放送済みテープ等の提出を求め、事情聴取を行う
ことができる。
★特別調査チーム
委員会は、事案に応じて、専門家からなる特別調査チームを設置して、集中的・
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機動的な調査を行うことができる。
★放送事業者に対する外部調査委員会の設置勧告等
委員会は、事案に応じ( 調査が複雑で大規模になる場合等 )当該放送事業者
に対して、第三者委員による外部調査委員会の設置を勧告し、委員の人選、調
査項目についても意見を述べ 、途中経過を含めた調査内容の報告を求めるこ
とができる。
(委員会判断基準)
● 委員会は、
各放送局が定めた番組基準やガイドラインも参考にして、放送倫理上問
題があるかどうかを独自に判断する。
130
(2)BPO放送と青少年に関する委員会
『発掘!あるある大事典Ⅱ』の初回(2004年4月)放送の内容に関して、
BPO「放
送と青少年に関する委員会」は重大な懸念を抱かれました。
「発掘!あるある大事
典Ⅱ」の初回(2004年4月4日放送)は、
「血液型スペシャル」と題して、血液型により
脳の働きが異なるという論拠を基にして、血液型と性格・健康に関係がある旨の解
説をした上で、保育園児童を被験者とした行動パターンの実験、成人を使用した性
格に関する調査・実験をして実証するという内容でした。番組は高視聴率を獲得し、
そして他局も類似番組で追随しました。
BPO「放送と青少年に関する委員会」は同年12月8日「『血液型を扱う番組』に
たいする要望」を放送各局に対し提示し、番組制作上の注意を促しました。内容は
「血液型番組のエスカレートにより、学校や就職で血液型による差別意識が生じて
いる旨指摘するものがあることや、科学的根拠は証明されていないこと、児童を被験
者とする実験に人道的な問題があることなどから、民間放送連盟放送基準54条(占
い、運勢判断およびこれに類するものは、断定したり、無理に信じさせたりするような
取り扱いはしない)
に抵触するおそれがある、
というものでした。
この「要望」が発表される前に、当社番組審議会においても、同様主旨の警鐘が
(P75参照)
当社番組審議委員から発せられていたことも、資料「BPOからの要望」
に既述したとおりです。
説明責任とは、
アカウンタビリティー(Accountabi
l
i
ty)の訳語とされますが、私た
ちはこうした誠実な問いかけに対し、真摯に釈明すべき義務があったのです。その
取り組みの過程において私たちは、後に「捏造」を招き寄せる構造を正すことができ
たはずだったのです。
(3)BPO/BRC(放送と人権等権利に関する委員会)
すでに28ページなどで既述したとおり、私たちはBRC
(放送と人権等権利に関す
る委員会)から、
「勧告」を受けました。バラエティ番組では初めてのものでした。以
下にその「委員会の判断」をBRCの許諾を得て引用します。
( 主要な出演者の名前をタレントA、
タレントBと表記するのは、当ガイドライン制定
委員会の判断で、
「BRC決定第28号」原文は実名で開示されています)
131
資 料 BRC決定 第28号
2006年3月28日
バラエティー番組における人格権侵害の訴え
<東京都在住の会社役員からの申し立て>
Ⅰ.申立てに至る経緯 対象となった放送番組
関西テレビ トークバラエティー番組「たかじん胸いっぱい」
放送時間 ①2005年6月25日 午後0時∼午後1時
②2005年7月 9日 午後0時∼午後1時
本件番組は、
タレントのA氏が司会し、落語家など数名のゲストが出演している昼の
時間帯のトークバラエティー番組である。 ①の6月放送の番組には、
申立人の当時の
妻のタレントB氏がゲスト出演し、結婚生活等について赤裸々に語った。 ②の7月放送
の番組には、
B氏は出演しなかったが、出演者たちが先の番組におけるB氏の発言にも
とづいて、
トークを繰り広げた。
申立人は、
2005年1月にB氏と結婚し同年8月に離婚したが、上記番組によって申立
人の名誉及びプライバシーが著しく侵害されたとして、同年9月21日関西テレビに文書
で抗議し、取り消しと謝罪放送を求めた。
これに対し、関西テレビは同年10月14日申立人側の要求には一切応じない旨を回答
した。
当事者同士の交渉が不調に終わったことを受けて、申立人は同年11月30日付で
「権利侵害申立書」をBRCに提出した。
Ⅱ.申立人の申立ての要旨 (省略)
Ⅲ.被申立人の答弁の要旨 (省略)
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Ⅳ.委員会の判断
1.
トークバラエティー番組と人格権
報道番組が事実の正確性、真実性が重要であるのに対して、
トークバラエティー番
組は主として出演者の即興的で巧みな話法により視聴者に楽しみを提供することを主
眼とするものである。
したがって番組において事実を扱う場合にも、
その事実をあるがま
まに伝達することに意を用いるというよりは、
フィクションを混入させたり、
あるいは脚色を
加え、皮肉や揶揄などの手法を用いることによって視聴者にできるだけ面白く見せる工
夫がこらされる。いわば虚実をとり混ぜた構成によって、視聴者の興味と関心にこたえよ
うとする性格がある。
そのような性格上、
ときには番組の中で対象として取り上げた人物の弱点に触れたり、
132
プライバシーの暴露が行われることもある。
報道番組とは違い、
そのようなことがあったからといって、直ちに人権やプライバシー
の侵害として法的、道義的責任を負わされるわけではない。むしろ健全な娯楽を求める
視聴者の要求に沿い、
その生活に潤いを与えるものとしてトークバラエティー番組の存
在意義は大きく、
これを健全に発展させることはメディアの重要な役割のひとつとして期
待されているところでもある。
したがって、
トークバラエティー番組が特定の人間の言動を取り上げた場合、
その内
容がその人間の名誉を毀損しているかどうか、
あるいは違法にプライバシーを侵害し
ているかどうかについて判断するにあたっては、真実性を旨とする報道番組と同一に
論じることはできず、一般にその許容される限度はより広いものといって差し支えない
であろう。
委員会は上記のような相違に考慮を払いつつ、本件において「許容限度」を超えた
違法性、不当性があるかどうかについて慎重な検討を加えた。
2.
具体的考察
(1)B氏の性格と申立人の立場について
B氏は、
トークバラエティー番組において、
自己暴露によって視聴者の関心を引き、
私生活をあけすけに語るキャラクターを演じることを得意とするタレントであることは周
知の事実であった。
申立人は、
そのことについて一定の認識を持ちつつB氏との結婚に踏み切り、
そう
なればある程度二人の生活の一部が暴露される可能性もあることを予期してしかる
べき立場にあったものと考えられる。そして取材、放送を事前に承諾していたかどう
かは別として、昨年1月に行われた結婚パーティーの様子が放送された際にも当該メ
ディアに対し異議を申し立てた事実が認められないし、結婚後の週刊誌等による両
人の私生活にわたる数多くの報道についても同様であった。
その意味で申立人が芸能人であったり、公職についているなどの典型的な公人
という立場になかったにしても、必ずしも一般の私人とは言い切れないことも事実で
ある。
(2)本件番組における申立人の私生活の暴露
当委員会は上記の認識を前提にして、
申立書が指摘するB氏の発言について総
合的に検討したが、結論として、本件放送の内容は申立人の社会的評価を低下さ
せ、侵すことが許されないプライバシーを暴露したものであることは明らかであるとの
判断に達した。そこまで暴露することが「おのろけ」の類であるとの被申立人の弁明
は、放送の時点がいまだ現実的に離婚の危機が顕在化していない時期のことであっ
たとしても、
とうてい同意することはできない。
まず、当委員会は、本件におけるこのような一連の発言が、本件放送がトークバラ
133
エティー番組であり、対象となった申立人において、独特のキャラクターを持つタレント
と自発的に結婚したとしてもなお許容、受忍しなければならない限度を超えているか
どうかについて検討した。
(ちなみに、受忍限度を検討するにあたり、
当委員会は一般的な基準を定立するこ
とは求められていない)
具体的な見地から検討するにあたって、一般には視聴者が持っているであろう感
性を前提にすることが必要であるが、少なくとも、本件放送においては、
申立人の持っ
ている疾病とか行状についてB氏は、
「歯槽膿漏で口が臭い」、
「手をつないでやら
ないと大の用が足せない」、
「婚姻直前のころ、
自宅に女性の生理用品が残されてお
り、
それをわざわざその女性のところまで届けた」、
などと発言し、
さらに夫婦の性生活
にまで具体的に踏み込んで、真実であるかどうかはともかくとして、相手方である申立
人の私生活を必要以上に暴露し、揶揄しているものと認められる。
これらの発言は、笑いでは済まされない名誉の侵害、私生活の暴露にあたり、
それ
がどのような立場である人についてであれ、受忍の限度を超えているといわざるを得
ない。
(3)被申立人の責任
次に、
このような私生活の暴露による、
申立人の名誉、
プライバシーを侵害する内容
の番組を制作し、放送した被申立人の責任について検討する。
本件は生番組ではなく、
したがって偶発的に放送されてしまったというものではな
い。
(その場合にも企画担当者、パーソナリティの責任が問題になる場合があろう) 本件は、制作スタッフとしては、収録したあと、
その内容が放送に適するかどうか、
ど
の部分を放送し、
どの部分を削除すべきかを検討する上での十分な時間的余裕が
あったと思われるケースである。
したがって実際に放送された内容自体から、被申立
人が放送が許される限度についてなした判断の当否を検討すれば足りる。
被申立人はB氏の発言の一部については口の辺りにマル秘マークをつけて音声
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を消しているが(そのこと自体、
申立人に関してもっとひどい発言があったと視聴者の
想像をかき立てる効果もあったと思われるが、
そのことはさておき)、
その余の部分に
ついてはそのまま放送したことから見て被申立人が放送の適否についてそのような
判断を全く行わなかったわけではなく、被申立人なりにそれらの発言が申立人の受忍
できる範囲と判断したものと考えられる。
そこでその判断は妥当であったかが検討されなければならないのであるが、
その
判断が適切を欠いたものであったことはすでに述べたとおりである。
被申立人は、再答弁書において、放送に関し、
B氏の承諾を得ているとの弁明をし
ているが、
そのことが申立人との関係における違法性の阻却理由としてどのような意
味があるのか、了解に苦しむ。
134
また、被申立人は、収録に際して司会者等がことさら誘導したものでも、
リードしたも
のでもないというが、
そのことは編集上の問題としては本件の違法性とは関係がない
主張であり、上記の判断を左右するものではない。
トークバラエティ番組を健全に育成し、人間社会のよき潤滑油として機能させてい
くという観点から見れば、本件番組の内容は、視聴者の心にひそむ低俗なのぞき趣
味に安易に迎合したものというべきで、
その結果、
申立人の人格を傷つける結果を招
いたと判断する。
当然のことながら、
これらの暴露が公共の利害にかかわり、公益目的に発している
とみなす余地はなく、伝えられた内容の真実性、相当性を検討するまでもなく申立人
の名誉、
プライバシーを侵害していることは明らかである。
このような放送を企画、放送することは、
トークバラエティー番組の存在意義を自壊
させ、
その健全な発展をメディア自身が損なう危険をはらんでいるといわざるを得ない。
3.
結論と措置
本件放送は、
トークバラエティー番組であったことを考慮してもなお違法、不当に申立
人の名誉、
プライバシーを侵害したものである。
したがって、本来ならば、具体的な謝罪
放送をなすべきところ、内容において著しくプライバシーを侵害していることから、具体
的に謝罪するとすればかえって申立人の受けた精神的損害を増幅することになりかね
ないので、必ずしも適当とは考えられない。
それゆえ、被申立人に対しては、本件において侵害されたプライバシーそのものに具
体的に触れることのないように配慮しつつ、本決定の趣旨をできるかぎり正確に放送し、
かつ今後このようなことのないよう、企画、編集の体制を整えるよう勧告する。
135
第7章 広告のガイドライン
なぜ広告に規制があるのか?
