第56巻第7号平成25年10月1日発行(毎月1回1日発行) October 2013 電子書籍がもたらす出版・図書館・著作権の変化 現状分析と今後のあり方の検討 オープンアクセスの広がりと現在の争点 WIPOの無料特許情報データベースPATENTSCOPE 日本におけるオープンデータの進展と展望 日本版NIH創設に向けた新しい指標の開発(1) 新しい指標に基づいた医薬品産業の現状俯瞰・将来予測 連載: 研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門 第13回 外国法情報の世界 vol.56 no.7 p.403-490 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 Journal of Information Processing and Management 電子書籍がもたらす出版・図書館・著作権の変化 403 植村八潮 414 佐藤 翔 425 夏目健一郎 440 大向一輝 448 長部喜幸 治部眞里 現状分析と今後のあり方の検討 ■普及が進まないと指摘される電子書籍の現状について解説した上で,普及のため 出版社 (生成加工) 著作権者 (生成) 電子書店 読者 (消費) 購入 レンタル アクセス (DRM) (課金決済) 電子図書館 サービス になすべき制度整備や検討が始まっている著作権法改正について述べ,さらに図 標準ファイル形式 書館サービスに及ぼす影響や求められる対応について検討します。電子書籍がビ 電子書籍アーカイブ (制作/保管) (収益配分) 民間利用 納本制度 公共アーカイブ (蓄積) 図書館 (蓄積) ジネス競争の単なる道具として利用されるのではなく,学術と文化の発展に寄与 するためにどのような方策をとるべきか。現状分析に基づいて提言します。 公的運営費 1 オープンアクセスの広がりと現在の争点 ■オープンアクセス(OA)運動の背景から現在までの流れを概観し,現在のOA運 動における争点を整理します。利用者に料金を課さず出版するGold OAがビジネ スとして成立しています。著者自らによるセルフアーカイビングのGreen OAは, 助成機関によるOA義務化を伴うことで成功例が現れています。今後OAとどう向 き合っていくかを考える材料の1つとしてお読みいただければと思います。 WIPOの無料特許情報データベースPATENTSCOPE ■世界知的所有権機関(WIPO)は加盟各国の知的財産庁からデータの提供を受け, 自身のもつPCTデータとあわせて特許情報データベースPATENTSCOPEを無料で公 開しています。ここではその収録範囲と内容を紹介したのち,検索方法について 詳しく説明します。詳細検索ではブール演算の組み合わせはもちろん,近接演算 も利用できます。検索語を12か国語に翻訳して検索する多言語検索もあります。 日本におけるオープンデータの進展と展望 5607 s0004 目次アイコン.docx ■政府・地方自治体・公的機関による情報公開の取り組みの一環として「オープン ガバメントデータ」が注目を集めています。欧米の動きと比較すると,日本にお けるオープンデータの普及が遅れていることは確かですが,行政機関や市民の努 力によって,急速にデータの質・量ともに充実が進んでいます。ここでは国内の 公共セクターの先進例を紹介し,今後の展望について議論します。 日本版NIH創設に向けた新しい指標の開発(1) 新しい指標に基づいた医薬品産業の現状俯瞰・将来予測 ■政策決定・戦略立案に資するエビデンスを提供するため,新しい指標に基づいた 日本版NIH創設に向けた 新しい指標の開発(1) 医薬品産業の現状俯瞰・将来予測を試みた結果を報告します。第1回目は,製薬 企業等が有する研究開発パイプラインに着目しました。パイプラインを研究開発 段階ごとに整理し,すでに上市された医薬品数と比較するなどにより,各国の現 在及び将来における研究開発能力が把握できることを示します。 目次 月号 October 連載: 研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門 459 岩隈道洋 468 夏目健一郎 473 江草由佳 477 名和小太郎 480 時実象一 484 岡田英孝 第13回 外国法情報の世界 視点: 知財はグルメ? リレーエッセー: つながれインフォプロ 第1回 情報論議 根掘り葉掘り: 3Dプリンターでペンローズ三角形は作れたが… この本!~おすすめします~: 著作権を勉強してみよう 図書紹介: 『科学者の発表倫理:不正のない論文発表を考える』 485 情報界のトピックス 489 PINUP 490 編集後記 vol.56 no.7 JOHO KANRI 2013 October Journal of Information Processing and Management Contents Changing landscape of publication, library, and copyright attributable to digital books Present and future 403 UEMURA Yashio Growth of the open access movement and current issues 414 SATO Sho PATENTSCOPE: WIPO's database on patent information 425 NATSUME Ken-Ichiro Progress and challenge of open data in japan 440 OHMUKAI Ikki Development of new indicators for the launch of a Japanese version of the NIH (1) An overview and future prospects of pharmaceutical industry based on new indicators 448 OSABE Yoshiyuki JIBU Mari Series: 459 IWAKUMA Michihiro Opinion: 468 NATSUME Ken-Ichiro Relay essay: 473 EGUSA Yuka In-depth argument on information: 477 NAWA Kotaro My bookshelf: 480 TOKIZANE Soichi New book: 484 OKADA Hidetaka Introduction to legal research for R&D and business Part 13: System of foreign legal information Is intellectual property gourmet? Building networks among info pros (1) 3D printers turning a Penrose triangle into reality and raising copyright issues Get familiar with copyright 485 489PINUP Topics of the information community 490 Editor's note 電子書籍がもたらす出版・図書館・著作権の変化 電子書籍がもたらす出版・図書館・著作 権の変化 現状分析と今後のあり方の検討 Changing landscape of publication, library, and copyright attributable to digital books Present and future 植村 八潮1 UEMURA Yashio1 1 専修大学 文学部人文・ジャーナリズム学科(〒214-8580 神奈川県川崎市多摩区東三田2-1-1)Tel: 044-911-1059 E-mail: [email protected] 1 Department of Liberal Arts and Journalism, School of Letters, Senshu University (2-1-1 Higashi-Mita Tama-ku Kawasaki-shi, Kanagawa 214-8580) 原稿受理(2013-08-01) 情報管理 56(7), 403-413, doi: 10.1241/johokanri.56.403 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.403) 著者抄録 電子書籍の登場と普及が,印刷技術と物流,物販を基本構造とした産業構造に変革を迫っていることは疑いもない。 同時に出版物が担ってきた重要な役割である学術情報の流通や文化的蓄積にも影響を与え,ひいては図書館のあり方 や制度設計も変わらざるを得ない。本稿の目的は,普及が進まないと指摘される電子書籍の現状について解説した上で, 普及のためになすべき制度整備や検討が始まっている著作権法改正について述べ,さらに図書館サービスに及ぼす影 響や求められる対応について検討することにある。電子書籍がビジネス競争の単なる道具として利用されるのではな く,学術と文化の発展に寄与するためにどのような方策をとるべきか。現状分析により課題を明らかにし,その上で 目指すべきあり方を検討する。 キーワード 電子書籍,電子出版,図書館,電子図書館,デジタルアーカイブ,著作権,出版権,出版政策 1. はじめに よる出版産業の激変として描かれることもあった。 電子書籍の登場と普及が,印刷技術と物流,物販を 2010年の電子書籍ブーム以来,「電子書籍」という 基本構造とした産業構造に変革を迫っていることは 用語が一般化し,今では特別の注釈なく用いられて 疑いもない。同時に出版物が担ってきた重要な役割 いる。当初は,マスコミを中心に米国における成功 である学術情報の流通や文化的蓄積にも影響を与え, 事例との対比や,出版不況の打開策として取りあげ ひいては図書館のあり方や制度設計も変わらざるを られることが多かった。あるいは巨大IT企業の参入に 得ない。 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 403 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ October 本稿の目的は,普及が進まないと指摘される電子 もあるが,デジタルコンテンツとしてネットワーク 書籍の現状について解説した上で,普及のためにな で流通しディスプレイで読まれる以上,書籍と雑誌 すべき制度整備や検討が始まっている著作権法改正 を分ける意味はもはや失せている。 について述べ,さらに図書館サービスに及ぼす影響 や求められる対応について検討することにある。 電子書籍がビジネス競争の単なる道具として利用 一方,デジタルコンテンツの流通量が増大し,ディ スプレイで文字を読む機会が増えている。さまざま なデジタルコンテンツが流通する中で,新聞,書籍, されるのではなく,学術と文化の発展に寄与するた 雑誌などの印刷データから変換されたものは有償コ めにどのような方策をとるべきか。現状分析により ンテンツが多いが,戦略的に無料公開されたものも 課題を明らかにし,その上で目指すべきあり方を検 ある。 討する。また電子書籍ビジネスと情報流通基盤の変 これらのことから電子書籍を定義すると「既存の 革を分けてとらえ,その上でビジネスと学術文化の 書籍や雑誌に代わる有償あるいは無償の電子的著作 つながりが,いつ,どのような局面で起こっていく 物で,電子端末上で専用の閲覧ソフト(ビューワー) のか,民間や行政レベルの活動について見ておくこ により閲覧されるフォーマット化されたデータ」と とにする。 なる。技術的にはビューワーで読む,なんらかのファ 2. 電子書籍の定義と市場動向 イルフォーマット・データである。 (2)電子書籍の動向 流通チャネルの変化で分けると,1990年代後半の (1)電子書籍の定義 はじめに本稿で取り上げる,「電子書籍」を定義し 入って電話通信網と携帯電話に移行して市場が成長 ておくことにしよう。書籍や雑誌を電子化し,電子 した。2010年のいわゆる「電子書籍元年」以降,3G 端末で読むコンテンツを電子書籍と呼ぶようになっ 回線網とタブレット端末,さらには電子書籍専用端 たのは,それほど古いことではない。出版業界で使 末がブームを形成している。 われ始めたのは,1998年10月に設立された「電子書 日本の電子書籍市場調査としては,インプレスグ 籍コンソーシアム」がきっかけである。それまでは 「電 ループによる『電子書籍ビジネス調査報告書』が毎 子出版」という用語が一般的で,書籍や雑誌を含む 年発行されている。これは,インターネットや携帯 電子的な出版物や電子化作業を総称していた。この 電話を通した有償のデジタルコンテンツ市場を調査 電子出版という用語は,1980年代半ばにD T Pが普及 したもので,電子書籍を狭義にとらえた際の市場で し,CD-ROMによる電子辞典が発売されたことを機に ある。 概念化されている。 2012年度(2012年4月から2013年3月まで)は729 1990年代半ばに情報流通基盤としてインターネッ 億円であり,2011年度の629億円に対して15.9%増と トが普及し,次に携帯電話の利活用が若年層まで広 なった。2010年度で572億円まで成長し,電子書籍 がったことで,デジタルコンテンツをネットワーク の売上げの約9割近くを占めた携帯電話向け電子書籍 により配信する「コンテンツ系電子出版」が主流に 市場は,2年間で351億円まで縮小することになった なった。この「コンテンツ系電子出版」を現在では 404 インターネットとパソコンの時代から,2000年代に (図1)。 電子書籍と呼んでいる。従来の流通の違いによる出 同調査報告書によると,2012年末の電子書籍配信 版分類にならって,書籍系だけを「電子書籍」 ,雑誌 タイトル数は推計38万点で,対前年で12万点の増加 系を「デジタル雑誌(電子雑誌)」と呼び分けること である。この増加分は大半が電子書籍端末など「新 電子書籍がもたらす出版・図書館・著作権の変化 単位:億円 800 368 新たなプラットフォーム向け電子書籍市場規模 700 24 600 ケータイ向け電子書籍市場規模(公式コンテンツ) 500 PC向け電子書籍市場規模 112 6 400 513 300 572 480 402 283 200 112 100 0 351 10 1 18 12 33 2002 2003 2004 46 48 70 72 62 55 53 37 10 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 出典:インターネットメディア総合研究所編 「電子書籍ビジネス調査報告書2013」を基に筆者作成 図1 日本の電子書籍市場1) 図1 日本の電子書籍市場1) たなプラットフォーム」向け作品で,総計22万点と パーなどの表示技術や,電子書籍フォーマットなど なった。残りの16万点は大半が携帯電話向けのコミッ は,以前から開発が進んできたものである。むしろ クである。また,一般読者が期待しているのは印刷 制作の支援環境が整い,話題に追い立てられながら, 書籍からの電子化であろう。これはメタデータに やっと書籍出版社の重い腰が上がった年だったとも I S B N情報が付与されていることでわかる。この点数 いえよう。 は2013年7月時点でおよそ10万点であり,1年間で4 万点の増加となった。なお,この点数には後述する 「コ 3. 電子書籍に対する期待と課題 ンテンツ緊急電子化事業(緊デジ)」(4章(3) )で制 作された6万点強の電子書籍作品は含まれていない。 (3)日本の電子書籍市場 (1)電子書籍販売の実際 日本においても環境が整ったかに見えるだけに, 2012年後半から,2013年前半の1年間を振り返っ 最近では「電子書籍の市場が期待ほどには立ち上がっ てみると,まず電子書籍制作を支援する「出版デジ ていない」と指摘されることも増えた。電子書籍に タル機構」の活動が本格化したことと,電子書籍制 ついては,過熱気味の議論が続く一方で,一般の読 作に対する補助を行う経済産業省「コンテンツ緊急 書家の間では無関心な人も多い。読者の期待という 電子化事業」の実施を指摘できる。これらの出来事 より,産業構造の変化に直面した出版社や書店の危 が起爆剤となって,今まで電子書籍を手がけてこな 機感がブームを引き起こしたのである。デジタル技 かった多くの書籍出版社が,既存書籍の電子化を始 術の進展や情報革命に敏感なイノベーターが,必ず めることになった。また,楽天系のK o b oやアマゾン しも出版市場のマジョリティではない。電子書籍市 が電子書店をオープンさせ,発売する電子書籍端末 場を立ち上げるためには,出版産業の中心であるコ も新製品から値下げされ1万円以下の販売価格となっ ミックとベストセラーに頼らざるを得ない。米国に た。 おける電子書籍売上げもベストセラーと連動してお 一方,電子書籍の技術的な環境としては,電子ペー り,ミステリー,サスペンス,ラブロマンスなどの 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 405 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 Journal of Information Processing and Management エンターテインメントが主である。 実際にタブレット端末の普及はめざましいものの, レードブック(一般書,多くは娯楽)の比率が高く, その価格は日本の倍近くである。米国では印刷書籍 電子書籍専用端末は話題ほどには普及していない。 の価格が高いことで,電子書籍との価格差にメリッ 米国でも専用端末の販売伸び悩みが指摘され始めて トを出しやすい。また学術書,教科書出版社は,さ いる。電子書籍の読者はマーケティング概念で言う らに高価格帯の別な市場を形成している。 ところの,イノベーター(革新者)とアーリーアダ 電子書籍の制作コストでは,英語書籍はO C Rの精 プター(初期採用者)で構成される初期市場にとど 度が高く自動化できるが,日本語書籍は表意文字や まっており,キャズム(大きな溝)を超えてメイン 外字,ルビなどがあり,高コストである。総じて日 ストリーム市場に至るパワーが不足したままである。 本は電子書籍の制作コストが高く,安い印刷書籍と 一方で,電子書籍に強い関心を寄せる人にとって, 日本語コンテンツが少ないのは事実である。各種の アンケートでも,電子書籍を読まない理由の一番に 406 http://johokanri.jp/ October の価格差を演出できず,また,読者のニーズも限定 的である。 また,何をもって “成功” とするのか。たとえば, コンテンツ不足があげられている。また,米国のよ 新たな市場創出と指摘される「自己出版」は,玉石 うに紙と電子の同時刊行や,特にベストセラー作家 混 淆どころか良い作品に出会うことはまれである。 の新作を期待する声もある。ただ,米国が電子書籍 自己出版における作者と読者を橋渡しする出版社の で成功し,日本で遅れている理由をコンテンツの数 不在は,ゲートキーパーの不在であり,売り手の自 だけにすると,実態を読み間違えることになり,解 己満足は必ずしも読み手を充足させるものではない。 こんこう 決策が見いだせなくなる。 米国においても電子書籍の利便性,価格破壊と引 (2)日米の出版環境の違い き替えに,巨大IT企業による市場独占と価格支配,出 1つには日米の出版環境の違いに起因することがあ 版経営の脆弱化,エンターテインメント系書籍の拡 る。書店へのアクセスを考えると,日本は米国に対 大,信頼性や品質が担保されていないコンテンツの しはるかに優位で,国民1人当たり書店数が30倍,国 増大などを引き起こしている。アンドレ・シフリンは, 土面積で比較すると書店1店舗あたりの面積では60分 良書の出版が20世紀末にメディア・コングロマリッ の1の開きがある。一方,米国の図書館は数にしてお トによって切り捨てられたことを指摘しているが2), よそ3倍だが,蔵書の充実や利用率の高さはよく指摘 2010年代における電子書籍の成功が,それをよりいっ されるところである。また,ブッククラブも発達し そう厳しい環境に追いやったといえよう。 ていて,日常的に書店に立ち寄る人の率は日本に比 もちろん,情報流通の大変革が起きていることは して米国ではかなり低いことになる。書物に対する 疑いようもない。学術情報の流通や大学図書館など 愛着や読書感なども異なっている。米国では書籍は の基盤にかかわる人々にとって,学術情報の地殻変 読み捨てることもあり,借りて読むものでもある。 動としてとらえることは当然であり,高い関心と期 米国には電子書籍が普及する下地が強くある。 待を持たれていることと思う。おそらく90年代から また,電子化する資金力では,日本は極めて乏し 電子図書館や電子ジャーナルなどに携わってきた人 い零細経営が多く,大手出版社でも従業員は千人以 も多いだろう。日本語電子ジャーナルや電子書籍の 下である。書店の収益源はコミックと雑誌であり, 不足は当時からも指摘されていた。 低価格の文庫,新書の比率が高い。これに対し米国 海外への情報発信やナショナルアーカイブの観点 では出版社はメディア・コングロマリットの傘下に からみると,日本語書籍の電子化が遅れると,世界 集約されつつあり投資力もある。書店での販売はト の潮流に取り残されることになる。海外の日本研究 電子書籍がもたらす出版・図書館・著作権の変化 表1 北米・東アジア図書館での図書・電子書籍・電子ジャーナル所蔵数 (2010年) 図書 電子書籍(購入タイトル) 電子ジャーナル(誌) 中国語 9,286,632 日本語 5,568,615 1,244 69 韓国語 1,328,615 11,703 171 それ以外(英語など) 合計 97,469 269 1,431,586 7,864 31 17,615,035 118,280 540 出典:江上敏哲『本棚の中のニッポン-海外の日本図書館と日本研究』笠間書院,2012 者,大学図書館司書,日本語を学ぶ学生たちからの 本の公正取引委員会は,米国に追従するかのように 図書館での図書・電子書籍・電子ジャーナル所蔵数 籍は含まれない」という見解を示している。 図2 北米・東アジア図書館での図書・電子書籍・電子 不満や要望も耳にする。江上敏哲は北米・東アジア ジャーナル所蔵数再販制度の対象は「物」であり,無体物の「電子書 (2010年) を示し,日本資料のデジタル化が進んでいないこと さらに,国境を越えた経済活動に対する課税問題 と海外における日本研究・教育の “退潮傾向” が無縁 についても,日本は後れをとっている。海外サーバー 3) ではないと指摘している (表1)。学術研究や教育の からの電子書籍配信は,サービス提供地が国外にあ 利便性を考えれば,電子書籍の普及は早急に推進す る「国外取引」となり,消費税の課税対象となって べきである。ただこれは,現状の電子書籍ビジネス いない。この結果,国内事業者の紀伊國屋書店と海 にかかわる出版界など民間セクターだけで解決でき 外事業者のアマゾンの間では,同じ電子書籍商品で る問題ではなく,国の支援や制度設計,法改正を視 も消費税分の価格差が生じているのだ。すでに「公 野に入れなければ実現できない。 平な競争の阻害」が生じている以上,国としての対 4. 出版産業の国際化と関連行政 策を急ぐべきである。 これまでは,日本の出版産業に対する法的保護や 産業育成策はなかったといってよい。最近になって (1)立ち後れた日本の出版産業政策 コンテンツ産業の育成,著作物の海賊版対策などの 電子書籍市場が拡大しない理由の1つに,電子書籍 点から,いくつかの政策が行われるようになってき 流通の制度的整備の遅れがある。ヨーロッパ諸国や た。なかでも大きな転機となったのが,2010年度に アジア主要国では,出版産業に対する文化保護政策 開催された総務省,経済産業省,文部科学省「デジ の色合いが強く,その伝統が電子書籍にも拡張され タル・ネットワーク社会における出版物の利活用の ている。ドイツでは,書籍価格拘束法(日本におけ 推進に関する懇談会(三省デジ懇) 」である。 る再販売価格維持)による保護をさらに強化し,電 この報告を具体化するために,総務省では2010年 子書籍も対象とした。また,フランスでも2011年に 度中に「新I C T利活用サービス創出支援事業」として 「電子書籍価格規制法」を新たに制定している。両国 10事業を行った。さらに文化庁は「電子書籍の流通 とも電子書籍市場は極めて小規模で書籍市場の数% と利用の円滑化」の検討を行い,また,経済産業省 の段階であるが,自国の文化政策・出版産業育成策 は2011年度に「書籍等デジタル化推進事業」で4事業 として強く打ち出したものである。また,英国同様, を行っている。 最近の中国でも書籍版面を権利保護対象とした。 (2)文化庁eBookプロジェクト 書籍に対する消費税の軽減税率も,韓国での0%を 文化庁「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する 筆頭に積極的な対応がある。一方,残念なことに日 検討会議」の報告書(2011年12月)では「(国立国会 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 407 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ October 図書館の)デジタル化資料を活用した新たなビジネ 著作権上の出版契約をしたとしても,電子書籍につ スモデルの開発が必要」であり,「事業化に意欲のあ いては新たに契約しなおさなければならない。米国 る関係者による有償配信サービスの限定的,実験的 では信託的譲渡という形で著作権が著者から出版社 な事業の実施なども検討することが必要」とされて へ譲渡されている。このため出版社の判断で電子書 いる。 籍を制作できることが,スピード感あるコンテンツ そこで電子書籍制作・流通について,権利者の捜 ビジネスの背景にある。 索や著作権処理などを行う実証実験を実施し,契約 出版社の権利についての検討は,三省デジ懇の報 における課題発見や新たなビジネスモデルの可能性 告書にあった「出版社への権利付与の必要性」提言 を検証することとなった。この「文化庁eBookプロジェ がきっかけとなっている。これを受けて文化庁が「電 クト」では,2013年2月に電子書店から一般に無料 子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」を 配信実験を行っている。ダウンロード件数の合計は, 開催したものの継続検討となった。 わずかな期間にもかかわらず10万件に近づくほどで, 大きな潜在的市場ニーズを確認することができた。 (3)コンテンツ緊急電子化事業 この間,インターネット上における海賊版問題は 深刻さを増していった。海賊版や違法コピーに対し て,作家が出版社に取り締まりを期待することは至 経済産業省の補助金事業である「コンテンツ緊急 極当然のことであり,出版社もその使命を十分意識 電子化事業」が2013年3月末に終了した。事業趣旨は している。しかし,従来の出版制度のままでは,出 「電子書籍市場の拡大と東北大震災被災地域の雇用促 版社はインターネット上の海賊版に対して訴訟がで 進に向けて,書籍の電子化作業に要する製作費用を 国が補助する」ものである。補助金額約10億円(事 業総額約20億円)である。 きないのだ。 対策の必要を感じた中川元春元文部科学大臣が座 長となり,超党派の国会議員,作家,出版社のトップ, 報 告 書 に よ る と 補 助 金 の 適 用 は9億5,063万 円 図書館関係者らにより,2012年2月「印刷文化・電子 (99.7%)になり,参加出版社数は460社,電子書籍 文化の基盤整備に関する勉強会」(中川勉強会)が発 制作タイトル数は,6万4,833点になった。この冊数 足した。 は,これまで制作された文字系電子書籍とほぼ同規 勉強会では,デジタル・ネットワーク環境により 模である。また,この事業により参加した多くの専 出版物にかかわる権利の必要性が新たに高まったと 門書出版社が初めて電子書籍を手がけたと推測して 認識した。印刷の時代には,書籍の違法複製の量は いる。さらに東北関連企業に加え,書籍系出版社と たかがしれており,著作隣接権がなくても,安定的・ 取引のあった数多くの制作会社,印刷会社も初めて 慣用的処理でなんとかなった。しかし,電子書籍で 電子書籍化に取り組んだ。残された課題や問題点も はデジタル複製の容易さ,ネットワークの拡大速度 あるが,それらを超えた大きな成果として,数多く は印刷の比ではなく,現行法制度では対応できない の文字系電子書籍が, わずか1年で生み出されたのだ。 状況となったのだ。 5. 電子書籍を巡る著作権問題 歌曲に限らずテレビドラマなどの作品は,一度生 み出されたあと,何度も再利用,再放送されている。 その際,著作権者だけでなくレコード会社や放送会 408 電子書籍市場が急速に立ち上がる中で,海賊版対 社なども,勝手に複製されない権利として著作隣接 策や健全な市場育成のために,法制度のあり方につ 権を持っている。一方,出版社は発行書籍に対して いて検討が進んできた。現状では,日本の出版社は 著作権者と何らかの契約をしない限り,特段の法的 電子書籍がもたらす出版・図書館・著作権の変化 権利を持っていない。出版物を編集して世に送り出 サービスも高まるだろう。電子書籍の利用が図書館 していくという「出版者の機能」をどのように法的 サービスを補完することは疑いもない。その際,図 に評価するのかが議論になった。 書館での電子書籍利用が,市場の普及を促進するよ しかし,出版社に著作隣接権を付与することは, うに検討しておくことが重要である。 関係団体からの異なる要望や,文化庁の強い抵抗を 電子書籍と図書館のコラボレーションは,双方に 生むことになった。そこで著作権法の泰斗である中 とって極めて効果的である。その1つとして,いわゆ 山信弘東京大学名誉教授を中心としたグループ「中 るDiscoverability(発見可能性)の問題がある。電子 山研究会」に法学的立場から検討を諮問し,あらた 書籍は,狭いディスプレイ上に展開されることから, な提案として, 「出版権の拡大」を法案として提案す 認知度が極めて低い。存在がわかっているなら検索 ることとなった。 すればよいが,印刷書籍は偶然の出会いによって発 中川勉強会は発展的に解消し,2013年6月13日の衆 見され,購入に結びつくことが多い。まさに書店や 議院・参議院の議員36人による「電子書籍と出版文 図書館はSerendipity(偶然に発見する力)な場を提 化の振興に関する議員連盟」(会長は自民党の河村建 供しているのだ。そこで,図書館に電子書籍を導入 夫衆議院議員)の設立につながった。この実行策と することで,空間的な場をステップにして電子書籍 して,5月に始まった文化庁文化審議会著作権分科会 との出会いを作り出すことが期待できる。 出版関連小委員会での審議経過を待つこととし,状 一方,全文検索によるFindability(発見)ができる 況によっては議員連盟による議員立法を視野に残し のが電子書籍の利点でもある。埋もれた印刷資料の たのである。どのような手続きであれ,2014年度の 活用も期待できる。さらには,全文テキスト化され 通常国会での法改正を目指している。 ている電子書籍であれば,文字の拡大や読み上げな 6. 図書館の電子書籍利用モデル どが可能となる。このようなアクセシビリティ向上 も公共図書館の果たす重要な役割である。そのため には,印刷書籍のスキャニングによる画像系電子書 (1)図書館における電子書籍の利用注1) 籍ではなく,X M L系電子書籍でなくてはならない。 米国では大半の公共図書館に電子書籍が導入され ファイルフォーマットとしては,前者がTIFFやPDFで ている。一方,日本では全国3,000館以上の公共図書 あり,後者には今年,国際標準の手続きが進んでい 館のうち,何らかの形で電子書籍が利用できるのは, るE P U Bがある。なお,D T Pデータから変換した透明 まだ10館を超える程度である。図書館における電子 テキスト付きPDFであれば,本文検索や読み上げは可 書籍利用の重要性について考えてみたい。 能である。 図書館が場所と空間の制限下にある以上,蔵書ス もちろんマルチアクセスができるからといって, ペースにも利用にも限界がある。閉架書庫に収納さ 利用契約なく実現することはできない。一方でコン れただけでも利用者のアクセスは悪くなるのだ。一 テンツの増加と使用料金をどのようなモデルで解決 方,出版物は新刊発行後,ほどなく売れなくなり, するのか,試行錯誤の段階である。ネットアドバン 印刷書籍であれば品切れ絶版になり入手不可能にな ス社のジャパンナレッジは,年間購読契約が中心で る。 ある。利用するコンテンツと同時アクセス数により それに比べ,デジタルアーカイブはいつまでもア 使用料金が決まるモデルである。 クセスできる利点がある。紙とデジタルを融合する 閲覧数による課金モデルも理論上はあるが,図書 ことで,ビジネスとしての市場規模も拡大できるし 館は年間予算が決まっているため,閲覧数により請 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 409 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 Journal of Information Processing and Management 求額が変わるモデルでは,契約できないだろう。電 考にしているが,図書館ユーザーによる読書アドバ 子ジャーナルは構成員規模によりアクセス料金が設 イスなども有効な手段である。 定されることが多いが,大学図書館と異なり公共図 米国では図書館界から積極的なビジネス提案があ 書館は利用者人数を特定することは困難である。 ることは,必ずしも良好とは言えない日本の図書館 (2)公共図書館のための電子書籍ビジネスモデル 界と出版界の関係を見直す意味でも参考になる。特 図書館と電子書籍の契約を考えるヒントとして, に興味深いのは, 図書館の電子カタログに「購入(Buy 2012年8月に米国図書館協会(A L A)デジタルコンテ i t)」ボタンを付ける提案である。ユーザーが借りよ ンツと図書館ワーキンググループ(D C W G)が大変 うとした電子書籍が貸出し中の場合,さらには予約 興味深いレポート4) を発表した。米国における電子 者が多数の場合など,すぐにでも読みたいユーザー 書籍環境の特徴や動向,図書館における電子書籍の に購入を勧めるのだ。 利用契約などがまとめられており,日本におけるモ デルを考える上で大変参考になるものである。 図書館と電子書籍ビジネスの良好な関係を物語る ものとして,米国オーバードライブ社の「B u y i t」ボ 同レポートでは,電子書籍ビジネスに対して,市 タンが,Amazon.comにリンクされていることがよく 販されているすべての電子書籍タイトルを図書館で 知られている。これに対し,国会図書館蔵書検索・申 利用できるようにすることや,図書館が購入した電 込システム(NDL-OPAC)にあるDatabase Linker注2)も, 子書籍を,ほかの電子書籍プラットフォームに移行 すでに電子書店にリンクが張られているのだが,この できるようにすること,無制限に貸出しができるオ 事実はあまり知られていない。むしろ積極的に広報も プションを図書館が持つようにすること,さらに電 していないようである。しかし出版社だけでなく, ユー 子書籍を見つけやすくするために,出版社が提供す ザーにとっても有効なサービスである。図書館と出版 るメタデータやマネジメントツールに図書館がアク 社の連携を強めるために,遠慮せずもっと積極的に宣 セスできるようにすることを提言している。 伝したらよいと思う。 また,図書館に提供されている電子書籍利用モデ 410 http://johokanri.jp/ October (3)公共図書館の電子書籍利用状況 ルを分類している。印刷書籍と同様に1ライセンス 公共図書館における電子書籍サービスをめぐる検 で1度に1人に貸し出すシングルユーザーモデル,貸 討状況について,一般社団法人電子出版制作・流 出し回数の利用制限モデル,新刊発売から一定期間 通協議会が社団法人日本図書館協会の協力により, 貸し出せないモデル等では,再販制度のない米国ら 2013年4月3日~ 5月31日に,全国の360の公立図書館 しく,制限に応じた利用価格を提言している。