中性子星表面層における ヘリウム・フラッシュ 基礎粒子系科学専攻 粒子宇宙論 III 黒水 玲子 指導教官 橋本 正章 1 目 次 1 序論 3 2 降着中性子星モデル 5 2.1 中性子星のモデルと物理量 : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : 5 2.2 仮定と初期モデル : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : 6 2.3 数値シミュレーション : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : 7 3 結果と考察 9 4 まとめと展望 11 2 概要 降着中性子星表面層における核燃焼過程は X 線バーストの現象を理解する上で最も基本的で 重要なものである.中性子星表面層での核燃焼過程は伴星からの物質の降着率によって異なる. 降着率が中程度の場合,安定な水素燃焼を経て He-フラッシュが起こると予測されている.また, バースト時に光球の膨張を示すものは He-フラッシュが原因であると示唆されている.このよう なバーストは最近の観測においても数個観測されており,He-フラッシュの理論的モデルとの比較 が必要になってきた.現在までに理論的モデルがいくつか報告されているが,単純化されたモデ ルに限られている.そこで,より現実的なモデル構築が必要とされている. 本研究では,球対称の下で一般相対論の効果を厳密に取り入れた降着中性子星の進化コード を用いて,降着層の底で起こる He-フラッシュの物理的素過程を調べた.本来は水素やヘリウム などの混合物が中性子星に降着し,降着層の底で水素の安定燃焼が起こり水素層の下にヘリウム 層が徐々に形成されると想定される.そして,このヘリウム層がある温度・密度に達すると Heフラッシュが起こると考えられている.我々の場合,He-フラッシュの素過程を調べるためにモデ ルを単純化し,降着する物質はすべてヘリウムと仮定した.その際,進化コードに用いる核反応 の近似ネットワークを新たに開発した.また,近似ネットワークの input data となる核反応率も 最新のデータを用いた. 代表的 3 つの降着率に対して数値シミュレーションを遂行した.結果として ignition するま での降着層の物理量の時間的進化が得られた.また,convection の効果が ignition,つまり He-フ ラッシュに対して大きな影響を与えることがわかった. 3 1. 序論 X 線バーストは X 線強度が約 1 秒で 10 倍近く増大し 10 秒程度かけて元の強度に復帰する現 象である.1975 年に球状星団 NGC6624 中にある X 線源から最初に発見され (Belian et al. 1976, Grindlay et al. 1976 ),その後現在までに 50 個ほどの X 線源より観測されている.それらの X 線源は中性子星と低質量星( 1 2M )から成る低質量 X 線連星系 (Low Mass X-ray Binary : LMXB) であると考えられている (Fig. a). X 線バーストはスペクトルの変化によって I 型と II 型に分類される.I 型バーストはその X 線スペクトルが黒体放射で記述でき (Swank et al. 1977, Homan,Lewin & Doty 1977),これ によりバーストの減衰時に黒体温度が下がっていくという特徴を示す.一方,II 型のバーストは 黒体温度が一定のままである.I 型バーストのプロファイルは一般に立ち上がり時間が 1 0 10 s, 減衰時間が 5 0 300 s であり, 光度はピーク時に約 1038 erg s01 , 全エネルギーはおよそ 1039 erg に達する. II 型は I 型と同程度のエネルギーを放出するが, 冷却の様相をしめさない. またバース ト休止時の平均光度とバースト時の平均光度の比 ( ) は I 型では 10 0 103 ,II 型では ∼ 1 であ る.ここで は次のように定義される: Epersistent Eburst 8 < : Epersistent : バースト休止時のエネルギー Eburst : バースト時のエネルギー (1:1) バースト休止時のエネルギーを重力エネルギーによるものだとするとこれらの の値は,核子 1 個当たりの中性子星表面での重力エネルギー 180 MeV と核反応によって解放される核子 1 個当 たりのエネルギー(例えば,水素が鉄になる場合の核子 1 個当たりのエネルギーは 8.4 MeV で, ヘリウムが鉄になる場合の核子 1 個当たりのエネルギーは 1.7 MeV である)の比とおおよそ一致 している.このことから現在では I 型は降着円盤から降着した物質の中性子星表面層での爆発的 な核融合反応による核エネルギーの解放に起因し,II 型は降着する物質が断続的に中性子星に降 着することによる重力エネルギーの解放によって起こったものであると推定されている.従って, 降着中性子星表面層における核燃焼過程は X 線バーストの現象を理解する上で最も基本的で重要 なものである.