放送は、
自律を前提に高いレベルの報道・表現の自由を享受しています。
しかしこ
れは番組のこと。番組でなくてCMだとすると、
とたんに様々な制限を受けます。
番組は、免許を受けた放送事業者が自律を前提につくるものですが、
CMは数多
い事業者が競争に勝ち抜き営利を獲得するために流すものです。そのため「事業
者間での公正かつ自由な競争を促進する必要」
「事業者と消費者は立場の強弱、
情報の多寡に差があるので、消費者を保護する必要」などから、法令によって実に
様々な規制がかけられています。
規制の対象は、広告を出稿する事業者でもあり、広告を放送する放送局である場
合もあります。
また、法令以外にも、国が役所に示す取り締まり事項のあらましを示す通達や事例
集、業界団体が業界内での決め事を加盟各社に示す自主規制や綱領、
ガイドライン
の類なども参考にすべきものです。
関西テレビや民放連の「放送基準」は、各種の法令やガイドラインなどを参照し、
自
らの媒体としての価値の向上や維持も考え合わせて、長い歴史で積み重ねてきた多
くの事例を集積して作り上げられたものです。
第
7
章
広
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イ
ド
ラ
イ
ン
放送法が「番組基準」を定めることを求めたのに対し、民放では放送の内容が番
組とCMにまたがるために、
「放送基準」という名前にしたのです。つまり、
CM考査
は、番組考査と比べて極めて多い規制法令等を正確に、
かつ慎重に参照しながら
行う、放送が自律を保つために欠かせない、大事なステップなのです。
136
1 広告をめぐるコンプライアンス
番組とCMの規制の違いについて述べました。
私たちは、多くの番組と同時に多くのCMを放送しています。私たち民間放送の
経済基盤はCMによる広告収入です。
番組を誰に向かって何のために放送するのかという原点と、
CMを誰のために放
送するのかという原点は、究極的には同じです。
常に、視聴者の皆さんの顔を思い浮かべてください。
番組が、多くの見知らぬ人たちに、安心して楽しんでもらえるものでなければなら
ないのと同じく、
CMについても、規制があるからという理由だけで放送できないので
はなく、私たちの親兄弟など大切な人たちに勧められないものは放送できないという
ことは、
自明な筈です。つまり、収入になるからといって、
どんなCMでも放送してもよ
いということではありません。
CMは何度も繰り返し放送することで視聴者に大きな影響を与えます。一方、広告
主は限られた時間のなかで効果を最大にするために、様々な工夫を行います。場合
によっては、
その工夫が行き過ぎた表現になってしまい、視聴者に不利益を与えてし
まう可能性があります。そのために私たちは細心の注意をはらう必要があります。
またCMなどの広告には、法令上も、消費者の利益保護だけでなく、不公正な取
引の防止などの観点から、様々な規制を設けられています。広告に関する規制は
広範におよんでいますが、大きく分けて法令による規制と業界の自主規制の二つが
あります。
(1)法令による規制
広告は多くの法令から規制を受けますが、
テレビ広告に直接かかわる法令として
は、事業者間の不公正な取引を禁止した「独占禁止法」や、
その関連法令で、過大
な景品の提供と商品やサービスが実際のものより著しく優良であると誤認されるよう
な表示を禁止した「不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)」、
そして他社
の商品やサービスと混同するようなものの製造・販売を禁止した「不正競争防止法」
などがあります。
137
このように業種・取引形態を問わず適用されるもののほかに「薬事法」
「医療法」
「健康増進法」
「特定商取引法」
「宅地建物取引業法」
「貸金業規正法」
「公職選
挙法」
「職業安定法」
「風俗営業法」
「食品衛生法」などで業種別に様々な規制を
受けています。
(2)業界の自主規制
法の下での規制に対し、業界ごとに定めた規制やルールもあります。ここでは、広
告主の自主規制とテレビ局の自主規制をとりあげます。
1)広告主の自主規制
広告主の自主規制の代表的なものに「公正競争規約」があります。これは業界・
業種ごとに公正競争のために作られたルールで、現在は105件(2007年5月現在)
に及んでいます。このルールに違反すると景品表示法に抵触すると判断されるこ
とがあり、
自主規制とはいえ厳格に遵守されています。そこで、各業界は「公正取
引協議会連合会」のもとに80の団体を置き、規約の運用に目を光らせています。
また、表現にとどまらず、放送時間帯や露出量にも自主規制は行われています。
2)テレビ局の自主規制
民放各社の自主規制の共通ルールは民放連が制定した「放送基準」のなかに
収められています。民放連放送基準全152条のうち実に64条が広告に充てられ
ていて、民放各社はこれに準拠した各社放送基準をもうけています。
第
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138
2 CM考査とは
テレビ局が広告を取り扱う上での様々な規制については前項で触れましたが、
ここ
ではCM考査の実態を、広告主に関する「業態審査」とCMの内容・表現に関する
「CM表現考査」に分けて、
より具体的にみていきます。
(1)業態審査
業態審査は、会社案内・商品説明書など所定の書類をもとに、社内の考査セクシ
ョンが、関係法令に違反していないか、放送基準に適合しているか、消費者からのク
レームがないか、
などの観点から審査します。また、
( 社)関西広告審査協会等の第
三者機関に、業態審査を依頼することもあります。そして、
その審査に基づいて考査
・営業セクションを中心に社内の関係セクションが協議のうえ、受け入れるか否かを
判断します。
1)放送基準に基づき取り扱わない業種
①許可・認可のない広告主
放送基準・第14章105
許可・認可を要する業種で、許可・認可のない広告主の広告は取り扱わな
い。登録、届け出を要する業種についても同様。
②私的な秘密事項の調査を業とするもの
放送基準・第14章109
私的な秘密事項の調査を業とするものは取り扱わない。
探偵業、興信所、結婚相談所、
その他、信用調査機関の広告は、視聴者の
人権尊重の見地から取り扱わない。
③占いなど科学を否定するもの
放送基準・第14章108
占い、心霊術、骨相・手相・人相の鑑定その他、迷信を肯定したり科学を否
定したりするものは取り扱わない。
2)放送基準に基づき取り扱わない商法
①権利関係や取引の実態が不明確なもの
放送基準・第14章98
権利関係や取引の実態が不明確なものは取り扱わない。
139
(解説)悪質なマルチ商法( 連鎖販売取引)やそれに類するもの、
キャッチ
商法(キャッチセールス)、
SF
( 催眠 )商法などの悪質商法、
ならびに男女
交際あっせん業。
3)放送基準に基づき取り扱わない商品
①視聴者に不利益を与える可能性がある商品
放送基準・第13章89
広告は、真実を伝え、視聴者に利益をもたらすものでなければならない。
②関係法令に反する商品
放送基準・第13章90
広告は、関係法令など(各省庁の告知、通達、通知などを含む)に反するも
のであってはならない。
(民放連放送基準解説)CM表現では問題がなくても、
ホームページ、
チラ
シ、パンフレットなどの他媒体で法令に反する表示があるものは取り扱うべき
ではない。さらに、放送の社会的責任から、法令に反しないものであっても、
独自の自主規制を行うのは当然である。
(2)CM表現考査
CMは繰り返し放送されることで視聴者に大きな影響を与えます。そのため法令
や自主基準で様々な規制を設けています。放送局の自主基準である放送基準の13
章から18章はCMに関する基準です。
もちろんCMも放送の一部ですので、
それ以
外の1章から12章についても遵守すべき必要があるのは当然のことです。
CM表現考査担当部署では、関係法令や放送基準に照らし合わせ、事前に絵コ
ンテなどのCMプランをチェックし、受理・改稿・謝絶などの対応を行っています。
私たちが普段よく目にする代表的事例を、
CM表現考査の観点から挙げていきま
第
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す。その基本となる考え方は、番組を制作する上でも尊重すべきことですので参考
にしてください。
1)注意すべき表現∼虚偽・誇大表現
①虚偽・誇張のある広告
商品やサービスの品質や内容、価格その他の取引条件について、事実に反
する場合や、実際よりも、
または他の業者のものよりも、著しく優れていると一般
消費者に誤解されるおそれのある表現は取り扱いません。二重価格表示、割引
率表示についても、不当表示になる場合があるので慎重に取り扱います。
140
広告表現において最も注意しなければならないのがこの虚偽・誇大表現の
禁止です。景表法はじめ薬事法など様々な法令において罰則規定とともに定め
られているので、多くの業界でも公正競争規約を設け規制しています。
なお、薬事法や健康増進法、医療法などでは「何人も…」と定めてあり、違反
すると放送責任が問われることも想定されています。
不当景品類及び不当表示防止法、薬事法、健康増進法
放送基準・第14、
16、
17章
事 考査事例①
例
衣料品店のバーゲンのCMで50%オフという表現があった。しかし、当該商品が
50%オフであるという納得するに足る根拠が提示されなかった。
(謝絶)
考査事例②
飲料のCM、
100%天然果汁という表現があったが、実際は100%ではなかった。
(謝絶)
番組で商品やサービスを紹介するときも十分に注意すべきです。その情報
が商品やサービスに対する視聴者の判断に誤認を与え、結果として不利益をま
ねくことになりかねません。広告の意図がない限り、番組内での表現が直接これ
らの法令違反に問われるわけではありませんが、情報をきちんと伝え、節度ある
表現を常にこころがけましょう。
②根拠のない最大級・最大級類似表現
よく目にする「世界一」
「世界初」
「最高」
「…だけ」などの最大級表現は、古
くからの広告の常套手段ですが、
だからといって、
安易に使用してはいけません。
最大級表現の乱用は、視聴者を迷わせるだけでなく、放送広告に対する信頼
を失うことになるからです。多くの業界が公正競争規約で最大級表現の自主規
制を行っています。その範囲内で、
どうしても使用する場合は、公に認められる
客観的根拠を提示し、局が認めた場合に限ります。また、
その根拠をCM中に
明示する必要があります。
事 考査事例①
例
家具店のCMに「売り場面積ナンバー1」という表示があったが、実際は近畿地
区でのナンバー1だったので、その旨を表示するよう改稿要請。
141
考査事例②
衣料品店のバーゲンのCMで、
「当店だけができる大特価!」という表現があった。
「だけ」の根拠に対する明快な説明がえられなかったので改稿要請。
不当景品類及び不当表示防止法 放送基準・第15、
16章
③他を誹謗中傷する広告
広告は、客観的事実を正確に述べて、
しかも品位あるものでなければなりま
せん。広告の本質は、
自己の特質を正しく伝えて視聴者に商品選択の知識を
与えるところにあります。互いに他をけなすことは、広告全体の信頼性を失墜さ
せ、広告の効果そのものを落とすことになります。
ただし、公正取引委員会のガイドラインによると、次の3要件を満たせば、景品
表示法上の不当表示にはならないとして比較広告そのものを否定するものでは
ありません。
①比較広告で主張する内容が客観的に実証されていること。
②実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用すること。
③比較の方法が公正であること。
しかし「場合によっては…倫理上の問題、品位にかかわる問題を惹起するこ
ともあるので、注意する必要がある」としています。たとえ3要件を満たしていて
も、極端な比較広告は検討を要するでしょう。
不正競争防止法
放送基準・第14章
事
例
第
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考査事例①
「他の洗剤をご使用になりますと、手や肌を荒らすことになりますが、当社の製品
に限って、そんなことはありません」
(改稿要請)
考査事例②
コンピューター・メーカーの新機種CM。旧製品を並べローラーで潰していくという
内容。この中に他社の製品と判別できるものが含まれていた。