また, にアンケートを実施している5)。同アンケートによる 主に出版社からの要望がある館内のみの貸出制限や と225件の回答中すでに電子書籍サービスを実施して コンソーシアムや図書館間相互貸借(I L L)の制限等 いる図書館は17館(8%),具体的に実施する予定が に対しては,図書館として電子書籍の利用を著しく ある館が7館(3%)とわずかだが,実施検討中が79 損なうと考えている。 件(35%)と高い関心を示している。 契約は双方の合意に基づくものであり,利用制限 政令市および区立図書館で,関心が高い一方で, を安易にせず,利用者の利便性を高め,ビジネスと 市町村立図書館においては,半数以上が「未検討」 のバランスを図るべきである。図書館は出版社にとっ と回答している。その理由として半数以上が「議員 て大手購入者であり,出版社にとってメリットのあ や住民からの問合せ」がないため公共投資の検討対 る提案ができる組織である。電子書店が書評やソー 象としていないというのだ。電子書籍サービスは, シャルリーディングのシステムを導入して購入の参 図書館利用者にとって必ずしも関心が高いわけでは 電子書籍がもたらす出版・図書館・著作権の変化 ない。むしろ日頃図書館を利用しない人の利用促進 ている「知る権利」を保障することである。誰もが として電子書籍サービスを考えるべきである。 知識や情報にアクセスできることは,公共機関の果 その点,アンケートによるとサービス対象者とし たすべき仕事である。印刷出版の時代は,出版と図 ては,非来館者(68%),ビジネスパーソン(62%), 書館は車の両輪のように,補完しあってバランスを 障害者(61%)をあげている。さらに,電子書籍に とってきていた(図2)。 期待する機能としては,文字拡大機能(76%),音声 電子書籍の制作・流通・消費のサイクルも,原則 読み上げ機能(73%),文字と地の色の反転機能(読 的に民間事業として行われていくべきである。もち 書障害対応)(57%)と,アクセシビリティ機能に注 ろん,ナショナルアーカイブの運営は国の重要な役 目が集まっている。なお,国立国会図書館が予定し 割であり,電子書籍の納本は出版者の義務として今 ている「入手することが困難な資料(絶版等資料) 」 後も運営されていくだろう(図3)。 の図書館等への限定送信については,74%の図書館 が対応未検討と回答している。 その際,デジタルアーカイブが自立的な情報流通 を妨げないように作り上げなくてはならない。筆者 アンケートでは抽出されていないが,筆者が公共 は,出版物のデジタルアーカイブや電子図書館サー 図書館の管理職研修などで講師をし,質問を受けた ビスは民間が主体となって普及することが望ましい 経験では,電子書籍への期待としてコストダウンが と考えている。しかし,民間事業における電子書籍 ある。印刷書籍より電子書籍の価格が安く,結果的 ビジネスや電子図書館サービスは,サービス中止, に予算削減ができるなら検討したい,というのであ 倒産・買収による喪失の危険が常につきまとってい る。たびたび質問を受け,そのたびごとに軽い失望 を覚えながら回答することになる。電子書籍により 図書購入費が削減できるということは,図書館の出 出版社 (生成加工) 著作権者 (生成) 版市場規模が小さくなるということである。それで は出版社が電子書籍を図書館に提供することはない だろう。むしろ,同額の予算でも,契約を工夫する お金 読者 (消費) ことでより多くの図書へのアクセスが可能になるの だ。よりよいサービスが提供可能になるととらえな くてはいけない。 (4)デジタルアーカイブの構築 国立国会図書館に納本されている図書は年間11万 タイトルだが,そのうち8万タイトルは民間出版物で 取次 (流通) 書店 (販売) 図書館 (蓄積) 国民の「知る 権利」の保障 自立的情報流通システム 読者による「表現の自由」 の確保 公的運営費 図2 従来の出版流通と図書館 図3 従来の出版流通と図書館 3 出版社 (生成加工) 著作権者 (生成) 標準ファイル形式 あり,一部の出版助成金を除いて,出版や流通に公 的資金は投入されていない。著者による執筆に始ま り,出版社による制作,取次流通,書店販売と,す べて読者が本を買った経費だけで賄われている。出 版流通は,国家に依存しない,自立的な情報流通シ ステムである。これがとても重要なのは,「表現の自 由」を確保する唯一絶対の方法だからである。一方, 公共図書館の役割は,表現の自由の中に組み込まれ 電子書店 読者 (消費) (DRM) (課金決済) 購入 レンタル アクセス 電子図書館 サービス 電子書籍アーカイブ (制作/保管) (収益配分) 民間利用 納本制度 公共アーカイブ (蓄積) 図書館 (蓄積) 公的運営費 図3 電子書籍の流通基盤 図4 電子書籍の流通基盤 4 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 411 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ October る。この対策の1つとして,国立国会図書館に納本し 2012~ 2015年 ておいて,民間事業が立ちいかなくなった時に利用 printing できるようにする「ダークアーカイブ」契約での対 印刷書籍 市場 処があげられる。 7. おわりに:今後の電子書籍サービス turned-digital 印刷書籍を元にし た電子書籍市場 born-digital 次世代電子 出版市場 ハイブリッド (クロスメディア) ・所有性 ・文字表現 ・芸術的要素 ・デジタル的表現 ・マルチメディア 表現に限らない 出版社のアプローチ 市場の拡大 図5図4 ハイブリッド型電子書籍 ハイブリッド型電子書籍 2013年度上半期の芥川賞を受賞した藤野可織の『爪 と目』は,7月に新潮社から単行本と電子書籍が同 日刊行されている。大手中堅出版社では,印刷書籍 ジ形態と流通チャネルの違いで便宜的に分けられて と電子書籍を同時に新刊発行する体制を整えつつあ いたものに過ぎず,ネット流通上のデジタルデータ る。当面は,売れ筋を中心に同時刊行(サイマル出版) に統合され,ディスプレイで表示されることで,そ か,電子書籍を数週間から数か月遅らせる遅延刊行 の区別がつかなくなる。ほどなく,書籍,雑誌,新 (ディレイ出版)が試みられることになる。 今後,印刷書籍と電子書籍を併売するハイブリッ 聞が再編され,三大メディアの境界が曖昧になるだ ろう。 ド販売も本格化していく(図4)。再販商品の出版物 これまでの解説で,電子書籍に対する現状の関心 や新聞に対して,電子書籍は非再販扱いが公正取引 は,教養娯楽書の読者の立場と,学術情報や図書館, 委員会の見解である。電子新聞で試みられているよ アーカイブスの利用者の立場では,大きな隔たりが うな,紙と電子を併読した場合のセット割引などが あることを述べてきた。さらに出版社と図書館の間 可能であり,種々の販売促進策により,市場の拡大 も同様である。読者,図書館利用者,著者,あるい が図られることになる。 は出版社,図書館の立場を変えることで電子書籍の 今は印刷書籍を先に編集し,その後に電子書籍化 未来の見え方も変わってくる。 する出版が主流だが,今後,電子書籍向きに企画さ 今後,電子書籍が普及していく中で,学術と文化 れたボーンデジタルコンテンツも次第に増えてい の発展や,個人の利便性とビジネスの両立を図って く。その際,電子書籍という呼称がふさわしいか疑 いくことになる。そのためには,立場を超えた連携 問である。日本では雑誌は書店販売が中心であるが により,技術の共有,情報流通基盤の共通化が必須 欧米の書店は雑誌をほとんど扱っていない。雑誌は である。よりよい変革をもたらすため,その視座の 新聞と同じニュースメディアとしてスタンド(キオ 違いを超えていくコミュニケーションが求められて スク)販売である。書籍,雑誌,新聞は,パッケー いるのである。 本文の注 注1) 本項は,2013年7月30日に「公共図書館等への電子書籍配信に係る課題整理研究会」が主催した「こ れからの公共図書館の電子化モデルを考える」フォーラム報告書を参考にした。 注2) 書誌詳細画面の「よむ!さがす!」リンクボタンをクリックすると表示される。 412 電子書籍がもたらす出版・図書館・著作権の変化 参考文献 1) インターネットメディア総合研究所編. 電子書籍ビジネス調査報告書2013. インプレスR&D, 2013, 180p. 2) シフリン・アンドレ. 理想なき出版. 勝貴子訳. 柏書房, 2002, 272p. 3) 江上敏哲. 本棚の中のニッポン:海外の日本図書館と日本研究. 笠間書院, 2012, 296p. 4) American Library Association. Ebook Business Models for Public Libraries. http://americanlibrariesmagazine.org/sites/default/files/EbookBusinessModelsPublicLibs_ALA.pdf, (accessed 2013-07-30). 5) 一般社団法人電子出版制作・流通協議会.「電子書籍に関する公立図書館での検討状況のアンケート」実 施報告書. インプレスR&D, 2013. Author Abstract The appearance and spread of digital books are pressing for the change of the industrial structure based on the printing technique, physical distribution, and product sales. It also affects the circulation of scholarly information and cultural accumulation, which are the important roles that publications have played. Digital books might change the library's function and institutional design as well. The purpose of this paper is to 1) explain the present condition of the digital books facing a difficulty with popularization, 2) discuss the system maintenance and the Copyright Act revision required for popularization, and 3) consider its influence on the library services, and the desired correspondences. Key words digital book, digital publication, library, digital library, digital archives, copyright, right of publication, publication policy 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 413 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ October オープンアクセスの広がりと現在の争点 Growth of the open access movement and current issues 佐藤 翔1 SATO Sho1 1 同志社大学 社会学部教育文化学科(〒602-8580 京都市上京区新町通今出川上ル 同志社大学渓水館315号) T e l : 075251-3454 E-mail: [email protected] 1 Department of Education and Culture, Faculty of Social Studies, Doshisha University (Keisuikan 315, Doshisha University, Imadegawa-agaru Shinmachi-Dori Kamigyo-ku, Kyoto 602-8580) 原稿受理(2013-08-01) 情報管理 56(7), 414-424, doi: 10.1241/johokanri.56.414 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.414) 著者抄録 本稿ではオープンアクセス(OA)運動の背景から現在までの流れを概観し,現在の OA 運動における争点を整理する。 現在,Gold OA はビジネスとして成立することを示し,Green OA は機関リポジトリ等においては成功しているとは言 えないが,助成機関による OA 義務化を伴うことで成功例が現れている。そして公的助成研究に対する OA 義務化の方 針は確実に広がりつつある。商業出版者も O A を受け入れ,O A 運動における主導権をめぐって図書館と対立するよう になっている。その中で問題となっているのが再利用可能性とエンバーゴである。 キーワード オープンアクセス,機関リポジトリ,オープンアクセス雑誌,パブリック・アクセス,学術出版,学術情報流通 1. はじめに ジでは現状をとらえ難くなっている。 本稿ではO A運動の背景から現在までの流れを概観 オープンアクセス(O p e n A c c e s s : O A)が明確な し,現在のO A運動における争点を整理することを試 定義を得て10年以上が経った。現在,学術情報流通 みる。読者各位がそれぞれの立場から,今後O Aとど の中でO Aは当たり前の選択肢の1つとなっている。 う向き合っていくかを考える材料の1つになることを K u r a t aらの研究によれば2009年の生物分野の論文は 願う。 過半数がO Aになっている1)。O Aに懐疑的な立場を 取ってきた商業出版者もO A雑誌を刊行しはじめてお 2. そもそもOAとは? り,購読出版とO Aのシェアがどうなるか等は議論も あるものの,O Aそれ自体は商業出版者も含め受け入 414 2.1 OAの定義 れられつつある。その結果,「商業出版者・購読モデ OAの定義としては,2002年に公開されたBudapest ル v s . 図書館・O A」というステレオタイプのイメー Open Access Initiative(BOAI)によるものがよく知 オープンアクセスの広がりと現在の争点 られている2)。B O A Iは学術情報の自由な流通実現に に印刷・流通コストが増えるが,インターネットを 向け活動する複数の団体・個人を集めた会議に基づ 介した電子ジャーナルのみを発行することで,読者 くもので,O Aが1つの運動にまとまった契機として 数増大に伴うコストを抑え,購読料に頼らず雑誌を 知られている3)。 刊行できる,というのがBOAIの見立てである。BOAI BOAIによれば,OAとは査読付きの学術雑誌論文等注1) 発表時点で,すでに購読料に依拠せず電子ジャーナ について, 「インターネットにアクセスできることそれ ルを刊行していた商業出版者としてBioMed Central 自体を除く経済的,法的,技術的な障壁なく文献を利 (B M C) が 存 在 し た。B M Cは 著 者 が 支 払 う 掲 載 料 用できるようにすること」である。O Aと聞くと「論文 (Article Processing Charge: APC)による出版モデル に無料でアクセスできること」ととらえられがちである をBOAI発表直前に始めており,これが後にOA雑誌の が,BO AIではそれだけではなく,著作権という「法の 主要なビジネスモデルとなった注3)。 壁」と技術標準等の「技術の壁」もクリアすることで, 自由に再利用できることがOAである,と定義している。 2.2 OAの実現手段 3. OAの背景:4+1の動機 O A運動の背景には,インターネットにより自由な OA実現の手段として,BOAIでは著者自ら論文を電 学術情報流通を実現しようという,複数の団体や個 子アーカイブに公開するセルフ・アーカイビングと, 人による活動があった。少しずつ目的が異なるそれ 利用者に料金を課さず出版するO A雑誌の2つを紹介 らの活動が1つにまとまった契機が前述のB O A Iであ している。前者はGreen OA,後者はGold OAとも呼 る。本章ではこのBOAIの各参加者に注目しつつ,OA ばれ,O Aの実現手段としては,この2つが現在にお 運動の背景には4つの動機を持つグループがあり注4), いても主流である。 さらに後に1つが加わったことを紹介する。 (1)Green OA Green OAについてはBOAI発表時点ですでに物理学 3.1 雑誌価格高騰への対応 分野におけるプレプリントの電子アーカイブ,a r X i v BOAI参加グループの1つは,学術雑誌価格高騰への という成功例が存在し,B O A Iの中で取り上げられた 対抗を目的とする,SPARC(Scholarly Publishing and のもその流れを汲んでのことである注2)。Green OAの Academic Resources Coalition)に代表される大学・ 場としてはa r X i vのような分野ごとの電子アーカイブ 研究図書館関係者である。 のほかに著者自身のW e bサイト等も考えられるが4), SPARCは北米研究図書館協会(ARL)が立ち上げた 著者のW e bサイトでは技術標準等に従い「技術の壁」 プロジェクトである。雑誌価格高騰については他の優 を排除することは難しい。そこで分野別アーカイブ れた論考があるのでここで詳しく論じはしないが注5), が存在しない分野のGreen OAを担うものとして,著 その一因は商業出版者による寡占であると見られて 者の所属機関による電子アーカイブ・機関リポジト いる。当初,SPARCはその寡占を崩すために商業出版 リが現れ,注目されていく。 者に対抗する新雑誌の支援等を行ったものの,失敗 (2)Gold OA に終わった6)。そこでSPARCが次に取り組んだのが新 学術雑誌出版にかかるコストは多くの場合,購読 たな情報流通チャンネルの確立であり,B O A Iにもそ 料として読者に転嫁される。しかし雑誌の収入源は の文脈の下で加わっている。SPARCは機関リポジトリ ほかにも著者からの投稿料や広告などさまざまにあ の提唱・普及や後述する「パブリック・アクセス」議 りうる5)。印刷体の雑誌においては読者が増えるほど 論の導入等を通じて,その後もO A運動に寄与し続け 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 415 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 http://johokanri.jp/ October Journal of Information Processing and Management 報へのアクセスの危機を迎えた先進諸国とは異なり, ている。 途上国においてはそもそも必要な学術雑誌等を購読 3.2 研究成果の迅速・自由な共有の実現 できていなかった。また,途上国から学術情報を発 1つ目の点と関係しつつも異なる源流の下でBOAIに 信することも困難であった。そこで普及しだしたイ 参加したグループとして,情報共有を迅速かつ自由 ンターネットを用い,途上国の学術情報の入手・発 に行える環境を実現し,それによって研究のスピー 信状況を改善しようという動きが現れた。 ドを上げたり,研究成果のインパクトを高めたりし 基となる会議を主催したOpen Society Institute(OSI) たいという研究者たちが挙げられる。 その源流は前述のa r X i vである。物理学分野等で である。OSIはKarl R. Popperの影響を受けた篤志家 はもともと,雑誌出版以前から同僚のフィードバッ George Sorosが設立した団体で, 「開かれた社会」実 クを得るためにプレプリント交換が行われていた。 現に向け活動している。その活動の1つが貧困地域に 雑誌への投稿から出版までのタイムラグが大きくな おける知識・情報のアクセス,交換,生産活動の強 るにつれ,プレプリントは迅速な成果共有メディア 化を目的とするInformation Programであり,BOAI開 7) ととらえられるようになった 。a r X i vはそれをイン 催をはじめOSIによるOA運動の支援を担ってきた12)。 ターネットを用いて,誰もが閲覧できる形で実現し O S Iは単に知識にアクセスできるだけではなく,そ たものである。その衝撃は大きく,Stevan Harnadや れに基づき新たな知識を生産できるよう支援するこ Harold Varmusら多くの追随者を生んだ。 とが重要ととらえ,知的財産権制度の改革を目指す Harnadは1994年に「転覆計画」と呼ばれるメーリ 活動も行っている13)。このことがBOAIにおいてOAが ングリスト投稿を行い,研究者自らが自身の論文を 著作権という「法の壁」をも排除したものと定義さ インターネットで公開することでより多くの同僚の れたことに影響したと考えられる。 目に触れ,インパクトが最大になると論じた 8) 。これ はa r X i vの成功を異分野でも取り入れようという提案 であり,O Aにかかわる運動の「事実上の宣言書」と も評される9)。 米国国立衛生研究所(N I H)所長であったV a r m u s 416 このような動機を持つグループの代表は,B O A Iの 3.4 新たなビジネスチャンスの獲得 BOAIに参加した第4のグループはBMCである。その 動機は明確で,新たなビジネスチャンスの獲得にあ る。 も ま たa r X i vの 影 響 を 受 け, 生 物 医 学 分 野 の 電 子 BMCは英国の実業家Vitek Traczが設立した出版者 アーカイブE - B i o m e dを提案した10)。これが現在の である。T r a c zは生物分野等を中心に新たな事業を PubMed Central(PMC)へとつながっている。同じ 起こし,それが軌道に乗った時点で売却し,売却益 くVarmusが立ち上げにかかわったPLOSは,当初は商 で新たな事業を起こすことを繰り返していた。B M C 業出版者に圧力をかけ,論文の無料公開を実現する もその一環であり,後にS p r i n g e r社に売却されてい ための科学者集団であった11)。その計画は失敗に終 る。Traczや後のBMC代表であるMatthew Cockerillは, わったが,PLOSは後にOA雑誌出版事業に転進し成功, B M CはO Aをビジネスチャンスととらえて始めたもの BMCと並ぶOA雑誌出版者の代表例となった。 であることを明言している14),15)。 3.3 発展途上国における学術情報流通の改善 3.5 後付けの「パブリック・アクセス」 第3のグループの目的は発展途上国における学術情 B O A I以前から存在したO A実現の動機は以上の4つ 報流通の改善である。雑誌価格高騰によって学術情 である。しかしO A運動成立後, 「公的資金によって オープンアクセスの広がりと現在の争点 行われた研究の成果はそのスポンサーである市民(納 後世界中に広まり,2013年7月現在,世界全体で1,937 税者)に公開すべき」としてO Aを求める動きが出て 件の機関リポジトリが存在する21)。公開コンテンツ くる。その代表例はNIHによるパブリック・アクセス 数は国によってばらつきがあるが,例えば日本では 方針の策定である。 100万件以上の学術文献がその本文まで公開されてお NIHは前述のPMCを設立した機関である。自身が医 学研究機関であると同時に,助成機関としての役割 り,学術情報流通の中で一定の役割を担うものに成 長している22)。 も担い,その助成額は医学分野で世界最大とも言わ しかし機関リポジトリが増え,コンテンツの数も れる。このNIHが2004年に,自身の助成金を受けた成 増す一方,雑誌掲載論文の公開というGreen OAとし 果はP M Cに登録・無料公開すべき,という勧告を打 ての役割は,必ずしも果たされていないと指摘され ち出したのがいわゆるパブリック・アクセス方針の ている。米国では339の機関リポジトリ中,雑誌論文 始まりであり6),2008年4月からは助成研究のP M C登 を登録しているものは182件であり,雑誌論文自体登 16) 。その後助成研究成果のP M Cへ 録されていないものが目立つ21)。英国では雑誌論文 の登録率は劇的に改善し,それまでの19%程度から の登録は多いものの,メタデータのみの登録で本文 録が義務化された 。2013 が少ないとの指摘がある23)。日本においても,100万 年7月現在,その公開論文数は約280万件となってい 件のコンテンツの大多数は価格高騰とは無縁の紀要 る18)。 論文である。 2009年には約70%になったとの報告もある 17) このNIHによる義務化の礎が「公的資金による成果 分野別の電子アーカイブについて見ると,a r X i vは は市民に公開すべき」という論理である。その説得力 その後も成長著しいが,その他の成功例は少ない。 は強く,後に多くの助成機関等が同様の考えの下でOA もともとプレプリント文化があった分野だからこそ 義務化方針を打ち出している。しかしこの動機はNIH arXivは成立したとの指摘もある4)。 や市民の間から自発的に出たものではなく,SPAR Cに その中でa r X i v以外でもっとも成功しているのは よるロビイングや,同じくS P A R Cの支援により設立さ PMCである。2008年4月の義務化施行以後,登録コン れた市民団体の活動が影響を与えていた6),19)。O A運 テンツ数は順調に増加しており,前述のとおり現在 動成立後に,O A推進のために戦略的に導入された後 では約280万件の雑誌論文に誰もがアクセスできるよ 付けの動機である。そしてこの戦略は見事に当たり, うになっている。P M Cはプレプリント文化がない分 助成機関等による義務化はO Aを大きく推進していく 野においても,OA義務化方針が伴えばGreen OAが成 ことになる。 功しうる事例の1つとなっている。 4. OAの普及 4.2 Gold OAの現状 当初,OA雑誌のビジネスとしての実効性は危ぶまれ 4.1 Green OAの現状 ていた。しかしPL O Sが2010年には黒字化するなど24), BOAI以後,Green OAに関する顕著な動きとしては OA雑誌は現在,ビジネスとして確立している。その確 機関リポジトリの普及がある。機関リポジトリは当 立に寄与したのはカスケード査読とOAメガジャーナル 初,分野別のアーカイブ等がない分野に向けたGreen という2つの手法である。 O Aの場として考えられた20),注6),機関自らが所属す カスケード査読とはある雑誌で論文がリジェクト る研究者の成果を収集・保存・発信する電子アーカ された場合,査読結果を別の雑誌の査読に引き継い イブである。米国で始まった機関リポジトリはその で掲載可否を判断する手法である。類似分野の中で, 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 417 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ October 掲載率の異なる複数の雑誌を持つ出版者において有 どしている30)。しかし最近では商業出版者もO A義務 効で,掲載率の低い雑誌で「科学的な信頼には足る 化に対立するのではなく,むしろその流れの中で主 が掲載に足るインパクトがない」などと判断された 導権を握る方向に動き出している。 論文を効率的に他の雑誌で引き受けることが可能に なる25)。B M Cはこの手法により,一度投稿され,査 5. 現在のOA運動の争点 読を行った論文は,なるべくそのコストを無駄にせ ず,掲載料収入を得ようとしている26)。 以上のO Aに関する状況をまとめると,G o l d O Aは O Aメガジャーナルとは,P L O Sによる雑誌P L O S ビジネスとして成立することを示し,Green OAは機 O N Eの成功を受け広がりつつあるモデルである。 関リポジトリ等においては成功しているとは言いが PLOS ONEは研究成果のインパクトは考慮せず,科学 たいが,助成機関によるO A義務化を伴うことでの成 的に妥当な研究成果であれば出版するという簡易な 功例が現れている。そして公的助成研究に対するO A 査読方針のもと,できるだけ多くの論文を公開する 義務化の方針は確実に広がりつつある。 というモデルを採用した。このモデルは成功を収め, 2012年にはP L O S O N Eの年間総掲載論文数は23,000 本を超え,世界最大の雑誌タイトルとなっている。 このような状況の中で,今問題になっているのは 「どこまでO Aを実現するか」と「どうやってO Aを実 現するか」である。 PLOS ONEの収益によりPLOS全体も黒字化し,今では 商業出版者でも類似のO Aメガジャーナルを相次いで 5.1 どこまでOAを実現するか:再利用可能性とエ ンバーゴ 創刊している25)。 その他にも購読料モデルの雑誌掲載論文を,追加 長い間,O A運動においては「価格の壁」のみに 料金を払うことでOAにできるハイブリッドOAモデル 注目が集まってきた。例えば「法の壁」については も多くの雑誌で取り入れられている。O A雑誌掲載論 クリエイティブ・コモンズ(C C)におけるC C - B Yラ 文のシェアも増えており,2020年には世界の論文の イセンスの下で公開することで解決できるとされて 大半はO A雑誌に掲載されているといった予測も出さ いるが,2009年時点でC C - B Yを取り入れたO A雑誌は れるようになっている27),注7)。 9.9%のみであった31)。Green OAにおいても,機関リ ポジトリの中でC Cライセンスを導入しているもの自 4.3 義務化をめぐる動き NIHのパブリック・アクセス方針については3章5節 いても,サーチエンジン等で検索できない状態になっ で取り上げたが,その他にも研究助成機関や著者所 ているリポジトリが多数存在することなどが指摘さ 属機関等によるO A義務化方針の策定が進んでいる。 れている32)。 2013年7月現在,世界全体で助成研究の成果にO Aを しかしここ数年, 「法の壁」と「技術の壁」をも 義務付ける団体は81,所属研究者の成果にO Aを義務 解決し,研究成果の再利用可能性を増そうという動 付ける機関は177存在し28),さらに米国では州単位で きが盛んである。B O A I発表から10年を経たことを のOA義務化方針も現れている 418 体がわずかであるとの指摘がある。「技術の壁」につ 29) 。 受け2012年に新たに発表された文書(B O A I10)で このようなO A義務化方針に対し,商業出版者はさ は, 「ライセンスと再利用」に関する提言を大項目 まざまな形で抵抗した。例えばElsevier社はNIHのパ の1つに立てている33)。その中ではG r e e n O Aにおい ブリック・アクセス方針を無効化しようという法案 てはできる限り,G o l d O A(O A雑誌)については強 提出にかかわり,研究者から反発を招き撤回するな く,C C - B Yの導入を推奨している。「技術の壁」につ オープンアクセスの広がりと現在の争点 いても,機械可読フォーマットについてなど,踏み 英国の研究成果へのアクセス拡大方法に関する答申 込んだ提言がなされている。同じく2012年に発表さ を発表した35)。この答申は代表者の名前をとって れたS P A R C,P L O Sらの共同によるO Aの詳細な定義 Finch Reportと呼ばれている。Finch Reportでは英国 『HowOpenIsIt?』の中でも,「再利用に関わる権利」 の機関リポジトリにおいて雑誌論文の本文登録が少 や「機械可読性」を観点の一部に取り入れており, ないことと,前述のとおりGreen OAでは再利用可能 CC-BYの導入や機械可読性の確保等を行っているもの 性やエンバーゴの問題があることを理由に,英国に 34) 。 おいてO AはG o l dとハイブリッドO Aにより実現すべ 同様に「どこまでO Aを実現するか」という点で問 き,としている。この答申を受け,政府系助成機関 われているのは,論文出版後,それをO Aにするまで であるResearch Councils UK(RCUK)はGoldあるい にどれだけの猶予期間を設けるかという,いわゆる はハイブリッドO Aが可能かつA P Cが妥当な金額であ エンバーゴ期間の長さである。3つの障壁すべてを排 ればGoldあるいはハイブリッドOAを,それ以外の場 除して論文を再利用可能なものとし,エンバーゴ期 合にはGreen OAを義務付ける方針を発表した36)。 を真のOAと定義している 間を設けないものこそがO Aである,という点では関 Finch Reportのうち雑誌論文の本文登録が少ない, 係者の見解は一致しているのだが,ことはそう単純 というリポジトリへの指摘に関しては,調査方法自 ではない。 体に問題があり考慮に値しないが,再利用可能性と エンバーゴに関する指摘は,認めざるをえないもの 5.2 どうやってOAを実現するか:RCUK方針と である。しかし,そのためにGold・ハイブリッドOA OSTP指令への対応 をGreen OAより優先することを認めるか否かは,立 (1)Finch ReportとRCUK方針 場による。3章にまとめたとおり,O A運動に加わっ Green OAにおいて「法の壁」を解消することは容 た動機はさまざまにあり,中でも図書館関係者は商 易ではない。購読モデルの雑誌掲載論文でCC-BYを導 業出版者による寡占を崩し,雑誌価格高騰に対抗す 入してしまえば他の雑誌や図書が無断で再掲載する るためにO A運動に参加している。仮に再利用可能で ことすら可能となるわけであり,出版者がこれを容 エンバーゴのないO Aが実現するとしても,A P Cや追 易に許諾しないのは当然とも言える。一方で,G o l d 加料金のために出版者に払う額が増えたのでは意味 OA(OA雑誌)については,出版コストは掲載料等か がない。特にハイブリッドO Aについては購読料支払 らすでに回収済みであり,全面的にCC-BYを導入する いも続けねばならないため,R C U K方針に対し反発が ことは可能であるし,実際にPLOSやBMCでは行われ 起こるのは当然である。 ている。また,エンバーゴについてはGreen OAにお 一方で, 「研究成果の迅速・自由な共有」や「市 いてのみ問題となるのであって,雑誌自体がO Aであ 民への公開」について考える場合にはR C U K方針への るGold OAの場合は問題にならない。つまり,再利用 評価は割れうる。追加でかかる費用よりも再利用可 可能性を維持し,論文出版と同時にO Aを実現しよう 能かつ迅速な流通実現を重視するのであれば,R C U K とすると,Gold OAの方がGreen OAより適している 方針に賛同しうる。一方,Green OAによる「価格の と考えられる。そして実際にそう考えた助成機関が, 壁」排除をまずは優先すべきという立場もとりうる。 GoldおよびハイブリッドOAをGreen OAより優先する 再利用可能性とエンバーゴのない公開を重視するか, OA義務化方針を発表したことが,OA関係者の間に波 それともコスト(=出版者への支払額)を減らすこ 紋を起こしている。 とを重視するか。これは商業出版者と図書館による 2012年,英国のResearch Information Networkは, OA運動の主導権争いへとつながっていく。 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 419 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ October (2)OSTP指令とCHORUS vs. SHARE る。興味深いのは,CHORUSにおける提案では述べら 出版者と図書館の主導権争いが別の形で現れたの れていない著作権処理についてS H A R Eでは言及して は,米国ホワイトハウス科学技術政策局(O S T P)が いる点で,再利用可能性についてもやり方によって 2013年2月に出したパブリック・アクセス拡大に関す はGreen OAで実現可能であることを示そうとしてい る指令をめぐる,商業出版者らと大学図書館らの対 る。 