また,中性子星の磁場が強いと表面層での核燃焼は安定に抑えられバーストは起 きないと言われているが,近年強い磁場においても核燃焼が不安定になりバーストが起きるとの 報告も出ている (Lamb 2000).今後 I 型バーストを略して X 線バーストあるいは単にバーストと 呼ぶ. 上に記した核子 1 個当たりの重力エネルギーと核反応によって解放されるエネルギーの値 の値を見積もってみると、水素が鉄になる場合は ' 21,ヘリウムが鉄になる場合は ' 110 となる.これらの数値は水素燃焼の時よりもヘリウム燃焼の時の方が の値が大きいと いうことの目安となる.このことから, の値が大きいバーストはその中性子星の表面で He-フ から ラッシュが起こっているのではないかと考えられている.また,バースト時に光球の膨張を示すも のも He-フラッシュが原因であると示唆されている.光球の膨張を示している間星は Eddington 光度で光っている.観測的には MXB 1636-53 と EXO 074-676 のピーク光度は 2:3 × 1038 erg の 4 Eddington 光度と解釈された( Hanawa & fujimoto 1984, Bildsten 2000 ).光度一定で光球が膨 張する為表面の温度が下がり,バーストをエネルギーバンド 毎に見たとき高エネルギーバンド 側 で一時的に強度が下がる.このことから高エネルギーバンド 側でダブルピークが見えていると考 えられている.また,He-フラッシュが起こった場合,水素フラッシュよりも燃料を早く燃焼し一 気にエネルギーを出す為 (Fig. b) しばしば Eddington 光度を超えると考えられている (Bildsten 2000; Fig. c).従って,光球の膨張を示すバーストでは He-フラッシュが起こるのではないかと考 えられている.これらのような He-フラッシュを示唆するバーストは最近の観測で数個観測され ており,He-フラッシュの理論的モデルとの比較が必要になってきた.Table 1は近年の観測にお ける 値が大きいバーストもしくは光球の膨張を示すバーストが観測された例を示したものであ る.数値は 値を,PE は光球の膨張を示すバーストが観測されたことを意味する.これらの観 測は 1996-1999 年の間に RXTE もしくは BeppoSAX によって得られたものである.現在のとこ ろ,Joss (1978),Hanawa & Sugimoto (1982),Cumming & Bildsten (2000) などにより理論的 モデルがいくつか報告されているが,解析的取り扱いに限ったり,一般相対論の効果が入ってい ないなど単純化されたモデルのみである.そこで,本研究ではより現実的なモデルを用いて Heフラッシュに対する素過程を調べた. Table 1: 最近の観測において, 値が大きいバーストもしくは光球の膨張を示す例. 天体 SAX J1750.8-2900 , PE 85 6 20; 120 6 30; 170 6 30; 210 6 40 SAX J1747.0-2853 PE GX3+1 > 6; 1360,PE 4U 1812-12 640 6 100; 580 6 190,PE 4U 1728-34 > 89; > 119,PE 4U 1724-307 PE 1E1724-3045 PE 観測時 1997 1998 1999 1996-1999 1996-1999 1996 1996-1999 参考文献 Natalucci et al. 1999 Natalucci et al. 2000 Kuulkers & van der Klis 2000 Cocchi et al. 2000a van Straaten et al. 2000 Molkov et al. 2000 Cocchi et al. 2000b 2 10 log P = 23 εrad (1017 erg g–1 s–1) He flash log gs = 14.75 1 10 H/He burning 0 10 10 –1 0 5 time(s) 10 5 2. 2.1. 降着中性子星モデル 中性子星のモデルと物理量 本研究では,球対称の下で一般相対論の効果を厳密に取り入れた降着中性子星の進化コード を用いた (Fujimoto et al. 1984).中性子星の進化を記述する基礎方程式は以下のように表される (Thone 1977). dMtr = 4r2 t dr ! dP GMtr t P 4r 3 P 2GMtr 01 = 0 1 + 1 + 1 0 dr r2 t c2 Mtr c2 c2 r d(Lr e2=c2 ) 2=c2 0 =c2 @s = e n 0 0 e T dMr @t 8 < rrad rrad rad dlnT = : dlnP r rrad > rad 2 @Xi e0=c = i (i = 1; :::13) @t dMtr 2GM 01=2 = t 1 0 2 tr dMr cr d G(Mtr + 4r3 P=c2 ) = dMtr 4r 4 t Mr : (2.2) (2.3) (2.4) (2.5) (2.6) (2.7) 半径 r 内の静止質量、Mtr : 半径 r 内の全質量 : t : (2.1) 静止質量密度、: 重力ポテンシャル 全質量エネルギー密度(重力エネルギーを除く) i : i 番目の粒子の核反応率 0 1 Schwarzschild 計量を使った場合一般相対論的補正因子 (重力赤方偏移) である 1 0 2GMtr =c2r 01=2 は標準的な中性子星のモデル( M = 1:4 M , R = 10 km) で '1.3 であり,今考えているモデル ( M = 1:6 M , R = 8 km) では '1.6 である. (2.1) と (2.2) から構築した降着前の中性子星は半径が 8km で質量が 1:61M である.