(謝絶)
番組で取り上げる商品・サービスの特徴を表現するときに、他社製品など
と比較し、誹謗・中傷まがいの表現をすると、営業妨害となり、訴えられるこ
とがあります。節度ある表現を心がけてください。
142
2)注意すべき表現∼視聴者の錯誤をまねく表現
①視聴者に錯誤を起こさせるような表現
意識的に錯誤を起こさせるもの、無意識のもの、直接的な表現、暗示的な表
現、
いずれの場合でも、視聴者の不利益になる恐れのあるものは避ける必要が
あります。特に注意しなければならないのは、視聴者の知識や経験の欠如を利
用して錯覚を与えようとするものです。二重価格表示などはこれに該当します。
不当景品類及び不当表示防止法、不正競争防止法、
消費者契約法
放送基準・第15章
事 考査事例①
例
衣料品店のバーゲンのCMで、
50%オフという表現があった。実際は一部商品
のみ50%オフだった。
(改稿要請)
考査事例②
テレショップにおける蟹の販売のCM。ロケ地が北海道の海鮮市場の中。視聴者
からすれば北海道産の蟹だと当然思うが、実際はロシア産であった。原産地がロシア
であることを表示するよう改稿要請。
CMで情報提供する商品・サービスの価格は「消費税込みの価格表示( 総
額表示)」をすることが義務付けられています。番組でも、視聴者に誤認を与え
ないよう
「総額表示」で統一してください。
②サブリミナル
視聴者が通常の視聴では感知できない映像や音声を挿入することにより、何
らかのメッセージの伝達を意図する手法(いわゆるサブリミナル的表現手法)は
アンフェアな表現手法です。このような表現手法を用いたCMは効果が認めら
れるか否かにかかわらず、取り扱ってはいけません。
放送基準・第8章
事 考査事例
例
新作CD発売のCMで、一瞬、何の関係もない映像が挿入されていた。なんらか
のCM効果を生じせしめているわけではないが、改稿要請。
143
サブリミナルではないが、
CMにおいて演出上、画像を一瞬、黒にする手法が
見られます。場合によっては放送事故と誤認をまねくので、合理的理由がなけ
れば避けるのが望ましい表現です。
③パカパカ
いわゆるパカパカは、閃光や急速に点滅したり変化する光の画像、
また、極端
に短い画像を瞬時に何回も繰り返して演出効果を強調するものです。特に発
育途上の児童・青少年は、刺激の強い画面を見ることで、
ひきつけ、
けいれん、
吐き気、頭痛などの「光感受性発作」を起こす可能性が高いとの研究結果が
示されています。民放連では「アニメーション等の映像手法に関するガイドライ
ン」
(放送基準61条)
を設け、映像や光の点滅が原則として1秒間に3回を超え
る使用を避けるとともに、
「鮮やかな赤色」の点滅は特に慎重に扱うことなどを
決めており、
CMでもこのような表現方法を用いることはできません。
④契約以外の広告主の広告
契約外の広告主の広告を認めると、広告主の責任の所在が不明瞭になって
しまいます。最近多くなってきたタイアップCMやコラボレーションCMなどで、必
要不可欠な範囲で、契約外企業の商品に触れる場合でも、
その契約外企業の
広告効果を生じせしめないよう注意する必要があります。広告主が小売または
卸売業者など、
自社製品を持たない業種の場合でも、
その特性を配慮しつつ、
この基準に準じます。
放送基準・第14章
事 考査事例①
例
封切間近の映画とタイアップした大規模小売店のキャンペーンCM。試写会に
参加した人の映画の感想を聞くなど、
どちらが主なのか不明瞭な表現となっていた。
第
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(改稿要請)
考査事例②
製薬会社のCM。ある商品を特定の店で購入するよう勧めるCM。この商品は他
店でも購入できるので契約外に該当すると判断。
(改稿要請)
144
3)注意すべき表現∼視聴者の射幸心をあおる表現
①射幸心をあおる広告
射幸心を極度に刺激する広告は、健全な社会生活や良い習慣を害する可
能性があるので注意する必要があります。公営ギャンブルについては投票券購
入行為に繋がる表現、宝くじについては過度の期待感を抱かせる表現は避け
ましょう。パチンコやパチスロ台のメーカーのCMについても同様に射幸心を刺
激する表現、
ホール誘引に繋がるような表現は避ける必要があります。
また、
これらのCMは特に児童への影響を配慮しなければなりません。
児童福祉法
放送基準・第10、
12、
13、
14章
事 考査事例
例
パチンコ・パチスロ台メーカーのCMにおいて、同じ絵が3つ揃うシーンがあった。
大当たりを連想させ、射幸心をあおり、ホール誘引に繋がるので改稿要請。
②懸賞広告
懸賞広告は極度に射幸心をあおることはよくないという観点と、不当な競争を
防止する観点から、
その景品額が制限されています。
オープン懸 賞…制限なし
クローズド懸賞…取引額 5000円未満の場合 取引額の20倍
取引額 5000円以上の場合 10万円
総 付 景 品…取引額 1000円未満の場合 200円
(ベタ付き) 取引額 1000円以上の場合 取引額の1/5
不当景品類及び不当表示防止法
放送基準・第12章
4)注意すべき表現∼視聴者の不快感を与える表現
①視聴者に不快感を与える表現
CMは視聴者の生活感情を損なうものであってはなりません。
いたずらに享楽的な面を強調するもの、露骨に性的な表現・描写をし、性道
徳を冒涜するもの、殺人、拷問、暴力などに関し残虐な表現・描写をして視聴者
に恐怖感を起こさせるおそれのあるものは取り扱うべきではありません。また表
145
現手段として、社名・商品名・キャッチフレーズなど特定の商品情報を繰り返すも
の。細かく点滅する映像手法を用いるものなどは避けなければなりません。
放送基準・第8章
事 考査事例①
例
ゲームソフトのCMで、刀やピストル、暴力シーンが多く表現されている。
(改稿要請)
考査事例②
飲料のCMで同じキャッチフレーズを15回繰り返す表現。
(改稿要請)
②ニュースと混同されやすい表現
ニュース、天気予報、交通情報は、事実が報道されるため信頼性が高いので、
CMとは明確に区別される必要があります。表現にあたってはニュースと紛らわ
しい映像やテーマ、音楽、
チャイムその他の音響効果などの使用は避けるほか、
CMの言葉遣いもニュースと混同されないように注意します。特にニュースや報
道番組の前後や番組内では、
より注意する必要があります。
放送基準・第15章
事 考査事例①
例
CM本編中に突然アナウンサーが「臨時CMです。○○が新しくなることが判明し
ました。」と新商品をPR。臨時ニュース形式(改稿要請)
考査事例②
遊戯具メーカーのCM。ファンや報道陣で混乱している空港に到着した有名人に、
女性リポーターがインタビューする模様を実況中継しているかのような表現。
(改稿
要請)
第
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章
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ド
ラ
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ン
③モザイク表現
モザイク表現やボカシ、音声を変えるなどの手法は、
ニュースや報道番組で人
権擁護のためにやむを得ず用いる手法であり、使い方によっては視聴者に錯誤
を与える可能性があり、
原則としてCMに使用するのは避けます。
放送基準・第15章
事
例
考査事例
新発売の商品にモザイクをかけ、視聴者の興味をそそる表現(改稿要請)
146
<参考> 日本民間放送連盟 報道指針
4−(1) 過度の演出や視聴者・聴取者に誤解を与える表現手法・合理
的理由のない匿名インタビュー、モザイクの濫用は避ける。
モザイク表現はバラエティ番組などの制作番組で用いられていますが、合
理的理由のない限り、避けるようにしましょう。
④個人的売名を目的とした広告
売名を目的としたCMの中には、単に売名だけを目的としたものと、新年の名
刺広告に名を借りた選挙の事前運動とみられるような、
ほかに狙いのあるものと
があります。名刺広告については、年賀および暑中見舞いに限定します。
これらは形式として、商品広告や企業広告を装って行われるものであり、注意
を要します。
公職選挙法・第152条
放送基準・第2、
14章
事
例
考査事例
ある企業の社長が、選挙間近になると自社の広告に顔を出して自己PRをする
(謝絶)
5)注意すべき表現∼特に注意を要する商品・サービス
①医療・医薬品・医薬部外品など
医療・医薬品・医薬部外品・医療用具・化粧品・いわゆる健康食品などの広
告は、直接に生命や健康に影響があるので、
よりいっそう厳しいチェックが必要
です。
これらの業種のCMは健康被害をもたらす可能性があるので、法令などによ
り、
いっそう厳しい規制が設けられています。放送基準においても、第16章とし
て128∼136にわたり定められています。
医薬品・医薬部外品・化粧品・医療用具は薬事法で、医療は医療法で、健康
食品は薬事法・健康増進法に定めがあります。
例えば化粧品では「潤いをあたえる」や「肌にツヤを与える」などあらかじめ
定められた55項目の効果・効能しか謳えません。健康食品では、
ダイエット効果
や整腸作用などの医薬品的な効果効能は謳えません。ただトクホ(特定保健用
食品)
などに関しては、法令で認められた範囲で、
ある程度の表現までは許され
ています。
147
また、医薬品や医薬部外品に関しても法令によって認められた範囲でしか効
果効能の表現ができないほか、
「100%よく効く」や「副作用なし」などの安全・
安心を保障した表現もできません。医師・薬剤師・美容師などが推薦する医薬
品・化粧品の広告も安心・安全の保障に該当します。
医療法、医師法、薬事法、健康増進法
放送基準・第16章
事 考査事例①
例
乳酸菌飲料のCMで花粉症に効果があるかのような表現。
(改稿要請)
考査事例②
健康食品のCMで身体の特定部位に作用を及ぼすかのような表現。
(改稿要請)
考査事例③
化粧品のCMで「無香料・無着色なので安心」という表現。
(安心の保障表現に
あたり改稿要請)
番組で、健康情報として健康食品を取り上げて医薬品的効能効果に言及す
るときも、同様に細心の注意が必要です。
健康増進法では「実質的に広告と判断されるもの」として、下記の用件を挙
げています。
①顧客を誘引する(顧客の購入意欲を昂進させる)意図が明確にあること。
②特定食品の商品名が明らかにされていること。
③一般人が認知できる状態であること。
上記①∼③に該当すれば、
たとえ番組であっても広告と判断され、
そのなか
で虚偽・誇大表示や医薬品的効能効果に言及したりすると、健康増進法に抵
触すると判断される場合があります。また、広告や広告とみなされる番組の内容
第
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章
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ド
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イ
ン
が虚偽・誇大なものであることを、容易に予見し得た場合には、広告依頼者とと
もに私たちテレビ局も、健康増進法に基づき、罰則を受ける可能性があります。
エステ、美容整形、健康食品などの取り扱いは、番組においても細心の注意
が要求されます。これらはいずれも苦情の多い業種であり、関係法令などで厳
しく広告表現が規制されているからです。健康情報だからといって広告の3要
件(前述)に該当すれば広告とみなされ、法令違反などに問われる可能性があ
ります。
148
②金融・不動産など
金融・不動産の広告は視聴者の経済的利益の侵害に結びつく可能性があ
るので、
よりいっそうの注意が必要です。そのため、放送基準においても、個別
の章を設けて(第17章)定められています。
特に消費者金融については貸金業の規制に関する法律などの精神に従い、
下記のように具体的に規制されています。
(消費者金融CMの取り扱いに関する放送基準審議会の見解 日本民間放送連盟2003年7月17日変更)
①安易な借り入れを助長する表現の排除
②児童・青少年への配慮として放送時間帯の制限
③貸付条件の明示
④啓発文言の充実
⑤URL表示の制限
また、消費者金融以外でも、利殖を約束するような投機性に繋がる表現や、
不動産広告における虚偽・誇大表現を厳しく規制するなど、法令を遵守する条