立である37)。 OSTPによる指令は研究予算が年間1億ドル以上の政 6. おわりに 府機関に対し,2013年8月22日までにアクセス拡大の ための方針を策定せよ,と義務付けたもので,N I H方 RCUK方針をめぐる議論でも,OSTP指令への対応に 針以来のパブリック・アクセスの流れの延長に位置 ついても,共通しているのはO Aそれ自体の是非はす づけられる。この指令を受け,2013年6月に出版者陣 でに争われていないことである。O Aの是非について 営と図書館陣営のそれぞれから,パブリック・アク 議論する段階は終わり,どう実現するのかについて セス実現のための提案が出された。1つはElsevierなど の主導権の奪い合いが行われている。O A運動の背景 による “ClearingHouse for the Open Research of the と照らし合わせれば,図書館による商業出版者の寡 United States” (CHORUS)38),もう1つはARLなどによ 占切り崩しと出版者によるビジネスの維持・拡大の る “SHared Access Research Ecosystem” (SHARE)39) 欲求という対立軸が存在し,その間で自由かつ迅速 である。 な流通を実現したい人々の判断が問われている,と C H O R U Sは出版者のプラットフォームにおいて政 いうのが現在の構図である。O A実現自体が目的とな 府の助成を受けた研究成果を公開する,すなわちハ り得た(そう錯覚し得た)時代は終わり,あらため イブリッドO AによってO S T P指令に応えるモデルで て「なんのためにO Aを実現したかったのか」を思い ある。その目的は明確で,P M Cのように政府機関自 出すべき時に来ている。 身によるリポジトリに論文が集約することを恐れた 紙幅の関係もあり,本稿では扱えなかった話題 ものと考えられる。P M Cで公開された論文は出版者 も多い。例えばS C O A P3の動き,P e e r Jによる新たな のWebサイトでのアクセスが減るとの調査があり40), Gold OAのモデル,学位論文のOA化,OAと研究イン アクセスの減少は図書館における購読可否の検討に パクト,オープンデータ等については,重要な要素 直結する。ハイブリッドO Aであればこの問題は発生 となりうるものと知りつつ,取り上げられなかった。 しない。O A義務化方針に逆らうよりも,その方針の これらの取りこぼした要素が今後のO Aをめぐる動き 下で主導権を握り,できるだけビジネスへの影響を の中で大きな争点となる可能性は大きい(例えば再 廃しようという意図が見える。 利用可能性の議論が,ある時期までは必ずしもO Aに 一方のS H A R Eは,機関リポジトリに助成研究の成 関する話題で常に取り上げられたわけではなかった 果を集約・公開するG r e e n O AによってO S T P指令に ように)。本稿の内容については,そのような限界に 応えるモデルである。これは機関リポジトリによる も留意しつつ受け止めていただければ幸いである。 Green OAを一気に前進させるための提案と考えられ 420 オープンアクセスの広がりと現在の争点 本文の注 注1) OAの対象範囲は査読付き論文等に限らず,学位論文やモノグラフ,データ等に広げてとらえられるこ ともあるが,いずれの場合も著者が原稿料等を受け取る習慣がない(発表それ自体に伴う収益をあて にしていない)学術情報であることを前提としている。 注2) arXivの詳細については次等を参照:Ginsparg, Paul. ArXiv at 20. Nature. 2011, vol. 476, p. 145-147. 邦 訳については以下で公開されている:Ginsparg, Paul. ArXiv創設20年. 情報管理. 2011, vol. 57, no. 7, p. 415-420. 注3) 三根慎二. オープンアクセスジャーナルの現状. 大学図書館研究. 2007, vol. 80, p. 54-64. によれば,その ほかにもOA雑誌のモデルとしては「完全無料型」 , 「ハイブリッド型」 , 「一定期間後無料公開型」 , 「電 子版のみ無料公開型」等がありうる(ハイブリッド型については本文で後述する)。この中で雑誌全 体のO A化が可能であり,かつビジネスとして採算が成り立っているのは,今のところ「著者支払い・ 読者無料型」のみである。 注4) もちろん,厳密には参加者の数だけ(一団体の中でもさらに個々人の数だけ)OA運動に加わる動機は ありうるわけだが,いささか乱暴であることを承知しつつまとめればおおむね4つと言える。 注5) 例えば日本の状況については2010年度の『情報管理』誌連載「シリアルズ・クライシスと学術情報流 通の現在」等を参照。 注6) Crowの後に機関リポジトリに関するエッセイ(Lynch, Clifford A. Institutional Repositories: Essential Infrastructure for Scholarship in the Digital Age. 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Commercial publishers adopt Gold or hybrid OA in their business and compete librarians for initiative of the OA movement. In this situation, availability of OA contents and embargo periods have been the issues of today's OA movement. Key words open access, institutional repository, open access journal, public access, scholarly publishing, scholarly communication 424 WIPOの無料特許情報データベースPATENTSCOPE WIPOの無料特許情報データベース PATENTSCOPE PATENTSCOPE: WIPO's database on patent information 夏目 健一郎1 NATSUME Ken-Ichiro1 1 世界知的所有権機関 日本事務所 1 World Intellectual Property Organization, Japan Office 原稿受理(2013-08-01) 情報管理 56(7), 425-439, doi: 10.1241/johokanri.56.425 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.425) 著者抄録 WIPO(世界知的所有権機関)がインターネット上,無料で提供する特許情報データベースである PATENTSCOPE は, 220 万件を超える PCT データに加えて,30 以上の国・地域の特許文献データを擁しており,総データは 3,000 万件に及び, データの数は日々増加している。検索は,論理演算子,ワイルドカード,近接演算子を用い,柔軟な検索式を立てて 行うことが可能である。検索結果を表,グラフ形式で視覚的に表示することもできる。各国語の特許文献を効率的に 検索するために,PATENTSCOPE では,検索語を 12 か国語に自動的に展開するユニークな機能である多言語検索機能 を提供する。本稿では,この PATENTSCOPE データベースについて,その特徴を概説する。 キーワード 世界知的所有権機関,WIPO,PATENTSCOPE,特許情報,特許検索,特許文献,特許データベース,無料データベース, 翻訳,PCT,多言語 1. はじめに どっている特許情報は,各国の知的財産当局などに よって公開され,アクセス可能である。日本におい 世界知的所有権機関(World Intellectual Property ても,独立行政法人工業所有権情報・研修館が提供 Organization: WIPO)の統計によれば2011年の全世界 する特許電子図書館(I P D L)を始めとして各種サー の特許出願は214万件に上り,1995年の105万件から ビスが提供されている。 倍増している。また,W I P Oが提供する特許協力条約 W I P Oは186の加盟国を有するが,加盟各国の知的 (Patent Cooperation Treaty: PCT)を利用した国際出 財産庁からデータの提供を受け,W I P O自身が持つ 願は2012年には19万件を超え,1995年の4万件から5 P C Tデータに加えて各国国内特許情報も含むデータ 倍近くに成長している。このように増加の一途をた ベースを公開している。今回はそのP AT E N T S C O P E 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 425 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 http://johokanri.jp/ October Journal of Information Processing and Management データベースについて紹介する。 ザーの利便性向上に努めている。 なお, 「PATENTSCOPE」はマドリッド制度などを 2. PATENTSCOPEとは 通じて商標登録している注3)。 国連の専門機関であるW IP Oは,知的財産権の保護 3. アクセスと収録範囲 促進と加盟国間の協力を大きな目的とするが,この目 的達成のための任務としてWIPO設立条約注1)に明記さ 3.1 PATENTSCOPEへのアクセス れているものには「知的所有権の保護に関して情報を P AT E N T S C O P Eは,W I P OのW e bサイトから無料 収集し及び広報活動を行う」ことも含まれている注2)。 でアクセスできる(http://patentscope.wipo.int/ 増大する知的財産に関する情報を収集し,これを広く search/en) 。PATENTSCOPEは日本語を含めた9か国 提供することはWIPOとしての任務である。WIPOのカ 語のユーザーインターフェースを用意しており,トッ バーする知的財産は特許に留まらず,商標,意匠,著 プページの上に示されている言語リストから日本語 作権など多岐にわたるが,特許に関する情報を提供す を選ぶことによって,日本語メニューで検索するこ るプラットフォームがPATENTSCOPEである。 とができる(図1) 。一番左にM o b i l eとあるが,これ 特許情報を提供するデータベースは世の中に無料, 有料のものを含めて各種存在するが,WIPOの場合は, はモバイルデバイスを念頭に置いたシンプルなイン ターフェースであり,現時点では英語のみである。 日本のような先進国だけではなく途上国なども含め たすべての加盟国が対象である。したがって,公的 な国際機関としても,このようなデータベースの提 3.2 データ収録範囲 PATENTSCOPEに収録されているデータは日々増え 続けているが,2013年7月時点で,P C Tデータ226万 供は広く無料で行っている。 PATENTSCOPEには,PCTデータや各国知財庁から 件を始めとして,各国特許データを含めると約3,000 提供を受けた国内/域内特許データが3,000万件近く 万件のデータを収録し,フルテキストデータも1,800 格納されている。各国の国内特許情報は国によって 万件以上収録している。データの収録範囲は,「ヘル 異なる言語なので,複数の言語の特許情報を効率よ プ」をクリックし, プルダウンメニューの中から「デー く検索できるインターフェースをいかに提供するか, タ収録範囲」を選択,その下層のメニュー(この場 という点は国際機関としての挑戦である。この課題 合は,「P C T出願」,「P C T国内段階移行」と「国内特 については,後述する多言語検索ツールなどでユー 許コレクション」が選択可能)から必要な情報を選 図1 9か国語のユーザーインターフェース 426 WIPOの無料特許情報データベースPATENTSCOPE 択することで最新の状況を確認できる(図2)。2012 方法で行うことができる。 年には日本の特許文献を,2013年には米国の特許文 献を追加し,データの拡充に努めている。今後も中 国など未収録国のデータを収録し,さらに充実させ 4.1 簡易検索 簡易検索は,PATENTSCOPEがデフォルトで提供す るシンプルな検索インターフェースであり,あらか る予定である。 じめ用意された検索フィールドから1つを選んで,検 3.3 マニュアル 索語を入力する。検索フィールドは,「フロントペー P AT E N T S C O P Eのマニュアルは,プルダウ ン メ ジ」 , 「すべてのフィールド」 , 「フルテキスト」 , 「日 ニューから「ヘルプ」-「検索方法」-「ユーザー 本語フルテキスト」,「I D番号」(公開番号,出願番号 ガイド PATENTSCOPE」と順にたどることによりア など) , 「国際特許分類」 , 「氏名(名称) 」 (発明者名, クセスできる(図3)注4)。本稿で紹介しきれない部分 出願人名など) , 「公開日」が用意されている。 もあるので,必要に応じてマニュアルもご参照いた 例えば「i P S細胞」のキーワードを入れると,シス テムが入力語を単語に分けてA N D検索(i P S A N D 細 だきたい。 胞)を実行するので「i P S細胞」という用語のみなら 4. 検索方法 ず「i P S」及び「細胞」という語が離れて含まれるも のまでヒットしてしまう。これを避けるためにはキー P AT E N T S C O P Eの検索は,(1)簡易検索(S i m p l e ワード全体を二重引用符「”」で囲み「“i P S細胞”」と Search)(2)詳細検索(Advanced Search)(3)構造 することで,当該文字列を1つの語として検索するこ 化検索(Field Combination)(4)多言語検索の4つの とができる。これは簡易検索に限らず,他の検索に 図2 データ収録範囲へのアクセス 図3 マニュアルへのアクセス 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 427 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 http://johokanri.jp/ October Journal of Information Processing and Management おいても同様である。 検索語を入れるボックスの右にある「?」マーク をクリックすると,選択したフィールドでの検索語 の例が示されるので参考にできる(図4)。 4.2 詳細検索 詳細検索においては,複数の検索語を組み合わせ て検索することができる。検索は,フィールドコード を用いて検索対象となるフィールド(発明の名称,出 願人名,請求の範囲,明細書など)を特定し,各種 図4 検索条件の例示 演算子(ブール演算子,近接演算子など)を用いて 検索語を組み合わせて検索式を立てることによって 説明が表示される。画面は,「語幹処理」についての 行う(フィールドコード及び演算子の一覧を後掲す 説明がポップアップ表示されている例である。 る) 。検索式に用いる検索語の数に制限はないが,検 フィールドは「ヘルプ」-「検索方法」-「フィー 索語があまりに多く検索が複雑になると検索に要す ルド定義」で参照可能である注5)。また,演算子を含 る時間が長くなり,サーバーによってはタイムアウト めて検索式を立てる際の構文については,「ヘルプ」 となり検索が中断される場合がある。 -「検索方法」-「検索構文」で参照可能である注6)。 デフォルトでは,検索対象国はすべての国である AND,OR,NOT,ANDNOTのブール演算子,ワイ が, 「特許庁/ PCT」という表示の右にある「Specify」 ルドカード,近接演算子などが使用可能である。こ をクリックすることにより,検索対象国を指定する れらとフィールドコードを組み合わせて,例えば, ことができる。図5の詳細検索画面は,P C Tと日本, 発明者に「J o b s」を含み,2000年から2010年までに ブラジル,米国,南アフリカにチェックを入れて検 公開され, 英語の明細書にキーワードとして「phone」 索対象国にした例である。また,左下にある「ツー が含まれている発明を検索する場合は, ルチップ(ヘルプ)」のチェックボックスにチェック を入れると,マウスカーソルの動きに合わせて,適宜, 「I N : ( J o b s ) A N D D P : [01.01.2000 T O 31.12.2010] AND EN_DE: (phone)」 図5 詳細検索画面とヘルプのポップアップ表示 428 WIPOの無料特許情報データベースPATENTSCOPE という検索式を立てればよい。 PATENTSCOPEの特徴として近接演算子が利用でき ることが挙げられよう。 音”) )NEAR3(“壁” OR “パネル” OR “隔離”) 」 PATENTSCOPEで使用可能なフィールドコード及び 演算子の一覧を以下に示す(表1 ~ 12)。 「solar AND car」という検索式では1万件以上の文 献がヒットする。ここで近接演算子を用いて「s o l a r NEAR5 car」とすることにより,数百件程度まで絞り 込むことができる。「N E A R5」とすることで「s o l a r」 と「car」が5単語以内の近傍にあるものを検索する。 「N E A R」の後ろにつける数で近傍の単語数を指定す る(例:NEAR100)。 また,次のように近接演算子,ブール演算子等を 複数用いて,入れ子構造にすることも可能である。 「 ( ( (“音” OR “音響” OR “ノイズ” OR “声”)NEAR4(“遮断” OR “防止” OR “障壁” OR “耐性”))OR(“防音” OR “無 表1 出願人に関係するフィールドコード フィールド 出願人情報 出願人あて名 出願人あて名 (国名) 筆頭の出願人名 出願人氏名 (名称) 出願人国籍 出願人住所 コード PAA AAD AADC PAF PA ANA ARE 例 PAA: John US California AAD: Paix AADC: IT PAF: "smith, john" PA: smith ANA: CN ARE: KR 表2 日付/範囲に関係するフィールドコード フィールド 出願日 国内段階への移行 優先日 公開日 コード AD NPED PD DP 例 AD: [01. 01. 2001 TO 01. 01. 2005] NPED: JP2005 PD: [01. 04. 2033 TO 11. 11. 2007] DP: [15. 05. 2005 TO 15. 15. 2008] 表3 国際分類に関係するフィールドコード フィールド 国際特許分類 国際特許分類 発明情報 国際特許分類 付加情報 主な国際特許分類 コード IC ICI ICN ICF 例 IC: A07 or "G01N 33" ICI: G08 ICN: "G06K 21/00" ICF: "G06K 21/00" " 表4 発明者に関係するフィールドコード フィールド 発明者情報 発明者あて名 発明者あて名 (国名) 筆頭の発明者氏名 発明者氏名 コード INA IAD IADC INF IN 例 INA: paul, london UK IAD: Seattle IADC: DE INF: "hamilton, Janice" IN: john 表5 言語に関係するフィールドコード フィールド すべてのフィールド 要約 請求の範囲 明細書 テキスト 発明の名称 出願言語 公開言語 コード EN_ALL EN_AB EN_CL EN_DE EN_ALLTXT EN_TI LGF LGP 例 EN_ALL: pot EN_AB: "electric car" EN_CL: needle EN_DE: syyringe EN_ALLTXT: "waterproof cannula" EN_TI: "flexible tube" LGF: JA LGP: EN *この表は, 英語の場合の例を示している。 他の言語の場合は, EN を次の文字に置き換えることにより言語を指定可能である。 FR : フランス語, DE : ドイツ語, ES : スペイン語, JA : 日本語, RU : ロシア語, VN : ベトナム語 表6 法定代理人に関係するフィールドコード フィールド 法定代理人情報 法定代理人あて名 法定代理人住所 筆頭の法定代理人氏名 コード RPA RAD RCN RPF 例 RPA: (gearge, new port) RAD: (colombettes) RCN: KR RPF: (Jons) 表7 氏名に関係するフィールドコード フィールド すべての氏名 (名称) 出願人氏名 (名称) 発明者氏名 筆頭の出願人氏名 筆頭の発明者氏名 筆頭の法定代理人氏名 コード ALLNAMES PA IN PAF INF RPF 例 ALLNAMES: smith PA: smith IN: smith PAF: "smith, john" INF: "hamilton, janice" RPF: jones 表8 番号に関係するフィールドコード フィールド すべての番号及び ID 出願番号 国内段階 国内公開番号 先の PCT 出願番号 先の PCT 公開番号 優先権主張番号 WIPO 公開番号 コード ALLNUM AN OFNUM PN PRIORPCTAN PRIORPCTWO NP WO 例 ALLNUM: AN: OFNUM: 123*US PN: PRIORPCTAN: US2003 PRIORPCTWO: 2003 NP: 2003* WO: YY/NN*; YY/NN; YYYY/ NN*; YYYY/NNNN 表9 PCT国内段階に関係するフィールドコード フィールド 国内段階情報 国内段階出願番号 国内段階移行日 国内段階移行種別 国内段階特許庁コード コード NPA NPAN NPED NPET NPCC 例 NPA: US2002 NPAN: CA-2* NPED: US-200012* NPET: (US-E*) NPCC: JP 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 429 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 http://johokanri.jp/ October Journal of Information Processing and Management 表10 官庁/国に関係するフィールドコード フィールド 特許庁コード 特許庁コード 国 コード OF OF CTR 表11 優先権に関係するフィールドコード フィールド 優先権に関する情報 優先権主張国 優先日 優先権主張番号 例 OF: JP OF: WO CTR: CU コード PI PCN PD NP 例 PI: 2005 KR PCN: ZA PD: [01. 04. 2003 TO 11. 11. 2007] NP: [01. 04. 2003 TO 11. 11. 2007] 表12 演算子一覧 演算子 ブール AND OR 例 train AND plane train OR plane NOT train NOT plane AND NOT train AND NOT plane 説明 常に大文字で使用。 最初の単語と 2 番目の単語の両方を含むすべての文献を返す。 最初の単語又は 2 番目の単語を含むすべての文献を返す。 最初の単語を含み, NOT の後の単語を含まないすべての文献を返す。 単項演算子としても使用可。 最初の単語を含み, かつ NOT の後の単語を含まないすべての文献を返す。 NOT と異なり, 二項演算子として用いる。 ワイルドカード ? te?t electr* * elec*ty test 又は text を含むすべての文献を返す。 ワイルドカード検索は, ? を使用して, その 1 文字を置き換えた用語を検索する。 electric, electrics, electrical, electricity を含むすべての文献を返す。 electricity を含むすべての文献を返す。 ワイルドカード検索は, 用語の中央又は最後に * を使用して, 0 文字以上を置き換 えた用語を検索する (* を用語の最初の文字として使用することはサポートされて いない)。 その他 “power” が “nuclear” よりも関連性が高いとみなされるすべての文献を返す。 ^ power^10 nuclear +/- +electric-power フィルター検索を使用すると, (+) 検索用語を要求し, かつ (-) 検索用語を禁止す ~ roo~ ることができる。 あいまい検索は, room, roof, root などを含むすべての文献を返す。 (spaghetti OR plate) spaghetti 又は plate のいずれかを含み, かつ fork を含むすべての文献を返す。 AND fork グループ分けは, サブ検索式を形成する句をグループ分けするために使用される。 近傍検索を使用すると, 単語間の近傍度を指定することができる。 () ~/NEAR [] {} “heart monitoring”~10 Heart NEAR monitoring ブースティングは, 個々の検索用語に重要性の値を割り当てる。 electric を含み, かつ power を含まないすべての文献を返す。 この例では, チルダ (「~」 波線符号) を使用して, “heart” と “monitoring” の間 を 10 単語だけ離す。 NEAR は, デフォルトでは, 複数の単語を 5 単語だけ離す。 [01. 01. 2000 TO 01. 01. 01. 01. 2000 から 01. 01. 2001 までの範囲内にある日付を含むすべての文献を返す。 2001] {Smith TO Townsend} 範囲検索は, [ ] を使用して, 境界を含める。 氏名が Smith から Townsend までの範囲内にあり, Smith と Townsend を含まない すべての文献を返す。 範囲検索は, { } を使用して境界を除外する。 4.3 構造化検索(Field Combination) 詳細検索は,すべてのフィールド,演算子を駆使 ロップダウンメニューに用意し,これらをA N Dもし して自由に検索式を立てることができるという意味 くはO Rで組み合わせることによって,詳細検索と完 で強力な検索手法であるが,一方でフィールド,演 全に同じとまではいかないものの,簡易検索に比べ 算子をすべて使いこなすのは必ずしも簡便ではない, てはるかに幅広い検索をすることができる。 と感じるユーザーもいるかもしれない。 構造化検索においては,詳細検索で利用可能な各 430 種の検索フィールドを選択可能なリストとしてド 図6は発明の名称に「幹細胞」を含み,かつ,明細 書の中に「再生」という語を含む特許文献を検索す WIPOの無料特許情報データベースPATENTSCOPE 図6 構造化検索の例 る例である。 のから順に示しているが,「並べ替え」のプルダウン 検索語を入れるボックスには,1つのキーワードの メニューから選ぶことにより,公開日・公知日につ みならず, 「幹細胞 O R 再生」といった検索式を入力 いて新しい順もしくは古い順に並べ替えることがで することも可能である。なお,演算子を指定せず複 きる。 数のキーワードを単純にスペースで区切って入力す るとAND検索が実行される。 1つのボックスには全角で100文字まで入力が可能 であるので(2013年8月時点),詳細検索で紹介した 5.2 文献のスクリーニング 文献番号をクリックすることにより各文献にアク セスすることができる(図8)。 ような「 ( ( (“音” O R “音響” O R “ノイズ” O R “声”) 上部のタブをクリックすることにより当該文献の N E A R4(“遮断” O R “防止” O R “障壁” O R “耐性”)) 各種情報( 「PCT書誌情報」 , 「明細書」全文, 「請求の OR(“防音” OR “無音”))」といった検索式を1つのボッ 範囲」等)にアクセスすることができる。「書類」か クスに入力することも可能である。 らはPCT国際調査報告,見解書やその他の手続きのた 5. 検索結果の表示と自動翻訳 めにやり取りされた書類で公開されたものを参照す ることができる。 「明細書」や「特許請求の範囲」からは,明細書 5.1 検索結果 全文などにアクセスできるが,これらにおいては PATENTSCOPEで検索式を入力し,検索ボタンを押 Google,Microsoftの翻訳ツール(図8の「Machine して検索を実行すると,次のように検索結果が示さ translation」とある部分)を用いて,表示された内容 れる(図7) 。 を日本語を含む各国言語に機械翻訳することができ 検索の結果ヒットした文献が,国・発明の名称・ る。これらの翻訳は法的手続きの根拠とできる位置 出願番号・出願人等の書誌的事項と要約をセットに づけではないが,どのような内容が開示されている して示される。デフォルトでは「関連性」の高いも のかを把握するという観点からは有用であると考え 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 431 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 Journal of Information Processing and Management October 図7 検索結果の表示 図8 文献のスクリーニング例 432 http://johokanri.jp/ WIPOの無料特許情報データベースPATENTSCOPE ている。したがって,この機械翻訳で粗くふるいに 5.4 検索結果の分析 かけて,その上で必要なものにはより精度の高い翻 PATENTSCOPEで検索を行った場合, 「検索結果の 訳をするといった形で絞り込みをすることができる。 分析」の右側にある「> >」をクリックすると,検索 「明細書」タブから明細書の全文テキストにアクセ 結果を表・グラフで表示させることができる。検索 スできるが,文献によっては,テキスト情報がO C R 結果を自分で加工して詳細に分析することも可能で 処理によって作製されているものがある。この場合 あるが,PATENTSCOPE上で検索結果をすぐに視覚化 も,法的な用途にはテキスト化のベースになってい して表示することができるので,傾向をその場で把 るP D F版( 「書類」タブからアクセス可能)を利用す 握したい場合には便利である。 ることが求められるので留意が必要である。 図のように,どの国に出願されているのか,主要 な国際特許分類は何か,主要な出願人・発明者・公 5.3 国内移行情報 開年別の件数が表形式で一覧できる。図9はキーワー PCT出願に関しては,国際出願した後,どの国に国 内移行したのかという情報を,競合他社の動向を探 る意味からも知りたい,という要望はあると思われ る。「国内段階」のタブをクリックすることにより, ド「携帯電話」の多言語検索(C L I R)を用いて各国 特許文献を検索した結果である。 この結果を円グラフ,棒グラフにして表示させる ことができる(図10)。 どの国に移行したのか,その後各国での審査がどう このように,例えば携帯電話分野でどの国に多く なったのかについての情報を得ることができる。た 特許出願がなされているのかを視覚的に把握するこ だし,国内段階情報は各国知財庁から提供される情 とができる。 報に基づいているので,国によってはデータが提供 棒グラフを選択すればグラフの形式を変えることが されるまでに時間を要する場合があることに注意が でき, 図11のように経年変化を把握することができる。 必要である。どの国がいつまでの国内段階情報を提 この例では,「携帯電話」というキーワードで検索 供しているのかということは,「ヘルプ」-「データ したが,これを特定の企業の出願に絞ることにより, 収録範囲」-「PCT国内段階移行」により確認できる。 競合他社の出願動向を調べたりすることもできる。 また,国際特許分類を検索キーとすることで特定の 技術分野における動向を分析することも可能である。 図9 検索結果の分析(表形式の表示) 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 433 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 http://johokanri.jp/ October Journal of Information Processing and Management 図10 検索結果の円グラフ表示 6. 多言語検索 図11 検索結果の棒グラフ表示 に翻訳され,複数の言語の特許文献を一気に検索す ることができる。12か国語は具体的には次の言語で PATENTSCOPEはPCTの国際公開公報のみならず世 ある。中国語・オランダ語・英語・フランス語・ド 界各国の国内特許情報も収録しているが,これらの イツ語・イタリア語・日本語・韓国語・ポルトガル語・ 言語は国によって異なる。日本は日本語,米国は英語, ロシア語・スペイン語・スウェーデン語。したがって, EPOは英語,仏語または独語,ロシアはロシア語,と これらの言語の1つ,例えば日本語で検索語を入力す いった具合である。これらの特許文献を検索するに るだけで,この12か国語で公開されている特許文献 は,それぞれの言語で検索語を入力しなくては特許 をまとめて検索することができる。 文献をヒットさせることはできない。1つのキーワー 以下に,CLIRの仕組みを紹介する。 ドで検索するにしても,各国語で何度も検索するの は煩雑であり,より簡便に検索できることが望まれ 6.1 CLIRによる検索語の入力 る。このような要請に対するW I P Oの1つの回答が多 まずは検索語の入力である。「検索言語」をプルダ 言語検索である。Cross Lingual Information Retrieval ウンメニューから選択し(ここでは「日本語」を選択) , の頭文字を取ってC L I R(クリア)注7)と呼んでいる。 ボックスに検索語を入力する( 「太陽電池」と入力) (図 CLIRでは,1つの言語で検索語を入力することにより, 12)。 検索語とその類義語が各国語(12か国語)に自動的 次に検索式の展開の程度を選択する。スライダー 図12 多言語検索(CLIR):検索用語の入力 434 WIPOの無料特許情報データベースPATENTSCOPE を左右に動かすことにより,調整ができる。「正確性 選択する。PATENTSCOPEは入力された検索語から関 を高める」にスライダーを動かすと,入力された検 連する技術分野のリストを自動的に表示する。ユー 索語を最も関連性の高い結果を取得するための検索 ザーはこの自動表示されたリストに他の技術分野を 式に展開する。したがって,ノイズが減ることが期 加えたり,リストから不要なものを削除したりする 待できるが,場合によってはヒットさせたい特許文 ことができる。この技術分野は,その後,検索語を 献が漏れてしまう可能性がある。一方,「網羅性を高 類義語に展開する際に考慮される(図13)。 める」に動かすと,入力された検索語をより多くの 結果を得るための検索式に展開する。精度が落ちノ イズが増える可能性があるが,より網羅的に特許文 6.3 類義語展開 次 に 検 索 語 を 類 義 語 に 展 開 す る の で あ る が, P AT E N T S C O P Eが類義語の候補を示してくれる(図 献をヒットさせることができる。 ここで「拡張モード」を選択するが,「自動」を選 14)。ここでスライドバーを「より少なく」もしくは 択した場合は,検索をクリックすれば即座に検索結 「より多く」の方に移動することにより,示される類 果が得られる。 「拡張モード」を(手動での)「設定」 とした場合,さらにいくつかの設定をすることがで 義語の候補の数を調整することができる。 そして示された類義語の中から実際に検索に使い たいものにチェックマークを入れて類義語を決定す きる。 る。この際,表示された類義語の上にカーソルを合 6.2 技術分野の選択 わせると,当該類義語に該当する件数が示されるの 「拡張モード」が「設定」の場合,まず技術分野を で,選択の際に参考にできる。