中 性子星の中心 ' 5 × 1015 g cm03 から 3 × 1014 g cm03 程度までは n, p, で構成されており, 3 × 1014 0 3 × 1011 g cm03 程度までは crust と呼ばれる状態である.中心からの距離で言うと, crust までが約 7km で crust の厚さは 1km ほどである.この進化コードでは中性子星を Lagrange 的座標 Q( logMr =Mtr )の値で中心から 266 の層に分けており,各層の物理量を時間的に追う ことができる.降着率によっていくらか異なるが,考慮している降着層は圧力で P ' 1017 0 1026 erg cm03 ,密度で ' 102 0 108:5 g cm03 の範囲にあり,降着層の厚みは 100 m 程度である (Fig. d). 6 対流 (convection) を決めるのは (2.4) である.ここで 的場合は rrad は radiative gradient で非相対論 Lr P rrad = 643 GM T 4 r r (2:8) adiabatic gradient である.これは電子の縮退が非相対論的で放射圧を無 視できれば rad = 0:4 となる.また,今回は中間子による cooling についてはその効果を考慮し である.また, ad は ていない. Fig. 1と Fig. 2は組成が全て 56 Fe の場合と 4 He の場合についての不透明度 を電子伝導 cond ,自由-自由遷移 f f ,電子散乱 sc の領域に分けて示している.Ignition する付近で降着層 の底の密度,温度はそれぞれ 106 0 109 g cm03 ; 107:5 0 108:5 K の範囲であるので,これらの図よ り問題にしている不透明度は電子伝導の領域であることがわかる.電子伝導の不透明度 cond は cond = X i ! Xi Zi2 f ( ) Ai T (2:9) と表される.ここで Xi は i 番目の粒子の mass fraction,Zi は陽子数,Ai は質量数である.ま た, は kT を単位とした化学ポテンシャルである.組成が全て 56 Ni の場合の cond (56 Ni) と全 て 4 He の場合の cond (4 He) の比は cond (56 Ni) = 14 (2:10) cond (4 He) であり,組成によって は大きく変化する.従って,ヘリウムが降着で内部に圧縮されていくと (2.4) から convection が起こりうる. 2.2. 仮定と初期モデル 本来は水素やヘリウムなどの混合物が中性子星に降着し,降着層の底で水素の安定燃焼が起 こり水素層の下にヘリウム層が徐々に形成されると想定される.そして,このヘリウム層がある 温度・密度に達すると He-フラッシュが起こると考えられている.我々の場合,He-フラッシュの 素過程を調べるためにモデルを単純化し,降着する物質はすべてヘリウムと仮定した. He-フラッシュの過程を計算する為には初期モデルが必要である.このモデルは次のように して作った.初めに核燃焼反応を止めた状態で 2.1. で述べた 1:61M の中性子星にヘリウムを降 着させる.降着によって星の中心温度が上がっていくが,やがておおよそ一定温度に落ち着く. ここで,星のエネルギー保存則は次のように表される: Ln = Lph + L 0 Lg (2:11) = 0 であり中間子 cooling については無視しているので,Lph Lg である.つま り,中心温度が一定ということは Lph = Lg を意味する.この定常状態のモデルを初期モデルと してヘリウム降着を開始する.初期モデルにおいてこの星の質量は,降着率が 3 × 1008 M yr01 この場合は Ln 7 1:68M ,3 × 1009 M yr01 の場合は約 1:85M ,3 × 10010 M yr01 の場合は約 1:75M と増加した.また,初期モデルを作る間は降着層のうち一番外側の 6 層を降着物質であ る 4 He,それ以外の降着層は全て 56 Ni とした. の場合は約 2.3. 数値シミュレーション 今研究では,水素燃焼用であった進化コードをヘリウム燃焼用に作り変えた.その際,コー ド 内で用いる核反応の近似ネットワークを新たに開発した.この近似ネットワークで考慮されて いる粒子は 4 He から 56 Ni までの 粒子 13 個である( Table 2 ).