項を設けています。
貸金業の規制等に関する法律、出資の受入れ、
預かり金及び金利等の取締りに関する法律
利息制限法、銀行法、質屋営業法、
宅地建物取引業法、建設業法
老人福祉法、介護保険法
事 考査事例①
例
分譲マンションに出資すると高い配当をもらえるというCM(謝絶)
考査事例②
不動産の広告で「2LDKが1400万円から」とある。最低価格のみ表示することは、
おとり広告の可能性も考えられる。最高価格と最多価格帯も表示するように改稿
要請。
考査事例③
有料老人ホームのCM。入居には資格審査のほか一時金や生活費もかかる旨の
必要事項を表示するよう改稿要請。
149
③テレビショッピング
テレショップCMは、視聴者の放送局に対する信頼を背景になりたっているだ
けに、通常のCM以上に慎重にチェックを行う必要があります。
表示に関しては、虚偽・誇大表現はないか、二重価格になっていないか、販
売主の名称・連絡先、送料、代金の支払い時期・方法、商品の引渡し時期など
が明示されているかなど厳密なチェックが必要です。
関西テレビでは商品の十分な説明を行うためには最低60秒は必要であると
し、
テレショップCMは60秒以上のみとしています。
また、商品の選定にあたっても、品質・価格が適正であるほか、
あまり高額のも
の、市場における値幅が大きいものには注意すべきです。
特定商取引に関する法律、割賦販売法
放送基準・第14章
事 考査事例①
例
実際には、販売量に十分余裕があるにもかかわらず、
「残りわずか!二度とありませ
ん」とういう表示があった。
(改稿要請)
考査事例②
ダイエット食品において、成功者のみの体験談を引用し、当該食品の効果効能を
謳う表現(謝絶)
第
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章
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150
第8章 大規模災害時等の
ガイドライン
減災のライフライン∼テレビ
東海地震、東南海地震、南海地震などの大型地震が近い将来発生する可能性
はかなり高いと言われています。この他、大雨による洪水や様々な天災、鳥インフルエ
ンザのような感染症の発生、原子力発電所の事故、
そしてテロやそれに類する凶悪
事件など、緊急事態が発生する場合が考えられます。そのような状況でも私たちは、
報道機関として多角的かつ客観的な取材・報道活動を行い市民の基本的人権、知
る権利を守るとともに、地元住民の生命・財産への被害を最小限度にとどめること
(減災)
を目標に放送の公共的使命を果たさなくてはなりません。
151
1 大規模災害時の行動指針
(1)第一報の放送
政府、
自治体または気象庁等の公共機関からの情報、
さらには様々なルートを通じ
て入手した情報は、確認の上で重要性を判断し可及的すみやかに速報などの方法
で正確・簡潔に放送します。
ただし、
あくまでパニックを避けるなど表現には注意を払います。重要な情報、緊
急を要する情報、危険告知については繰り返し放送します。
(2)緊急時の社内体制
放送エリア内で、震度6弱以上の地震かまたは津波警報が発令されるなど重大な
被害が予想される場合は社長等を本部長とする災害対策本部を設置し、
その下に
「災害放送を行う担当」と「後方支援や社屋や設備の維持などを行う担当」を設置
し、全社を挙げて取り組みます。
(非常災害マニュアル参照)
(3)誰に向かって何を放送するのか
大規模災害、事故を取材し放送するには全社的な応援体制が必要です。またフ
ジテレビはじめ系列局の応援を得ることも想定されます。取材・放送における重要な
ポイントについて列挙してみます。
①被害の大きさばかりでなく被災者に信頼と安心を与える報道を心がけます。
②全国の人々に被害の状況を知らせるネット部分と、安否情報・生活情報など被
害を受けたローカル向けの部分と放送内容を区別する配慮が必要です。
事 阪神淡路大震災発生直後
例
阪神淡路大震災発生当初の38時間は、すべてネット番組だったため、安否情報、
生活情報、
ライフライン情報など被災地向けの情報を伝える枠が少なかった。しかし、
制作担当の「痛快!エブリデイ」は、生活情報とミニコミ安否情報を中心に、被災地、
被災者向けに幅広く情報提供を行った。
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「痛快!エブリデイ」では、
1月17日以降、
「何ができるのか」と、模索した。地域に密
着するローカル生ワイド番組として、報道とは別のアプローチ・情報発信として取り組
んだのが、
FAXによる被災地のための生活情報の掲示板であった。'95年当時、携
帯電話は普及の堵についたばかりで、情報ツールとしてFAXの占める役割は大きか
152
った。被災地内外からは、
「安否確認」
「水」
「入浴」
「援助物資」その他の被災地
向け情報が「痛快!エブリデイ」のFAX掲示版に多数寄せられた。
③災害時の番組編成については、報道以外の番組やCM編成の内容にも十分
注意して担当部署と協議して差し替えることを検討します。
事
例
大阪国際女子マラソン中止
1995年1月17日に発生した阪神淡路大震災の翌々週に、'95大阪国際女子マラ
ソンが予定されていた。被害の全体像が定かでない時点から、決行すべきか中止す
べきか局内で真剣な論議が交わされた。
「災害に屈せず、復興に向けて地域を鼓舞
するためにも、決行すべき」との意見は、被害状況が明瞭になるにつれて少数となっ
た。マラソンとはいえ、イベントのために交通規制が許容される環境にはない、
という
最終判断で'95大阪国際女子マラソンは中止された。
事 代替番組にも配慮
例
1995大阪国際女子マラソンでも荒天時の代替プログラムは一応準備されていた。
当時2時間余りをカバーするソフトとしてスタンバイしていたのは映画「首都消失」で、
災害パニックのスペクタル巨編であった。協議の結果、被災地の現状、被災者の心
情を考えた時、不適切な荒天プログラムであると判断し急遽、キー局の協力を得て、
別番組を編成した。
④被災地の被害状況を全国に伝える映像の意味は大きい。しかし、
そこに被災
住民の暮らしがあり、
被災住民の心情があることを片時も失念してはなりません。
取材の時間、場所、方法、放送の内容等、被害者の気持ちを最大限に配慮す
る必要があります。
事 絶叫リポートに反感
例
焼け崩れ落ちるアーケード。まさに崩れ落ちるその瞬間に居合わせたワイドショーの
アナウンサーは、高揚感のままに絶叫リポートを重ねた。
そのリポートは視聴者の強い反感を招いた。
事 見た目リポートに共感
例
避難所となった御影公会堂からの中継リポートが間断なく続けられた。
「痛快!エブ
リデイ」のMC桂南光さんは避難所からの中継や報道に「少し考えるところがあります
ねん。疲れきって休んではるところに押しかけて、
ご迷惑やないやろか」という思いを述
べ、公会堂入り口からの南光さん自身の「見た目」をリポートで中継した。
視聴者から、共感の声が多数寄せられた。
153
事
例
報道ヘリに批判
神戸では地震の日以降何機もの報道用ヘリコプターの音が絶え間なく響き、
それは
その場にいる被災者には堪え難い音だった。
ヘリの音がどれほど人の心を乱すか、救助を求める声を掻き消したか、
との批判が
相次いだ。
※大災害時のヘリコプター運用について(民放連指針)
ヘリコプター取材は、災害、事件、事故発生時の被害規模等を把握する上で非常
に有効な手段ではある。一方で地上への騒音や、ヘリ同士衝突する危険性なども
指摘されており、民放連でも災害時のヘリコプター運用には細心の注意を払うよう
に申し合わせを行っています。
⑤障害者や高齢者、外国人などの社会的弱者に配慮します。
⑥食料、水、着替えなどの必需品やバッテリー、医薬品などは自前で用意します。
⑦通信手段は必ず確保します。
⑧機動性のある服装を。
⑨津波や火山噴火の場合、
2次、
3次災害に注意します。
事
例
火砕流に巻き込まれた報道陣
1991年6月、雲仙普賢岳の噴火取材中の報道陣が、大火砕流に巻き込まれテレ
ビ長崎のカメラマンら報道関係者16名を含む43名が死亡。
報道陣が待機していた場所は当時、危険なエリアとは考えられていなかった。
⑩大災害時には、多数の取材班が殺到することが予想されますので、系列局の
連携と協力が必要です。系列局として取材団を編成し取材情報や映像素材な
どは一元化して管理運用することが重要です。
事
例
問われた取材姿勢
阪神淡路大震災発生後、全国から多くの応援取材クルーが被災地域に入った。
キー局ワイドショーのクルーが週末金曜日午後、
4日目の被災者救出シーンを取材し
た。しかし、その取材情報を土・日秘匿し、月曜のワイドショー枠で、
「スクープ」として
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放送した。
取材姿勢が問われる事案として議論され、その後FNNの一元化した統一取材体
制が模索される端緒の一つとなった。
154
(4)原発事故、感染症の発生、
化学テロの可能性等被害の実態が不明である場合
「まず現場へ」という、取材の鉄則を捨ててください。
まず初めにどのような取材が可能か、前提となる情報収集が必須です。放射性物
質や有害有毒物資が周辺地域に漏れたか、
ウイルス等が周囲に感染している可能
性があるか、付近に避難命令や勧告が出たか等を確認して取材体制を決めてくだ
さい。取材に行く場合は、放射能を測定する線量計などの測定器や防護服、必要な
医薬品、消毒剤、食糧水などを携行してください。また取材デスク以外に安全管理
担当デスクも設置してください。
(5)フジテレビが被災した場合
フジテレビが被災した場合、当社がFNS・FNN系列の副局としてフジテレビに代
わり緊急特番の編成制作放送等を行わなくてはいけません。主なものとしては、編成
班はフジテレビ編成、
ネットワークと協力しFNSの窓口となり緊急特番編成等を行い
ます。報道班はフジテレビ報道センターと協力して報道素材を集約し緊急特番を制
作します。また技術班はフジテレビのF・SATオペレーションの管理業務を代行する
など全社を挙げてフジテレビの業務を引き継ぎます。
(6)国民保護法、災害対策基本法に基づく報道について
関西テレビは、法律( 武力攻撃事態対処法 )により有事等、国の緊急事態に対し
て国民を保護するための措置を実施する「指定公共機関」としてすでに指定されて
います。その具体的な内容については、国民保護法により国から発令される警報の
発令と解除の放送、都道府県から発令される避難指示の発令と解除の放送、緊急
通報の放送を行うという義務を負っています。
また、災害対策基本法に基づき、放送エリア内の自治体との間で大災害時の放
送協定を結んでいます。これらの責務を果たしていくとともに、
いかなる事態であって
も市民の基本的人権および知る権利を守り、
自由で自律的な取材報道活動を貫くこ
とが大事です。
155
2 1995年1月17日 阪神淡路大震災の教訓から
● 家のドアを開けたらそこは被災地
日常の暮らしからは非常事態を想像することは難しいことです。
しかしある日突然、
自宅のドアを開けたときから衣食住を自分達で確保しなければならない非常事態の
世界が始まります。大災害時の現場の状況については十分想像力を働かせて準備
し行動する必要があります。取材応援などで現地に入るときは、
2日分の水や食料や
宿泊手段などを自分たちで確保し、援助を受けない準備と対策が大事です。
証 報道記者
言 「現場のコンビニなど食料品はどこも売り切れ、中継班が交代するまで飲まず食わ
ずとなりました。被災者も同じなのでこれ見よがしの弁当を食う報道陣という立場にな
らなかっただけマシ(負け惜しみ?)ですが長期の取材体制を考えると食料、飲料の備
蓄は必要です。
ちなみに私の場合当初の1週間は飢餓状態で激ヤセしました。また服装ですが事
件記者よろしくスーツにワイシャツ、
コートでの出動、
1週間から10日間ほどは着替える
こともできずドロドロの状態。白いワイシャツは真っ黒に……」
証
言
四国からの系列局スタッフ
「四国から応援に神戸に向かう中継車・・途中食料を確保するつもりだったのです
が現地に近づくにつれて前へ前へと気持ちが高揚し、食料調達をしないまま現地に
着いてしまいました。それから2日間、関西テレビの支援体制が確立されるまで食事と
いう食事は取れませんでした」
● 市民として何ができるか?放送局社員として何ができるか?