その後「選択された 図13 多言語検索(CLIR):技術分野の選択 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 435 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ October 図14 多言語検索(CLIR):類義語展開 検索用語を翻訳する」ボタンをクリックするとこれ のであれば「すべてのテキスト」を選択すればよいし, らの類義語が12か国語に翻訳される。 クレーム( 「請求の範囲」 )に的を絞るのであれば「請 類義語の展開は,P C T出願の発明の名称及び要約 求の範囲」を選択すればよい。 から構成される特許コーパスをベースにした辞書 そして,該当する単語間の近傍度の範囲を指定す を用いて行っている。この辞書は,国際特許分類 る。 「文」 , 「段落」 , 「ページ」 , 「制限なし」などを選 (International Patent Classification: IPC)に基づいた ぶことができる。さらに語幹処理のオプションが選 技術分野における統計も踏まえている。 択可能である。このチェックボックスが選択された 状態で,例えば「s w i m」が検索語にある場合には, 6.4 検索対象フィールドの指定 12か国語に翻訳された類義語は12か国語それぞれ 語も含め検索される。逆にこれらを検索対象から除 のタブをクリックすることにより,確認することが 外して「s w i m」のみを検索対象としたい場合には語 できる。各国語に明るいユーザーはそれぞれの言語 幹処理のチェックボックスを解除すればよい。 で翻訳が適切かどうかを確認し,不要なものを削除 したり,修正したりすることもできる。次に,検索 436 「swimmer」,「swimmers」,「swimming」などの単 以上の設定をしたら,「検索」ボタンをクリックし て検索結果を得る(図16)。 対象とするフィールドを選択する(図15)。フィール 検索語が各国語に翻訳された検索式がシステムに ドとしては「発明の名称」,「要約」,「発明の名称・ 入力され,検索結果が得られる。各文献をスクリー 要約」 , 「明細書」 ,「請求の範囲」,「発明の名称・要 ニングできるが,ヒットする文献は12か国語の文献 約・請求の範囲」そして「すべてのテキスト」から が入り混じったものである。必要に応じてG o o g l e, 選択が可能である。最も網羅的に検索しようとする Microsoftの自動翻訳を活用して内容を把握すること WIPOの無料特許情報データベースPATENTSCOPE 図15 多言語検索(CLIR):検索対象フィールドの指定 図16 多言語検索(CLIR):検索結果 ができる。 7. ユーザー登録によるオプション機能 単に利用できる。 ユーザー登録をすることによって,検索結果のダ ウンロードが可能になる。100件までの制限はあるが, 公開番号・公開日・発明の名称・要約・出願人・発明者・ PATENTSCOPEは特段のユーザー登録をしなくても 代表図面をExcel形式で保存できる。 無料で検索をすることができる。しかし,ユーザー また,検索履歴を参照することができ,さらに検 登録をすることによりいくつかの追加機能が使える 索式を登録し,後日呼び出して再利用することがで ようになる。ユーザー登録は無料で,電子メールア きる(図17)。 ドレスとパスワードを自身で設定することにより簡 検索式を登録し,定期的に検索することにより, 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 437 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ October 図 16 多言語検索(CLIR):検索結果 図 17 図17 検索履歴の保存と検索式の登録 検索履歴の保存と検索式の登録 特定の企業の出願動向,技術分野の出願動向などを 関係で今回は検索に的を絞って紹介させていただい 容易に定点観測することができる。 た。各種の特許情報検索ツールが存在するが,多数 8. おわりに の言語の特許文献を検索するための多言語検索など ユニークな機能もある。「習うより慣れろ」とよく言 うが,PATENTSCOPEのユーザーインターフェースは PATENTSCOPEでは,検索にとどまらず,翻訳機能, 第三者情報提供などの機能も備わっている。紙幅の 直感的に使えるようなものが多い。インフォプロの 方々にもご活用いただければ幸いである。 本文の注 注1) 世界知的所有権機関を設立する条約。http://www.wipo.int/treaties/en/convention/ からアクセス可 能。日本語は以下からアクセス可能。http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/B-S50-0001_1. pdf, http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/B-S50-0001_2.pdf, http://www.jpo.go.jp/shiryou/ s_sonota/fips/wipo/cew/mokuji.htm。 注2) 世界知的所有権機関を設立する条約第4条(vi) 。 注3) マドリッド国際商標登録879539号など。 注4) http://www.wipo.int/export/sites/www/freepublications/ja/patents/434/wipo_pub_l434_08.pdfにて 直接アクセスも可能。 注5) http://patentscope.wipo.int/search/ja/help/fieldsHelp.jsfにて直接アクセス可能。 注6) http://patentscope.wipo.int/search/ja/help/querySyntaxHelp.jsfにて直接アクセス可能。 注7) http://patentscope.wipo.int/search/clir/clir.jsp?interfaceLanguage=jaにて直接アクセス可能。 438 WIPOの無料特許情報データベースPATENTSCOPE Author Abstract PATENTSCOPE, WIPO's patent information database available online free of charge, holds more than 2.2 million PCT data and national/regional patent information. The total collection amounts to almost 30 million and is increasing. PATENTSCOPE allows users flexible retrieval with Boolean operators, wildcard and proximity operators. It can easily visualize search results in the form of tables and graphs. In order to achieve efficient retrieval on patent documents in different languages, PATENTSCOPE provides unique functions of Cross Lingual Information Retrieval, which automatically translates inputted queries into 12 languages. In this article, an overview of PATENTSCOPE is presented. Key words World Intellectual Property Organization, WIPO, PATENTSCOPE, patent information, patent retrieval, patent document, patent database, free database, translation, PCT, multi-language 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 439 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ October 日本におけるオープンデータの進展と 展望 Progress and challenge of open data in Japan 大向 一輝1 OHMUKAI Ikki1 1 国立情報学研究所(〒101-8430 東京都千代田区一ツ橋2-1-2) E-mail: [email protected] 1 National Institute of Informatics (2-1-2 Hitotsubashi Chiyoda-ku, Tokyo 101-8430) 原稿受理(2013-08-06) 情報管理 56(7), 440-447, doi: 10.1241/johokanri.56.440 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.440) 著者抄録 政府・地方自治体・公的機関による情報公開の取り組みの一環として「オープンデータ」が注目を集めている。欧米 の動きと比較すると,日本におけるオープンデータの普及が遅れていることは確かであるが,行政機関や市民の努力 によって,急速にデータの質・量ともに充実が進んでいる。本稿では国内における先進例を紹介し,今後の展望につ いて議論する。 キーワード オープンデータ,オープンガバメント,データカタログ,ライセンス,市民参加,コンテスト 1. はじめに 営利団体が提供するオープンデータと区別してオー プンガバメントデータと呼ばれることもある(図1) 。 政府・地方自治体・公的機関による情報公開の取 本稿では,主に日本の公共セクターの取り組みにつ り組みの一環として「オープンデータ」が注目を集 いて述べるが,原則としてオープンデータと表記す めている。オープンデータとは,組織や個人が持つ る。 データをインターネットを通じて広く公開し,第三 者に利活用の機会を供することを指す。 440 既存の情報公開制度との大きな違いは,市民の請 求に応じて供するのではなくあらかじめW e bサイト 近年,情報技術を積極的に活用することで行政機 などで公開がなされること,またコンピューターで 関の透明度を高め,市民の参加や協働を活性化させ の処理に適した形式で提供されること,営利・非営 るオープンガバメント運動が盛んになっており,公 利を問わず利用できることが挙げられる。これらの 共セクターによるオープンデータの活動はその延長 原則のもとにさまざまな調査・統計など行政機関が 線上に位置づけられる。その意味で,民間企業や非 持つ大量のデータが公開されることで,オープンガ 日本におけるオープンデータの進展と展望 s0004 図 1~6.docx ・Open Data Census http://census.okfn.org/g8/ 都市・地方自治体におけるオープンデータの活動 は枚挙に暇がない。象徴的な事例として,2013年2月 23日のInternational Open Data Dayは,各都市の有志 がオープンデータを利用したアプリケーション開発 や議論を行うワークショップを同時多発的に開催す るもので,最終的に40か国・102都市が参加する大規 模なイベントとなった(図2)。 ・International Open Data HACKATHON 図 1 オープンデータの概念図(出典:国連行政開発管理部門) 図1 オープンデータの概念図(出典:国連行政開発管理部門) http://opendataday.org 欧米の動きと比較すると,日本におけるオープン データの普及が遅れていることは確かであるが,行 バメントの実現,民間との協働による行政サービス 政機関や市民の努力によって,急速にデータの質・ の向上,イノベーション・新産業創出などが期待さ 量ともに充実が進んでいる。本稿では国内における れる。 先進例を紹介し,今後の展望について議論したい。 すでに海外では多数の実践例があり,政府レベル では米国のdata.gov,英国のdata.gov.ukを筆頭にオー 2. 政府におけるオープンデータ プンデータを一元的に集約したW e bサイトが各国で 構築されている。 2012年7月の電子行政オープンデータ戦略によっ 2013年6月 に 英 国 で 開 催 さ れ たG8サ ミ ッ ト で は て,日本政府としてオープンデータに取り組む姿勢 オープンデータ憲章が採択され,すべての参加国が が明確化された。政権交代を経てもその方針は継続 年内に行動計画を策定するとともに,年1回の進捗報 され,2013年6月には世界最先端I T国家創造宣言の中 告を行うことが決定された。 でオープンデータの推進が重要課題として挙げられ ・オープンデータ憲章(概要) ている。これらを受けて, 各省庁での検討が進められ, http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/ 具体的な活動や成果に結実しつつある。以下では代 page23_000044.html 政府のオープンデータの取り組みに関する国際評 価も行われている。World Wide Web Foundationが 2012年9月に公表したOpen Data Indexでは14の評価 表的な動きについて述べる。 ・電子行政オープンデータ戦略 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/pdf/120704_ siryou2.pdf 項目を用いており,日本は上位20か国中19位となっ ・世界最先端IT国家創造宣言 ている。また,Open Knowledge Foundationによる http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/kettei/ G8諸国を対象としたOpen Data Censusでは3位だが, 10項目のうち突出した点がないという評価であった。 pdf/20130614/siryou1.pdf 2012年7月に,総務省を中心として産官学が連携 ・Open Data Index する「オープンデータ流通推進コンソーシアム」が h t t p : / / w w w . w e b f o u n d a t i o n . o r g /2012/09/ 設立された。技術委員会,データガバナンス委員会, introducing-the-open-data-index/ 利活用・普及委員会の3委員会が設けられ,総務省が 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 441 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ October 図2 International Open Data Dayの開催都市 実施したオープンデータの実証実験に基づく統一的 経済産業省では,2012年8月にI T融合フォーラム/ なデータフォーマットの検討やライセンスに関する 公共データワーキンググループが立ち上がり,省内 議論が行われた。筆者が所属する利活用・普及委員 で保有するデータをオープン化するために必要な技 会では,各種事例の共有のほか,国内の先進的な事 術的課題,ライセンス,ワークフローなどについて 例を独自に選定する「勝手表彰」などの新しい試み 幅広く議論が行われた。 がなされた。 総務省独自の取り組みとしては,情報通信白書の 的に集約し,検索・利用できるデータカタログ「Open オープン化を挙げることができる。白書には著作性 DATA METI(β版) 」が公開された(図3) 。このサイ のあるテキスト文書,事実情報である統計データな トに掲載されたデータ(統計データや白書,報告書 ど由来の異なる情報が多数含まれているが,第三者 など)にはクリエイティブ・コモンズライセンスが が著作権を有する情報を除いて原則的に2次利用を許 付与されており,自由に利用することが可能である。 可し,これを明示するためにクリエイティブ・コモ また,各種データの項目名を政府内で統一するこ ンズライセンスを付与している。 ・オープンデータ流通推進コンソーシアム とを目的として,共通語彙基盤と呼ばれる用語辞書 の開発を行っている。 http://www.opendata.gr.jp ・IT融合フォーラム公共データワーキンググループ ・情報通信白書 http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/ http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/ whitepaper/ 442 その成果として,経済産業省の持つデータを一元 shoujo/it_yugo_forum_data_wg/summary.html ・Open DATA METI 日本におけるオープンデータの進展と展望 図3 Open DATA METI http://datameti.go.jp では政府統計のポータルであるe - S t a tの機能を拡張 ・共通語彙基盤 し,A P I形式で情報を入手することができる次世代統 http://datameti.go.jp/data/dataset/ 計利用システムの提供や,国土地理院によって基盤 report-002-2012 内閣官房では,電子行政オープンデータ戦略に基 づき,実務者会議およびその傘下のデータワーキン 地図情報の再利用・再配布を認める柔軟な利用規約 が試作されるなど,オープンデータ化に向けた施策 が数多く見られる。 ググループ,ルール・普及ワーキンググループを開 ・次世代統計利用システム 催し,全省庁を対象としたオープンデータ化のロー http://statdb.nstac.go.jp ドマップの策定や,新たにデータを作る際に必要な ・基盤地図情報 知識をまとめたガイドラインの作成を行っている。 http://www.gsi.go.jp/kiban/index.html 現在は2013年度上半期中に予定されている日本政 府版データカタログの試行版公開を目標として,各 3. 地方自治体におけるオープンデータ 省庁が保有するデータの把握と登録作業が進められ ている。 ・電子行政オープンデータ実務者会議 (1)福井県鯖江市 地方自治体によるオープンデータの取り組みは, http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/densi/ 政府よりも早い時期から行われている。もっとも先 これらの活動のほか,独立行政法人統計センター 進的な取り組みを行っている福井県鯖江市は,2012 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 443 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ October 図4 データシティ鯖江 年1月に公開された市内のトイレ情報を皮切りに,避 (2)千葉県流山市 難所などの施設情報,観光・イベント情報や人口統 千葉県流山市では,市役所が30種類を超えるデー 計といった多様なデータを提供している(図4)。特 タを公開しているだけでなく,市議会側もオープン に「データシティ鯖江」のコンセプトに基づき,周 データの趣旨に賛同し,議会での審議結果を公開し 辺の企業やコミュニティーと密接に連携し,データ ている。 を活用したアプリケーションの開発やワークショッ ・流山市オープンデータトライアル プの開催を積極的に進めるなど,オープンデータを http://www.city.nagareyama.chiba.jp/10763/ 地域振興の重要な柱として位置づけている点が特徴 index.html 的である。現在では,静的な情報だけではなく,コミュ ・流山市議会オープンデータトライアル ニティバスのリアルタイム運行情報といった,海外 http://www.nagareyamagikai.jp/opendata/ でも例のないデータ提供が行われている。また,近 隣の自治体や県に対してノウハウを共有し,オープ ンデータの活性化に努めている。 (3)埼玉県南埼玉郡宮代町 埼玉県南埼玉郡宮代町では,W e bサイトで予算・ 決算の細目や調達情報の詳細を閲覧できるように ・データシティ鯖江 なっている。予算・決算情報については住民1人あた http://www.city.sabae.fukui.jp/pageview. りの税金支出を算出するなど,透明性の高い運営が html?id=11552 行われている。 ・宮代町Webサイト「電脳みやしろ」 444 日本におけるオープンデータの進展と展望 http://www.town.miyashiro.saitama.jp (4)神奈川県横浜市 な枠組みが注目を集めている。 (1)WHERE DOES MY MONEY GO? 中小規模の自治体では首長の意向によってオープ 「WHERE DOES MY MONEY GO?:税金はどこへ行っ ンデータが進められる傾向が強い一方で,大規模自 た?」 (図5)は,自治体がどのような分野に予算を 治体では外郭団体や地域のコミュニティーが先導す 投入しているかを可視化するために,市民が予算デー る例が多い。神奈川県横浜市では,2010年より横浜 タを収集・登録するプロジェクトとして英国で始まっ 市芸術文化振興財団が市内のアート関連情報のオー た。日本では2012年7月に横浜市版が立ち上がった後, プン化を行っている。この試みが一定の評価を得た 急速に他の自治体に広がり,現在では30サイトを超 ことが契機となり,市民の側からオープンデータを える。自治体ごとに予算項目が異なるために比較が 推進することを目的とした横浜オープンデータソ 難しいこと,また基になるデータが紙媒体でしか得 リューション発展委員会が発足し,啓発イベントや られないために手作業での入力を余儀なくされる自 行政機関への提言を行っている。また国内の自治体 治体が多いなど,オープンデータ自体の課題を浮き レベルでは初めてとなるデータカタログを公開して 彫りにしながらも,多くの市民に支持される活動に いる。 育っている。 ・ヨコハマ・アート・LOD ・WHERE DOES MY MONEY GO? http://fp.yafjp.org/yokohama_art_lod http://spending.jp ・横浜オープンデータソリューション発展委員会 https://www.facebook.com/yokohamaopendata (2)Wikipediaタウンをつくろう 行政にかかわるデータだけでなく,地域の観光情 ・横浜オープンデータポータル 報を市民が作る試みもある。前述の横浜オープン http://data.yokohamaopendata.jp データソリューション発展委員会では,International (5)その他 Open Data Dayの企画として,グループで名所旧跡を その他にも,千葉市・福岡市・奈良市・武雄市の4 探訪し,その後図書館などで詳細な情報を調べなが 市によるビッグデータ・オープンデータ活用推進協 ら見聞きした内容をウィキペディアに書き込むワー 議会の設立や,首都圏の九都県市首脳会議における クショップを開催した。 オープンデータ推進のための協議など,多くの活動 ・Wikipediaタウンをつくろう が同時多発的に行われている。 http://www.solabo.net/wikipedia0223/ ・ビッグデータ・オープンデータ活用推進協議会 https://www.facebook.com/bigdataopendata4city (3)LODチャレンジ オープンデータを活用したアプリケーション開発 ・九都県市首脳会議 を活性化させるために,コンテスト形式のイベン http://www.9tokenshi-syunoukaigi.jp トが多数行われている。中でも最大の規模を誇る 4. 市民の参加と協働 Linked Open Data(LOD)チャレンジは,アプリケー ションだけでなく,アイデアやデータセットそのも のを募集対象とすることで,参加のハードルを下げ 「1. はじめに」で述べたように,オープンデータは るとともに,データ作成の重要性を伝えている。第 単なる行政機関の情報公開ではなく,市民の参加と 1回(2011年度)は73件,第2回(2012年度)は205 協働を促すものでなければならない。その意味で, 件の応募があり,オープンデータに対する関心が急 市民が自らデータを作成・公開する役割を担うよう 速に高まっていることがわかる。L O Dチャレンジは 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 445 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 http://johokanri.jp/ October Journal of Information Processing and Management 図5 Where Does My Money Go? 横浜市版 2013年度も引き続き開催される。 ・LOD Challenge 2013 http://lod.sfc.keio.ac.jp (4)その他 ・リンクト・オープン・データ・イニシアティブ http://linkedopendata.jp 5. 課題と展望 他にも,地理空間情報を中心としたアーバンデー タチャレンジ東京や,ビッグデータ・オープンデー ここまで,日本の公共セクターのオープンデータ タ活用推進協議会のアイデアコンテストなど,大規 の潮流についてさまざまなレベルの取り組みを紹介 模なコンテストが複数行われる予定である。 してきた。先駆者たちの努力によって,ライセンス ・アーバンデータチャレンジ東京 の設定など,公開のための方法論に一定の方向性が http://aigid.jp/GIS/udct/2013/index.html 見えてきた。 市民のオープンデータ活動を支えるコミュニ その一方で,情報を表現するための共通フォーマッ ティーも整備されつつある。オープン・ナレッジ・ トがなく,現状では個々の機関が自由な形式でデー ファウンデーション・ジャパン(Open Knowledge タを公開しているに過ぎない。組織を超えた俯瞰的 Foundation Japan: OKFJ)は海外の最新動向の調査や な分析や相互比較を行うためにはデータの加工が必 イベントの開催を精力的に行っている。筆者が参加 要である。 するリンクト・オープン・データ・イニシアティブ このような課題に対して,Webの提案者であるTim (Linked Open Data Initiative: LOD)は主に技術面で B e r n e r s - L e eはオープンデータ公開のための5つのス の支援を目的として設立された。 446 テップを提示している(図6)。最初の段階ではオー ・オープン・ナレッジ・ファウンデーション・ジャパン プンライセンスに基づく公開がなされることが求め http://okfn.jp られており(1つ星) ,次にコンピューターによる利 日本におけるオープンデータの進展と展望 図6 5 star Open Data(出典:http://5stardata.info) 活用が容易な形式であること(2つ星),非独占的な もデータ提供者のみが解決する必要はなく,形式を フォーマットであること(3つ星)が求められる。 整えて分析を代行するといったビジネスやコミュニ さらには識別子としてU R Iを使用すること(4つ星), ティーが生まれ得るのもオープンデータの利点であ U R Iを用いて他のデータへリンクすること(5つ星) ると言える。 が満たされればデータ間の相互運用性が高まる。 今後,オープンデータに携わる機関はさらに増加 後 半 の4つ 星,5つ 星 を 達 成 す る た め に は セ マ ン するものと思われる。公開だけを目的とするのでは ティックW e bやL O Dの知識が必要であり,政府や なく,オープンガバメントの理想である行政機関と 地方自治体の担当者が実施するのは困難であるとの 市民との協働が達成されることを願ってやまない。 批判もある。しかしながら,これらの課題は必ずし Author Abstract "Open data" attracts attention as part of the information disclosure by governments and public institutions. Although the spread of the open data movement in Japan is behind as compared with the Western countries, quality and quantity of data are improved quickly by efforts of governmental agencies and citizens. In this paper, we introduce advanced case in Japan and discuss issues and future view of open data. Key words open data, open government, data catalog, license, citizen participation, competition 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 447 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 Journal of Information Processing and Management October http://johokanri.jp/ 日本版NIH創設に向けた新しい指標の 開発(1) 新しい指標に基づいた医薬品産業の現状俯瞰・ 将来予測 Development of new indicators for the launch of a Japanese version of the NIH (1) An overview and future prospects of pharmaceutical industry based on new indicators 長部 喜幸1,2 治部 眞里3,4,5 OSABE Yoshiyuki1, 2; JIBU Mari3, 4, 5 1 経済開発協力機構(2, rue Andre-Pascal, 75775, Paris, CEDEX 16, France) Tel: 33(0) 1 45 24 93 84 E-mail: yoshiyuki.osabe@ oecd.org 2 日本特許庁(〒100-8915 東京都千代田区霞が関3-4-3) Tel: 03-3581-1101 E-mail: [email protected] 3 経済開発協力機構(2, rue Andre-Pascal, 75775, Paris, CEDEX 16, France) Tel: 33(0) 1 45 24 93 54 E-mail: mari.jibu@oecd. org 4 独立行政法人科学技術振興機構(〒102-8666 東京都千代田区四番町5-3) Tel: 03-5214-8402 E-mail: [email protected] 5 同志社大学 技術・企業・国際競争力研究センター(〒602-8580 京都市上京区今出川烏丸東入寒梅館3階) TEL: 075-2513779 1 The Organisation for Economic Co-operation and Development (OECD) (2, rue Andre-Pascal, 75775, Paris, CEDEX 16, France) 2 Japan Patent Office (3-4-3 Kasumigaseki Chiyoda-ku, Tokyo 100-8915) 3 The Organisation for Economic Co-operation and Development (OECD) (2, rue Andre-Pascal, 75775, Paris, CEDEX 16, France) 4 Institute for Technology, Enterprise and Competitiveness, Japan Science and Technology Agency (JST) (5-3 Yonbancho Chiyoda-ku, Tokyo 102-8666 5 Doshisha University (Third Floor, Kambaikan Karasuma-Imadegawa Kamigyo-ku, Kyoto 602-8580) 原稿受理(2013-08-05) 情報管理 56(7), 448-458, doi: 10.1241/johokanri.56.448 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.448) 著者抄録 日本版 N I H や製薬企業における,政策決定・戦略立案に資するエビデンス提供のため,新しい指標に基づいた医薬品 産業の現状俯瞰・将来予測を試みた。第 1 回目は,製薬企業等が有する研究開発パイプラインに着目した。パイプラ インを研究開発段階ごとに整理し,すでに上市された医薬品数との比較などにより,各国の現在及び将来における研 究開発能力が把握できることを示した。その結果,研究開発における米国の優位性,日本の特異性などが浮き彫りとなっ た。 キーワード 日本版N I H,医薬品,パイプライン,指標,研究開発,低分子化合物,バイオ医薬品,バイオテクノロジー,客観的根 拠に基づく政策 448 日本版NIH創設に向けた新しい指標の開発(1) 1. はじめに 43.9 医薬品 21.1 化学(医薬品除く) 過去,化学合成に強みをもつ日米欧の大手製薬メー カーは,多くのブロックバスター(世界売上高10億 11.8 製造業平均 11.8 ドルを超える医薬品の通称)を産出し,売上高を伸 長させた経緯をもつ。代表的薬剤として,高脂血症 非鉄金属 11.7 鉄鋼 11.3 る研究開発に投入し,新たなるブロックバスターを 0.0 しかしながら,近年,研究開発費は増加の一途を 10.0 20.0 30.0 40.0 50.0 (百万円/人) 出典:経済産業省 平成21年工業統計調査 産業編を基に作成 図2 従業員1人あたり付加価値額(2009年) 図2 従業員1人あたり付加価値額(2009年) 開発することが,医薬品企業におけるビジネスモデ ルの成功例であった。 5.8 繊維 治療薬のリピトール,抗血小板薬のプラビックス, 糖尿病薬のアクトスなどがあり,その売上をさらな 12.7 自動車 はん用機械 にとどまっている1)。 こうした現状を打開すべく,国家の課題としての, たどり(図1) ,研究資金を投入しても投資に見合う 疾病克服のための研究を俯瞰する司令塔機能(いわ だけの新薬候補の創出は困難であり,大型新薬を狙っ ゆる「日本版N I H」 )の創設を含む「日本再興戦略」 たブロックバスターモデルはほころび始めている。 が2013年6月に閣議決定された2)。 急速な少子高齢化が進む日本が,長期にわたって 日本再興戦略によると,日本版N I Hの主な機能と 持続的な経済成長を実現するためには,知識集約型・ しては,「医療分野の研究開発に関する総合戦略の策 高付加価値経済への転換が必要である。医薬品産業 定」 , 「重点化すべき研究分野とその目標の決定」 , 「各 は,知識集約型・高付加価値産業の代表格であり(図 省に計上されている医療分野の研究開発関連予算の 2) ,本来日本が強みをもつべき分野である。しかし 一元化,予算の戦略的・重点的な配分」である。また, ながら,現状をみると,日本発の新薬創出は少なく, 一元的な研究管理の実務を担う独立行政法人を創設 大幅な輸入超過となっている(図3)。今後もこの傾 し,総合戦略に基づいた個別の研究テーマ選定,進 向は続き,例えば抗がん剤について,2000年以降日 捗管理,事後評価など,研究開発の基礎段階から実 本発のがん分子標的治療薬はなく,国内がん治療薬 市場は輸入品が急速に増加している(図4)。