反応は 3 反応,(, ) 反応と (; p) 反応を入れた( Fig. 3 ).ただし,(; p) 反応の後すぐに (p; ) 反応が起こるものとしてい る.また,近似ネットワークの input data となる核反応率も最新のデータを用いた.データは 3 反応に対しては NACRE 核反応率( Angulo et al. 1999 )を用い,それ以外の反応に対しては Thielemann library (REACLIB:1995) を用いた. 4 He 12 C 16 O 20 Ne 24 Mg 28 Si 32 S 36 Ar 40 Ca 44 Ti 48 Cr 52 Fe 56 Ni Z 2 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 A 4 12 16 20 24 28 32 36 40 44 48 52 56 Table 2: 近似ネットワークで考慮している元素. mass excess (keV) 2425 0 -4737 -7046 -13933 -21492 -26016 -30231 -34845 -37549 -42818 -48331 -53902 8 降着中性子星表面での核燃焼過程は伴星からの物質の降着率によって異なる.この降着率は Eddington 降着率M_ Edd を目安にパラメータ化される: M_ Edd = 4cR = 3 × 1008 R 10km 0:2cm2g01 この研究では 3 つの降着率 3 × 1008 ,3 × 1009 ,3 × 10010 01 (2.12) M yr01 について調べた.また,こ のコードでは Schwarzschild criterion を用いて convection が起こるかどうかを判断させているが, convection については星の進化で一番わかっていないことであるので,今回は極端な場合を考え て convection の効果が入っていない場合のシミュレーションを降着率が 3 × 1008 M yr01 に限っ て調べた. 9 3. 結果と考察 シミュレーションを行った結果として,Fig. 4は降着率が 3 × 1009 ,3 × 10010 M yr01 で の ignition までの降着層の進化を描いたものである.また,Fig. 5は降着率が 3 × 1008 M yr01 での convection の効果を入れた場合と入れない場合を示したものである.今回は ignition し始め た時に温度が初めにピークを持つ層を降着層の底とみなして,Fig. 4, Fig. 5中の line を引いた. どちらの図にも目安として ignition curve を引いた.どの場合でも ignition curve 近傍で ignition していることがわかる. この ignition (P curve は次のように定義した (Fujimoto et al. 1981).まず,plane parallel 近似 = 一定)では降着層の核燃焼時の温度進化は cp dT = "n 0 "rad dt (3:1) et al. 1999 ).ここで T は層の温度, cp は定圧比熱,"n は核エネルギー生成率, "rad は放射によるエネルギー損失率である. ニュートリノ損失率の効果はバースト時の核エネル ギー生成率と放射損失率に比べて小さいので考慮しなかった. "rad は次のように定義される. である( Koike "rad = また,"n 4ac T 4 3 2 (3:2) / T とする.今, ( 3.1 )に温度の摂動 (lnT ) を与えて摂動の一次の項まで考慮すると @ lnT = F lnT (3:3) @t "rad "n @ ln @ ln "n @ ln F 04+ + + (3:4) cp T "rad @ lnT @ lnT P "rad @ ln を得る.lnT / eF t であるから,F > 0 であれば lnT は時間が経つにつれて大きくなるので不 安定燃焼し,F < 0 であれば lnT は時間が経つにつれて小さくなるので安定燃焼すると考えら れる.F = 0 の線が図中の ignition curve である.この curve に達すると燃焼が不安定になると 考えられている.Fig. 4と Fig. 5の curve は組成がそれぞれ [X (4 He) = 0:05; X (56 Ni) = 0:95], [X (4He) = 0:5; X (56 Ni) = 0:5] の場合のものである. Fig. 5から,convection による組成の混合を入れた場合と入れない場合で ignition の位置が 大きく異なることがわかる.混合の効果を入れない場合 ignition する温度が下がる理由は次のよ うに考えることができる.convection を無視するとヘリウムと鉄の混合が抑えられ,混合領域は 狭くなる.不透明度の低いヘリウムのみの層が内部へと入り込み,その結果降着層の底が冷え, より低い温度で ignition する.