発生時直後は何が起きたのか? 誰も全容を知りません。災害被害の正しい情報
が最初からあるわけではなく皆さんの目の前で起きていること、皆さんが見聞きした
ことが情報です。報道局といっても特別のツールや特殊能力があるわけではありま
せん。一つひとつ電話を重ねて取材を続け、情報が正しく集約できるまでには、
ある
程度時間が必要です。そんなとき皆さんの情報がどれだけ貴重なことか。家庭用ビ
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デオ、
デジカメなどの映像素材の提供はもとより、電話リポート、取材対象者の紹介や
依頼、情報の収集など取材協力を求めています。
156
証 制作技術社員
言 「地震発生で自分のマンションにも大きな被害がでた。目の前に援助を必要とする
母子がいた。会社に行くべきか?ここで援助活動をすべきか?悩んだが地域を見捨て
ることができず支援活動に参加した。しばらく現場が落ちついて緊急事態を脱したと
判断して会社に向かった。あの判断は良かったのか?今も考える」
証 事務系幹部
言 「……報道の職業意識には感心した。私は被災後すぐ近くの老母のケアに行った
り家族の世話で忙しく1週間くらい正直なところ会社のことは……。そのときいろんな
職場で全員出社の体制で放送を守るために仕事をしていたわけだ。家の事情もいろ
いろあるだろうに……」
「生きてるか!」と家族に声かけて、取るものもとりあえず会社に飛び出した放送・
報道などのスタッフ。自分の家庭を後回しにしてしまったという自責の思い。基本的
な被災時の対応としては、
まず家族の安全を確保し、
また地域コミュニティとの関係、
役割も大事にしなければなりません。その上で放送局の放送・報道の使命をどう果
たしていくか、
その立場を家族や地域に理解してもらう必要があります。
● 想像を超える切実な課題?
取材体制が整備され取材班が動き始めるころ、被災地では想像を超える様々な
問題が沸き起っていました。のちに公共広告で「飲料水の情報」が放送されました。
犠牲者をどう荼毘に付してさし上げるのか?「トイレ」問題もそうです。
阪神大震災以後にトイレをテーマに本が何冊かできたくらいに被災地ではこの問
題は深刻でした。
証 報道記者
言 「……電気も水道もない状況、全国から集まる報道陣、取材体制の構築と放送対
応、その現場の裏側で密かに進行していた危機。いつの間にか、神戸支局のビル内
のトイレは言葉にできない無残なさまとなりました。流す水もなく誰もその状況を解決
する方法をもってなかった。……私たちがようやくその問題の重大性に気づき対処を
始めたのは多分数日後だったと思う。海に面している神戸の地の特性を生かし、大
型客船を停泊させて、取材陣の休憩待機、宿泊施設とした。定期的に支局と客船
の間に連絡便を走らせた。すこし抵抗はあったが、私たちは感謝をこめて『うんこ船』
と称した」
157
道路が通行可能になると大阪から、
トイレ付きの観光バスを毎日貸し切り運行しま
した。
2007年3月にできた小型バスの「報道現地指揮車」にもトイレが組み込まれま
した。
● 応援取材の心がけは!
大災害では系列局の取材応援はありがたいものです。現在ではFNN系列の取り
決めも整備されスムーズな応援体制ができています。
証
言
報道デスク
「系列局から1クルーが取材応援に駆けつけてくれました。名刺交換した本社デス
クは挨拶もそこそこに再び放送の作業に専念しました。かなり時間が経ってからこの
クルーから抗議がありました。
『せっかく応援に来たのに何の指示もない!』と長い間
待たせたままにしてどういうことなんだと、関西テレビの対応に抗議、仕事がなければ
帰社するという内容でした。これに対して当時の報道部幹部は、
『ご苦労様でした。ど
うぞお帰りください』と返事したのです」
発生当時の報道のデスクがどんな状態だったのか?当時本社デスクは応援部隊
に細かな取材指示を出せる状況になかったと思われます。被災地は広範囲であり、
至る所どこでも取材ポイントになりました。自分自身で状況を判断して取材活動を展
開していただきたい、
というのが本意でした。
「応援は現地局の傘下にはいる」という
通常のルールが通用しなかったケースです。ずいぶん失礼な対応だったと思います
が「指示待ち」では機能しない場合もあるということです。応援にいって食事や宿舎
など地元局の手を煩わせるようでは応援になりません。大災害非常事態ですから何
事も自給自足が原則です。
● 非常時にどう備えるか!いつもやっていることしかできない!
事
例
神戸海洋気象台の話
神戸海洋気象台は発生直後に正確な神戸市内の震度を発表したが、すぐ機器故
障で通信不能となった。
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当時の担当者は壊れた観測機器の室内で「地震直後の人間の対応としては、何
をしたらいいのか? まったくわからない状態になる。結局、
日常行っていることしかでき
ない。できるだけ日常の中に非常時の対応策を組み込んでおくべきだった。」と後日
語っている。
158
NHK神戸放送局。当時の担当者は地震の発生と同時に気象台に電話をして、最
初で最後の「神戸市の正しい震度7」を確認しています。これも「電話で確認する」と
いう日常の手順に基づいたものだったという。
●「事故・災害の特性を理解しておこう!」
災害の形態は、大雨、台風、地震、津波、火山爆発、放射能漏れ事故、伝染病など
様々です。災害発生の現象やメカニズム、原因、変化、対策などその特性を日頃から
研究し、取材計画と体制を作ることが大切です。また現場の地形や気候風土、
自然
の植生、社会文化なども大いに参考になる情報です。津波と高波、風台風と雨台風
で被害が違うように、起こりうる事態を想定して危険に備えることが大事です。現場
での状況判断は、本社の安全管理責任者などデスクとの相談はもとよりですが、現
場に対峙する取材者自身が「行く勇気、引く勇気」を持って安全を確保しましょう。
軽率な行動は自分自身を危険にさらすだけでなくスタッフも巻き込み、
自らが救済の
対象になって迷惑をかけることになってしまいます。
事
例
広域災害、被災地への想像力
台風が自社エリア直撃の進路を外れたとしても、それは別の地域が被災地となる、
という厳粛な事実に目を閉ざしていいということではない。
「2時ドキッ!」は「番組販売」
による限定的な地域ネットであるが、西日本の系列局が台風情報をリレーする連携が
何度かあった。台風の進路にあたる局が自社差し替えで台風情報特番を編成される
ことは当然だが、
「発局」としての関西テレビとしても、同時進行で台風災害と格闘し
ている地域と地元局があることに、想像力を持たなければならない。
自社エリアが「進路から外れた」情報は伝えるとしても、被災(進路)地域に対する
配慮は必要である。
159
● 総括デスクの任務 司令塔体制が必要
事
例
当時統括デスク
…特筆すべきは総括補佐である。総括デスクには大規模災害や大事件の際、膨
大な量の情報を突きつけられ、瞬時の判断、対応を迫られる。こうした場合、私の経
験では「判断は即決、先送りはなし」が原則だと思う。指示を求める相手に対して
「YES,
NO」をその場ではっきり伝えることが肝要。もし即断不可能な場合は「今即
断できない。○○分後にもう一度連絡を!」と相手からの再度の連絡を求める。
「後で
指示する」とか「ちょっと待って!」は禁物である。次々ともたらされる課題が積みあが
り、先送りした問題を振り返る余裕がなくなる。相手も忘れ去られた問題の返信を待
って無駄な時間を過ごしてしまう。そうした中で意味があったのが総括補佐であった。
当然ながらデスクは神様であるはずはなく、すべての案件を瞬時に判断することは絶
対に不可能である。様々な状況下で迷い、悩み、
それでも「即決を」と努力を重ねる。
その時、自分の判断が正しいかどうか、賛同を求めたいとき、
セカンドオピニオンが必要
と思ったとき、
「この判断をどう思うか?」
「この案件をどう考えるか?」と問う相手がいる
ことがその場に立たされた者にとって計り知れない意味のあるものであった。
参照資料
2004年度版非常災害マニュアル
関西圏 大地震・大災害 発生!