また, 2012年12月における再生医療製品の承認状況をみる と,米国9品目,韓国14品目に対して,日本は2品目 5,000 (億円) 1000.921269.97 1251.5 1326.341440.31 1626.2 1627.591444.63 0 2003年 2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 (億円) -5,000 -12407.47 -12979.02 -14191.11 -15648.27 -17083.94 -18594.38 -10,000 -21264.64 -23165.52 -11406.55 -11709.05 -15,000 -20,000 輸出額 輸入額 輸入超過 額 -12939.61 -14321.93 -15643.63 -16968.18 -19637.05 -21720.89 出典:日本製薬工業協会(製薬協) DATA BOOK 2012を基に作成 出典:日本製薬工業協会 DATA BOOK 2012を基に作成 図1 日本の製薬企業の研究開発費(1社平均) 図1 日本の製薬企業の研究開発費(1社平均) -25,000 出典:厚生労働省 薬事工業生産動態統計年報を基に作成 出典:厚生労働省 薬事工業生産動態統計年報を基に作成 図3 日本の医薬品の輸出入高の推移 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 449 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 [ 億円 ] 6000 [ 億円 ] 5000 http://johokanri.jp/ October Journal of Information Processing and Management 医薬品数 合計 4000 4000 3000 2000 2000 国産 1000 0 出典:日本製薬工業協会(製薬協) 出典:第1回医療イノベーション会議 製薬協提出資料 第1回医療イノベーション会議資料 0 [年 ] 図5 2008年度世界売上上位100品目の開発国 図5 2008年度世界売上上位100品目の開発国 出典:厚生労働省 薬事工業生産動態統計年報を基に作成 出典:厚生労働省 薬事工業生産動態統計年報を基に作成 図4 がん治療薬の国内売上高(国産/輸入品) 図4 がん治療薬の国内売上高(国産/輸入品) ことを目指す。 なお本稿は,著者の私見であり,著者が所属する 用化まで一気通貫した管理を行うこととされている。 日本版N I Hが実施する項目には,研究分野・研究 テーマの取捨選択が含まれており,適切な取捨選択 には,確固たるエビデンスに基づいた検討が必須と 機関の意見・見解を表明するものではない点にご留 意願いたい。 2. 創薬プロセスについて いえる。現在までに,各国の医薬品産業の現状につ いて,上記のように売上や研究開発費に基づいた分 析からさまざまな問題点があげられている。例えば, 究」からはじまり, 「非臨床試験」→「治験」→「申 OECDでは,研究開発費,貿易収支,当局が審査に要 請・承認」→「市販」というプロセスを経る(他社 する期間などの指標により各国の医薬品産業を俯瞰 技術を導入することで途中段階から開始されること した報告書が2008年9月に公表された3)。また,調査 もある) 。 「非臨床試験」とは,動物や培養細胞を用 会社による医薬品の売上上位品目の報告や注1),各製 いた有効性及び安全性等の試験であり,また, 「治験」 薬企業による自社製品情報の発表があり,これらを とは薬事法上の承認を得るために行われる臨床試験 収集することにより,医薬品売上の上位品目の開発 である。 国を調べた資料も公表されている(図5)。しかしな 「治験」は,フェーズ1(健常成人を対象とした,薬 がら,これらの指標からは,現在及び過去の研究開 物の安全性について確認するための試験) ,フェーズ2 発能力や産業競争力が把握できるものの,今後の動 (少数例の患者を対象とした,有効で安全な投薬量や投 向の把握は困難であった。 本稿では,論文・特許データ,医薬品候補データ, 450 医薬品開発は新規候補物質の探索などの「基礎研 薬方法などを確認するための試験) ,フェーズ3(多数 の患者を対象とした,有効性と安全性について既存薬 及び各種企業データなどを有機的に連結した,医薬 などとの比較を行うための試験)から構成される注2)。 品産業の将来予測を可能にする新しい指標の開発を 新たな医薬品の製造には,有効性や安全性等の確認の 目的とする。新しい指標により医薬品産業の将来図 ため複数の段階を経る必要があり,すべての段階を経 を俯瞰することで,日本版N I Hや製薬企業における, て薬事法で定められた製造販売承認までたどり着くた 政策決定・戦略立案に資するエビデンス提供を行う めには,数万個の候補物質から適切な物質を選択し, 日本版NIH創設に向けた新しい指標の開発(1) 2~3年 3~5年 基礎研究 非臨床試験 (動物試験) 3~7年 1~2年 治験 治験 治験 フェーズ 1 フェーズ 2 フェーズ 3 承認 申請 承認 市販 出典:日本製薬工業協会(製薬協)ホームページを基に作成 出典:製薬協ホームページを基に作成 図6 創薬プロセス 図6 創薬プロセス 十数年の年月が必要となる。また,開発段階が進むに 在注5),どの国の製薬企業・研究機関等が所有し,研 つれて莫大な費用が必要となる(図6) 。 究開発のどの段階に位置するかを収集・整理したも われわれは,製薬企業等が有する研究開発パイプ のである。 ライン(研究開発段階にある医薬品候補物質のこと。 概して,研究開発の次の段階に移行するにつれ数 以下, 「パイプライン」という)に着目し,分析を行っ が減少していることがわかる。これは各段階で開発 た。 中止となるものがあり,段階が進むにつれパイプラ 研究開発の途中で開発中止となるものがあるとは イン数が減少するためである。また,各国ともに「市 いえ,パイプラインは一定の確率で各段階を通過す 販」が最も多いのは, 「市販」は開発段階の最後であり, るため,各段階のパイプライン数を分析することに 1986年から2012年までに上市された医薬品の蓄積を より,各国または各製薬会社が有する将来の医薬品 示すためである。 の相対数を推定することができる。さらに,フェー なお, 「市販」以前の段階は,現時点でのスナップ ズ2・フェーズ3など開発の進んだ段階におけるパイ ショットであり,個々のパイプラインの移行を表す プライン数に着目すれば推定の確度はより高くなる ものではない点に留意する必要がある。さらに,図7 と考えられる。 のデータは,必ずしもその国由来の医薬品・パイプ なお,分析にあたっては,Evaluate社のデータベー ラインを反映するわけではない。例えば,日本の研 スEvaluatePharmaを用いた。EvaluatePharmaは,全 究機関で生み出された創薬シーズを米国の製薬企業 世界の製薬・バイオテクノロジー業界(約7,560社) が買い,現時点で「市販」またはパイプラインとし の研究開発パイプラインデータ(約45,000製品) ,ラ て有する場合,それは米国にカウントされる。 イセンシングデータ,M & Aデータ等が収録されてい るデータベースである。 3. 低分子化合物医薬品の分析 図7をみると,米国の「市販」数が圧倒的に多く, 日本が2位,次いで韓国,スイス,ドイツ,フランス, 英国などが続いており,これは先ほどの図5(2008 年度世界売上上位100品目の開発国)の結果と酷似し ている。図5においては英国が,図7においては日本 まずは,低分子化合物医薬品(以下, 「低分子医薬品」 という)について検討を行った。低分子医薬品とは, が世界第2位という結果になっている。また,図7に おいては韓国が他のヨーロッパ諸国と互角の「市販」 「血液脳関門注3)を含む細胞膜を容易に透過でき,経 数となっている。この違いは,図5が単年の売上で 口投与が可能であるほどに低分子量の医薬品」と本 あるのに対して,図7は1986年から2012年の「市販」 稿では定義する注4)。消炎鎮痛剤のアスピリンなどが 数の合計であること,及び図5が売上上位100品目の その代表例である。 合計であるのに対し,図7は低分子医薬品の「市販」 図7は,1986年から2012年までに開発された低分 子医薬品(または開発中の医薬品候補物質)が,現 数の合計であることに起因すると考えられる。 さらに,図5(2008年度世界売上上位100品目の開 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 451 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 パイプライン数 http://johokanri.jp/ October Journal of Information Processing and Management 5,000 4,500 4,000 3,500 3,000 2,500 2,000 1,500 1,000 500 0 フランス ドイツ 日本 韓国 スイス 英国 米国 非臨床試験 108 119 169 167 122 210 2089 フェーズ1 40 77 179 135 95 131 686 フェーズ2 55 79 220 74 123 166 929 フェーズ3 38 55 111 86 63 66 459 承認申請 11 14 65 27 39 21 271 承認 4 7 36 23 13 5 76 市販 713 882 2691 932 857 775 4493 出典:Evaluate社 EvaluatePharmaを基に作成 図7 各国の医薬品数・パイプライン数(低分子医薬品) 発国)は,2008年における医薬品産業の競争力を示 すのに対し,図7(各国の医薬品数・パイプライン数) が多い段階は「フェーズ2」である。 研究開発の途中で開発中断となるものがあるため, の「市販」数は,現在までに新薬をどの程度生み出 初期段階のパイプライン数が最も多く,開発段階が したかの指標,すなわち各国の新薬創出力を示すと 進むにつれてパイプライン数が減少することは,容 いえる。 易に想像できる。しかし,日本はこの傾向を示して 次に「市販」以外の点に着目してみる。 おらず,日本の示すパターンから以下の2つの可能性 図7の「市販」を除いた「非臨床試験」から「承認」 が推測できる。 までをみると,米国はどの段階においても他国に比 可能性1:日本は,以前は研究開発の初期段階に力 して圧倒的にパイプライン数が多い。パイプライン 点を置いていたが,現在は初期段階への投資を が豊富なことから,将来においても新薬を創出し続 減らしている注6)。 ける可能性が高い。一方,日本は現在までに,米国 可能性2:日本は他国由来のパイプラインを治験段 階から積極的に導入している。 には及ばないものの他の先進国をしのぐ数の新薬を 創出してきたところである。次に日本の将来性につ いて,より詳細に検討する。 図8は,図7のデータから米国のデータを除いたも のである。 452 両者いずれの可能性であれ,日本の医薬品産業の 将来は危うい。なぜなら,可能性1の場合,日本が現 在有する治験段階のパイプライン(の一部)が承認 されたのちは,日本発の新薬は期待できない。また, 図8をみると,日本は特徴的なパターンを示してい 図8において,「非臨床試験」では日本は英国の後塵 ることがわかる。すなわち,他国(図7の米国も参照) を拝し,韓国にも追い付かれていることから,米国 は,研究開発の初期段階である「非臨床試験」のパ に次ぐ第2位の地位は維持できなくなると予想され イプライン数が最も多く,開発段階が進むにつれて る。 パイプライン数が減少する,というパターンを示し また,可能性2の場合であっても,日本の製薬企業 ているのに対し,日本において最もパイプライン数 は,新薬開発の根源を他国の製薬企業・研究機関等 日本版NIH創設に向けた新しい指標の開発(1) 250 パイプライン数 200 150 100 50 0 フランス ドイツ 日本 韓国 スイス 英国 非臨床試験 108 119 169 167 122 210 フェーズ1 40 77 179 135 95 131 フェーズ2 55 79 220 74 123 166 フェーズ3 38 55 111 86 63 66 承認申請 11 14 65 27 39 21 承認 4 7 36 23 13 5 出典:日本製薬工業協会(製薬協)ホームページを基に作成 図8 日本, 韓国, 欧州諸国のパイプライン数(低分子医薬品) に依存していることになり,これでは製薬企業とい 分子医薬品に比して,分子量が大きくかつ複雑な構 うより, 「治験・市販代行業」や「医薬品候補物質輸 造を有するのが特徴である。また,従来の医薬品で 入業」のような業態といえるのではないか。他国も は満足できる治療効果の得られない疾患に対する創 同様にして外部のパイプラインを積極的に導入した 薬が期待でき,米国市場などをはじめ各国市場にお 場合,パイプラインの奪い合いとなり(自国の企業 いて,バイオ医薬品の売上比率は今後大きく拡大す に優先的に導入する研究機関もあるかもしれない) , ることが期待されている。 このビジネスモデルの長期的成立は困難である。し また,低分子医薬品は,製造が比較的簡単である たがって,危険回避のためにも日本国内で,初期段 ことから,途上国等の参入が容易であるのに対し, 階のパイプラインを生み続けることは必要である。 バイオ医薬品は構造が複雑なことや,製造にあたり また,上記検討から,日本版N I Hがサポートすべ 細胞大量培養技術や精製技術などのさまざまな技術・ き点がみえてくる。すなわち,将来枯渇する可能性 ノウハウが必要なために,途上国の参入障壁が比較 のある日本発のパイプライン(特に初期段階のパイ 的高い。他国との差別化を図るためにも,次世代医 プライン)を確保すること注7),及び日本発のパイプ 薬品たるバイオ医薬品の新薬開発は,先進国にとっ ラインを積極的に日本の製薬企業に導入することが, て重要な課題といえる。 日本版NIHが担う課題の1つといえる。 4. バイオ医薬品の分析 図9は,バイオ医薬品の医薬品数及びパイプライン 数を収集・整理したものである。 まず, 「市販」をみると,各国とも低分子医薬品に 比して「市販」数が少ないことがわかる。このこと 次に,バイオ医薬品について検討を行った。バイ からも,バイオ医薬品はこれからの分野であること オ医薬品とは,D N A組み換え技術,細胞大量培養法 がわかる。その中でも,低分子医薬品の場合と同様 などのバイオテクノロジーを用いることで製造され に,米国の「市販」数は他国を圧倒している。一方, る医薬品のことである。ワクチン,抗体医薬,遺伝 低分子医薬品の「市販」数では第2位であった日本は, 子治療,細胞治療などがバイオ医薬品に含まれ,低 バイオ医薬品では米国を除く他国と同程度の「市販」 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 453 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 http://johokanri.jp/ October Journal of Information Processing and Management 1,600 パイプライン数 1,400 1,200 1,000 800 600 400 200 0 フランス ドイツ 日本 韓国 スイス 英国 米国 非臨床試験 93 108 154 109 108 153 1521 フェーズ1 35 43 68 43 64 85 572 フェーズ2 73 74 94 37 73 113 537 フェーズ3 17 20 31 24 23 31 155 承認申請 5 1 15 2 5 7 25 承認 2 8 3 2 6 5 市販 115 145 109 98 82 318 50 出典:Evaluate社 EvaluatePharmaを基に作成 図9 各国の医薬品数・パイプライン数(バイオ医薬品) 数となっている。 また,米国はパイプラインの数も多く,将来にお 世代のバイオ医薬品開発も進んでおり, 「2010年代末 いても新薬を創出し続ける可能性が極めて高い。さ までに,世界の新薬の30 ~ 50%が,バイオ医薬品で らに,米国は他の段階に比べて「非臨床試験」の数 占められる」との予測がなされている4)。 が多いのが特徴的である。これは低分子医薬品の場 以上のことから,1980年代は各国ともバイオ医薬 合でも同様であった(図7)。膨大な研究開発費を背 品はほぼ皆無で,低分子医薬品の研究開発が大部分 景に研究開発の初期段階のパイプラインを大量に確 を占めていたといえる(漢方薬など,低分子医薬品 保していることが,米国の強みといえる。 にもバイオ医薬品にも属さないものがあるが,それ バイオ医薬品の検討の最後に,各国における低分 はごく一部であったと考えられる)。したがって,現 子医薬品からバイオ医薬品への推移を考えてみる。 在のバイオ医薬品と低分子医薬品の構成比をみれば, 前述したとおり,他国との差別化を図るためにも, 各国のバイオ医薬品への推移が推測できると考えら バイオ医薬品開発の重点化は,先進国にとって重要 れる。 な課題といえる。 454 品として, 「抗体医薬品」が登場した。現在は,第3 図10に,フェーズ2・フェーズ3の合計におけるバ バイオ医薬品は,バイオテクノロジーが発展してき イオ医薬品と低分子医薬品の構成比を各国別に示し た1980年代に実現が可能となった医薬品分野であり, た。図10をみると,日本及び韓国は低分子医薬品の 米国のEli Lilly and Companyが大腸菌や酵母に「ヒト 割合が高いのに対し,欧州諸国はバイオ医薬品の割 のInsulin(インスリン)遺伝子」を導入することでヒ 合が比較的高い。このことから,日本及び韓国は現 ト型のInsulinを大量生産することに成功し,1982年に 時点においても低分子医薬品に重点を置いているの 「世界初のバイオ医薬品」としてInsulin製剤の販売を に対し,欧州諸国での研究開発は,比較的バイオ医 注8) 。1990年代に入ると,Insulinと同様の手 開始した 薬品へシフトしているといえる。米国も,欧州諸国 法により,他のバイオ医薬品も次第に上市されていっ ほどではないが,バイオ医薬品へシフトする傾向が た。2000年を迎えるころには,第2世代のバイオ医薬 みられる。 日本版NIH創設に向けた新しい指標の開発(1) 図11は,日本と米国における研究開発の各段階の 100% 90% パイプライン数の割合を示したものである。今まで 80% 70% の分析から低分子医薬品・バイオ医薬品の両者にお 60% 50% バイオ医薬品 40% 低分子医薬品 30% 20% いて米国の優位性が確認されたことから,図11では 米国との比較を行った。 10% 0% 図11から,米国では,低分子医薬品及びバイオ医 薬品の両者において,実に全体の50%以上のパイプ 出典:Evaluate社 EvaluatePharmaを基に作成 図10 フェーズ2・3合計におけるバイオ医薬品と 低分子医薬品の構成比 5. 創薬プロセスにおけるボトルネックの 検討 ラインが「非臨床試験」に存在することがわかる。 一方,日本では,低分子医薬品については,研究開 発の初期段階にあるパイプラインの割合が全体の 25%と極端に低い注9)。また,バイオ医薬品について も,日本では全体の50%以下(具体的には44%)が 非臨床試験にあり米国との違いが表れている。 日本版N I Hには,総合戦略に基づいた個別の研究 次に,治験段階について分析する。図12は,低分 テーマ選定,進捗管理,事後評価など,研究開発の 子医薬品及びバイオ医薬品のパイプラインのうち, 基礎段階から実用化まで一気通貫した管理の実施が 治験段階を抜き出したものである。 期待される。この項では,われわれの有するデータ 図12をみると,各国ともフェーズ2のパイプライ を基に,創薬プロセスにおけるボトルネックの可視 ン数が最も多いことがわかる。次のフェーズに移行 化を図り,日本版NIHがサポートすべき研究開発段階 する際にパイプライン数が減少することを鑑みるに, を検討したい。 フェーズ2からフェーズ3への移行が最も停滞する段 まず表1に,P h R M A(米国研究製薬工業協会)会 員企業の2011年における開発段階ごとの研究開発 階であるといえる注10)。 フェーズ2は,少数例の患者を対象とするものの, 費を示す5)。研究開発費の観点では,「非臨床試験」 安全性に加えて(フェーズ1では対象外である)有効 (Prehuman/Preclinical)と「フェーズ3」 (Phase3)が, 性についての要件も満たす必要がある(「2. 創薬プロ 重要な研究開発段階といえる。そこで,われわれの セスについて」参照)。したがって,ヒトでの有効性 有するパイプラインのデータについて,これらの段 を確認する初めての段階がボトルネックになるもの 階に焦点を当てた分析を行った。 と推測される。 表1 PhRMA会員企業の開発段階ごとの研究開発費(2011年) 100% 開発段階 非臨床試験 フェーズ1 フェーズ 2 フェーズ 3 承認 フェーズ 4 その他 合計 R&D 金額 (百万ドル) 10,466.30 4,211.00 6,096.40 17,392.90 4,033.40 4,760.90 1,684.00 48,645.00 割合 (%) 21.50% 8.70% 12.50% 35.80% 8.30% 9.80% 35.00% 100.00% 出典:PhRMA Profile 2013 http://phrma.org/sites/default/files/pdf/PhRMA%20Profile%20 2013.pdf 90% 80% 70% 60% 非臨床試験 50% フェーズ1 40% フェーズ2 30% フェーズ3 20% 10% 0% 日本(低分子) 日本(バイオ) 米国(低分子) 米国(バイオ) 出典:Evaluate社のEvaluate Pharmaを基に作成 出典:Evaluate社 EvaluatePharmaを基に作成 図11 日本と米国におけるパイプラインの割合(研究開発段階別) 図11 日本と米国におけるパイプラインの割合 (研究開発段階別) 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 455 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 ポートに限らず,有効性の担保という面からのサポー 1600 フェーズ3 フェーズ2 http://johokanri.jp/ October Journal of Information Processing and Management フェーズ1 1400 トも必要といえる注11)。また,次世代医薬品であるバ 1200 イオ医薬品は,治験がさらに困難であると推測され 1000 る。 800 600 400 6. おわりに 200 0 フランス ドイツ 日本 韓国 スイス 英国 米国 各国の医薬品産業の現状俯瞰・将来予測のため, 出典:Evaluate社 EvaluatePharmaを基に作成 出典:Evaluate社のEvaluate Pharmaを基に作成 図12 治験段階のパイプライン数(低分子及びバイオ医薬品の合計) 各製薬企業が有するパイプラインに着目し,分析を 図12 治験段階のパイプライン数 (低分子及びバイオ医薬品の合計) 行った。その結果は以下のとおりである。 最後に,フェーズ2の全体数に対するフェーズ3の ・既存の医薬品数及びパイプライン数を用いるこ 全体数の割合を国別に示す(図13)。この割合 は, とで,各国の新薬創出力の現状把握及び将来予 フェーズ2から3への移行率を直接には示すものでは 測が可能である。 ない点に留意が必要であるが 注10) ,移行率を検討する 上で参考になり得る。 ・低分子医薬品及びバイオ医薬品について,米国 が現状優位であり,将来においても優位性を保 図13をみると,各国とも低分子医薬品に比べてバ つ。 イオ医薬品における比率が低いことがわかる。この ・低分子医薬品について,日本は現在までに,米 ことから,バイオ医薬品の治験は,低分子医薬品よ 国には及ばないものの他の先進国をしのぐ数の りハードルが高いと推測される。一方,バイオ医薬 新薬を創出した。しかし,将来,その地位を維 品においては, (韓国を除き)値に差が少ない。した 持できなくなると予想される。 がって,バイオ医薬品の治験の困難さは各国とも同 程度であると推測される。 ・低分子医薬品の「市販」数では第2位であった日 本は,バイオ医薬品では米国を除く他国と同程 以上のことから,創薬プロセスにおいて重要な点 度の「市販」数となっている。 は,研究開発の初期段階注6)における投資(パイプラ ・米国では,研究開発の初期段階に,全体の50% イン数の確保)及びフェーズ2からフェーズ3への移 以上のパイプラインが存在するのに対し,日本 行時のサポートであることがわかる。特に,フェー では初期段階にあるパイプラインの割合は低い。 ズ2からフェーズ3への移行においては,資金面のサ ・日本は低分子医薬品に重点を置いているのに対 し,欧州諸国での研究開発は,バイオ医薬品へ シフトしている。 1.4 低分子医薬品 バイオ医薬品 1.2 ・治験において,各国ともフェーズ2からフェーズ 1 3への移行が最も停滞する。 0.8 ・バイオ医薬品の治験は,低分子医薬品よりハー 0.6 0.4 ドルが高いと予想される。 0.2 次回(12月号予定)は,テクノロジー別にみた医 0 フランス ドイツ 日本 韓国 スイス 英国 米国 出典:Evaluate社のEvaluate Pharmaを基に作成 出典:Evaluate社 EvaluatePharmaを基に作成 図13 フェーズ2に対するフェーズ3の比 (フェーズ3のパイプライン数/フェーズ2のパイプライン数) 図13 フェーズ2に対するフェーズ3の比 (フェーズ3のパイプライン数/フェーズ2のパイプライン数) 456 薬品開発の現状と将来予測について報告する。 日本版NIH創設に向けた新しい指標の開発(1) 謝辞 における研究課題「未来産業創造に向かうイノベー なお,本研究の一部は独立行政法人科学技術振興 ション戦略の研究」(山口栄一:同志社大学大学院総 機構(J S T)戦略的創造研究推進事業(社会技術研究 合政策科学研究科教授 研究期間:平成23年度~平 開発) 「科学技術イノベーション政策のための科学」 成26年度)の支援を受けて行われたものである。 (プログラム総括:森田朗 学習院大学法学部教授) 本文の注 注1) 例えば,世界の大型医薬品売上高ランキング2010(CSDユートブレーン)などがあげられる。https:// www.mixonline.jp/Portals/0/Data/ex-press/share/1108/20110808.png 注2) この他にも,発売後の安全性や使用法のチェックを目的とした「製造販売後調査・試験(フェーズ4) 」 がある。 注3) 血液と脳との間の物質交換を制限する機構。グルコースなどの必須物質の取り込みを行う一方,異物 が血液から脳内に進入するのを排除する機能を有する。そのため,分子量の高い医薬品は血液脳関門 を通過しにくい傾向がある。 注4) 「低分子化合物」についての明確な定義はないが,分子量500以下程度の化合物を示すのが一般的であ る。経口吸収薬の指標としてよく知られているLipinskiのrule of 5でも分子量500以下は1つの閾値であ る。 注5) 本稿のデータは,2013年5月に抽出した。 注6) しかし,日本の製薬企業の研究開発費は増加の一途をたどっているため(図1),初期段階への投資を 減らしている可能性は少ないと考えられる。なお,図1の研究開発費には,研究開発の初期段階だけ でなく,治験などの費用も含まれている点に留意が必要である。 注7) なお,本稿での分析には,「非臨床試験」の前段階である基礎研究が含まれていない。次回以降の報 告において,上記パイプラインのデータと論文・特許データとのリンケージを図ることにより,基礎 研究段階をも加味した分析を試みる。 注8) なお,低分子医薬品における世界初の合成医薬品はアスピリンであり,1899年に販売が開始された。 注9) 日本は他国由来のパイプラインを治験段階から積極的に導入している可能性がある(本文「3. 低分子 化合物医薬品の分析」参照)。 注10) ただし,前述のとおり,本稿のパイプラインに関するデータは,現時点でのスナップショットであり, 個々のパイプラインの移行を表すものではないという前提がある点に留意されたい。 注11) 例えば,臨床試験拠点病院の整備,治験データ解析手法の向上,治験の成功率を上げるための研究開 発(疾患モデル動物の開発,ヒトiPS細胞を用いた被験細胞・被験臓器の開発,薬効予測モデルの開発) などがあげられる。 参考文献 1) 再生医療の実用化・産業化に関する研究会. “再生医療の実用化・産業化に関する報告書”. 経済産業省. 2013-02. http://www.meti.go.jp/press/2012/02/20130222004/20130222004-2.pdf, (accessed 2013-0725). 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 457 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 Journal of Information Processing and Management October http://johokanri.jp/ 2) “日本再興戦略”. 首相官邸. 2013-06-14. http://www.kantei.go.jp/jp/kakugikettei/2013/__icsFiles/afieldfi le/2013/06/20/20130614-04.pdf, (accessed 2013-07-25). 3) OECD. "OECD Health Policy Studies: Pharmaceutical Pricing Policies in a Global Market". OECD. 200809-24. http://www.oecd.org/fr/els/systemes-sante/pharmaceuticalpricingpoliciesinaglobalmarket.htm, (accessed 2013-07-25). 4) 西村尚子. “新たなるバイオ医薬品開発:最前線レポート”. Nature(日本語版) . 2011-06-30. http://www. natureasia.com/ja-jp/nature/ad-focus/detail/110630/1, (accessed 2013-07-25). 5) PhRMA. "PhRMA Profile 2013". PhRMA. http://phrma.org/sites/default/files/pdf/PhRMA%20Profile%20 2013.pdf, (accessed 2013-07-25). Author Abstract For the sake of providing evidences that contribute to policy making or strategy planning in a Japanese version of the NIH and pharmaceutical companies, we tried an overview and future prospects of pharmaceutical industry based on new indicators. We focused on the R&D pipelines of each pharmaceutical company. The results show that the R&D capacity of each country in the current stage and in future can be measured, by structuring the pipeline data in each R&D step, comparing the number of marketed pharmaceuticals and so on. Consequently, the competitive advantage of US and the idiosyncrasy of Japan have been thrown into sharp relief. Key words a Japanese version of the NIH, pharmaceuticals, pipeline, indicator, research and development, small molecules, bio-medicine, biotechnology, evidence based policy 458 研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門 研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門 第13回 外国法情報の世界 Series: Introduction to legal research for R&D and business Part 13: System of foreign legal information 岩隈 道洋1 IWAKUMA Michihiro1 1 杏林大学 総合政策学部(〒192-8508 東京都八王子市宮下町476) E-mail: [email protected] 1 Department of Policy Studies, Kyorin University (476 Miyashita-cho Hachioji-shi, Tokyo 192-8508) 情報管理 56(7), 459-467, doi: 10.1241/johokanri.56.459 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.459) 1. 外国法:「数字」と「英語」で共通化で きない世界 を持つ場合もある。リサーチを進めるうえで,日本 の情報と他国の情報とを共通基盤で調査し,リサー チの負荷を軽減することが難しい分野といえる。 1.1 外国法情報リサーチの難しさ 法律以外の分野においても,実務,学術,報道, あるいは趣味といったさまざまな関心事に応えるた 1.2 統治機構の知識 各国の法情報は,制度的にそれぞれの国の統治機構 め,外国の調査対象に関するリサーチを行うことは, の活動によって生成されるものであり,それら各国の統 決して珍しいことではない。特に,定量的なデータ 治機構は,それぞれ異なった形態を取っている注2)。例 を主に扱う自然科学や工学,経済などの分野におい えば法令1つを取ってみても,本連載の第1 ~ 3回1),2),3) ては,情報の生成や分析の方法がエビデンス注1)ベー でも述べたように,国のどの機関が制定した法令であ スで行われるため,世界中どこでも共通の知識に基 るかという事実は,その法令の効力の適用範囲や強さ づいたフォーマットで資料収集と分析とを進めるこ に直結している。そのため,調査対象国ごとに,調査を とが可能である。その成果の多くは,英語により発 したい法令にアクセスする前に,その法令がいかなる 信され,世界中の関係者が触れることが容易となる。 機関のいかなる手続きによって制定されているのかと しかし,法情報の分野は,国際法の分野を除き, このような国際的な共通基盤に立った情報流通が難 いう情報も併せて入手しておく必要がある。 例えば, 米国は連邦制(後述)を採用しているため, しい側面がある。それは,法制度が各国の統治機構 特許法は連邦議会が制定した米国全体で適用される によって,各国語によって書かれ,各国の歴史的, 法律が存在しているが,民法は連邦議会が制定した 文化的背景の中で適用されるからである。データは 米国全体で適用される法律が存在せず,各州の判例 法令や判例といった,各国語の文章で書き表された や法律を見ないと内容が分からない。 定性性の著しく際立ったものが中心となる。