また,ignition するまでの時間が短い理由としては,convection が起こらない為に圧縮されやすく,ignition するために必要な密度に達する時間が短かったと考 えられる.つまり,convection は圧縮を妨げる効果をもたらすと考えられる. 10 _ Myr01 ),T (K),( gcm03 ),t(s). Table 3: Ignition した時の物理量.単位は M( M_ 3 × 1008 3 × 1009 3 × 10010 log T 8:37 8:07 7:65 log 6:16 8:10 8:94 t 7:54 × 107 1:22 × 108 5:34 × 108 Table 4: 混合の効果を入れない場合の ignition した時の物理量( M_ = 3 × 1008 M yr01 ). convection o log T 8:10 log 7:30 t 2:27 × 104 Table 3と Table 4の log T ,log は Fig. 4と Fig. 5の ignition した点の log T と log に対応 する.t は ignition するまでの時間を示す.Table 3より,降着率が低くなるにつれて ignition す る時の温度は下がり,密度は上がる.そして ignition するまでの時間が長くなることがわかる. 各降着率における Q( logMr =Mtr )と圧力との関係を表したもの,層ごとの温度,密度そ して化学組成を圧力を用いて表したものが Fig. 10− 13である.図中の stage は各降着率での時 刻に対応しており,stage と時刻の対応は Table 5に示す通りである.また、Table 5におけるそれ ぞれの stage に対応する Fig. 4と Fig. 5中での時刻を示したものが Fig. 6− 9である.圧力が高 いほうが星の内側で低いほうが外側に対応する.圧力と温度の図 (Fig. a,b) より ignition におけ る温度の分布変化がわかる.圧力と化学組成の図 (Fig. d-f) において,組成が平らになっている 部分は convection が起こっている領域である.これより降着層の底で convection が起こっている ことがわかる.これらの図のうち,convection の効果を入れていない場合でもわずかではあるが 物質が混合している (Fig. 11 d-f).また,convection の効果を入れている場合でも convection 領 域以外に物質が混合している領域がある.これは進化コードにおける数値拡散によるものであり 今後の検討が必要である.組成については,16 O と 20 Ne は 16 O,24 Mg と 28 Si は 24 Mg,32 S 以降 の元素はまとめて 56 Ni として表記した. 11 4. まとめと展望 本研究において代表的な降着率に対する ignition における物理過程を調べた.その結果, convection による効果が ignition,つまり He-フラッシュのモデル化に大きな影響を及ぼすことが わかった.従って,光球の膨張を示すバーストのモデルと繰り返し周期のモデル構築に影響する であろう. 今後はヘリウム燃焼用に開発した進化コードを発展させ、降着層の底がその下の鉄の層と混 ざり合う mixing の方法についてその影響を調べて He-フラッシュの終了まで計算を進めていく. また、降着物質の化学組成や不透明度などの物理量がバーストの理論的モデルにどのような影響 を与えるかも調べていく.中性子星の回転や磁場は降着物質の様子や convection,mixing などに 影響を及ぼすと思われるので,それらの効果も理論的モデルに取り入れていく.また、球対称モ デルの限界についても調べる.さらにこれらの研究と密接に関係しながら,理論的モデルが X 線 バーストの観測によってどの程度制約を受けるかを調べていく予定である. - 謝辞 - 本研究に際し,指導教官である橋本先生には研究全般にわたりご指導を受け,藤本先生(北 海道大学理学部)には,降着中性子星のモデルに関して多くの助言をいただき心から感謝してお ります.また,議論に加わっていただいた山岡先生や多くの助言や研究資料をいただいた小池さ ん,さまざまな面でお世話になった研究室の方々や友人達にも深く感謝いたします. 12 REFERENCES Angulo, C. et al., 1999, Nucl. Phys. A656, 3 Belian, R. D., Conner, J. P., & Evans, W. D., 1976, ApJ , L135 206 Bildsten, L., 2000, in CosmicExplosions:proc. 10th Annual Oct. Astrophysics Conference, ed. S.S. Holt and W.W. Zhang (astro-ph/0001135) Cocchi, M., Bazzano, A., Natalucci, L., Ubertini, P., Heise, J. , Kuulkers, E., Muller, J. M., & In'tZand, J. J. M., 