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第9章 コンプライアンスと
法令遵守
コンプライアンスと「法令遵守」は違う
社会の要請に応えることが「コンプライアンス」
「コンプライアンス」
というと、
すぐに「法令遵守(順守)」
という和訳を思い浮かべる人
が多いのではないでしょうか。Comp
l
i
anceの英語の意味は「応諾」
「要求に応じるこ
と」です。決して法令や決まりを守ることだけを意味しているのではありません。
法令や決まりを一字一句厳密に読み込んで、金科玉条として守ることをただちに
否定するものではありませんが、
それよりもそういった法令や決まりができた背景や、
社会的要請を想像・イメージすることの方が大事です。
例えば、外部調査委員会の調査報告書で、
「発掘!あるある大事典Ⅱ」へのリニ
ューアル時の法令・決まりの変化や社会状況が以下のように記述されています。
(調
査報告書P114∼115)
「発掘!あるある大事典」調査委員会報告書より
このころの社会情勢として、健康志向の高まりに伴い、例えば平成14年に中国か
ら輸入されたダイエット商品による健康被害が社会問題化するなどし、健康の保持・
増進の効果が必ずしも実証されていない食品販売物につき著しく事実に相違また
は著しく人を誤認させる広告が様々な媒体に数多く掲載されていることが問題視さ
れ、
これを信じた国民の健康の保護の観点から重大な支障が生じるおそれがある
との観点から、健康の保持増進の効果等に関する虚偽または誇大な広告を禁止
する健康増進法の一部改正が平成15年8月29日になされていた。
これを受け、民放連においても、健康関連番組の増加を踏まえ、番組における取り扱
いの適正化を図るため、
留意すべき事項を定めるとともにテレビショップ等に関する規定
を新設し、視聴者保護に関する自律的取組が強化され、以下のとおり、放送基準57条
に新たに健康情報が加えられることになり、
平成16年1月30日、
民放連放送基準審議会
より各放送局宛放送基準の改正の通知がなされていたことは、
前述したとおりである。
関西テレビは、同時期に上記のような番組を制作するのであれば、
このような情報
番組に対する環境の変化を敏感に受け止め、
その趣旨に十分に配慮した番組作り
を進めるべきであったといえよう。
161
「放送基準の改正」を「あー健康ね」となんとなく受け入れるのではなく、
その背
後には、直接番組を規制するものではないけれど健康食品広告の規制が始まって
おり、
それは拡大する健康願望・痩身願望に付け込んだ中国製ダイエット食品による
健康被害の社会問題化や、怪しい健康情報に対する国民や政府の深刻な危機感
がある…。そういった想像力を働かせて、放送に求められている社会的要請をイメー
ジし、
それを番組作りや規程・業務フローの検討に反映させる。そのことが「コンプラ
イアンス」なのです。
コンプライアンスと「法令遵守」は違う
「法令」は社会要請を映す鏡
法令や決まりは、
「社会の要請を映し込んだ鏡」だといえます。ではこの鏡の全体
像を見ていくのですが、法令のここ10年くらいの大きな潮流は「規制緩和」
「権利保
護」
「重罰化」だと思います。特に企業法、経済法の分野で顕著です。国際化の潮
流の中で、護送船団方式で守られた日本企業に国際競争力がないことが明らかに
なったため、法規制を大幅に緩和して、企業の戦略に自由度を持たせる。ただこれ
によって個人・法人を問わず他の権利者の権利を侵害してはいけないので、複雑化
した権利の所有者や一般市民をしっかり保護する。また、経営の自由度を拡大する
一方で、違反者への罰則は重くして企業行動をけん制する、
といった大きな流れが
あります。
これらの法令が改正されるときは、規制の強化、
もしくは厳罰化であることが比較
的多いものです。民放連はメディア規制に反対する姿勢を鮮明にしており、関係す
る法案が話題になるたびに慎重な議論を求める声明や反対声明を出しています。と
はいえ、
当然ながら制定・施行された法令に従うのは当たり前のことです。
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ア
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ス
と
法
令
遵
守
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1 「関テレ六法」
憲法・民法・刑法などの基本法以外で、関西テレビの役員社員が常に意識すべき
法令を選んでみます。それぞれは個別の法律ではなく、
「法令群」と考えてください。
(1)電波法・放送法
放送事業者としての存立に関わるというジャンルで、公共の電波を利用するため
に遵守しなければならない様々な事項を定めた分野です。ここには電波法、放送法
のほか、公共的使命によって放送上様々な義務を負う、公職選挙法、災害対策基本
法、国民保護法などを含むことにします。関西テレビのすべてのセクションに関係す
る分野です。
(2)会社法
株式会社としての関西テレビの存在を規定する「会社法」。株主総会、取締役会、
監査役などの組織とその運営、決算や会計監査などが定められています。役員をは
じめ総務、経理等の部署が深く関わりますし、会社法の求める「内部統制」はすべ
ての部門に深く関係します。
(3)独占禁止法
株式会社が社会と関わる「独占禁止法」。公正な競争を担保するための経済憲
法ともいえる分野で、景品表示法や下請法は、独占禁止法の付属法です。景品表
示法についてはCMの取り扱い上で慎重な配慮が必要ですし、下請法については、
番組をはじめとする情報成果物作成委託、役務提供委託の場合に細心の注意が
必要です。
(4)知的財産法
関西テレビの権利が他者の権利と衝突する場合を調整する「知的財産法」。著
作権法や商標法、特許法、意匠法、不正競争防止法も含まれます。私たちは、知的
財産を生み出すことが仕事です。自社の知的財産をしっかり守るとともに、他者の知
的財産を厳密に尊重しなければなりません。著作権担当部署や番組制作関係部署
だけでなく、全社に関わる法令群です。
163
(5)労働法
会社と社員もしくは派遣社員の関係を規律する「労働法」。労働基準法、労働組
合法、労働関係調整法のいわゆる労働三法をはじめ、労働安全衛生法、男女雇用
機会均等法、労働者派遣法、公益通報者保護法もこの分野です。人事担当部門だ
けでなく、管理者は常に労働法規を意識しなければなりません。
(6)消費者法
メディアとしての責任から、常に意識しなければならないのが、情報弱者としての
消費者を保護する「消費者法」です。消費者基本法、消費者契約法、特定商取引
法、個人情報保護法、食品安全基本法、製造物責任法、薬事法、健康増進法、医療
法、
PSE法などで、広告の取り扱いに深く関わります。メディアを直接に規律する法
令は多くなく、番組内容を直接規律する趣旨のものもありません。
しかし、
テレビは「情
報弱者」である消費者・国民の知る権利に応える義務によって存立しており、
これら
の法令を強く意識する必要があります。
このガイドラインにおいては、
「関西テレビ倫理・行動憲章」
「関西テレビ放送放送
基準」のほか、①の「電波法・放送法」を記載します。②から⑥の法令については、
社内LANに順次掲載し、随時更新していきます。
法令を参照するときは、政府の運営する「法令データ提供システム」を利用すると
便利です。
ht
tp://l
aw.
e−gov.
goj
.
p/cgi−bin/idxsearch.
cgi
また、著名な判例は裁判所の「判例検索システム」で検索可能です。
ht
tp://www.
courts.
goj
.p/search/jhsp0010?act
i
on_id=f
i
rst&hanre
iSrchKbn=01
(資料編 参照)
第
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コ
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プ
ラ
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ア
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ス
と
法
令
遵
守
164
2 関西テレビ 倫理・行動憲章
前 文
関西テレビ及び関西テレビグループ各社のすべての役員、社員( 以下総称して
「私たち」という)は、公共の福祉と文化の向上そして社会正義の実現を通じて健全
な民主主義の発展に寄与するために、
この関西テレビ倫理・行動憲章を読み、理解
し、遵守することを誓います。
私たちは放送の公共的使命と報道機関としての責任、
さらに放送の社会的影響
力の大きさを十分に自覚し、多様で豊かな文化の担い手として、視聴者の信頼に応
えていきます。また、放送をはじめとするあらゆる事業において嘘(うそ)のない、事実
を重んじた正確な情報に基づいた責任ある発言と行動を貫き、
もって公正で誠実な
企業活動を展開します。
これらの実現のために、私たちは放送人として高いレベルの倫理観が求められて
いることを強く自覚し、常日頃からモラルの保持・向上と共に自主・自律の精神を養う
ことに努めます。
私たちは、
2007年1月に発覚した「発掘!あるある大事典Ⅱ」問題を深く反省しま
す。そして、過ちを繰り返さないという強い決意と覚悟で、一人ひとりが法令や自ら定
めたルールを遵守し、思いやりと深い想像力を持って、社会に真に必要とされる良質
なメディアを目指すことを誓い、
この憲章を確定します。
【社会規範、社内規程の遵守】
■ 私たちは、法令をはじめとする社会規範および関西テレビ倫理・行動憲章をはじ
めとする社内規程の求めるところを、一人ひとりの責任において、確認し、理解し、
遵守します。また、
いかなる場合においても、上司の指示・命令や社の経済的利
益よりも、社会規範や社内規程を優先して行動します。
■ 私たちは、関西テレビの放送基準、番組制作ガイドラインを守り、電波が公共のも
のであることに鑑み、放送法の精神を厳粛に受け止め、
これを遵守して放送の健
全な発展をはかります。
【放送の使命の自覚と責任】
■ 私たちは、放送事業者に自主・自律が認められていることの意義を自覚し、
あらゆ
る圧力から独立した自らの責任において番組を制作・放送します。
165
■ 私たちは、放送の公共的使命を深く自覚し、国民の知る権利に奉仕するため、
ま
た視聴者の楽しみと満足のために、報道・表現の自由を行使します。
■ 私たちは、放送の社会的影響力の大きさを深く自覚し、
良心と職業意識に基づき
視聴者の信頼に応える番組を制作・放送します。
■ 私たちは、放送においては事実を尊重し、情報の正確性を確保し、真実を追求し
ます。放送が事実と違っていることが明らかになったときは、速やかに訂正します。
■ 私たちは、人間の尊厳に敬意を払い、多様性を尊重します。人種、性別、宗教、国
籍、職業などによって差別を行わず、名誉・プライバシーなどの人権を守ります。
■ 私たちは、放送人として常に高い倫理を保持し、
これに反する行為や言動は行い
ません。
■ 私たちは、放送に携る外部スタッフとともに不断の研鑽を積み、常に倫理や制作
力の向上に努めます。また、常にその機会を提供します。
■ 私たちは、外部スタッフを含め、番組制作・放送に関わる放送人が不当な干渉を
受けないよう、
その自由を最大限尊重します。
■ 私たちは、視聴者や市民の要望、意見や批判に対しては、謙虚に耳を傾け、誠実
かつ迅速に対応します。また、視聴者とのコミュニケーションを充実させるとともに、
メディアリテラシーの向上のための活動に積極的に取り組みます。
【企業市民としての社会的責任】 ■ 私たちは、環境への負荷を低減させるため、事業を通じて資源の有効利用や省
エネルギー・地球温暖化対策を進めます。
■ 私たちは、社会を構成するよき企業市民として、放送・イベントなど事業を通じて
地域をはじめとする社会全般に対する貢献活動を行います。また、企業市民とし
て社会問題の解決に自発的に取り組むとともに、社員による社会貢献活動を支
援します。
【取引先等との関係】
■ 私たちは、番組の制作・放送に関わる法人・個人、広告主・広告会社、系列局など
すべての取引先に対し、公正かつ誠実に対応し、
パートナーシップを構築します。
独占禁止法、下請法および関係法令を遵守し、公正、対等、透明、
自由な取引を
行います。取引においては、優越的な関係を利用した不当な取引行為を厳に戒
めます。
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■ 私たちは、番組制作・放送に関わる法人・個人、広告主・広告会社、系列局等す
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べての取引先との間で、社会通念を逸脱する贈答・接待その他経済的利益の
授受は行いません。
■ 私たちは、公務員またはこれに準ずる立場の者に対し、不正な贈答・接待・便宜
供与を行いません。
■ 私たちは、社会の秩序や安全に脅威を与える反社会的勢力・団体に対しては毅
然とした態度で臨み、名目にかかわらず、
いかなる利益供与も行いません。
【情報と知的財産権の取扱い】 ■ 私たちは、機密情報や守秘義務のある情報(取材源を含む)
を除いて社会が必
要としている情報をわかりやすく積極的に開示します。社にとって不利な情報も
同様に扱います。
■ 私たちは、業務上知り得た機密やプライバシーについては、在職中はもちろんのこ