調査の 判例についても,裁判所の仕組みが日本と異なる 課題によっては,翻訳や記号化によって削ぎ落とさ 国が多く,各国の訴訟手続の特徴について概略を知っ れる文化的ノイズのような情報が,実は重要な意味 ておくことが,判例を調査する前の前提知識として 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 459 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ October 有用である。 いることは,外国法のリーガル・リサーチを進める うえで,特に留意しておかなければならないポイン 1.3 法文化の知識 トである。 法律用語は,各国の公用語によって記述されてい る。さらに,法制度を支える考え方も,各国の歴史的・ 1.4「予習」のすすめ:制度と文化の背景理解 経済的・文化的背景に全面的な影響を受けている(こ このようなことを述べてくると,外国法情報関連 のような法の背景のことを,以下では法文化と呼ぶ のリサーチは,ひどく難しく,手間のかかるものと ことにする)。したがって,ある国の法律で使用され 思われるであろう。実際,外国での訴訟や行政処分 ている用語が,他国法ではさらに細分化されていた に関わった場合,その国では外国人である日本人に り,逆にそもそも存在していなかったりという場合 とって,自分が置かれた法的状況を正確に知ること もあり得るのである。 すら困難となる。もはや時間的猶予もない場合,そ 例えば,日本の刑法では意図的に他人の生命を停 の国の弁護士をはじめとする法律専門家に,関連す 止させる行為はすべて「殺人」という1つの構成要件 るリーガル・リサーチと手続きの進行を依頼するし に入れる。しかし,多くの米国内の州法では,計画 かない。 的に殺した場合の「謀殺(murder)」と無計画で衝動 一方で,「報道された外国の法的動向についてもっ 的に殺した場合の「故殺(manslaughter)」の2つの と正確に知りたい」,「外国でも自社製品の特許権を 構成要件に分けている。また,同じく米国では,か 取得したい」,「国際結婚するためにどんな手続きが つてフランスの植民地であったルイジアナ州を除い 必要か」といった個別の法的関心に応えるために, たすべての州において,民法典が議会の制定した法 日本語や英語などで専門家,あるいは非専門家向け 律としては存在しておらず,契約や不法行為に関す に書かれた書籍もかなりの数刊行されており,ある る実体法は主に各州の判例法によって形成されてい 程度の調査は自力で可能な場合もあろう。しかし, る。 上述したように,各国の法制度は,それぞれの国の つまり, 「米国の殺人罪は日本より刑罰が重いか?」 言語で記述された,統治機構と法文化の組み合わさっ 「米国の民法典を見たいんだけど」という質問には, た巨大なシステムである。個別の法的問題は,その そのままでは調査も回答も不可能ということにな システムの文脈の中に位置付けることで,より正確 る。このような場合は特に,英語から日本語に,ま に理解できる。 たはその国の公用語から英語に翻訳された法情報に, 以下,本稿では,わが国と関係が深いが,わが国 安易に頼ることが制度に対する誤解を生む場合もあ と際立って異なるいくつかの代表的な統治機構と法 る。 文化の特徴を紹介する。個別の外国や国家連合の法 さらに,近代以降の法制度は,各国が互いに他国 との外交を繰り広げる中で,他国の法制度の考え方 と自国の法文化をそれぞれのやり方で混成してきた 国も多く,このような国の場合,併せて影響を強く 情報調査の対象と方法については,あと2回の連載で 取り扱う。 2. 統治機構 受けた他国の法制度に関する知識も必要とされる場 合が出てくる。 このように,各国で法的な問題を記述し,表現す る言葉や理解の枠組み(法文化)が互いに異なって 460 2.1 連邦制 日本は,東京の中央政府(国会・内閣・最高裁判所) が国家全体の統治権と対外的な代表権(主権)を有す 研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門 る単一国家という形態の国家体制を採用している注3)。 これに対し,米国は,Washington D.C.にある連邦政府 対して強制力を持ちうる第二次法源に分類される。 第一次法源は,E Uにおいて連合の組織体を記述し, (連邦議会・合衆国大統領・連邦最高裁判所)が国家 また法の効力の段階を決定する。国内法になぞらえ を対外的に代表する権限を中心として,合衆国憲法に て言えば,憲法に近い機能を持つ。実務的には,E U 定められた軍事・外交・貿易などいくつかの権限(こ の諸機関による立法や決定に不服のある当事者が, の中には,知的財産に関する立法権や司法権を含む) EUを訴追する場合などに参照される。 だけを有しており, 他の国家統治権は州に属している。 第二次法源は,条約によって設立された立法機関 このように,複数の国家が合体して,共通処理した方 である欧州議会・欧州理事会・欧州委員会によって がよい,限られた権限だけを憲法によって連邦政府に 制定される法である。制定手続は,制定する法の対 移譲し,残りの権限については州(支邦)が国家とし 象とする政策分野に応じて複数存在するが,最も標 て活動する形態の国家を連邦国家と呼ぶ注4)。 準的な制定過程は,欧州委員会(E Uの行政官僚組織) 連邦国家においては,国レベルの法律でも,憲法 が提案した法案を,欧州議会と欧州理事会(加盟国 で連邦に委ねられた範囲については連邦議会が立法 の閣僚会議)がそれぞれ審議し,共同で採択した場 し,連邦裁判所が裁判を行う。連邦に移譲された権 合に成立する注8)。成立した法令は,規則・指令・決 限を除いた大部分の権限に関する法律は州の議会が 定の3種類に分類される。 制定し,州法は州の裁判所において適用され,判例 規則(Regulation)とは,上記の手続きにより制定 法もまた州の裁判所によって形成される。このよう された法のうち,E U加盟国の国民に対して,一般的 に,法の制定(議会)と適用(裁判所)が行われる に権利義務関係や法的地位の変動などの直接的な拘 空 間 が, 複 数 並 立 す る。 こ の よ う な 空 間 を「 法 域 束力を及ぼす力を持つものを指す。国内の法律と同 (jurisdiction) 」と呼ぶ注5)。象徴的に言えば,米国に じように,E U市民に対して直接的効力を持つ点が特 は法域の数だけ,すなわち51(50州+連邦)の最高 裁判所が存在することになる。 徴となる。 指令(D i r e c t i v e)とは,上記の手続きにより制定 された法のうち,E Uの加盟国政府を拘束する力を持 2.2 国家連合 つものを指す。E Uが示す政策目標と実施期限が定め 欧州連合(E U)のように,条約によって加盟国の られ, その達成のための手段(国内立法措置など)は, 主権を一定範囲で地域的国際機構に移譲するが,対 加盟国の憲法に基づき,加盟国の議会や政府に委ね 外的な主権は各国が留保し,機構は国家とならない られる。 連合体が存在する 注6) 。このような連邦より緩やかな 決定(Decision)とは,上記の手続きにより制定さ 連合体を広く国家連合と呼ぶ。国家連合の中には, れた法のうち,特定の名宛人(加盟国または個人も いわゆる国際法とも,また加盟国の国内法とも異な しくは法人)に対し,直接的な拘束力を及ぼす力を る,独自の立法・司法システムを保持しているもの 持つもので,国内法と比較すると,法令というより もある。日本との関連性に鑑みると,そのような国 は行政処分に近いものである。 家連合の法として最も重要なものはやはりE U法 注7) であろう。 E U法は,加盟国がE U(および関連諸機関)を設立 する条約である第一次法源と,それら条約によって 設立された機関が制定し,加盟国民または加盟国に この他に, 同様の手続きで勧告(Recommendation) または意見(O p i n i o n)が発せられる場合があるが, 原則として,これらには法的拘束力がない。 これらE U法の適用と解釈をめぐる紛争において, その結論を統一的に運用するため,欧州司法裁判所 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 461 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ October (Court of Justice of the European Union)が設置され, とも問題となる。この問題については,一部の国同 紛争解決に当たっている。したがって,E U法が関わ 士では条約によって国際的な裁判管轄のルールを決 る法分野については,加盟各国の判例と,欧州司法 めている場合もあるが,日本はそういった条約を締 裁判所の判例を併せて調査しなければならない場合 結しておらず,民事訴訟法に国際裁判管轄に関する もある注9)。 ルールを定めている。例えば,同法第三条の三第一 項第十二号によると,「相続開始の時における被相続 2.3 国際機構 人の住所が日本国内にあるとき」には日本の裁判所 外国の法制度とは言えないが,国際連合や国際司 に訴えを提起することができるという規定となって 法裁判所,世界貿易機関(W T O)のように,条約に いる。上記の事例に当てはめてみると,このフラン よって設立された国際機構の中には,独自の立法形 ス人(被相続人)が,死亡時に日本国内に住所があっ 式や紛争解決システムを持っているものも少なくな た場合,相続人は日本の裁判所に相続に関する訴え 注10) 。リサーチの対象によっては,これら国際機構 を提起することができる。しかし,準拠法はフラン い の法的枠組の調査が必要となる場合もあろう。 ス法となる。 このように,外国の裁判制度の中において,日本 2.4 牴触法と準拠法 法が適用され,あるいは日本の裁判所で外国法が適 刑事法や行政法といった公法的な分野においては, 用される場合があることに留意しておきたい。 たとえ事件が国境を越えて発生したとしても,その ビジネス法務で,外国企業と契約するような場合 法執行が直接的な国家権力の行使となるため,関係 には,上記のような牴触法と国際裁判管轄のルール 国同士で特別の国際法的な取り決めがない限りは, の煩わしさを回避するために,あらかじめ契約条項 自国の国境外において取締を行うことができない。 の中に,準拠法と合意管轄裁判所を明記しておくこ 一方,取引や損害賠償,家族関係の問題の処理のた とが一般的である。契約に示された当事者の合意に めに民事法的な分野が用いられる場合,外国におい よる準拠法と管轄裁判所の選択があれば,原則とし て日本法が,あるいは日本において外国法が,それ てその合意が各国の牴触法や裁判管轄の規定に優先 ぞれ適用できる場合がある。このように,国境を越 して適用される(法の適用に関する通則法第七条, えて発生した事件に対して適用するべき国の法律を 民事訴訟法第三条の七第一項) 。 ていしょく 決定するためのルールを牴触法(C o n f l i c t o f L a w s) または国際私法(Private International Law)と呼ぶ。 3. 法文化注13) 日本では,「法の適用に関する通則法」という法律に おいて,この牴触法のルールが規定されている注11)。 3.1 大陸法文化圏 例えば,フランス人が死亡した場合,同法第三十六 日本は明治時代にフランスやドイツの法制度を導入 条には, 「相続は,被相続人の本国法による」と定め し,法制度の近代化を図った注14)。これらの国は,社 られており,相続に関してはフランス法が適用され 会で発生しうる紛争を予測し,その解決のためにあら ることになる。牴触法によりここで選択されたフラ かじめ用意された法規範を,法令の条文(制定法)の ンス法を, この事件の準拠法 (Applicable Law) と呼ぶ。 形に書き表し,これらの条文こそが国法の中心である, という考え方の下に法制度が運用されている。 古代ロー 2.5 国際裁判管轄 また,裁判をどこの国の裁判所で行うかというこ 462 マの市民法大全(Corpus Iuris Civilis)に由来注15)する, この法文化が主流となっている国々を指して,大陸法 研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門 文化圏(Civil Law Tradition)と呼ぶ注16)。この法文化 そのため,英米法文化圏においては, の下では,判例は制定法の有力な解釈の一例(実際の 判例 → 法令(関係のものがあれば)・学説 → 紛争解決力を持つことから「有権解釈」とも呼ばれる) として取り扱われる。 結論 という思考の流れを念頭に置いておかないと,や 結果として,大陸法文化圏においては,あらゆる はり資料の収集に困難を極め,さらには本件に適用 紛争を「想定済み」にするために,民法や刑法を中 されたはずの法の姿を正確につかむことができない。 心とする実体法が精緻かつ抽象的に構築されるよう になり,大学で六法を片手に条文解釈を訓練された 裁判官を中心とする学識者的法曹が法の担い手と なった。 そのため,大陸法文化圏においては,法的文書の 起案や,法情報の調査の際には,実際に読む順番は さておき, 法令(制定法) → 判例・学説 → 結論 という思考の流れを念頭に置いておかないと,資 3.3大陸法と英米法の差異と融合 先に3章の1節と2節において述べた法律概念や用語 のズレは,両法文化圏をまたいで法令や判例の調査 を行うと顕著に表れるが,その理由も, ・大陸法文化圏 = 実体法中心・学問的に体系化, 抽象化された法令を重視 ・英米法文化圏 = 手続法中心・具体的事件から 抽出された判例法を重視 料の収集に苦労する上,論理的に整合性のある調査 という法文化史的背景に起因する。 結果をまとめることができない。 一方で,現代においては,それぞれの法文化圏相 互間の経済取引も盛んに行われており,また人や物 3.2 英米法文化圏 一方,イギリスと,米国やカナダ・オーストラリ アに代表される,かつてその植民地であった地域で は,イギリス流の,過去に自分の祖先たちが積み重 の移動スピードの加速やインターネットの登場など の技術革新による社会の変化に,どの国も法的な対 応を迫られていることは言うまでもない。 そこで,大陸法文化圏では議会の立法では即応で ねてきた法的慣習や,判例の集積(C o m m o n L a w) きないと考えられる場面において,従来よりも判例 こそが国法の中心である,という考え方の下に法 による法創造の意義を重視する傾向が出てきており, 制度が運用されている。この法文化が主流となっ 英米法文化圏においても古来の判例集積では対応が ている国を指して,英米法文化圏(C o m m o n L a w できない社会の変化に対応するために制定法が数多 Tradition)と呼ぶ注17)。この法文化の下では,古来の く制定されるようになっている。また, 日本法は現在, 判例集積=判例法が答えを出しきれない分野や,議 特に憲法・訴訟法および会社法の分野について米国 会で判例法を積極的に変更するという議決を経た場 法の影響を受けており,英米法と大陸法のハイブリッ 合に限り,法律が制定される。 ドだと言われることもある注18)。 英米法文化圏では,具体的な事案を判例法へと公 このように,両法文化圏は実質的・機能的には大 正かつ着実に落とし込んでゆくために,民事訴訟法 きく歩み寄っているということができるが,法情報 や刑事訴訟法を中心とする手続法が整備され,裁判 を調査する際には,依然として大陸法文化圏におい における当事者の主張をぶつけ合う弁論や証拠調べ ては法令集が,英米法文化圏においては判例集が, の仕組みが整えられ,裁判の現場に近いところで養 それぞれ法的議論を構築するうえでの出発点になっ 成される弁護士を中心とする職業弁論家的法曹が法 ていることに留意しなければならない。 の担い手となった。 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 463 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ October 3.4 その他の法文化 高額な商用法律D Bへのアクセスを要する場合もあ 大陸法と英米法は,共にヨーロッパ起源の法文化 る。また,電子化の進んでいない国や地域の法情報 であるが,近代化の過程の中で「法の継受」が大規 のアクセスにおいては,依然として紙媒体の法情報 模に行われ,わが国を始め,非欧米圏の国々の法制 の入手が必要な場合もある。 度にも多大な影響を与えている。一方で,紙幅も限 そこで,網羅的に各国の法情報の所在や提供形態 られているため詳述はできないが,地球上にはその が一覧できるハンドブック的な資料あるいはポータ 他にも社会主義(権威主義)法文化圏(単独の政党・ ルサイトがあると便利であろう。ここでは,読者の 政治家による法政策の指導に特徴)注19)・イスラーム 便宜を考え,そのような資料およびW e bサイトをい 法文化圏(宗教規範とその学説が法源となる点に特 くつかお示しする。 徴)注20)などの大きな法文化圏が存在する。また,家 族法や土地法など,一部の分野において,地域的な <外国法のリーガル・リサーチの手引き> 文化に根差した慣習法・固有法が法的効力を認めら ・The Bluebook - A Uniform System of Citations Harvard れている国も少なくない。調査対象となる法現象や 実務の相手方によっては,これらの法文化圏の法情 報が必要となる場合もあろう注21)。 4. 外国法リーガル・リサーチの情報源 Law Review Association https://www.legalbluebook.com/ ハーバード・ロースクールにおいて紀要を編集す る際の法令・判例用語や法資料の引用ルールを定め た,論文執筆用のルールブック(英文)である。米 国の法律関連文献はもちろん,巻末にかなり簡潔で 外国法情報の調査において,調査対象となる法令・ はあるが網羅的な,世界各国の法令の仕組みや法資 判例・学説に触れる前に押さえておいた方がよい 料とその引用記号についての解説が掲載されており, 統治機構および法文化についてここまで説明してき リサーチ用のハンドブックとしても活用できる。上 た。しかし,これらについての認識は,より正確な 記W e bサイトからオンライン版および紙媒体の購入 リサーチを行うための一種の基礎体力あるいは教養 が可能である(有料:US $26 ~ 50) 。 とでもいうべきものであって,現場におけるリサー チに今すぐ役に立つ知識とは言えないかもしれな い。そこで,最後に,これらの知識を実際のリサー 日本評論社(2004) チに役立てるための橋渡しとなる情報源を紹介して インターネットを利用して,各国(英・米・加・仏・ おきたい。 各国の法情報へのアクセス状況は,国によりだい 独・E U・スウェーデン・ポーランド・露・中・韓・ 台湾・北朝鮮・タイ・豪・ブラジル・アフリカ諸国) ぶ異なる。本稿で重点的に取り上げた欧米諸国にお の法情報を収集しようとする際に役立つ手引き書。 いては,すでに政府または民間企業・N P O等による インターネットによって無料でアクセスできる情報 法情報のデータベース(D B)化が進んでおり,実務 源を中心に紹介されている。また付録のC D - R O Mに および研究の面において,日本の法情報に比べると リンク集もあり,これ一冊で初学者でもインターネッ 電子的方法でのリーガル・リサーチが遥かに容易で ト・リーガル・リサーチをすぐに始められる。また, あるといえよう。 各国法のリサーチに関するトピックや,一般的なリー しかし,国によっては電子化された法情報に偏り が見られ,充実した法情報を入手しようと思っても 464 ・指宿信・米丸恒治編『インターネット法情報ガイド』 ガル・リサーチの解説もあり,ハンドブックとしても, 読み物としても活用できる。 研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門 ・小林成光ほか『やさしい法律情報の調べ方・引用 の仕方』文眞堂(2010) の評価』丸善(2003) ・田島裕『外国法概論』信山社出版(2012) 大学院生向けに日本法およびアメリカ・イギリス・ 前者は米国法やヨーロッパ各国法を対象とする商 ドイツ法の情報についての基礎知識と情報源を提供 用D Bを中心に,電子的に法情報を検索し,読解する している。対象国の網羅性は低いが,これらの国法 方法の解説書。後者は前者などを利用して収集した の調査のためのマニュアルとしてはコンパクトにま 法情報をどのように実務や研究に活用するかを紙上 とまっている。 で追体験できる演習書。 ・北村一郎編『アクセスガイド外国法』東京大学出 ・鮎京正訓編『アジア法ガイドブック』名古屋大学 版会(2004) 出版会(2009) 研究者向けの13にわたる国・地域(英・米・仏・独・ アジア諸国の法に特化した法情報ハンドブック。 E U・露・中・韓・東南アジア・イスラム諸国・豪・ 採り上げた国・地域によって記述の濃淡があるが, イベロアメリカ諸国)を網羅した外国法情報調査の 該当地域(特に中国・韓国・インド)の法情報を調 ハンドブック。東京大学にある外国法文献センター 査するための準備としては備えておきたい。 (後述)のプロジェクトによる出版物で,紙媒体の資 料からインターネット,商用D Bの法情報まで,最先 端の研究者が駆使する情報源が紹介されている。ま た,調査対象となる国・地域の統治機構や法文化に ・五十嵐清『比較法ハンドブック』勁草書房(2010) 法文化の分類の基準となる比較法学についてバラ ンスのとれた基本的な情報を提供するテキスト。 ついての解説もまとめられており,外国法のリサー チを行う際,網羅的に情報源を知りたいときに威力 <総合的な外国法情報ポータル> を発揮する。 ・Members of the Free Access to Law Movement (FALM)http://www.falm.info/ ・板寺一太郎『外国法文献の調べ方』信山社出版 (2002) ・板寺一太郎『法学文献の調べ方』東京大学出版会 (1978) ・田中英夫ほか『外国法の調べ方』東京大学出版会 (1974) インターネットユーザーならば誰もが無料で,各 国の法情報をオンライン上においてアクセスできる 機会を提供しようとするLegal Information Institute (LII)プロジェクト注22)に賛同した政府または団体に よる,法情報提供W e bサイトへのリンク集。参加主 体によって提供される法情報には違いがある(法令・ 上記『アクセスガイド外国法』と同じく東京大学 判例のみならず,法学文献も提供している場合もあ の外国法文献センター関係者による,外国法情報の る)が,現在のところ,48の国・地域・団体が情報 調査のためのハンドブック群。若干古くなった情報 を提供している。 もあるが,日本法の母法国である英米独仏を中心と する過去の法資料(特に法令集・判例集・法律雑誌・ ・東京大学法学部研究室図書室外国法令判例資料室 法律書誌(文献リスト))についての情報は現在でも (旧外国法文献センター) 有益である。 http://www.j.u-tokyo.ac.jp/lib/gaise/how-to.html 『アクセスガイド外国法』などを生み出してきたわ ・田島裕『法律情報のデータベース:文献検索とそ が国有数の外国法専門図書室。標記のW e bサイトに 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 465 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ October 調査対象国の統治機構や法文化的背景が個別に理解 詳細な外国法情報源へのリンク集がある。 できることが望ましい。1つの方法は, 「英米法」 「EU法」 ・京都大学大学院法学研究科附属国際法政文献資料 「ドイツ法」…といった,各国法の入門書(日本語で センター http://ilpdc.law.kyoto-u.ac.jp/index.html 京都大学の国際法・外国法専門図書室。やはり有 用なリンク集を持つ。 書かれたものでもよい)を一読しておくことである。 また,外国語でのリサーチが要求されるため,教 科書に加え,調査対象国の法律用語の専門辞典があ ることが望ましい。特にわが国と経済的関係の深い 英米法文化圏では,一般的な英語と法律用語との間 ・国立国会図書館「リサーチ・ナビ・政治・法律・行政」 http://rnavi.ndl.go.jp/politics/ 「国・地域別資料のご紹介」において,議会を中心 に大きな意味のずれが見られることが多いため,英 米法辞典注23)の活用が必須である。 次号以降の各国別リーガル・リサーチにおいて, とする立法関連資料の解説とリンク(一部の資料) それらのテキストや辞典についても紹介される予定 が提供されている。 である。英米法については次回,大陸法とE U法につ 5. 終わりに:次のステップ いては次々回の本連載で,実際の法情報に対するア プローチ方法を紹介する。 外国法情報の実践的な調査を始めるに当たって, 本文の注 注1) 科学的結論の客観的根拠となる定量的なデータおよびその検証結果のことを指す。自然科学や医学・ 工学・心理学・経済学など,定量的データの分析を方法の中心に置く実証科学の分野では特に重視さ れる。法学の分野で用いられる,事件に関係したと疑われる物体から証言・状況まで含む訴訟法・証 拠法上の証拠(evidence)とは,事案によっては重なる部分もあるとはいえ, だいぶ異なる概念である。 注2) 君塚正臣編著『比較憲法』ミネルヴァ書房(2012)などを参照されたい。 注3) 他にフランス・イタリア・スペイン・トルコ・中国・韓国・タイ・インドネシアなどが挙げられる。 注4) 権限配分の内容や,支邦の権限の強さなど,国ごとに違いがあるものの,他にドイツ・スイス・ロシア・ アラブ首長国連邦・インド・マレーシア・オーストラリア・カナダ・メキシコなどが挙げられる。 注5) イギリスは,長らく連邦国家として扱われてきたが,近年の政治制度改革の結果,現在では政治学的 には単一国家と見なされている。ただし,スコットランドなどの支邦(countries)は,歴史的経緯か ら,中央政府のあるイングランドと異なる法制度と法文化を持つため,法域は3つ(イングランド及 びウェールズ・スコットランド・北部アイルランド)に分割されている。 注6) 他に旧ソ連邦構成国の一部から形成された独立国家共同体(CIS)などが挙げられる。 注7) E U加盟国の間では,E U以外のヨーロッパ内国際機構に関連する条約等も併せて,「ヨーロッパ法」と 呼ぶことも多い。 注8) 委員会ではなく,理事会が提案する法案も多い。 注9) 庄司克宏『新EU法 基礎編』岩波書店(2013) , 中西優美子『EU法』新世社(2012)などを参照されたい。 注10) 藤田久一『国連法』東京大学出版会(1998),小田滋『国際司法裁判所』日本評論社(2001),滝川敏 466 研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門 明『WTO法(第2版)』三省堂(2010)などを参照されたい。 注11) 松岡博『国際関係私法入門(第3版)』有斐閣(2012) ,沢木敬郎,道垣内正人『国際私法入門(第7版) 』 有斐閣(2012)などを参照されたい。 注12) 本間靖規,中野俊一郎,酒井一『国際民事手続法(第2版)』有斐閣(2012)などを参照されたい。 注13) 大木雅夫『比較法講義』東京大学出版会(1992) , 滝澤正『比較法』三省堂(2009)なども参照されたい。 注14) 岩村等『入門日本近代法制史』ナカニシヤ出版(2008)などを参照されたい。 注15) 木庭顕『ローマ法案内-現代の法律家のために』羽鳥書店(2010),河上正二『歴史の中の民法-ローマ 法との対話』日本評論社(2001)などを参照されたい。 注16) 村上淳一ほか『ドイツ法入門(改訂第8版) 』有斐閣(2012) , 滝沢正『フランス法(第4版) 』三省堂(2010) , 日本スペイン法研究会ほか編『現代スペイン法入門』嵯峨野書院(2010) ,高翔龍『韓国法(第2版) 』 信山社出版(2013)などを参照されたい。 注17) 伊藤正己・木下毅『アメリカ法入門(第5版) 』日本評論社(2012) ,樋口範雄『はじめてのアメリカ法』 有斐閣(2010),田中和夫『英米法概説』有斐閣(1981) ,田中英夫.『英米法総論』上・下 東京大学 出版会(1980)などを参照されたい。 注18) 木下毅『比較法文化論』有斐閣(1999)を参照されたい。 注19) 木間正道ほか『現代中国法入門(第6版)』有斐閣(2012),小森田秋夫『現代ロシア法』東京大学出 版会(2003)などを参照されたい。 注20) 眞田芳憲『イスラーム法の精神』中央大学出版部(2000),堀井聡江『イスラーム法通史』山川出版 社(2004)などを参照されたい。 注21) 千葉正士『アジア法の多元的構造』成文堂(1998),安田信行『東南アジア法』日本評論社(2000) などを参照されたい。 注22) オーストラリアL I I等の沿革や活動については,指宿信『法情報学の世界』第一法規(2010)を参照さ れたい。 注23) 差し当たり,手に取りやすいものとしては,田中英夫[編集代表]『BASIC英米法辞典』東京大学出版会 (1993)や,飛田茂雄『英米法律情報辞典』研究社(2002)がある。より高度な辞書が必要な場合, 田中英夫[編集代表]『英米法辞典』東京大学出版会(1992),小山貞夫[編著]『英米法律語辞典』研究 社(2011),“Black's Law Dictionary” West Publishing(2010) , “Burtons Legal Thesaurus” McGraw-Hill (2013)などを参照するとよいだろう。 参考文献 1) 岩隈道洋. 研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門 第1回 法情報の世界. 情報管理. 2012, v o l . 55, no. 7, p. 511-515. 2) 吉田利宏. 研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門 第2回 法体系. 情報管理. 2012, vol. 55, no. 8, p. 591-595. 3) 田村英彰. 研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門 第3回 法令の条文. 情報管理. 2012, v o l . 55, no. 9, p. 670-674. 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 467 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ October 知 財はグルメ? 世界知的所有権機関 日本事務所 夏 目 健 一 郎 情報管理 56(7), 468-472, doi: 10.1241/johokanri.56.468 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.468) ご当地モノと知財の出会い クールジャパン,地域ブランドにご当地キャラと 食のブランドを守る知的財産 ブランドを守るための知財といえば,商標を思 ご当地モノが元気だ。食べ物に関しても,松阪牛, い浮かべるのではないだろうか。商標は通常,企 静岡茶,草加せんべいといった伝統的なご当地モノ 業や個人など特定の権利者が権利を持つ。例えば, を始め,福島県双葉郡浪江町の「なみえ焼きそば」 「PlayStation」はソニー・コンピュータエンタテイン のように比較的新しいものもある。日本国外でもシャ メントが独占的に使いたいであろうし,「C H A N E L」 ンパン,ワインのボルドー,パルマハムなど地名を だって他社に使わせたくはないであろう。ところが, 冠した有名な食材は多い。今回はご当地グルメと知 ご当地グルメの場合,1社だけが作るのではなく,む 的財産の関係についてである。 しろ何社,何人もの生産者がいる,ということのほ うが多い。そこで出てくるのが,地理的表示や地域 なぜご当地モノを買うの? 団体商標などの仕組みである。 スーパーに行っても,普通のステーキ用の牛肉よ 地理的表示(Geographical Indications: GI) ,頭文 り,神戸牛の方が高い。これは「いやぁ,この霜降 字を取ってGIと略されるがGIジョーとは関係ない。硬 りのステーキはもうたまらない! とろける美味し い定義は条約に譲ることとして注1),G Iとは,シャン さ最高~!」などと神戸牛の品質が高いということ パン,ワインのボルドーといったその土地に由来し をわかっていて,その美味しさのためには高いお金 た産品の原産地に関する表示である。フランスのシャ を払うことを厭わないとする人々が存在するからで ンパーニュ地方で収穫されるぶどうを使って伝統的 ある。したがって,仮に神戸牛ほどのクオリティを な手法で作るので,高い品質,評価が得られている, 伴わない牛肉に神戸牛とラベルを付けて売るような というわけである。だから「シャンパン」を名乗る ことがあるとすると,「あれー? 神戸牛って思っ ことができ,それ以外の産地のものには「シャンパ たほど美味しくないかな。次からは普通の牛肉で十 ン」という表示をして商品を販売することはできな 分かも」ということになりかねない。本物の神戸牛 い,というものである。 の生産者からしてみれば,ブランドにタダ乗りされ これはワインのようなお酒に限らず,チーズ,ハ て自分たちのビジネスにとってはマイナスであるし, ムなどさまざまな産品に当てはまる。したがって, 消費者にとっても間違ったものを買う羽目になりデ ボルドー産以外のワインに「ボルドー」と表示する メリットである。 ことや,イタリアのゴルゴンゾーラチーズ以外に「ゴ ルゴンゾーラ」と表示して商品を売ることはダメな のである。このようにして,ご当地ブランドを守る 468 視点 ●知財はグルメ? わけである注2)。しかし,単に名前を表示しているだ 農産品についてはDOOR注7)と, ネーミングが面白い。 けでは必ずしも売れるわけではない。これらの産品 は,長年の努力と実績によって,高い品質が消費者 に認められていたり,名声が確立されていたりする 日本では:地域団体商標 日本においてもご当地ブランドを守る動きはあ ことが多い。生産者としてもそのような高い品質, る。地理的表示のための制度については,農林水産 名声を維持するために努力をする。特にヨーロッパ 省が検討を行っている 注8)。また,お酒に関しては, では,各国で品質管理機関注3)を設け品質を管理し, 国税庁長官が指定する制度がある注9)。 EUレベルで保護制度を整えている注4)。 商標制度においては,「地域団体商標」という制度 ロックフォールというブルーチーズをご存知の方 が新たに2006年に導入された。簡単に言えば, 「地域 もおられると思う。フランス南部のミディ・ピレネー 名」+「商品名」からなる商標である。例えば, 「神 地方のロックフォール・シュール・スールゾン村とい 戸牛」や「静岡茶」 「仙台みそ」といったものである。 , う人口1,000人にも満たない村の洞窟で作られ,世界 普通,商標権を所有する主体は「Apple」のように単 中に輸出されている。伝説によれば,若い羊飼いが 一の場合が多い。ところが地域ブランドは,神戸牛 美しい乙女を追いかけて,洞窟にパンとチーズを忘れ の例を考えてみても想像がつくように,権利の主体 てしまった。その後, (残念ながら一人で)洞窟に戻っ を特定の企業, 個人に絞り込むことは難しい。そこで, たところ,チーズにカビが付いていたが余りに空腹 事業協同組合や農業協同組合などの団体が商標の権 だったので食べてみたところ,とても美味しかった… 利者となることができるようにしたところがミソで とか。伝説はさておき,ロックフォールチーズの名声 ある。したがって,兵庫県食肉事業協同組合連合会 が高まると,商品価値も高まり,競争力も高くなる。 のメンバーであれば「神戸牛」の表示をすることが しかし,売れると便乗商法をしようと考える輩が出 できる。もちろん,それぞれの組合の中で,どのよ てくるのは世の常。20世紀の後半には,ロックフォー うな条件を満たせば神戸牛,静岡茶を名乗ることが ルチーズの模倣品が数多く出回るようになった。ま できるのかという基準を設けている場合には,それ た,そもそもロックフォールチーズと言ってもロック をクリアすることが前提になる。