2000 , A&A 357, 527 Cocchi, M., Bazzano, A., Natalucci, L., Ubertini, P., Heise, J. , Kuulkers, E., In'tZand, J. J. M., 2000, astro-ph/0003333 Cumming, A., & Bildsten, L., 2000, ApJ 544, 453 Fujimoto, M., Hanawa, T., & Miyaji, S. , 1984, ApJ 278, 813 Fujimoto, M., Hanawa, T., Iben, I., Jr., & Richardson, M. B. , 1984, ApJ 278, 813 Grindlay, J. E., Gursky, H., & Schnopper, H., 1976, ApJ 205, L127 Hanawa, T., & Fujimoto, M., 1984, Publ. Astron. Soc. Japan 36, 199 Hanawa, T., & Sugimoto, D., 1982, Publ. Astron. Soc. Japan 34, 1 Hashimoto, M., Koike, O., & Kuromizu, R., 2000 , submitted to World Scientic Homan, J. A., Lewin W. H. G., & Doty, J., 1977, ApJ 217, L23 Joss, P. C., 1978, ApJ 225, L123 Koike, O., Hashimoto, M., Arai, K., & Wanajo, S., 1999 , A&A 342, 464 Kuulkers, E., & van der Klis, M., 2000, A&A Lamb, D. Q., 2000, ApJ Supplement Series , L45 356 , 395 127 Molkov, S. V., Grebenev, S. A., & Lutovinov, A. A., 2000 , A&A 357, L41 Natalucci, L., Cornelisse, R., Bazzano, A., Cocchi, M., Ubertini, P. , Heise, J., In'tZand, J. J. M., & Kuulkers, E. , 1999, ApJ 523, L45 Natalucci, L., Bazzano, A., Cocchi, M., Ubertini, P., Heise, J. , Kuulkers, E., & In'tZand, J. J. M., 2000, ApJ 543, L73 13 Swank, J. H., Becker, R. H., Bolt, E. A., Holt, S. S., Pravdo, S. H. , & Serlemitsos, P. J., 1977, ApJ 212, L73 Thielemann, F. -K., 1997, http://isotopes.lbl.gov/isotopes/astro/friedel.html Thone, K., 1977, ApJ , 825 212 van Paradijs, J., 1998, The Many Faces of Neutron Stars. Edited by Buccheri, R., van Paradijs, J., and Alpar, M. A.. Dordrecht ; Boston : Kluwer Academic Publishers, 1998., p.279 (astro-ph/9802177) van Straaten, S., van der Klis, M., Kuulkers, E., & Mendez, M. , 2000, astro-ph/0009194 14 log T (K) 9 κsc κff 8.5 κcond 8 7.5 5.5 6 log ρ (g cm–3) 6.5 7 6.5 7 Fig. 1.| X (56 Fe) = 1:0 における不透明度 の領域. 9 log T (K) κsc 8.5 κff κcond 8 7.5 5.5 6 log ρ (g cm–3) Fig. 2.| X (4He) = 1:0 における不透明度 の領域. 15 56 52 Ni 00 6 0088*55Co 088 Fe 00 6 32 S 008518*Mn 0 0 6 08 0 31P 48 8 Cr 0 88* 0 6 0 0 8 8 0 47V 28 Si 0 8 * 8 0 6 08 0027Al 44 8 Ti 0 88* 0 6 0 0 88 24 0 43Sc Mg 0 88* 00 6 0 8 8 0 40 23 Ca Na 0 8 * 8 00 6 0 8 8 20 Ne 0088*39K 00 6 088 0 36 19 Ar F 0 8 * 8 00 6 0 8 0 35 16 8 Cl O 0 88* 00 6 0 8 8 32 S 0088*15N 08 12 8 C 0 0 0 0 0 0 3 (; ) 0 0 0 0 0 4 He 08888* (; p) 6 0 (p; ) 808 Fig. 3.