と、退職後も決して漏えいしません。また、取材源の秘匿は、
これを貫きます。
■ 私たちは、知的財産権の創造に努め、社の知的財産を保全し活用する一方、他
者の知的財産権を侵害しないよう細心の注意を払います。
■ 私たちは、個人情報保護法を遵守し、業務上必要な個人情報について適正に収
集し、管理します。適正な手続きや正当な理由なく、
目的外の使用や第三者への
漏えいは行いません。
■ 私たちは、業務に関して知り得た未公表の内部情報を利用して、取引先、取材先
等の株式等を売買するインサイダー取引等、
自己または第三者の利益を図る行
為を行いません。
【健全かつ安全な職場環境】 ■ 私たちは、安全で健康な、規律ある職場環境を維持します。セクシャル・ハラスメ
ント、パワー・ハラスメントなどは、決して行いません。また、他人を差別し、人権を損
ない、人格を傷つける発言は、行いません。他人がそれをすることも許しません。
■ 私たちは、番組制作、取材、設備保守など、事業活動のあらゆる局面で安全確保
を最優先します。報道機関としての使命を達成するための取材活動にともなう危
険については、
日常的な安全管理の点検と周到な準備により、危険を可能な限り
小さくすることに努めます。
【不祥事の防止と危機管理】 ■ 私たちは、業務を行うにあたってそのリスクを正しくとらえ、排除、回避、縮小する
167
など適切に対処します。
■ 私たちは、
自らの権限と職責を明らかにし、業務において重要な事項を決して独
断せず、協議の上で行動します。
■ 私たちは、業務における必要な情報を適切に識別、把握し、社内外の情報を必
要とする者すべてに正しく伝達します。
■ 私たちは、職責に基づいて、常に自らの業務を点検します。また、経営者、取締役
会、監査役、内部監査担当が独立した立場で業務を点検できるようにします。点
検の結果、問題が明らかになれば、適切に改善します。
■ 私たちは、社の財産および業務上の権限や地位を私的な目的のために利用しま
せん。
■ 私たちは、業務に関する費用を支出する際には、社内規程に則り、適正かつ誠実
に処理します。
■ 私たちは、競業行為や利益相反行為など、社の利益に反して、
自己または第三者
の利益を図り、社に損害を与える行為は行いません。
■ 私たちは、業務において法令違反などの不正行為を知ったときは、職制を通じて、
もしくは内部通報制度によって速やかに通報します。内部通報者に対しては、秘
密を厳守し、通報を理由とする不利益な取扱いは一切行いません。
■ 私たちは、法令違反などの不正行為が発生したときは、迅速かつ正確な調査によ
り原因究明と再発防止に努めます。また、迅速で的確な情報の公開により説明責
任を果たし、不正行為には厳正に対処します。
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3 関西テレビ放送 放送基準
■目次 1章 人 権 2章 法と政治 3章 児童および青少年への配慮 4章 家庭と社会 5章 教育・教養の向上 6章 報道の責任 7章 宗 教 8章 表現上の配慮 9章 暴力表現 10章 犯罪表現 11章 性表現 12章 視聴者の参加と懸賞景品の取り扱い 13章 広告の責任 14章 広告の取り扱い 15章 広告の表現 16章 医療・医薬品・化粧品などの広告 17章 金融、不動産の広告 18章 広告の時間基準 (社)
日本民間放送連盟「放送音楽などの取り扱い内規」 [ 前 文 ] 当社は、民間放送のテレビ局として世界の平和、社会の秩序、公共の福祉、文化
の向上、産業経済の繁栄に貢献することを使命とする。
当社はこの自覚に基づき、世論を尊び、言論表現の自由と公正を守り、広告の真
実に徹するとともに、つねに品位と番組の調和に留意し明るく健全な放送を通じて
社会の信頼にこたえるものとする。
当社はまた、
この目的を達成するため、関係諸法令および日本民間放送連盟放送
基準にのっとり、つぎのような基準を定め、番組および広告などのすべての放送(多
重放送を含む)
に適用する。
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[ 基 準 ] 番組の編成にあたっては、番組相互の調和と放送時間を考慮し、広告について
は、番組および他の広告との配列ならびに放送時間との調和をはかる。
1章 人 権 (1)
人命を軽視するような取り扱いはしない。 (2)
個人・団体の名誉を傷つけるような取り扱いはしない。 (3)
個人情報の取り扱いには十分注意し、
プライバシーを侵すような取り扱い
はしない。 (4)
人身売買および売春・買春は肯定的に取り扱わない。 (5)
人種・性別・職業・境遇・信条などによって取り扱いを差別しない。
2章 法と政治 (6)
法令を尊重し、その執行を妨げる言動を是認するような取り扱いはし
ない。
(7)
国および国の機関の権威を傷つけるような取り扱いはしない。 (8)
国の機関が審理している問題については慎重に取り扱い、係争中の問
題はその審理を妨げないように注意する。 (9)
国際親善を害するおそれのある問題は、
その取り扱いに注意する。 (10) 人種・民族・国民に関することを取り扱う時は、
その感情を尊重しなけれ
ばならない。 (11) 政治に関しては公正な立場を守り、
一党一派に偏らないように注意する。
(12) 選挙事前運動の疑いがあるものは取り扱わない。 (13) 政治・経済問題等に関する意見は、
その責任の所在を明らかにする必
要がある。 (14) 政治・経済に混乱を与えるおそれのある問題は慎重に取り扱う。
3章 児童および青少年への配慮 (15) 児童および青少年の人格形成に貢献し、良い習慣、責任感、正しい勇
気などの精神を尊重させるように配慮する。 (16) 児童向け番組は、健全な社会通念に基づき、児童の品性を損なうよ
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うな言葉や表現は避けなければならない。 170
(17) 児童向け番組で、悪徳行為・残忍・陰惨などの場面を取り扱う時は、児
童の気持ちを過度に刺激したり傷つけたりしないように配慮する。 (18) 放送時間帯に応じ、児童および青少年の視聴に十分、配慮する。 (19) 武力や暴力を表現する時は、青少年に対する影響を考慮しなければな
らない。 (20) 催眠術、心霊術などを取り扱う場合は、児童および青少年に安易な模倣
をさせないよう特に注意する。 (21) 児童を出演させる場合には、児童としてふさわしくないことはさせない。
特に報酬または賞品を伴う児童参加番組においては、過度に射幸心を起
こさせてはならない。 (22) 未成年者の喫煙、飲酒を肯定するような取り扱いはしない。
4章 家庭と社会 (23) 家庭生活を尊重し、
これを乱すような思想を肯定的に取り扱わない。 (24) 結婚制度を破壊するような思想を肯定的に取り扱わない。 (25) 社会の秩序、良い風俗・習慣を乱すような言動は肯定的に取り扱わな
い。
(26) 公衆道徳を尊重し、社会常識に反する言動に共感を起こさせたり、模倣
の気持ちを起こさせたりするような取り扱いはしない。
5章 教育・教養の向上 (27) 教育番組は、学校向け、社会向けを問わず、社会人として役立つ知識
や資料などを系統的に放送する。 (28) 学校向け教育番組は、広く意見を聞いて学校に協力し、視聴覚的特性
を生かして、教育的効果を上げるように努める。 (29) 社会向け教育番組は、学問・芸術・技術・技芸・職業など、専門的な事柄
を視聴者が興味深く習得できるようにする。 (30) 教育番組の企画と内容は、教育関係法規に準拠して、
あらかじめ適当
な方法によって視聴対象が知ることのできるようにする。 (31) 教養番組は、形式や表現にとらわれず、視聴者が生活の知識を深め、円
満な常識と豊かな情操を養うのに役立つように努める。
171
6章 報道の責任 (32) ニュースは市民の知る権利へ奉仕するものであり、事実に基づいて報
道し、公正でなければならない。 (33) ニュース報道にあたっては、
個人のプライバシーや自由を不当に侵したり、
名誉を傷つけたりしないように注意する。 (34) 取材・編集にあたっては、一方に偏るなど、視聴者に誤解を与えないよう
に注意する。 (35) ニュースの中で意見を取り扱う時は、
その出所を明らかにする。 (36) 事実の報道であっても、陰惨な場面の細かい表現は避けなければなら
ない。 (37) ニュース、
ニュース解説および実況中継などは、不当な目的や宣伝に利
用されないように注意する。 (38) ニュースの誤報は速やかに取り消しまたは訂正する。
7章 宗 教 (39) 信教の自由および各宗派の立場を尊重し、他宗・他派を中傷、
ひぼうす
る言動は取り扱わない。 (40) 宗教の儀式を取り扱う場合、
またその形式を用いる場合は、尊厳を傷つ
けないように注意する。 (41) 宗教を取り上げる際は、客観的事実を無視したり、科学を否定する内容
にならないよう留意する。 (42) 特定宗教のための寄付の募集などは取り扱わない。
8章 表現上の配慮 (43) 放送内容は、放送時間に応じて視聴者の生活状態を考慮し、不快な感
じを与えないようにする。 (44) わかりやすく適正な言葉と文字を用いるように努める。 (45) 方言を使う時は、
その方言を日常使っている人々に不快な感じを与えな
いように注意する。 (46) 人心に動揺や不安を与えるおそれのある内容のものは慎重に取り扱う。
(47) 社会・公共の問題で意見が対立しているものについては、
できるだけ多
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くの角度から論じなければならない。 172
(48) 不快な感じを与えるような下品、卑わいな表現は避ける。 (49) 心中・自殺は、古典または芸術作品であっても取り扱いを慎重にする。 (50) 外国作品を取り上げる時や海外取材にあたっては、時代・国情・伝統・
習慣などの相違を考慮しなければならない。 (51) 劇的効果のためにニュース形式などを用いる場合は、事実と混同されや
すい表現をしてはならない。 (52) 特定の対象に呼びかける通信・通知およびこれに類似するものは取り
扱わない。ただし、人命に関わる場合その他、社会的影響のある場合は
除く。
(53) 迷信は肯定的に取り扱わない。 (54) 占い、運勢判断およびこれに類するものは、断定したり、無理に信じさせ
たりするような取り扱いはしない。 (55) 病的、残虐、悲惨、虐待などの情景を表現する時は、視聴者に嫌悪感を
与えないようにする。 (56) 精神的・肉体的障害に触れる時は、同じ障害に悩む人々の感情に配慮
しなければならない。 (57) 医療や薬品の知識および健康情報に関しては、
いたずらに不安・焦燥・
恐怖・楽観などを与えないように注意する。 (58) 放送局の関知しない私的な証言・勧誘は取り扱わない。 (59) いわゆるショッピング番組は、関係法令を順守するとともに、事実に基づく
表示を平易かつ明瞭に行い、視聴者の利益を損なうものであってはなら
ない。 (60) 視聴者が通常、感知し得ない方法によって、
なんらかのメッセージの伝
達を意図する手法(いわゆるサブリミナル的表現手法)
は、
公正とはいえず、
放送に適さない。 (61) 細かく点滅する映像や急激に変化する映像手法などについては、視聴
者の身体への影響に十分、配慮する。 (62) 放送音楽の取り扱いは、別に定める「放送音楽などの取り扱い内規」に
よる。
9章 暴力表現 (63) 暴力行為は、
その目的のいかんを問わず、否定的に取り扱う。 173
(64) 暴力行為の表現は、最小限にとどめる。 (65) 殺人・拷問・暴行・私刑などの残虐な感じを与える行為、
その他、精神的・
肉体的苦痛を、誇大または刺激的に表現しない。
10章 犯罪表現 (66) 犯罪を肯定したり犯罪者を英雄扱いしたりしてはならない。 (67) 犯罪の手口を表現する時は、模倣の気持ちを起こさせないように注意
する。
(68) とばくおよびこれに類するものの取り扱いは控え目にし、魅力的に表現し
ない。 (69) 麻薬や覚せい剤などを使用する場面は控え目にし、魅力的に取り扱って
はならない。 (70) 鉄砲・刀剣類の使用は慎重にし、殺傷の手段については模倣の動機を
与えないように注意する。 (71) 誘拐などを取り扱う時は、
その手口を詳しく表現してはならない。 (72) 犯罪容疑者の逮捕や尋問の方法、
および訴訟の手続きや法廷の場面
などを取り扱う時は、正しく表現するように注意する。
11章 性表現 (73) 性に関する事柄は、視聴者に困惑・嫌悪の感じを抱かせないように注意
する。 (74) 性感染症や生理衛生に関する事柄は、医学上、衛生学上、正しい知識
に基づいて取り扱わなければならない。 (75) 一般作品はもちろんのこと、
たとえ芸術作品でも過度に官能的刺激を与
えないように注意する。 (76) 性的犯罪や変態性欲・性的倒錯を表現する場合は、過度に刺激的であ
ってはならない。 (77) 性的少数者を取り上げる場合は、
その人権に十分配慮する。 (78) 全裸は原則として取り扱わない。肉体の一部を表現する時は、下品・卑
わいの感を与えないように特に注意する。 (79) 出演者の言葉・動作・姿勢・衣装などによって、卑わいな感じを与えない
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ように注意する。