この制度は,導入 フォール地区で作ればなんでもロックフォールチー 以来,日本各地から出願があり,2013年7月2日現在 ズを名乗ってもよいとなってしまうと低品質のもの 「神 の登録は,これまた縁起がよく555件である注10)。 が市場に出回りかねない。何がロックフォールチーズ 戸牛」 , 「松阪牛」 , 「静岡茶」 , 「草加せんべい」など なのか,についての争いは裁判にまで持ち込まれた。 が地域団体商標として登録されている。 結局,1961年の判決で,チーズの「熟成庫はロック 現在の地域団体商標は,権利者となることができ フォール・シュール・スールゾン村にあるコンバレー る主体が事業協同組合や農業協同組合などに限定さ 山の堆積物ゾーン内,標高630 ~ 710m,長さ2.5k m れている。冒頭に触れた「なみえ焼きそば」は浪江 以内」とされた1)。たかがチーズではない。ご当地ブ 町商工会がその普及に取り組んでいる。また特定非 ランドにかける執念である。もちろんE Uの保護制度 営利活動法人(N P O法人)が主体となっているもの に登録されている。ちなみに,E Uレベルで登録され などもある。しかし,現在の制度ではこれらの団体 ているものは,インターネット上のデータベースで検 は地域団体商標の権利者にはなれない。そこで,日 索できるが,ワインについてはお酒の神様バッカス 本国特許庁は,権利者となれる主体を商工会,商工 にあやかりE-Bacchus注5),スコッチウイスキーなどの 「な 会議所, NPO法人にも拡大する方針を示した注11)。 蒸留酒(スピリッツ)についてはE-SPIRIT-DRINKS注6), みえ焼きそば」や伊勢崎商工会議所が取り組む「い 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 469 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ October せさきもんじゃ」,N P O法人小豆島オリーブ協会が取 いった具合である。 り組む「小豆島オリーブオイル」など,さらなるご 普通名称について,アメリカの例は興味深い。移 当地ブランドが登録される日も遠くないと思われる。 民の国であるアメリカのワイン作りは移民がもとも と住んでいたヨーロッパから伝わった。当初は,米 旧大陸と新大陸 国の消費者はワインに使われるぶどうの品種にも詳 地理的表示などのご当地ブランドは,地名が含ま しくなかったので,アメリカの生産者たちは,ワイ れることから,地名に由来する産品についても歴史 ンの特徴を示すのにヨーロッパのよく知られた地名 が長い旧大陸の方が保護に熱心である。新大陸の場 を使って,カリフォルニア・シャブリなどとして販 合,旧大陸から移民してきた人が生産技術も一緒に 売してきた注14)。このような経緯もあって,アメリカ 持ち込みワイン,チーズなどの産品を生産してきた。 ではBurgundy(ブルゴーニュの英語表記) ,Chablis さらに地名も旧大陸にちなんだ地名があるなどの事 (シャブリ) ,C h a m p a g n e(シャンパン) ,S h e r r y 情があり,旧大陸に由来する名称,表示がすべて使 (シェリー)などは半ば普通名称化しているとして, えないとなると困ってしまうからである。 半普通名称(Semi-Generic)としてワインの名前に 使うことを認めている 注15)。したがって,フランス 普通名称化? さて,いろいろな形で保護されるご当地グルメで のシャンパーニュ地方で生産されたものでなくても California Champagne(カリフォルニア・シャンパン) あるが,これを守るのに権利者たちが気を付けてい という名前のスパークリングワインをアメリカ市場 ることがある。それは名前の普通名称化である。特 で販売することができるのである注16)。 別の名前であれば特定の権利者が独占的に使うこと は認められるが,普通名称まで独占してしまっては, ご当地グルメ やりすぎである。例えば, 「うどんすき」は,当初は こうして見てみると,普段目にしたり食べたりし 特定の商品を示すものであったが,その後,うどん ているご当地グルメを巡って知的財産が絡んでいる を主材料とし魚介類,鶏肉,野菜類等の各種の具を ことがわかる。次回,スーパーに買い物に行ったと 合わせて食べる鍋料理を示す普通名称として定着し きには,地理的表示,ご当地ブランドを探してみて た注12)。ご当地モノの例としては,ソーセージなどに はいかがか。パルマハムとロックフォールチーズを 付けて食べると美味しい粒マスタードソースで「ディ つまみにボルドーワインを傾けるも良し,大間マグ ジョン・マスタード」がある。これは元々,フランス ロの刺身を輪島塗のお箸でいただきながら,くまモ の都市ディジョンのマスタードのことを指していた ンのふるさと熊本の球磨焼酎を江戸切子のグラスで が,今や産地によらずマスタードの種類を示す名称 一杯というのもいいかもしれない。 となってしまっている注13)。 普通名称化してしまうと,これまで使ってきたブ ランドが使えなくなってしまうので大変である。し たがって,権利者は商標などが普通名称化しないよ うな努力をする。例えば,表示に「登録商標」と記 したり,他人が使っている場合はこれをやめさせる ような行動をとったり,コマーシャルを流して誰の 商標(地理的表示)であるかを一般に知らしめると 470 執筆者略歴 夏目 健一郎(なつめ けんいちろう) 特許庁入庁後,審査官,審判官としてエレクトロニク ス,コンピュータ関連の審査,審判業務に携わる。その 間,カリフォルニア工科大学客員研究員,特許庁国際課, 総務課,調整課審査基準室,外務省経済局,在ジュネー ブ国際機関日本政府代表部などにおいて,特許行政,国 際交渉にも従事。2012年からWIPO日本事務所。 視点 ●知財はグルメ? 本文の注 注1) 日本も含めた世界150か国以上が加盟するWTOの知的財産に関する協定(TRIPS協定)に規定がある。 T R I P S協定第22条では,「「地理的表示」とは,ある商品に関し,その確立した品質,社会的評価その 他の特性が当該商品の地理的原産地に主として帰せられる場合において,当該商品が加盟国の領域又 はその領域内の地域若しくは地方を原産地とするものであることを特定する表示をいう」と定義して いる。 注2) ワイン・スピリッツ(蒸留酒)以外の産品,つまりチーズ,ハムなどについては,消費者の誤認混同 を生じるような地理的表示の使用が認められない(T R I P S協定第22条)が,ワイン・スピリッツにつ いては,誤認混同が無くても当該地理的表示を使ってはならないとされている(TRIPS協定第23条) 。 注3) 例えば,フランスでは,原産地統制呼称(Appellation d'Origine Contrôlée: AOC)を原産地呼称委員 会(Institut National des Appellations d'Origine: INAO)が管理する。 注4) EUでは,原産地呼称保護(Protected Designation of Origin: PDO),地理的表示保護(Protected Geographical Indication: PGI)という保護制度がある。 注5) European Commission, "E-Bacchus", (http://ec.europa.eu/agriculture/markets/wine/e-bacchus/index. cfm?event=pwelcome&language=EN), (accessed 2013-08-06). 注6) European Commission, "E-Spirit-Drinks". (http://ec.europa.eu/agriculture/spirits/index.cfm), (accessed 2013-08-06). 注7) European Commission, "DOOR". (http://ec.europa.eu/agriculture/quality/door/list.html;jsessionid=pL0 hLqqLXhNmFQyFl1b24mY3t9dJQPflg3xbL2YphGT4k6zdWn34!-370879141), (accessed 2013-08-06). 注8) 農林水産省地理的表示保護制度研究会. (http://www.maff.go.jp/j/shokusan/tizai/other/gikenkyu.html), (accessed 2013-08-06)から研究会の各種資料にアクセス可能。 注9) 地理的表示に関する表示基準. (http://www.nta.go.jp/shiraberu/senmonjoho/sake/hyoji/chiri/ kokuji941228/02.htm), (accessed 2013-08-06)に基準が定められ,国税庁長官が指定したものとして, ワインの「山梨」,焼酎の「壱岐」, 「球磨」 , 「琉球」 , 「薩摩」 ,清酒の「白山」が登録されている(http:// www.nta.go.jp/shiraberu/senmonjoho/sake/hyoji/chiri/gaiyo/04.htm), (accessed 2013-08-06)。 注10) 登録査定案件リスト. (http://www.jpo.go.jp/torikumi/t_torikumi/t_dantai_syouhyou_tourokuannai. html), (accessed 2013-09-02)から,都道府県別,産品別,50音別の登録案件情報にアクセス可能。た だしこのリストは随時更新されていく。 注11) 産 業 構 造 審 議 会 知 的 財 産 政 策 部 会 商 標 制 度 小 委 員 会 報 告 書「 新 し い タ イ プ の 商 標 の 保 護 等 の ための商標制度の在り方について」 , 2013年2月, I I . 3. (1) p .13-14, ( h t t p : / / w w w. m e t i . g o . j p / p r e ss/2012/02/20130228004/20130228004-2.pdf), (accessed 2013-08-06)。 注12) 東京高裁 平成9年(行ケ)第62号において「うどんすき」は普通名称としている。( h t t p : / / w w w . courts.go.jp/hanrei/pdf/518EC8FC2786009049256A7700082C76.pdf ), (accessed 2013-08-06)から判決 本文にアクセス可能。 注13) WIPOホームページ(http://www.wipo.int/sme/en/ip_business/collective_marks/geographical_ indications.htm, http://www.wipo.int/geo_indications/en/about.html#generic), (accessed 2013-08-06) 参照。 注14) 例えば,地理的表示における各国の対応と日本の課題,髙橋梯二,(http://www.ab.auone-net.jp/~ttt/ GIJapan.html), (accessed 2013-08-06)。 注15) 米国アルコール・タバコ税・貿易管理局, 回章 2006-1, 2006年3月10日(http://www.ttb.gov/industry_ 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 471 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 Journal of Information Processing and Management October http://johokanri.jp/ circulars/archives/2006/06-01.html), (accessed 2013-08-06)など参照。 注16) 注15の回章によれば,2006年3月10日より前にラベル認証証明書を取得しているものに限るとしてい る。したがって,これより前にラベル認証証明書を取得しているCalifornia Champagne(カリフォル ニア・シャンパン)は引き続き使えるが,それまでにラベル認証証明書を取得していないN e w Y o r k Sherry(ニューヨーク・シェリー)という名前でワインを新たに売り出すことはできない。 参考文献 1) 文藝春秋編. チーズ図鑑. 文藝春秋, 2001, p. 118-121,(文春新書, 182) 472 リレーエッセー ●つながれインフォプロ Building networks among info pros ̦̾̈́ͦͼϋέίυ 江 草 由 佳 (国立教育政策研究所) 第1回 情報管理 56(7), 473-476, doi: 10.1241/johokanri.56.473 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.473) 凡人1人では解決できないことも3人集まれば解決 できるという「三人寄れば文殊の知恵」ということ わざがある。このことわざとは少し異なるが,凡人 1人ではわからなかったことも,何人か集まればわか るようになる。もしくは,何人か集まって考えても, わからない難しいことなのだということがわかるの が勉強会の良いところの1つだと思う。また,ディス カッションを通して,メインのテーマについての理 解が深まるだけでなく,他のテーマについての事柄 にも理解が深まったりするところも複数人が集まっ て勉強する勉強会ならではの良いところだろう。ま 図1 FRBR&RDA勉強会の風景(2013年8月22日撮影) た,お互いに教えあうことで,教えるという行為を 通して理解が深まるのも自分以外の人がいるという いである。 勉強会ならではの良いところだろう。誰でも参加で FRBR&RDA勉強会は,2012年6月20日に始めてから きる公開型の勉強会であれば,勉強会の副次的な効 1年以上たち,気付けば,2013年8月時点で35回を数 果として,今まで知らなかった人と知り合いつなが えるまでになった。この勉強会の特徴について紹介 れるところも勉強会の良いところだろう。勉強会の する。 中には,お互いに知り合いつながるための手段とし 勉強会を続けていくコツは,なんのためにその勉 強会をやっているのか,目的をはっきりすること。 て勉強会を使っていることもあるくらいだ。 注1) 私は,RDA(Resource Description & Access) そして,その目的のためになにが必要か目的を意識 やFRBR(Functional Requirements for Bibliographic しながら勉強会のやり方を選んでいくことが重要だ R e c o r d s)注2)を勉強しようと思い立ち,そのことを と思う。 きっかけに,高久雅生さん(筑波大学),田辺浩介さ FRBR&RDA勉強会の目的は「FRBRやRDAを図書館 ん(物質・材料研究機構)とともに,FRBR&RDA勉強 システムやW e bサービスに採用するための実践的な 会を始めた(図1)。R D Aは一言でいえばネット時代 理解」である。 の新しい目録規則,F R B Rはネット時代の新しい書誌 この目的を達するために,もしくはこの勉強会を データモデルである。勉強会を始めることは誰でも うまく進める,継続していくために,いくつかの原則 できる簡単なこと,続けることもちょっとした工夫 を定めた。 (1)この勉強会への参加そのものが勉強で があればできることを本稿で知っていただければ幸 あると割り切る(予習・復習を前提としない・宿題 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 473 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 Journal of Information Processing and Management はない) , (2)誰でも参加可能とする(参加者に制限 参加する参加者にとっても,この復習をもとに議論 は設けない) , (3)参加できるときに参加する(飛び を進めたりして理解が促進されるため,この復習の 飛びで参加してもよい,初参加も歓迎する) , (4)わ セッションはどの参加者にも好評のようである。は からないことは質問する(たとえ今までの勉強会で じめて参加される方がいる場合は,この復習の後に, 出てきたかもしれないことについても質問してよい, 参加者全員による簡単な自己紹介を行い,どういう むしろ歓迎する) , (5)わかる人が答える, (6)勉強会 バックグラウンドでこの勉強会に参加したのか相互 についての情報は公開する(FacebookやWebサイト にわかるようにしている。次の85分はF R B RやR D Aの などで公開する) 。 基本文献(英語)を参加者全員で一文ずつ理解しな (1)は,1人ではなかなか時間がとれず,勉強が進 がら進める。題材の文献は英語であるが,勉強会は められないからこそこの会があるからである。 (2)は, 日本語で進めている。日本語に翻訳するわけではな より多くの方・とくに日頃話さない方に参加してい く,あくまでも,その文が言いたいことは何か,文 ただいたほうが勉強会に張りができて勉強会を継続 意がわかるように,読解を進める。教材を単に読ん していけるという理由からである。(3),(4), (5)は でいくだけでなく,さらに読解にあわせて,例えば, この勉強会のユニークなところかもしれない。この R D A本文そのものの関連事項を参照してみたり,専 原則を設定した理由は,たとえ以前やったことのあ 門用語の説明を相互に説明しあったり,F R B RのE R る内容でも,質問されて答えられなければそれは理 図をホワイトボードに描いてみたり,C i N i i B o o k sや 解していないことがわかる,人に説明しようとして Wikipediaを検索して具体例を見てみたりなど,理解 もっと理解を深めようという気になれる,人に説明 を進めるための実習や議論もする。最後の20分間程 して理解が深まると考えるからである。そのために 度で,その日に読み進めた内容のまとめメモを投影 も初めて参加したり,飛び飛びで参加してくる人が して全員で見ながらまとめる。これにより参加者全 いることこそ必要で,素朴な疑問こそ必要だと私は 員の理解を共通認識にする。この際に,適宜,修正, 考える。また毎回参加するのが難しい,忙しい方で 補足して,メモを完成させる。ちなみに,最初の復 も参加して欲しい,この勉強会を継続するには不可 習は私が,読み進めは田辺さんが,メモの作成は高 欠だという考えからこの原則を設定した。 (6)は, (2) 久さんが担当している。 や(3)により,参加できなかった会の内容を知るこ 公開でFRBR&RDA勉強会を実施するにあたって,開 とができるように,また,新たに参加しようと考え 催情報の通知と広報には,Facebookグループ(図2) ている人の参考のために必要となった原則である。 とそのイベント機能を使っている。F R B R & R D A勉強 勉強会は,当初は毎週,最近は隔週でやっている。 474 http://johokanri.jp/ October 会のFacebookイベント招待用グループ注3)に入ると, 仕事が終わってから参加できるように平日の19:00 ~ 各勉強会の開催要項のお知らせ 注4) が送られてくる 21:00に行っている。この勉強会は1つの文献を全員 ようになる。これはFacebookイベントの招待機能を で読み進めるのがメインであるが,R D Aの講習会や 使っている。原則(2)にあるように誰でも参加可能 研究発表会の参加報告,R D A関連文献の紹介なども なので,このFacebookグループへの参加申請があれ 適宜行っている。会の流れは,復習,メイン,まと ば,だれでも追加している。 めとなる。始めの15分でこれまでの復習を行う。た Facebookイベントは,このFacebookグループ経 とえはじめての参加者でも,飛び飛びの参加者でも 由, かつ公開モードで作成している。そうすることで, この復習を聞いて,今回の勉強会の最低限の理解の たとえ,Facebookグループに入っていなくても参加 とっかかりになるように配慮している。また,毎回 できるようになっている。また, 記録と広報をかねて, リレーエッセー ●つながれインフォプロ あったが,徐々に参加者が増え,最近は毎回10人を 超えるようになってきた。参加者は多様な人がいる。 オープンソースの図書館システムNext-L Enju注6)のエ ンジニアや運用企業の方,大学図書館の目録担当の 方,研究者,学生,C i N i i担当の方,出版社の方,博 物館関係の研究者などである。システム開発者と目 録担当者両方がいるので,相互に詳しく知っている ことを教えあうということができているのは本当に ラッキーである。また,博物館や出版社の方など別 図2 Facebookグループ の視点も大変参考になる。 FRBR&RDA勉強会は,私にとって大変ありがたい存 Project Next-LのWebサイトにこのFRBR&RDA勉強会 在である。私は研究者なので,図書館における,実 のページ注5)を設けており,そこにこれまでの開催時 際の業務フローや図書館システムへのニーズを知る の開催要項,復習スライド,本日のまとめ等をのせ ことは難しい。R D Aで出てくるさまざまな専門的な ている。 事柄の理論はわかってもなかなか具体例がわからな Facebookイベントで,開催情報を作っておくだけ い。しかし,図書館の目録を担当されている方から, で,参加,不参加がボタン1つでできるようになり, 実際の経験にもとづく具体例等を教えていただける 参加者名簿が自動的に作成され閲覧できるのが大変 のは貴重な機会だ。いろいろな観点からディスカッ 便利である。また,Facebookグループのコメント投 ションしR D Aについて一面的な理解でなく深く理解 稿機能を使って,R D Aの関連発表会や関連文献の情 がすすんでいると思う。 報を参加者同士で気軽に共有でき,大変便利に使っ 本稿では,FRBR&RDA勉強会について紹介した。こ ている。FacebookグループとFacebookイベントの のテーマに限らず,勉強会は誰でも気軽に始めるこ 組み合わせは運営が大変楽で助かっている。問題は, とができ,知識を増やすだけでなく,ネットワーク Facebookを使うのは嫌だ,参加者名簿が公開される を広げるなど,さまざまなことで大いにプラスにな のが嫌だという人を排除してしまうことであるが, るので,ぜひ多くの方に実践してもらいたいと思う。 運営コストとのトレードオフでしょうがないとあき らめている。 開催場所は,参加者の無理のない範囲で借りられ る場所で,多くの方が参加しやすそうな場所として いる。最近は私の職場の会議室でやることが多い。 頻繁に参加していた方が東北の職場へ移られたので, 現在は,G o o g l e +ハングアウトを使って遠隔地との 開催もやってみたりしている。 開始した当初の参加者は勉強会を始めた3人だけで 執筆者略歴 江草 由佳(えぐさ ゆか) 国立教育政策研究所総括研究 官。情報検索,情報探索行動な どを専門とする。Enju開発ワー クショップや,Code4Lib JAPAN のワークショップなども開催し ている。 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 475 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 Journal of Information Processing and Management October http://johokanri.jp/ 本文の注 注1) "RDA Toolkit". http://www.rdatoolkit.org/, (accessed 2013-08-15). 注2) "FUNCTIONAL REQUIREMENTS FOR BIBLIOGRAPHIC RECORDS", http://archive.ifla.org/VII/s13/frbr/, (accessed 2013-08-15). 注3) "FRBR&RDA勉強会", https://www.facebook.com/groups/423112671068341/, (accessed 2013-08-15). 注4) "FRBR&RDA勉強会:イベント", https://www.facebook.com/groups/423112671068341/events/, (accessed 2013-08-15). 注5) "FRBR&RDA勉強会", http://www.next-l.jp/?page=FRBRWorkshop, (accessed 2013-08-15). 注6) "Project Next-L", http://www.next-l.jp/, (accessed 2013-08-15). 476 ■科学技術振興機構_中面(TOP) 情報論議 根掘り葉掘り ●3Dプリンターでペンローズ三角形は作れたが… 3Dプリンターでペンローズ三角形は 作れたが… 名和小太郎 情報管理 56(7), 477-479, doi: 10.1241/johokanri.56.477 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.477) ペンローズ三角形という奇妙な図形がある。ライ このC A Dファイルは,かつてはそのまま紙に印刷 オネル・ペンローズとロジャー・ペンローズとが され,あるいは工作機械への入力として使われた。 1958年に「不可能なオブジェクト:幻覚の特殊な類型」 だが,これから直接,3次元の物理的オブジェクト というタイトルで『英国心理学ジャーナル』に投稿 を出力したいという要求が生じ,これに応えた発明 した論文にある。それは2次元の画像であったが,こ が3Dプリンターとなる。3Dプリンターの機能をは れを3次元空間のオブジェクトとして実現することは しょって言えば,それはC A Dファイルを2次元の断片 できなかった。つまりM・C・エッシャー流の図形で にスライスし,そのスライスを3次元オブジェクトと あった。 して積み上げるものである。 このペンローズ三角形,実は1934年にスウェーデ 3Dプリンターは,当初,その高コストのために, ンのグラフィック作家オスカー・ロイタースバルト 航空機産業,自動車産業などが試作品の製作に使っ が作成していた。ペンローズは独立に作成したとい ていた。だが,ゼロ年代後半,ここに3Dプリンター われている。この独立性が著作権法の求める「オリ のオンライン・サービス事業者が参入してきた。た ジナリティ」になるので,双方ともに著作権をもつ とえばシェイプウェイズ社があり,その価格表には1 ことになる。 オブジェクトあたり50 ~ 150ドルとあった。 ところがペンローズ三角形を3Dプリンターで作 状況はさらに進む。3Dプリンター自体のコストが ることができるという人が現れた。これが著作権の 低下したのだ。それは2,000ドル――キットではその 関係者に,ついで特許権の関係者に波紋を生じた。 半額――にもなった。 2010年のことであった。 * * その結果,どんなオブジェクトであっても,C A D ファイルを手にすることさえできれば,だれでも自 ここで3Dプリンターについて紹介しておこう。ま 宅でそのレプリカを製作できるようになった。それ ず,1980年代にCAD(Computer Aided Design)が は,デジタル・コンテンツとしてインターネット上 実用化された。それは,「製品の形状,その他の属性 で送受され,D I Yの道具として万人に共有される可能 データからなるモデルを,コンピュータの内部に作 性をもつものとなった。 成し解析・処理することによって進める設計」 (J I S B * * 3401)であった。つまり,CADの出力は3次元の物理 ここで問題が生じる。3Dプリンター用ファイルは 的な製品モデル(以下,3次元オブジェクト)の設計 いったいどんな権利で保護されるのだろうか。3Dプ 図であり,それはコンピュータの内部にデジタル形 リンターは「ミッキーマウス」のレプリカを作るこ 式のファイル(以下,C A Dファイル)として保管さ ともできれば,「アイボ」の模倣品を作ることもでき れるものとなった。 るはず。前者であれば著作権の,後者であれば特許 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 477 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 Journal of Information Processing and Management 権の保護対象になる。ここに,まず,ペンローズ三 いれば与えられる(前述)。シュヴァニッツはこれに 角形が割り込んできた。 気づいたのかもしれない。だが,これは問題の発端 * * 2011年1月,ユーリッヒ・シュヴァニッツは,3次 にすぎなかった。 * * 元オブジェクトを積み上げ,それを特定の方向から そもそもC A Dファイルは著作物なのか。これにつ 見ると2次元のペンローズ三角形になるというアルゴ いては判例がすでにある。2008年,米国の第10控訴 リズムを発見した。彼はそれをC A Dファイルとして 審はそのような判決を示した(翌年,連邦最高裁は シェイプウェイズ社に送り,3週間後にその3次元オ この判決を黙認した)。それはメッシュベルクス社が ブジェクトを受け取った。このあと,彼はその作品 米国トヨタ自動車販売(以下,トヨタ)を訴えたも をビデオに撮ってインターネット上に公表した。 のである。トヨタはその製品群――乗用車,トラッ これを見たアルツール・チョウカノフは,彼自身 クなど――の3次元モデルの寸法データ――3次元オ のペンローズ三角形を考案し,それをアルゴリズム ブジェクトに相当――をメッシュベルクス社に渡し, とともにシンギヴァース社のサイトへ投稿した。そ メッシュベルクス社はそのデジタル・ファイル―― のサイトは「デジタル・デザインを共有し,それによっ C A Dファイルに相当――を作成し,それをトヨタに て現実に物理的オブジェクトを製作できる場所」で 納入した。トヨタはそれを第三者に使わせた。この あった。その共有のためのルールとしては,クリエ 行為は著作権侵害である,とメッシュベルクス社が イティブ・コモンズのライセンス――オープン・ソー 訴えたのである。 ス契約の一類型――を採用していた。 メッシュベルクス社は,まず,メッシュ・モデル だからか,シンギヴァース社には,さらにチルド のデジタル・ファイルは自社の著作物である,と主 というユーザーがペンローズ三角形をアップロード 張した。その作成にあたり,トヨタから提供された した。ここでシュヴァニッツは行動を起こした。彼 データのみでは不十分であり,それを補うために相 はシンギヴァース社に,そのうえにある2人のペン 当量の創意や労力を費やした,と。 ローズ三角形の削除を求めた。彼はデジタル・ミレ メッシュベルクス社はつぎのようにも主張した。 ニアム著作権法(以下,DMCA)にその根拠を求めた。 写真技術は被写体をそのままに写すものであるが, * * その写真には著作権が付与されているではないか。 D C M Aには「ノーティス・アンド・テイクダウン」 というルールがある。今回のケースについてみてみ 自社のデジタル・ファイルとトヨタの3次元オブジェ クトとの関係も同じである。 よう。このときシンギヴァース社はシュヴァニッツ メッシュベルクス社はさらに付け加えた。そのデ の要請にただちに応えることはできない。彼が嘘を ジタル・ファイルは新しい技術の成果であり,それ ついているかもしれないから。といって,黙殺する を著作権の対象から外すという理由はないだろう。 こともできない。無視すれば侵害者に加担すること 写真も,かつては新しい技術であったはずだ。 になるかもしれないから。このときにW e b側のとる べき手順を定めたものが上記のルールである。 478 http://johokanri.jp/ October だが,法廷はメッシュベルクス社の主張をすべて 拒否した。まず,メッシュ・モデルの創作性につい この事件は呆気なく終わった。シンギヴァース社 て,法廷はファイスト出版の訴訟に対する最高裁判 はシュヴァニッツの要請を放置したままで通し,シュ 決(1991年)を参照し,そこから作品が著作権をも ヴァニッツはその要請を撤回したからである。なぜ つための条件を見つけていた。それは,オブジェク か。およそ著作権はその作品が独立して創作されて トの表現について,わずかでもよいからオリジナリ 情報論議 根掘り葉掘り ●3Dプリンターでペンローズ三角形は作れたが… ティをもたなければならないというものであった。 メッシュベルクス判決は,3次元オブジェクトは著 このファイスト判決にてらしてみると,メッシュベ 作物であり,そのC A Dファイルはコピーであるとい ルクス社のメッシュ・モデルには「わずかなオリジ うことを,3次元プリンターの入力側で示したものに ナリティ」すらない。あるものは表現の創作行為で すぎない。だが,この論理は3次元プリンターの出力 はなく,単なる労働の投入にすぎない。 となる3次元オブジェクトに対しても適用可能となる なお,ファイスト判決は電話帳データベースの著 はずだ。 作権を否定したものであり,それまでは「額の汗」 ――単なる労働の投入――にも著作権は認められて いた。 ついで法廷は1世紀以上もまえのサロニー訴訟に対 する最高裁判決(1883年)を参照し,そこに写真は * * ペンローズ三角形はたまたま遊びの対象にすぎな かった。だから,複製が生まれても,まあ,だれか が気分を害するといった程度でことは済んだ。 だが,もし,ここに3次元のオブジェクトがあれば, 著作物であるが,その被写体は単なる事実にすぎな それを3次元スキャン――これもD I Yになる――して い,とする意見を見つけていた。そこには写真には C A Dファイルとすること,さらにそのファイルをイ 写真家の創作性――照明,ポーズ,構図,背景など ンターネット上にアップロードすることは容易にな ――が付加されているから著作物である,と示され る。あとは不特定多数のユーザーがそれをダウンロー ていた。だが,メッシュベルクス社のデジタル・ファ ドして元の3次元オブジェクトのレプリカを作ること イルは単なる事実にすぎない。 になる。 なお,サロニー判決はN・サロニーの撮ったオス その3次元オブジェクトはあるいは著作物であり, カー・ワイルドの肖像写真をバロー・ギルス工房が あるいは特許製品であるかもしれない。もしそれが 版画として無断コピーした事件に対するものであっ ミッキーマウスのミニチュアであれば著作権侵害の, た。 それがアイボのレプリカであれば特許権侵害のリス メッシュベルクス判決は触れていないが,サロニー クを生じるだろう。だが,判例は,いまのところ著 判決は1802年法によって裁かれており,その1802年 作権に関するメッシュベルクス判決のみである。特 法に写真は著作物として定義されてなかった。1802 許侵害に関するものは,まだ,ない。 年に写真術は発明されてなかったから。だが,サロ どう対応すべきか。米国の法学ジャーナルには「3 ニー判決は写真を著作物として認め,それをつぎの 次元プリンター由来の特許侵害に対抗して」といっ ように正当化していた。1802年法には,書籍が著作 た論文が投稿されるようになった。だが現在のとこ 物として定義されている。その書籍は著者の原稿か ろ,悲観的な論調のもの,あるいはフリー礼賛のも ら導かれた多数のコピーとして作られるが,写真も1 のが少なくない。著作権制度も特許制度も,思いが 枚のネガから多数のポジをプリントすることができ けないところで,その足を掬われかけている。 る。 すく 3Dプリンターは,当面は実用品――ネジ,コップ, この点についてメッシュベルクス判決は慎重で 玩具など――を作るだろう。だが,いずれは,3次元 あった。法廷は,新しい表現の成果物が新しい技術 プリンター自体,そしてパソコンさえも作るように によって生じることは認めるが,それを決めるのは なるだろう。 法廷ではなく連邦議会である,と示した。 