| 近似ネットワーク. 16 log T (K) 9 8.5 ignition curve 8 –9 3×10 –10 3×10 7.5 7 8 9 log ρ (g cm–3) Fig. 4.| M_ = 3 × 1009 ,3 × 10010 Myr01 の場合の ignition. log T (K) 9 8.5 ignition curve 8 convection off 7.5 6 Fig. 5.| の違い. 7 log ρ (g cm ) –3 8 M_ = 3 × 1008 Myr01 で,convection の効果を入れた場合と入れない場合の ignition 17 9 –9 –1 log T (K) Ṁ=3×10 (Msolaryr ) 8.5 ignition curve ··280stage 258stage ·231stage 8 7.5 7 8 9 log ρ (g cm–3) Fig. 6.| M_ = 3 × 1009 M yr01 の場合の ignition. 9 –10 log T (K) Ṁ=3×10 –1 (Msolaryr ) 8.5 ignition curve 8 770stage 351stage · 7.5 7 8 log ρ (g cm–3) Fig. 7.| M_ = 3 × 10010 M yr01 の場合の ignition. · · 651stage 9 18 9 convectin on log T (K) 350stage · · · 331stage 8.5 301stage ignition curve 8 7.5 6 7 log ρ (g cm–3) 8 Fig. 8.| M_ = 3 × 1008 M yr01 の場合の ignition (convection on). 9 log T (K) convection off 8.5 901stage 8 · 171stage · · ignition curve 231stage 7.5 6 7 log ρ (g cm–3) Fig. 9.| M_ = 3 × 1008 M yr01 の場合の ignition (convection o). 8 19 M_ 3 × 1008 3 × 1009 3 × 10010 3 × 1008 convection o stage t 301 331 351 231 261 281 351 651 771 171 231 901 7:54290 × 107 7:54291 × 107 7:54291 × 107 1:01000 × 108 1:22184 × 108 1:22340 × 108 1:41000 × 108 4:41000 × 108 5:34568 × 108 4:48417 × 102 2:26965 × 104 2:37923 × 104 Table 5: 各 stage に対応する時刻 t. 単位は Table 3と同じ. 20 8 301stage log ρ (g cm–3) 331stage 351stage 6 4 2 25 20 log P (g cm–1s–2) Fig. 10.| (a):M_ = 3 × 1008 M yr01 の場合の圧力と密度の関係. log T (K) 8.5 8 7.5 301stage 331stage 351stage 7 25 20 log P (g cm–1s–2) Fig. 10.| (b):Fig. 10.| (a) と同じ条件での圧力と温度の関係. 21 log P (g cm–1s–2) 25 20 301stage 331stage 351stage –1.5×10 –10 –1×10 –10 –11 –5×10 log Q Fig. 10.| (c):Fig. 10.| (a) と同じ条件での Q と圧力の関係. 0 10 56 Xi Ni 10 –1 10 –2 10 –3 4 He 12 C 10 –4 25 20 log P (g cm–1s–2) Fig. 10.| (d):Fig. 10.| (a) と同じ条件での 301 stage における化学組成. 6.3×10 –30 22 0 10 4 56 He Xi Ni 10 –1 10 –2 10 –3 10 –4 12 C 25 20 log P (g cm–1s–2) Fig. 10.| (e):Fig. 10.| (a) と同じ条件での 331 stage における化学組成. 0 10 4 56 He Xi Ni 10 –1 10 –2 12 C 10 –3 10 –4 25 20 log P (g cm–1s–2) Fig. 10.| (f):Fig. 10.| (a) と同じ条件での 351 stage における化学組成. 23 8 171stage log ρ (g cm–3) 231stage 901stage 6 4 2 25 20 log P (g cm–1s–2) Fig. 11.| (a):M_ = 3 × 1008 M yr01 (convection o) の場合の圧力と密度の関係. 