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12章 視聴者の参加と懸賞・景品の取り扱い (80) 視聴者に参加の機会を広く均等に与えるように努める。 (81) 報酬または賞品を伴う視聴者参加番組においては、当該放送関係者で
あると誤解されるおそれのある者の参加は避ける。 (82) 審査は、出演者の技能などに応じて公正を期する。 (83) 賞金および賞品などは、過度に射幸心をそそらないように注意し、社会常
識の範囲内にとどめる。 (84) 企画や演出、司会者の言動などで、出演者や視聴者に対し、礼を失した
り、不快な感じを与えてはならない。 (85) 出演者の個人的な問題を取り扱う場合は、本人および関係者のプライバ
シーを侵してはならない。 (86) 懸賞募集では、応募の条件、締め切り日、選考方法、賞の内容、結果の
発表方法、期日などを明らかにする。ただし、放送以外の媒体で明らかな
場合は一部を省略することができる。 (87) 景品などを贈与する場合は、
その価値を誇大に表現したり、
あるいは虚
偽の表現をしてはならない。 (88) 懸賞に応募あるいは賞品を贈与した視聴者の個人情報を、
当該目的以
外で利用してはならず、厳重な管理が求められる。
13章 広告の責任 (89) 広告は、真実を伝え、視聴者に利益をもたらすものでなければならない。
(90) 広告は、関係法令などに反するものであってはならない。 (91) 広告は、健全な社会生活や良い習慣を害するものであってはならない。
14章 広告の取り扱い (92) 広告放送はコマーシャルによって、広告放送であることを明らかにしなけ
ればならない。 (93) コマーシャルの内容は、広告主の名称・商品・商品名・商標・標語、企業
形態・企業内容(サービス・販売網・施設など)
とする。 (94) 広告は、児童の射幸心や購買欲を過度にそそらないようにする。 (95) 学校向けの教育番組の広告は、学校教育の妨げにならないようにする。
(96) 広告主が明らかでなく、責任の所在が不明なものは取り扱わない。 175
(97) 番組およびスポットの提供については、公正な自由競争に反する独占的
利用を認めない。 (98) 権利関係や取り引きの実態が不明確なものは取り扱わない。 (99) 契約以外の広告主の広告は取り扱わない。 (100)事実を誇張して視聴者に過大評価させるものは取り扱わない。 (101)広告は、
たとえ事実であっても、他をひぼうし、
または排斥、中傷してはな
らない。 (102)製品やサービスなどについての虚偽の証言や、使用した者の実際の見
解でないもの、証言者の明らかでないものは取り扱わない。 (103)係争中の問題に関する一方的主張または通信・通知の類は取り扱わ
ない。 (104)暗号と認められるものは取り扱わない。 (105)許可・認可を要する業種で、許可・認可のない広告主の広告は取り扱わ
ない。 (106)食品の広告は、健康を損なうおそれのあるものや、
その内容に虚偽や誇
張のあるものは取り扱わない。 (107)教育施設または教育事業の広告で、進学・就職・資格などについて虚偽
や誇張のおそれのあるものは取り扱わない。 (108)占い、心霊術、骨相・手相・人相の鑑定その他、迷信を肯定したり科学を
否定したりするものは取り扱わない。 (109)私的な秘密事項の調査を業とするものは取り扱わない。 (110)風紀上好ましくない商品やサービス、
および性具に関する広告は取り扱
わない。 (111)秘密裏に使用するものや、家庭内の話題として不適当なものは取り扱い
に注意する。 (112)死亡、葬儀に関するもの、
および葬儀業は取り扱いに注意する。 (113)アマチュア・スポーツの団体および選手を広告に利用する場合は、関係
団体と連絡をとるなど、慎重に取り扱う。 (114)寄付金募集の取り扱いは、主体が明らかで、
目的が公共の福祉に適い、
必要な場合は許可を得たものでなければならない。 (115)個人的な売名を目的としたような広告は取り扱わない。 第
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(116)皇室の写真、紋章や、
その他皇室関係のものを無断で利用した広告は
176
取り扱わない。 (117)求人に関する広告は、求人事業者および従事すべき業務の内容が明ら
かなものでなければ取り扱わない。 (118)テレビショッピング、
ラジオショッピングは、関係法令を順守するとともに、事
実に基づく表示を平易かつ明瞭に行い、視聴者の利益を損なうものであっ
てはならない。 (119)ヒッチハイクなどの特殊な挿入方法は、原則として放送局の企画によるも
のとする。
15章 広告の表現 (120)広告は、放送時間を考慮して、不快な感じを与えないように注意する。
(121)広告は、
わかりやすい適正な言葉と文字を用いるようにする。 (122)視聴者に錯誤を起こさせるような表現をしてはならない。 (123)視聴者に不快な感情を与える表現は避ける。 (124)原則として、最大級またはこれに類する表現をしてはならない。 (125)ニュースで報道された事実を否定してはならない。 (126)ニュースと混同されやすい表現をしてはならない。特に報道番組のコマ
ーシャルは、番組内容と混同されないようにする。 (127)統計・専門術語・文献などを引用して、実際以上に科学的と思わせるお
それのある表現をしてはならない。
16章 医療・医薬品・化粧品などの広告 (128)医療・医薬品・医薬部外品・医療用具・化粧品・いわゆる健康食品など
の広告で医師法・医療法・薬事法などに触れるおそれのあるものは取り扱
わない。 (129)治験の被験者募集CMについては慎重に取り扱う。 (130)医業に関する広告は、医療法などに定められた事項の範囲を超えては
ならない。 (131)医薬品・化粧品などの効能効果および安全性について、最大級またはこ
れに類する表現をしてはならない。 (132)医薬品・化粧品などの効能効果についての表現は、法令によって認めら
れた範囲を超えてはならない。 177
(133)医療・医薬品の広告にあたっては、著しく不安・恐怖・楽観の感じを与え
るおそれのある表現をしてはならない。 (134)医師、薬剤師、美容師などが医薬品・医薬部外品・医療用具・化粧品を
推薦する広告は取り扱わない。 (135)懸賞の賞品として医薬品を提供する広告は、原則として取り扱わない。
(136)いわゆる健康食品の広告で、医薬品的な効能・効果を表現してはなら
ない。
17章 金融・不動産の広告 (137)金融業の広告で、業者の実態・サービス内容が視聴者の利益に反する
ものは取り扱わない。 (138)消費者金融のCMは、安易な借り入れを助長する表現であってはならな
い。特に、青少年への影響を十分考慮しなければならない。 (139)不特定かつ多数の者に対して、利殖を約束し、
またはこれを暗示して出
資を求める広告は取り扱わない。 (140)投機性のある商品・サービスの広告は慎重な判断を要する。 (141)宅地建物取引業法、建設業法により、登録された業者以外の広告は取
り扱わない。 (142)不動産の広告は、投機をあおる表現および誇大または虚偽の表現を用
いてはならない。 (143)法令に違反したものや、権利関係などを確認できない不動産などの広
告は取り扱わない。 18章 広告の時間基準
(144)コマーシャルの種類はタイムCM、
スポットCMとする。 (145)週間のコマーシャルの総量は、総放送時間の18%以内とする。 (146)プライムタイムにおけるCM(SBを除く)の時間量は、下記の限度を超え
ないものとする。その他の時間帯においては、
この時間量を標準とする。
ただし、
スポーツ番組および特別行事番組については別途定めるところに
よる。
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5 分以内の番組
1分00秒
10分以内の番組
2分00秒
20分以内の番組
2分30秒
30分以内の番組
3分00秒
40分以内の番組
4分00秒
50分以内の番組
5分00秒
60分以内の番組
6分00秒
60分以上の番組は上記の時間量を準用する。
注) プライムタイムとは、
局の定める午後6時から午後11時までの間の連続した
3時間半を言う。 ※1 タイムCMには、
音声(言葉、
音楽、
効果)、
画像(技術的特殊効果)
などの表
現方法を含む。 ※2 演出上必要な場合を除き、
広告効果を持つ背景・小道具・衣装・音声(言葉、
音楽)
などを用いる場合はコマーシャル時間の一部とする。
(147)スーパーインポーズは、番組中においてコマーシャルとして使用しない。
ただし、
スポーツ番組および特別行事番組におけるコマーシャルとしての
使用は、別途定めるところによる。 (148)スポットCMの標準は次のとおりとするが、放送素材の音声標準は民放
連技術規準による。
音声
素材
スポットの種類
音節数
字数
5秒
3.5秒以内
21 音節
10秒
8 秒以内
48 音節
15秒
13 秒以内
78 音節
20秒
18 秒以内
108音節
30秒
28 秒以内
168音節
60秒
58 秒以内
348音節
(149)ガイドは別途定めるところによる。
(社)日本民間放送連盟「放送音楽などの取り扱い内規」
Ⅰ.
放送音楽については、公序良俗に反し、
または家庭、特に児童・青少年に好ま
しくない影響を与えるものを放送に使用することは差し控える。放送に使用する
ことの適否を判断するにあたっては、放送基準各条のほか、次の各号による。 179
(1)人種・民族・国民・国家について、
その誇りを傷つけるもの、国際親善関係
に悪い影響を及ぼすおそれのあるものは使用しない。 (2)個人・団体の名誉を傷つけるものは使用しない。 (3)人種・性別・職業・境遇・信条などによって取り扱いを差別するものは使用
しない。 (4) 心身に障害のある人々の感情を傷つけるおそれのあるものは使用しない。
また、
身体的特徴を表現しているものについても十分注意する。 (5)違法・犯罪・暴力などの反社会的な言動を肯定的に取り扱うものは使用し
ない。特に、麻薬や覚醒剤の使用などの犯罪行為を、魅力的に取り扱うもの
は使用しない。 (6)性に関する表現で、直接、間接を問わず、視聴者に困惑・嫌悪の感じを抱
かせるものは使用しない。 (7)表現が暗示的、
あるいは曖昧であっても、
その意図するところが民放連放
送基準に触れるものは使用しない。 (8)放送音楽の使用にあたっては、児童・青少年の視聴に十分配慮する。特
に暴力・性などに関する表現については、細心の注意が求められる。 Ⅱ.
(1)日本民間放送連盟放送基準審議会は内部機構として、民放各社が放送
音楽の取り扱いを自主的に判断するうえで参考となる意見を述べるため放
送音楽事例研究懇談会を置くことができる。放送音楽事例研究懇談会は、
委員( 考査責任者または音楽資料責任者 )若干名で構成し、
アドバイザー
(放送基準審議会委員)
を置く。 (2)民放各社は、歌謡曲など特定の曲を放送に使用することの適否について、
放送音楽事例研究懇談会の意見を求めることができる。放送音楽事例研
究懇談会の意見は民放全社に知らせて、
その参考に供する。 (3)放送音楽事例研究懇談会は、民放各社の自主的判断のため参考になる
と認める時は、特に意見を求められていない曲についても、
その意見を民放
全社に知らせることができる。 <注記> なお、
「要注意歌謡曲」の指定制度は1983
( 昭和58)年に廃止され、
要注意の指定から5年を経過するまでの間、経過期間として指定の効力は継続した
が、
その期間も1987
(昭和62)年に満了し、
「要注意歌謡曲一覧表」は消滅した。
第
9
章
コ
ン
プ
ラ
イ
ア
ン
ス
と
法
令
遵
守
180
おわりに
「負の記憶」の継承
今回の「番組制作ガイドライン」制定にあたり、私たちが、
まず、行ったのは、調査委
員会報告書を熟読することでした。報告書が私たちに求めている精神を、
真に理解す
ることでした。そして、
この捏造問題で、
「私たちは何を間違ったのか」
「失った信頼を
取り戻すには、
私たちは何をしなければならないのか」を自らに厳しく問い直しました。
当事者として、
この「作業」は辛いものでした。何度も、編集会議を繰り返し議論す
る中で、
「発掘!あるある大事典Ⅱ」の問題で大きな責任を負った私たちは、
この「負
の記憶」を風化させることなく、
また、逃げ出すことなく背負い続けなければならない
のだということを強く決意するに至りました。
今回、制定した「番組制作ガイドライン」は決して、完璧なものではありません。社
会情勢の変化とともに、法律や規範が変わることもあります。それに伴って、
この「番
組制作ガイドライン」も見直さなければなりません。
しかし、
ガイドラインが私たちに求めている「私たちはなぜ捏造番組を放送してしま
ったのか」を不断に問い続ける真摯な姿勢と、高度な倫理観・責任感・情熱に基づ
いて番組を制作する姿勢は不変です。
私たちの「再生への道程」に対して貴重なご提言をいただいた『発掘!あるある
大事典』調査委員会の皆様に、心より深甚な敬意と感謝の意を表します。
このガイドラインが、放送人としての使命と情熱を持って、
これからの番組制作にあ
たる多くの後輩たちの「標」となる事をひたすらに願っています。
最後に、
「放送基準解説書」他の資料引用を許諾いただきました日本民間放送
連盟、並びに、様々にご教示いただきましたBPO
(放送倫理・番組向上機構)
に深く
感謝申し上げます。
2007年 7月
番組制作ガイドライン制定委員会
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