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 479 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 http://johokanri.jp/ October Journal of Information Processing and Management 時 実 象 一 (愛知大学 文学部) 著作権を勉強してみよう 情報管理 56(7), 480-483, doi: 10.1241/johokanri.56.480 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.480) 最近TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉がら ンテ局長が,著作権法の改正の検討を議会で提案し みで著作権の問題がクローズアップされている。こ ている3)。そのポイントは,現在死後70年(映画は の交渉の中で(主として米国から)日本の知的財産 95年)とされている著作権保護期間が長すぎるので, 制度を米国の制度にすりあわせるよう要求されてい 見直そうというのである。長い保護期間は,著作権 るといわれている。その内容は多岐にわたると見ら 者が所在不明で権利処理のできない,いわゆる「孤 れるが,福井健策弁護士によれば,著作権に関して 児著作物」を増やすことにより,結果として多くの 要求されているのは,著作権保護期間の50年から70 著作物の再利用や再創造を妨げ,新たなコンテンツ 年への延長と,著作権侵害の非親告罪化,法定賠償 産業やネット産業の振興,あるいは文化資源のアー 金の導入,などが主なものである1)。秘密交渉のため カイブ保存の障害となるとの論拠である。 交渉の詳細は明らかでないが,関税関係の交渉を有 非親告罪化とはどういうものだろうか。現行の著 利に進めるため,著作権は譲ってしまえとの議論が 作権法では著作権侵害は親告罪であるので,著作権 ささやかれているとも報道されている 2) 。 著 作 権 保 護 期 間 の 延 長 に つ い て は,2007年 に 文 きない。しかし非親告罪化されると,著作権者の意 化庁の「過去の著作物等の保護と利用に関する小委 思にかかわりなく,被疑者に対して検察が公訴を提 員会」において各方面の意見が述べられ,外部でも 起することが可能となる。著作権者が,この程度の t h i n k Cという団体が議論の場を提供した。延長賛成 侵害では事を荒立てたくないと思っても被疑者に対 者の理由は,70年が世界標準である,創作者へのイ して懲役もしくは罰金などの刑事罰が科されること ンセンティブや遺族への配慮が必要という点であっ が起こりうる。こうしてこれまで大目に見られてい た。これに対し反対意見は,延長により文化活動の たコミケやパロディなどの二次的創作に対しても, 停滞を招く,アーカイブなどデジタル保存活動の障 刑事罰が科されてしまうことになり得る。また,い 害となる,延長による創作者への還元はほとんどな わゆる「別件逮捕」の口実ともなり,大変危険だと い,などであった。活発な議論の結果,結局延長を 思う。 見送ることで決着した。 480 者が告訴しない限り検察が公訴を提起することはで 3番目の法定賠償金についてであるが,現在,著作 今回は,TPPという秘密交渉の中で,このような利 権侵害に対する損害賠償は実際の損害額に基づく(著 害関係者による議論もなく,関税交渉のしわ寄せの 作権法第114条)ので,たいした額とならない場合が 結果として,延長が押し付けられるのではないかと 多い。これに対して,法定賠償金は,損害額に関係 危惧する向きが多い。実は当の米国では,逆に,今 なく一定額を賠償させるものである。これが導入さ 年(2013年)3月20日,米国著作権局のマリア・パラ れると,軽微な著作権侵害に対しても告訴が多発す この本!おすすめします ●著作権を勉強してみよう る可能性がある。 このように,TPPで交渉されていると思われる著作 『「ネットの自由」v s . 著作権-T P Pは、終わり の始まりなのか』 権制度の見直しについては,問題点が多い。情報関 福井健策 係者の方々にも関心を持っていただきたいと考えて 光文社(光文社新書),2012年,777円(税込) いる。そのため以下の本をお薦めしたい。 『著作権とは何か-文化と創造のゆくえ』 福井健策 集英社(集英社新書),2005年,714円(税込) http://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334037079 福井氏は,前述のt h i n k C,そしてこれを引き継い だthinkTPPIPで中心となって発言を行っている弁護士 である。著作権にかかわる問題が起きるたびに,新 聞などで福井氏のコメントを目にすることも多い。 http://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/0294-a/index.html この著作権三部作においては,まず『著作権とは何 か』で著作権の基本について述べるとともに,芸術・ 『著作権の世紀-変わる「情報の独占制度」』 文化において, 「模倣」と「盗作」や「パロディ」の 福井健策 関係を実例をあげて解説している。さらには法の範 集英社(集英社新書),2010年,756円(税込) 囲内で,どのように既存の著作物を「利用」できる かについても述べている。 次に『著作権の世紀』では著作権にかかわるさま ざまな事件を解説するとともに,著作権保護期間の 問題,アーカイブと著作権の関係など,情報担当者 に関係の深い問題をとりあげている。 3冊目の『 「ネットの自由」v s . 著作権』では,福井 氏はまさに現在進行中のT P Pと著作権について議論 している。この問題を理解するには最適の案内書と いうことができる。なお序章では,2012年に欧米を 中心として盛り上がった「オンライン海賊行為防止 http://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/0527-a/index.html 法(SOAP) 」 ,および「偽造品取引防止協定(ACTA) 」 反対運動についても解説している。 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 481 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ October 『デジタル時代の著作権』 山田氏は,最近の著作権法がらみの動きを分析し, 野口祐子 特にいわゆる「海賊行為」について議論している。 筑摩書房(ちくま新書),2010年,903円(税込) 映画の盗撮の犯罪化,ダウンロードの違法化などが 本当に必要なのかどうかについて,実証的な議論を おこなっている。また文化庁著作権分科会の議事録 の分析は興味深い。 以上5冊の本を紹介させていただいた。著作権は ついつい難しいものとして,自分に直接かかわるこ と以外には関心を持たない向きもあるかと思う。し かし海賊版ダウンロードの刑罰化に見られるように, 皆さんの家庭内の行為が,場合によっては刑事罰の 対象となる時代になっている。少しの時間を割いて これらの本を開くことをお薦めしたい。 http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480065735/ 野口氏は,クリエイティブ・コモンズ・ジャパン の常任理事としての発言・講演などで有名な弁護士 である。野口氏は,ベルヌ条約に始まる現代の著作 権制度が,デジタル社会となって矛盾を抱えてきた 経緯について説明し,クリエイティブ・コモンズが 文化の発展のために何を解決しようとしているのか について解説している。 『日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか』 山田奨治 人文書院,2011年,2,520円(税込) 執筆者略歴 時実 象一(ときざね そういち) 大学では化学を専攻したので,もともとCASなどの学術 データベースや,電子ジャーナルを得意にしている。学 術雑誌の電子化の調査は2005年から継続しておこなって いる。2005年に大学に移ってから,電子書籍もいろいろ 調べており,海外の公共図書館の電子書籍については詳 しい。最近では田原市図書館と協力して地域紹介の電子 書籍を作ったり,愛知大学キャンパス紹介の電子書籍を 手がけたりしている。またインターネット・アーカイブ などデジタル・アーカイブ活動についても興味を持って http://www.jimbunshoin.co.jp/book/b89117.html 482 いる。 この本!おすすめします ●著作権を勉強してみよう 参考文献 1) 福井健策. “日本はTPPをどう交渉すべきか”. thinkTPPIP@講談社. 2013-6-29. http://www.thinktppip.jp/ wp-content/themes/twentytwelve/archives/20130629_fukui.pdf, (accessed 2013/8/2). 2) 著作権の保護期間, TPPで延長論 米の要求受け文科省. 朝日新聞, 2013-8-2 朝刊. 3) Maria A. Pallante. "The Register's Call for Updates to U.S. Copyright Law". UNITED STATES COPYRIGHT OFFICE, 2013, 3p. http://judiciary.house.gov/hearings/113th/03202013/Pallante%20032013.pdf (accessed 2013/8/2). 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 483 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ October 丸善出版 科学者の発表倫理 2013年 A5判 不正のない論文発表を考える 160p. 2,730円(税込) 山崎茂明●著 ISBN 978-4-621-08654-4 情報管理 56(7), 484-484, doi: 10.1241/johokanri.56.484 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.484) 本書は,(財)国際医学情報センターが発行する医 論考する研究者もいる。しかし,計量的データに基 学情報誌「あいみっく」に連載中の「論文発表の論 づきながらも計質的な観点まで踏み込んで洞察でき 理」を中心にまとめられている。「あいみっく」の連 る研究者となると山崎氏をおいて浮かばない。山崎 載を3か月ごとに待ちわびている評者にとって,本書 氏の論考を読んだ後で他の研究者の論文を読んでも でまとめて読むことのできる読者は幸いなるかなで 薄っぺらく感じてしまう。 ある。もっとも本書の構成は連載順ではない。そこ それにしても,山崎氏が「科学者の不正行為」を で連載順に読んでみて山崎氏の思考の過程を追って 出版したのが2002年。 「あいみっく」の連載開始が みるのも興味深いであろう。 2008年8月であるが,最近のバルサルタンの問題等, 本書は,5部15章で構成されているが,実に多彩な テーマを取り上げている。評者は以前より訂正記事 な状況において,何が問題でどのような論争があり, や撤回論文から透けて見える研究者の生態に関心が それらをどう理解すべきなのかを知るうえで本書は あったが,ゴースト・オーサーシップや,コレスポ 図書館員や情報専門家にとって必携の書であると言 ンディング・オーサー,国際的な共著や出版バイア える。例えばバルサルタンの問題は, 本書のゴースト・ ス等には恥ずかしながら目を向けていなかった。例 オーサーシップの章を読むとよく理解できる。そし えば「New England Journal of Medicine」における てこの事件は決して稀 な事件ではなく,普段提供し 単著が1886年には98.5%だったのが1976年には4%と ている中にもかなりの割合で同種の論文が含まれる なったこと,論文不採択率の高い一流誌でもゴース 可能性があることに気づかされるであろう。さらに ト・オーサーの存在する論文が一定の割合で掲載さ 願わくば,本書は情報の専門家だけでなく研究者に れていること,コレスポンディング・オーサーが本 も読んで欲しい。例えば, 大学院等で「研究者の倫理」 来の役割を果たしていない実情,ネガティブな結果 が必修科目で開講され,本書がその教科書として使 が掲載されにくい出版バイアスについては特に腹に われたらなどと考えてしまう。付け加えると,撤回 響く指摘であった。今後はこうしたことにも注意を 論文を論文の取り下げと誤解している新聞記事も未 払っていきたい。各章は10ページ程度にまとめられ だある。このような周囲の無理解が科学者の不正行 ているが,読めば読むほどに集められたデータ量の 為を助長する要因の1つとも言えるので,報道関係者 多さと,それらの膨大なデータを取捨選択し短いペー にもぜひとも本書を手に取って読んで欲しい。なお ジ数に凝縮させた山崎氏の手腕に圧倒される。本書 「あいみっく」の連載は現在も続いているので,続刊 はその手腕故さらりと読めてしまうが,だからこそ 何度も読み返して欲しい。研究者の倫理について計 量的に論考する研究者はいる。自身の経験に基づき 484 いまだ科学者の不正行為は後を絶たない。このよう まれ を心待ちにするものである。 (東京医科大学図書館本館 岡田英孝) 情報界のトピックス ●Topics of the information community 情報管理 56(7), 485-488, doi: 10.1241/johokanri.56.485 (http://dx.doi.org/10.1241/johokanri.56.485) 電子書籍価格操作をめぐる訴訟に裁判所命令 命令は出すが,その前に差止命令の範囲について司 法省とApple社がさらに話し合うよう求め,急速に発 電子書籍価格操作をめぐる訴訟で,A p p l e社が独 展する電子書籍市場における改革を妨げるような長 占禁止法に違反したとの判断が下された後,米国 期間の差止命令で,両者を苦しめるようなことは望 司法省はA p p l e社に対して修正和解案を提案したが まないと述べた。その結果,司法省は差止命令の内 (v o l .56, n o .6の本欄にて既報)。C o t e判事は9月5日, 容を和らげた修正案を8月23日に提案した。この修正 司法省が提案した差止命令を和らげた内容の最終命 案においても,A p p l e社は5大出版社との現行の電子 令に署名した。 書籍協定を終結しなければならないが,再交渉を許 和解案に対しては出版社側からも大きな反応が示 されるまでの期間が,5年から2 ~ 4年に短縮された。 された。A p p l e社の共謀加担者として提訴され,後 最も短いHachette社は最終判決の有効日から24か月, に和解に応じた5大出版社は,和解案に反対する弁論 HarperCollins社が30か月,Simon & Schuster社が36 趣意書を連邦裁判所に提出した。「和解案の条項は, か月,Penguin Random House社が42か月,最後の Apple社の価格設定行動に対しては少しも制限を課し Macmillan社は48か月である。独占禁止法を遵守させ ておらず,Apple社を罰すると称して,エージェンシー るための外部モニターの必要性については,内部で モデルを使用するApple社との協定を禁止することに 独占禁止法遵守を強化するというApple社の主張は信 より,和解に応じている被告(出版社)を事実上罰 頼できないとして,Cote判事は主張を退けた。 するもの」であり,A p p l e社よりも出版社に対して, 8月27日の審問において,差止命令の修正案をさら より多くの損害を与えると出版社は抗議した。これ に和らげる判決を下す意向を明らかにしていたC o t e に対し,司法省は,和解案はApple社をターゲットに 判事はその9日後,最終差止命令に署名した。司法省 したものであり,出版社に対して何かをするつもり は,外部モニターを5年間,裁判所の判断でさらに最 はないとの回答を提出した。 大5年間任命できることを要求していたが,この期間 Apple社は,上訴するまですべての訴訟手続きを中 が2年間,延長は1年までに軽減され,外部モニター 止することを裁判所に求め,同意が得られない場合 の役割も,Apple社の日常業務を報告することよりも, は,司法省が提案する2014年4月ではなく,10月に損 独占禁止法遵守の研修方法へのアドバイスに主眼が 害賠償の審理を開くことを提案した。それに対して 置かれることとなった。競合する電子書籍小売業者 司法省は,訴訟手続きの中止に同意しないよう要求 に,Apple社のiBooks Storeをバイパスして,iOSア する書簡を裁判所に提出した。C o t e判事は8月9日に プリを自分たちのオンラインブックストアに直接リ 行われた審問で,Apple社が求めた訴訟手続きの中止 ンクさせるという案は削除された。A p p l e社に5大出 要求と損害賠償審理のスケジュールを拒否し,2014 版社との現行取り決めを止めさせる条項も緩和され, 年2月末までに,略式判決を求める申立て書を作成す 終結させるのではなく,修正を要求されることになっ るよう命じた。また判事は,司法省が提案した差止 た。再交渉が許されるまでのスケジュールは,司法 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 485 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ October 省の修正案のままである。この判決は,正当な理由 (http://www.authorsguild.org/2013/08/)(accessed により延長されない限り,5年で失効する。 2013-09-09). 33の州検事総長などによる集団訴訟は,電子書籍 価格操作によって消費者が被った損害の回復をめざ F a c e b o o k,政府によるデータ請求の詳細を しており,賠償金についての審問は2014年5月に予定 公表 されている。 (http://www.justice.gov/atr/cases/f300200/300263. Facebookは8月27日, 「世界の政府による情報開示 pdf)(accessed 2013-09-09). 請求報告書」(Global Government Requests Report) (http://www.justice.gov/atr/cases/f300500/300510. を発表した。同社が初めて発表したこの報告書で pdf)(accessed 2013-09-09). は, (1)F a c e b o o kに対して,ユーザーのデータの請 ブック検索をめぐるGoogle対作家組合訴訟 求があった国,(2)各国からの請求件数,(3)請求対 象となったユーザー数(アカウント数),(4)そうし た請求のうち,少なくとも法律に基づいて何らかの G o o g l eブック検索をめぐる訴訟で,米国出版社協 データの開示が行われた請求の割合,が報告されて 会は2012年10月に和解に達したが,8年にわたる係争 いる。これによると,Facebookは2013年前半に,世 を継続中の作家組合(Authors Guild)との闘いが再 界全体で約38,000人分のデータを公開している。請 び山場を迎えている。G o o g l eが,スキャニングは変 求件数と,請求対象のユーザー(アカウント)数の 容的利用であると主張しているのに対し,ニューヨー 両方で,アメリカが1位となった。アメリカの請求件 クの連邦裁判所に略式判決(Summary Judgment) 数は11,000件から12,000件,請求対象のユーザー数 を求める意見陳述書を提出した作家組合は,G o o g l e は20,000件から21,000件で,うち79%が何らかのデー のスキャニングプロジェクトは公共サービスなどで タの開示が行われたという。データ請求を行った国 はなく,他の検索エンジンに対する競争上の優位性 は合計74か国で,アメリカに続いて,2位インド,3 を得て,さらに多くの広告収入を生み出すための商 位英国,4位イタリア,5位ドイツとなった。日本は 業的な企てであると主張した。G o o g l eは,自分たち 1件のアカウントについてデータ請求があったが,開 のスキャン計画は公正使用権によって保護されてお 示されなかったという。こうしたデータ請求の大半 り,公益と同時に作家の利益をも提供するものであ が,窃盗や誘拐など犯罪に関するもので,政府が請 り,著作権所有に何らかの害をもたらすという証拠 求する内容は,名前やサービス利用期間といった基 はないと反論している。スキャニングは著作権所有 本的なユーザー情報が大半とされるが,一部の請求 に害を及ぼさないとするGoogleの主張を崩すために, は,IPアドレスのログや,アカウントにあるコンテン 作家組合は,スニペットが実際に有害であることを, ツも含んでいた。同社は,政府によるデータ請求は 実例を挙げて説明したが,G o o g l eは,作家組合が公 すべて厳格なガイドラインに基づいて処理するとし 正使用の根本的な誤解をさらけだしていると反論し ている。Facebookはこのレポートを今後定期的に発 た。作家組合は,G o o g l eが無許可のコピーを大学図 表する予定だ。 書館に配布して,作家の作品を危機にさらしている ( h t t p : / / n e w s r o o m . f b . c o m / N e w s /699/ G l o b a l - と再び非難したが,G o o g l eは,蔵書のコピーを作成 Government-Requests-Report)(accessed 2013-09-09). しているのは図書館自身であるとの主張を繰り返し た。 486 情報界のトピックス ●Topics of the information community 文化審議会,「電子出版権」創設を提言へ 2015年4月の小学校の教科書改訂時をスタートに,中 学校,高等学校の順で,製品をリリースする予定。 文化庁の文化審議会著作権分科会出版関連小委員 参加する教科書会社は,大日本図書,実教出版,帝 会は9月5日に開催した会合で,「電子出版権」の創設 国書院など。C o N E T Sでは,デジタル教科書につい を盛り込んだ,著作権法改正に関する中間報告をま て,映像や音声による学習意欲の向上や,先生と児 とめた。現行法では,紙の出版物が前提にあり,電 童・生徒の学習情報の共有化,学習目標の焦点化など, 子書籍の海賊版については,出版社には訴訟を起こ 紙の教科書にはないメリットをあげつつ,各社デジ す権利がない。 「電子出版権」が創設されれば,著作 タル教科書の操作性の違いや,学習スタイルの多様 権者と独占契約を結んだ出版社であれば,海賊版の 化による先生や児童・生徒の戸惑いなど,さまざま 差し止め請求を行えるようになる。「電子出版権」の な課題も表面化していると指摘。教科書づくりで培っ 創設については,2013年2月に経団連から「電子書籍 たノウハウで,子どもたちの学びと教育現場をサポー の流通と利用の促進に資する「電子出版権」の新設 トしたいとしている。 を求める」との提言がなされるなど,創設を求める (http://www.conets.jp/news/2013/0905-2/)(accessed 意見が高まっていた。中間報告では,電子書籍の普 2013-09-09). 及や海賊版対策の観点から,新たに電子出版権を整 備する必要性を指摘。電子書籍権を獲得できるのは, 政府のツイッター活用,南米各国が積極的 現行の出版権を有する出版社だけでなく,著作物を 電子書籍として電子出版することを引き受ける者で 広報エージェンシーの米Burson-Marstellerは9月4 あれば権利を獲得できるとした。文化庁では今後, 日,ツイッターに関する「2013年度Twiplomacy(ツ この中間報告に対する関係者および一般からのパブ イプロマシー)調査」の結果を発表した。これは, リックコメントを募集する予定。 153か国の大統領,首相,外務大臣およびそれぞれの (http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/ 政府機関(大統領府,政府,外務省)などのツイッ shuppan/h25_07/gijishidai.html)(accessed 2013-09- ター約505アカウントについて,それぞれのフォロ 09). ワー数,ツイート頻度などを調べたもの。2013年7月 デジタル教科書開発のコンソーシアム発足 1日時点で最もフォロワーが多かったのはオバマ大統 領(@BarackObama)で約3,351万フォロワー。2位 はローマ法王(@Pontifex) , 3位は米ホワイトハウス(@ 教科書会社12社とシステム会社の日立ソリュー whitehouse)だった。日本の首相官邸(@kanteiと@ ションズは9月5日,国内初の次世代デジタル教科書 JPN_PMO)は43位,安倍首相(@AbeShinzo)は66 の共通プラットフォーム開発に取り組むため,コン 位だった。1日の発信頻度では,ベネズエラ・ボリバ ソーシアム「C o N E T S(コネッツ)」を発足したと発 ル共和国(@PresidencialVen)が1日平均約42ツイー 表した。 「C o N E T S」では,教科や教科書会社によっ トで1位だった。2位以下も,南米の政府機関がツイー て異なっていたデジタル教科書の操作性を統一し, ト回数で上位に並び,積極的にツイッターを使って さまざまな端末で使用できるマルチプラットフォー 情報発信をしていることがわかる。日本のアカウン ムを開発することで,「デジタル教科書のスタンダー トでは,外務省(@MofaJapan_jp)が一番多く,1日 ド」を目指すとしている。より多くの教科書会社に 約10回で34位だった。この調査結果では,国連加盟 呼びかけ,同システムでの配信・運用を可能にし, 国193か国の政府のうち約78%がツイッターのアカウ 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 487 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ October ントを保有しており,各国の首長や政府機関による 上が急務」と指摘している。 ツイッター利用が当たり前になっているとしている。 (http://www.soumu.go.jp/menu_news/ ( h t t p : / / k a n t a r . j p / w h a t s n e w /2013/09/04/ s-news/01kiban08_02000120.html)(accessed 2013- Topics_130904_Twitter.pdf)(accessed 2013-09-09). 09-09). 青少年のネットリテラシー,スマートフォン 利用者は低め 総 務 省 は9月3日, 青 少 年 の イ ン タ ー ネ ッ ト・ リ (http://www.soumu.go.jp/main_content/000247066. pdf)(accessed 2013-09-09). F acebook,発展途上国へのネット接続提供に 取り組む テラシーに関する実態調査の結果である「平成25年 度青少年のインターネット・リテラシー指標等」を 488 F a c e b o o kのマーク・ザッカーバーグは8月20日, 発表した。この調査は,全国の高校1年生(約3,500 現在インターネット環境がない世界の50億人にイン 人)を対象に,インターネット・リテラシーを図る ターネット接続を提供することを目的とした世界的 テストと,情報機器の利用実態についてのアンケー パートナーシップ「Internet.org」の設立を発表した。 トを同時に行った結果をまとめたもの。これによる 発表によると,現在インターネットに接続している と,スマートフォンの保有者は全体の84%と昨年度 のは27億人と,世界人口の3分の1強にとどまってい の59%より大幅に上昇。1日当たりの平均使用時間は る。インターネット接続の増加率は年9%以下で,発 2時間以上という答えが最も多かった(56%)。イン 展の初期段階にあることを考えれば,増加率は低い ターネットに接続する際に最もよく利用する機器に と指摘している。世界の残り3分の2の人々をつなげ ついても,スマートフォンが75%で1位となり,ほか るという目標のために,(1)インターネットアクセス の機器を大きく上回った。一方で,インターネット・ の低価格化,(2)データ利用の効率化,(3)ビジネス リテラシーに関するテストは昨年度より平均的に上 モデルの開発を行うとしている。このパートナーシッ がったが,スマートフォンを最もよく利用する回答 プには, Ericsson, MediaTek(台湾の半導体メーカー) , 者は,P Cをよく利用するという回答者にくらべて正 Nokia,Opera,Qualcomm,Samsung Electronicsの 答率が低く,特にスマートフォンのみを使用してい 6社が参加している。 る場合の正答率が低かった。報告では, 「スマートフォ (http://newsroom.fb.com/News/690/Technology- ンは手軽にインターネット接続できる一方で,特に Leaders-Launch-Partnership-to-Make-Internet- 高いリスク認識,対応能力のないまま利用している Access-Available-to-All)(accessed 2013-09-09). とみられ,スマートフォンに関するリテラシーの向 (http://internet.org/)(accessed 2013-09-09). PINUP 第10回情報プロフェッショナルシンポジウム (INFOPRO2013) 独立行政法人科学技術振興機構(J S T)と一般社団 法人情報科学技術協会(INFOSTA)の共催による 「第10回情報プロフェッショナルシンポジウム」 (略 称INFOPRO 2013)が下記のとおり開催されます。 ■日時:2013年10月10日(木)午後 ~ 11日(金) ■会場:日本科学未来館 〒135-0064 東京都江東区青海2-3-6 URL: http://www.miraikan.jst.go.jp/ ■プログラム概要: ◇10月10日(木) ・13:00 ~ 14:25 一般発表(3会場,9件) ・14:30 ~ 15:00 プロダクトレビュー(7社) ・15:30 ~ 17:00 特別講演 「i P S細胞技術の普及における知的財産権の役 割と挑戦」 高尾 幸成 京都大学i P S細胞研究所(C i R A) 知財管理室室長 ・17:30 ~ 19:30 情報交流会 ◇10月11日(金) ・10:00 ~ 12:30 トーク&トーク 情報プロフェッショナルシンポジウム 10周 年企画 「インフォプロの再認識と再定義」 ・13:30 ~ 14:55 一般発表(3会場,9件) ・15:00 ~ 15:30 プロダクトレビュー(7社) ・15:35 ~ 17:00 一般発表(3会場,9件) ■シンポジウム参加費(予稿集代,消費税含む) 一般:6,300円,学生:2,100円 ■情報交流会参加費(消費税含む) 4,200円 ■参加申込 ・INFOPRO参加申込ページ URL: http://www.dicalpha.net/infopro/index. htmlから。 ・または,本誌広告ページの申込用紙にて,用紙 に記載の送付先へ郵送またはFaxで。 ■問い合わせ先 INFOPRO受付担当 Tel: 03-5391-2174 Fax: 03-5391-2232 E-mail: [email protected] 情報管理 vol. 56 no. 7 2013 489 情報管理 JOHO KANRI 2013 vol.56 no.7 Journal of Information Processing and Management http://johokanri.jp/ October 今号も多様な記事をお届けします。 本年1月の座談会記事「インフォプロの成長点」 掲載を最後に,足掛け4年にわたるリレーエッセー 「インフォプロってなんだ?」を終了しました。そ の後,連載終了を惜しむ声が寄せられ,あとに続く 連載ができないものかと考えておりました。その結 果,今号からリレーエッセー「つながれインフォプ ロ」をお届けすることとなりました。 「つながれインフォプロ」は,広義の図書館・情報・ 調査分野の担当者や研究者に,所属する勉強会やコ ミュニティーを紹介してもらうコーナーとして企画 しました。まずは,講師を呼んで講義をきく従来型 の勉強会とは一味違う活動をご紹介します。活動を 通じてネットワークが広がり,人と人とがつながっ ていくイメージでタイトルを決めました。 人が集まる活動だけでなく,情報発信によって結 果的に人と人とをつなぐ役割を果たしている方にも 登場していただく予定です。人の顔の見える肩の凝 らないエッセーを目指しています。 連載スタートにあたって趣旨説明の1ページを敢 えて掲載しなかったのは,今後の自由度を広げ豊か な器としてこのコーナーを息長く続けていきたいか らです。第1回はこの連載の企画検討に参加した編 集委員が執筆しました。このリレーエッセーを通じ て,インフォプロのネットワークがさらに広がり密 になっていくことを期待しています。 10月10日,11日には恒例の情報プロフェッショ ナルシンポジウムが開催されます。一般発表の9セッ ションのうち実に4セッションが特許関連。1日目 の特別講演も,i P S細胞技術の知財権に関連した内 容です。時代の流れを感じます。2日目のトーク& トークは「インフォプロの再認識と再定義」と題し た10周年特別企画です。どうぞご参加ください。 インフォプロの輪が広がりますように。 (KM) □次号予定 ●デジタル時代における知識循環型社会の価値創造基盤 ●複雑系数理モデルの可能性:現実の諸問題を解く ●日本の研究者による電子情報資源の利用:SCREAL2011調査の結果から ●複素環化合物の特許調査に関する考察:REGISTRY/MARPAT/DCRの構造検索比較 ●日本の大学が生産した学術文献数の言語別分析 ●研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門 第14回 英米法情報 情報 管理 JOHO KANRI Journal of Information Processing and Management 科学技術振興機構 vol.56 no.7 October 2013 ●編集委員会 <委員長>加藤治(科学技術振興機構) <編集委員> 江草由佳 (国立教育政策研究所) ・小河邦雄 (大正製薬㈱) ・ 気谷陽子(聖学院大学)・志賀智行(旭化成㈱)・ 青山幸太・伊藤祥・植松利晃・木村美実子・黒田雅子・ 佐藤恵子・土屋江里・野田口真也・火口正芳・余頃祐介 (以上 科学技術振興機構) ●編集事務局 木村美実子(事務局長) 藤井昭子・本橋野枝(以上 科学技術振興機構) 2013年10月1日発行(月刊) 年間購読定価 本体 ¥12,600(税込) 1部定価 本体 ¥1,260(税込) ●版下作成・印刷 昭和情報プロセス株式会社 発行 独立行政法人 科学技術振興機構 〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3 「情報管理」編集事務局 Tel. 03(5214)8406 Fax. 03(5214)8420 E-mail: [email protected] http://johokanri.jp/ Published monthly by Japan Science and Technology Agency (JST) JOHO KANRI Editorial Office, JST, P.O.Box 2, Kojimachi Tokyo 102-8666 JAPAN ・本誌に落丁・乱丁がありました節は,まことに恐れ入りますが,編集事務局宛に現品をご返送ください。送料は当機構 の負担で,お取り替えいたします。勝手ながら現品送付のない場合は,お取り替えいたしかねます。 ・未着事故などのご連絡は発行後2か月以内にお願いします。以後は原則としてお受けできません。 © Japan Science and Technology Agency 2013 無断転載を禁ず 490
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