171stage 231stage log T (K) 9 901stage 8 7 25 20 log P (g cm–1s–2) Fig. 11.| (b):Fig. 11.| (a) と同じ条件での圧力と温度の関係. 24 log P (g cm–1s–2) 24 22 20 171stage 18 231stage 901stage –11 –12 –1×10 –5×10 log Q Fig. 11.| (c):Fig. 11.| (a) と同じ条件での Q と圧力の関係. 0 10 56 Xi Ni 10 –1 10 –2 10 –3 10 –4 25 4 He 20 log P (g cm–1s–2) Fig. 11.| (d):Fig. 11.| (a) と同じ条件での 171 stage における化学組成. 7.9×10 –31 25 0 10 4 56 Xi Ni 10 –1 10 –2 10 –3 10 –4 He 12 C 25 20 log P (g cm–1s–2) Fig. 11.| (e):Fig. 11.| (a) と同じ条件での 231 stage における化学組成. 0 10 Xi 56 10 –1 10 –2 Ni 4 He 12 C 10 16 O –3 24 Mg 10 –4 25 20 log P (g cm–1s–2) Fig. 11.| (f):Fig. 11.| (a) と同じ条件での 901 stage における化学組成. 26 8 231stage 261stage log ρ (g cm–3) 280stage 6 4 2 25 20 log P (g cm–1s–2) Fig. 12.| (a):M_ = 3 × 1009 M yr01 の場合の圧力と密度の関係. log T (K) 8 7.5 231stage 7 261stage 280stage 25 20 log P (g cm–1s–2) Fig. 12.| (b):Fig. 12.| (a) と同じ条件での圧力と温度の関係. 27 26 log P (g cm–1s–2) 24 22 20 231stage 261stage 18 280stage –11 –1.5×10 –1×10 –11 –5×10 –12 log Q Fig. 12.| (c):Fig. 12.| (a) と同じ条件での Q と圧力の関係. 0 10 56 Ni Xi 4 10 –1 10 –2 10 –3 10 –4 He 25 20 log P (g cm–1s–2) Fig. 12.| (d):Fig. 12.| (a) と同じ条件での 231 stage における化学組成. –31 7.9×10 28 0 10 56 Xi Ni 10 –1 10 –2 4 He 12 C 10 –3 10 –4 25 20 log P (g cm–1s–2) Fig. 12.| (e):Fig. 12.| (a) と同じ条件での 261 stage における化学組成. 0 10 56 Xi Ni 10 –1 10 –2 4 He 12 C 10 –3 10 –4 25 20 log P (g cm–1s–2) Fig. 12.| (e):Fig. 12.| (a) と同じ条件での 280 stage における化学組成. 29 10 351stage 651stage log ρ (g cm–3) 8 770stage 6 4 2 25 20 log P (g cm–1s–2) Fig. 13.| (a):M_ = 3 × 10010 Myr01 の場合の圧力と密度の関係. log T (K) 7.5 7 351stage 651stage 770stage 6.5 25 20 log P (g cm–1s–2) Fig. 13.| (b):Fig. 13.| (a) と同じ条件での圧力と温度の関係. 30 log P (g cm–1s–2) 24 22 20 351stage 18 651stage 770stage –11 –12 –1×10 –5×10 log Q Fig. 13.| (c):Fig. 13.| (a) と同じ条件での Q と圧力の関係. 0 10 56 Ni Xi 4 10 –1 10 –2 10 –3 10 –4 25 He 20 log P (g cm–1s–2) Fig. 13.| (d):Fig. 13.| (a) と同じ条件での 351 stage における化学組成. 7.9×10 –31 31 0 Xi 10 10 –1 10 –2 10 –3 10 –4 56 4 Ni He 12 C 25 20 log P (g cm–1s–2) Fig. 13.| (d):Fig. 13.| (a) と同じ条件での 651 stage における化学組成. 0 10 56 4 Xi Ni 10 –1 10 –2 10 –3 He 12 C 16 O 10 –4 25 20 log P (g cm–1s–2) Fig. 13.| (d):Fig. 13.| (a) と同じ条件での 770 stage における化学組成.
© Copyright 2025 Paperzz